20:ユーシャ様、私はどうしたら良いのでしょうか!?☆☆
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何だかんだで大きなトラブルもなく、二ヶ所目の祠も周辺の瘴気溜まりを浄化しながら進んだお陰か、辿り着いた頃には、かなり小さく、範囲も縮小されていました。
【必殺☆TUEEE!!】を極められたユーシャ様はガンガン【TUEEE!!】を連発し、あっさり浄化は終了。一ヶ所目同様に、祠の下にご聖塊を埋めて清めて参りました。
そして、次がいよいよ最後の浄化場所となりますが、一番最北にある祠の為、情報が届くまでにどうしても時間がかかってしまいます。
元々規模が大きいと事前に聞いていた瘴気溜まり。そこから更に時が経っている分、被害の規模が拡大している可能性は高いと思われます。
このドーナン王国の王都を囲むように配置されていた平和を祈る祠は、北と東西を繋いだ二等辺三角形を描くような配置となっているそうです。
一ヶ所目と二ヶ所目はなんとか徒歩を多めに設けることができましたが、一番北の祠へ歩いて行くとなると、時間がかなりかかり、更に被害が広がってしまうでしょう。
「きゅーん……」
≪この床、ガタガタなるから落ち着いて寝てらんねぇんだよなぁ……歩きてぇ~≫
ユーシャ様には申し訳ないのですが、馬車である程度のところまで進むことになりました。
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「お前はバカなのか?」
「……バカなのか、そうじゃないのかの二択なら、バカだと思うわ。学もないし」
「~~っ!?そういうことじゃねぇ、アホ!!」
「もう、バカでも、アホでもいいわよ。そこをどいてよ」
さっきから人をバカだのアホだのって失礼しちゃうわ。徹夜で古文書を読み漁ったりもしていたんだから、寝ずの見張り番くらいならできるって言ってるのに。
別に一人で戦おうなんて思ってもいないし、馬車の近くに居て、なにかあればすぐに起こすわよ!
「だって、ゼニール様はご年齢的に徹夜なんてしたら、翌朝には干からびてるんじゃないかって心配だし、でもそうなると、ヴァンやオーツレント様にだけ負担がかかるじゃない」
「シア、お前だいぶ失礼じゃぞ?そのくらいでワシは干からびたりせんわ。まぁ数日は寝不足を引きずるじゃろうが」
ようするに、ゼニゲバ様には無理と言うことに変わりはない。
「これじゃあ、『戦力にもならない、野営も寝てるだけの役立たず』って魔術師の悪いレッテルは剝がれないままだわ。私だって下っ端の末席ではあるけど、一応魔術師よ?それに一番若いんだから平気よ」
「だぁーーー!!だから、魔術師がどうとか、若いから、年だからじゃねぇよ。お前、女なんだぞ?もし、途中で盗賊に囲まれたらどうする気だよ?それに攻撃魔法は苦手だって言ってたじゃねぇか」
そう、確かに私は攻撃魔法の類が得意ではない。あくまで、「狩猟」と頭で切り替えられるもの程度にしか放つことはできない。「優しいから」ではなく、「臆病だから」できない。
自分でもわかっている。女で、こんなヒョロヒョロが寝ずの見張り番をしたからって、みんなが安心できるのか?といえば、答えはノーだろう。
それでも、お貴族様の口に合うような気の利いた料理が作れるわけでもない、まして博識なわけでもなく、力もない私が役に立てることはあまりに少ない。
通訳が一方通行スキルじゃなければ、きっと胸を張れていたのだろうなと思う。一方通行を隠している以上は、この気持ちを誰かに理解してもらえることはないのだろう。
そんなことを考えていたら、自然と目には涙が溜まっていた。泣いたら駄目、泣いて全てを許してもらおうなんて、まさに自分は弱い女だと言っているみたいじゃない!
