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2:ユーシャ様は、ただの犬かもしれない!?



******



 ゼニゲバ様が私を呼んでいます――


 新人の教訓としては、呼ばれたら手を上げ、すぐに返事をすることですよ…と次の新人に指導してみたかった……

 どんなに現実逃避をしていても、きちんと対応できるのが先輩の先輩たる所以なのですよ…と後輩たちに先輩面してみたい。あ、駄目ですね。だいぶテンパっています。



「はい、ゼニール様。シアはここにおります」


「うむ。シア、お主のスキルは『犬との疎通』であったな?お主を10歳で引き取ってからもう8年になるか。タダ飯3年、雑用程度のキャリアを5年……うむ、お主も成長したの。ついに活躍の時がきたようじゃわい」



 この場合の【成長】とは単に身長が伸びたとか年齢的に成長したという意味であって、魔術師の能力が向上したというようなものではないので、調子に乗ってはいけません。


 中々にあけすけな物言いではあるものの、ほとんどが事実なので腹を立てることもありません。正直、育ったらゼニゲバ様の慰み者なり、どこかの枯れ切ったご隠居様辺りにでも売られていくのかなと、外部から漏れ聞こえてきた噂を聞いて諦めていた時期もありました。


 でも、ゼニゲバ様はそういったことは全くなかったのです。


 引き取られた頃は、こっそりアメちゃんをくれるような親切なお爺ちゃんと思って慕ってました。ですが魔術師として働き出して二年目、実はこのアメちゃんや、たまに頂く菓子類が給与の補填代わりにされていたと後々になって知り、ちょっと遠い目になったものです。

 

 それでも飢えて死にそうになったこともなかったわけなので、感謝の気持ちは1/3程度しか減ってはいません。知った直後は半分くらい減りましたけど。

 

 ゼニゲバ様は、ただひたすらに『魔術師ってカッコいい仕事だよね!』と世間から言われた黄金時代を取り戻したいだけの、お茶目なお爺さんなのです。

 

 ただ、仮にその時代を取り戻したとして、果たして今の、その…M字の彫りが深くなっていらっしゃるゼニゲバ様がチヤホヤされるのか??という部分には気付いてはいても、誰もツッコむ者はいません。

 皆、大人なので……それに何だかんだ人望が厚い方なのです。



「全てはゼニール様の御恩に報いる為、このシア、雑用程度ではございますが、わずかにでもお役に立てればと励んで参りました。その私にもついにお役に立てる時が……うぅ、嬉しくて涙が……」



 少しカタカタ震えているのは、欠点が露見するのではないかと恐怖しているからです。みんな薄給で助け合いの精神で結びついているせいか、割とアットホームな職場なので、本来はここまで堅苦しい話し方は実はしていません。


 尊敬語でも謙譲語でもなんでもいい、1秒でも時間を引き延ばしたかった、ただそれだけです。



「うむうむ。まぁシアは欠勤もなくよくやっておる。よし、では早速この聖犬様と疎通を図るがよい」

「……はい」



 欠勤もなにも、まともな休日は皆無だったと記憶しています。そして時間稼ぎも無駄に終わってしまったので、もう覚悟を決めてユーシャ様との会話を試みる他なさそうです。脳内敬語も不要ですね……



「ユーシャ様、はじめまして、シアと申します」


「くぅん、くぅ~ん……」

≪なぁ優しそうなニンゲン、ここはどこなんだ?なんで囲まれてるわけ!?小屋に逃げようにも小屋がなくなってるし。ドッグフードを食べる直前にピカーってなって、エサまでなくなってるなんて変だぞ!≫



【どっぐふーど】……?食べると言うのだから、きっと特別な食べ物なのね



「おお、ユーシャ様が返事をなさっておるぞ!瘴気の件もお願いするのじゃ」

「あ、はい。あの、ユーシャ様……このあと『どっぐふーど』の代わりとなるものもご用意致しますので、瘴気を払い、この世界を御救いくださいませんか?」


「!!?ワンッ、ワンッ!!」

≪え、今ドッグフードって言わなかった?なんだ隠す遊びだったのかぁ~OK、OK怒ってないから早く用意して≫



「おお、おおっ!!二つ返事とは心強い。よし、シアとの相性も良さそうじゃし、話はお前としかできんからの。お前は今からユーシャ様付のお世話係、兼通訳をやるがよいぞ」



「……か、かしこまりました」

「ワン、ワン、ワーン!!」

≪おい、早くエサちょうだい!聞いてる?あとちょっとでいいからさぁ、量多めに頼むってできる?≫




 私の犬との疎通スキル、それは……


 犬側の気持ちや言葉がわかるというだけの()()()()で、会話まではできない、とは今更言えない。



***



 私は今、ユーシャ様と一緒に案内された、ユーシャ様専用の個室にいる。ちなみにユーシャ様は私の腕にすっぽりと収まる程度の真っ白くふわっふわな毛並みをした可愛らしい小型犬です。顔を埋めたら噛まれるでしょうか?

 

 じ~っと見ているとなんとも抗いがたい衝動に駆られそうなので、直視しないようにしないといけませんね。



「うわぁ、ひろ…!?ん゛、ゴホン。いえ、広いですね」



 今の宿舎は、ただの孤児出身の私に元は物置部屋だったとはいえ、一人部屋があてがえられているだけかなりの好待遇だと思いますし、不満はありません。

 

 ただ、ユーシャ様に与えられた特別室というのがまた……王族に匹敵するんじゃないのかな?と思うほど広い。いえ、王族のお部屋なんて見る機会すらないですけど、伝わりますでしょうか?


 ここでは十人家族でも余裕で生活できるくらいの広さなのに、一人と一匹でこの部屋にこれからしばらく住むことになるのですね。

 

 抱き上げる時にさりげなくチェックをいれましたが、ユーシャ様はオス犬様で、私は年頃のメス…いえ、女性。

『異性と初めての同室……』と初めて見た広いお部屋に興奮したあまりちょっと呟いてみたら、案内をしてくれた侍女長様から冷ややかな視線を頂きました。視線のツッコミありがとうございます。お陰様で目が覚めました。


 そもそも、職場では女性はもれなく結婚後家庭に入ってしまい、その為、今は私しか女性はいないのです。常に周りには男性……おじさま?お爺ちゃん?しかいないので、全く気にもしていません。

 むしろ寒い冬は孤児院の子供達みんなで寄り固まって寝ていたほどでしたし。


 

 侍女長様は溜め息を落とし、『心配されている部分には十分配慮してあると思いますよ。お世話係のあなたの部屋はあちらですから』と示してくれた部屋を覗いてみれば、私の元いた部屋に少し毛が生えた程度の広さと、窓も小さくしか開かない格子窓……私は罪人?

 いけない。少し後ろめたい秘め事を抱えているせいか、つい、センチメンタルな方向へと思考が傾きます。


 まぁ格子付なのはユーシャ様が逃げな…ゴホンッ誤って落ちないようにとの配慮からなのではあるようですけど。




 とにかくまずは1ヶ月、ユーシャ様にこの世界に慣れて頂く為の私のお世話係生活は始まりました。



「ユーシャ様、宜しくお願いしますね」

クンクンクン……「バフッ!」

≪この部屋はなんだ?それともオレにも【サトオヤ】ってやつができて迎えにきたのか……?よし、挨拶代わりに一通りマーキングしておくか≫



「え!?マーキン……あ、ここではダメで……」



 ユーシャ様はスタコラとソファまで向かい、華麗に御御足(おみあし)を上げました。そこからはまるでスローモーションのようです。一瞬『ユーシャ様、意外と足上がるんですねぇ』なんて現実逃避しましたが、その間も黄金色(こがねいろ)はキラキラとアーチを描いておりました。








「ユーシャ様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」





 間に合わなかった……


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