「………ぅ…くっ……」
「え、ちょっ、おい!わぁあ、ごめん!強く言い過ぎた!!俺はただ、お前が心配なだけで…」
多分、相当憎しみでも籠っているかのような形相になっていると思うけど、零れ落ちないように唇を噛んで堪えているだけだ。
「ぐっうぅぅ、ふぐぅぅ……泣いて、ない!!け、煙よ!煙が目に沁みて痛かっただけなんだから!」
「煙……?煙なんて……ごほっげほっ!!なんで急に!?」
「おお!すまんのう、風向きを間違えたようじゃわい。シア、ほれ濡らしたハンカチじゃ、目に当てておくといいぞい」
「げほっ!ごほっ!!もう、ゼニール様!湿った枝を入れていませんか?キチンと乾いたものにしないと煙ばかり多くなるんですよ」
「おお、そうじゃったか?ワシはこういうことはやったことがないからのう。見張り番には向かんの」
「そうですね。耄碌爺に寝ずの番をされて、そのまま永遠の眠りにつかれても困りますし」
「そうそう、夜の冷え込みでそのまま凍えて…って、おい貴様ぁぁ!!」
「ではシア嬢、私と一緒に番をしてみるかい?そうして少しづつ慣れていったら良いのではないか?」
「オーツレント様!宜しいのですか?」
「おい、聞いとるのか貴様!!」
前半、笑顔のまま流れるように放たれたゼニゲバ様へのお言葉は如何なものかと思いますが、少しづつ慣れさせて頂ける案は正直ありがたいので、ごめんなさい、ゼニゲバ様はスルーします。
「いえ、シアは俺と見張り番をします。シアもその方が気を遣わなくていいだろう?」
「え、ヴァンと?」
「しかし……年若い二人だけで、というのは些か問題ではないか?シア嬢も夜にヴァンと二人きりは気にするだろう?」
「……ヴァンと二人ですか?いえ、全く気にしませんけど」
「全く……気にしないのかい?それはそれで……うん、まぁいいか」
「以前もちょこちょこお昼時間が合った時には、ヴァンと休憩時間は一緒に過ごしていましたし。偶然、お気に入りスポットが一緒だったんですよ。ね?ヴァン」
「お、おう、偶然……そう、偶然だよな」
『へぇ、偶然……?』『ほぉ~ん、そんな偶然もあるのじゃなぁ』とオツカレ様、ゼニゲバ様は言いながら、なぜか視線はヴァンの方向。そのヴァンは『人があまり来なくて落ち着けるところなんですよねー』と斜め上を見ながら返していた。一体、誰に言っているのかしら?
男達三人は顔を見合わせ頷き合い、よくわからないけど『ヴァンと一緒であれば』という条件の元、見張り番をさせてもらえる許可が出た。
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パチッ、パチリと音を立てている焚火の側に倒木を寄せ、腰を掛ける。ユーシャ様は馬車内で寝て頂く予定だったのだけど……≪この中の臭い、マジ無理……≫と思考が流れてきたので、『外の空気が吸いたいそうです』と誤魔化して、連れ出しました。
私の膝の上でも良かったのだけど、ヴァンが『咄嗟の時に足が痺れて動けなくなるぞ?』と恐ろしいことを言うので、地面に布や厚手の敷物を敷いて寝て頂いている。
モフモフな撫で心地は本日も素晴らしいです……呼吸でお腹の膨らみが上下しているだけでも癒し効果大です。「スピィ、スピィ……」と可愛い寝息です。
「ほら、温めたミルク飲むか?お前はコーヒー苦手だったよな?」
「ありがとう。うん、コーヒーは高いし、苦いから……入れる時の香りだけはいいのに、なんであの味になるのかしら?こういうの飲めるって大人って感じね」
「そうか?俺もそんな風に見える?」
「???ヴァンは何を言っているの?もう23歳なんだし、ヴァンは十分大人じゃないの。でもそれを言ったら私もそうなんだろうけど……年齢だけ大人になっても、実際 中身は子供よね……」
フゥ……っと思わず漏れそうになった溜息は、温かいミルクを冷ます行為として誤魔化した
「シアこそ何を言ってるんだ?」
「なにが?」
「前にも言ったけど、お前はもう見た目にも大人の女性だし、俺よりもしっかりしてるって。ゼニール様だって、よくシア自慢をしてるぞ?」
「しっかりなんてしてないわ。それに、ゼニール様は騎士団と張り合う為、私しか今はいないから仕方なく褒めて下さっているのよ。それを本気にしてはダメよ?」
「お前なぁ…少しくらい真っ直ぐ受け止めたっていいんじゃないか?」
「別にひねくれて言っているわけじゃないのよ?「期待」っていうのは自分が勝手に作り上げた望みであり、希望でしょ?、でもそれが予想と違えば落ち込むし、嫌な気持ちになるじゃない。だったら初めからそんな気持ちは抱かない方がいいんじゃないかしら」
「はぁぁぁぁ……お前、ガッチガチに思考が凝り固まってるな」
「ヴァン?」
「そりゃ、シアがユーシャ様の思考を読むのと同じように、俺がお前の思考を読むことはできない。それに誤解させてしまうことも……まぁ、あるかもしれないけどさ」
「うん?……うん」
「俺はお前を裏切ることはしないし、絶対にお前の味方でいる。だから、俺が真剣に伝えている時の言葉くらいは信じてくれよ」
『なに、急に真面目ぶってイヤね』なんて軽口で返事をしようと彼へと視線をやると、表情から「この言葉に嘘はない」と見て取れてしまい、とてもそんな茶化すような返事ができる雰囲気ではなかった。
いつものふざけて揶揄っていた彼じゃない、また心がソワソワと落ち着かなくなるから困る。こういう時に限って、ユーシャ様は爆睡だし、外野の助け船もない。私はどうしたら良いの?
気持ちは今すぐここから逃げ出したい……
それなのに、なぜか私は彼から目を逸らせなかった




