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転生妻と守りたい者

完結です!!よろしければ、お読み下さい。

 アニエスとエルネストと結婚して七年以上が過ぎた。今アニエスは、王城の庭のテラスでお茶をしている。以前はショートカットだったアニエスだが、今は肩くらいまで髪を伸ばしていて、一本に束ねている。温かい日差しの中、アニエスの側では一人の少女が蝶を追いかけて走り回っていた。 長い黒髪に紫色の瞳をした、六歳の少女。彼女は、アニエスの娘のニコルだ。


「母上―!蝶を捕まえたっすー!」

ニコルが、蝶を捕まえた右手を振って笑顔で声を掛けてくる。

「……逃がしてあげなさい」

アニエスは、苦笑して応えた。ニコルは、少し不満そうな顔をした後蝶を放した。黄色い蝶は、ひらひらと飛んでいく。ニコルは、体を動かす事が大好きなようだ。しかも、語尾に「っす」と付けるようになってしまった。一体誰に似たのか。……言うまでもないのだが。

 アニエスは、ニコルの前ではなるべく丁寧な言葉遣いをするようにしている。それでも、気を抜くと語尾に「っす」を付けてしまうので、ニコルが真似をしてしまった。エルネストも、苦笑しながらも咎めないでいてくれる。

 しかし、貴族社会で生きていくニコルがこんな事でいいのだろうか。自分は、いい母親なのだろうか。そんな疑問が頭に浮かぶ。


 不安を抱えながらお茶を一口飲んだところで、異変に気付いた。庭の奥で、ガサゴソ音がする。そして茂みの中から、それは姿を現した。暗い緑色の体をした大きな蛇のような生き物。魔物だ。アニエスは、顔を強張らせた。

「ニコル、逃げるっす!!」

蛇は、ニコルへと近付いて来る。アニエスは、ニコルと蛇の間に立ちはだかり、懐から魔法薬と紙を取り出す。紙には、もちろん魔法陣が描いてある。今でもたまに自然発生した魔物が現れる事があるので、いつも懐に忍ばせているのだ。

 アニエスは、紙に魔法薬を垂らすと、空中に放り投げた。地面に落ちた紙からは大きな炎が巻き上がり、蛇を焼き尽くそうとする。しかし、蛇は器用に炎を避けた。アニエスは舌打ちをして、別の紙を取り出した。魔法薬を垂らして再び放り投げる。紙からは蔦のようなものが伸びていくが、蛇は蔓をするりと通り抜けて、ニコルに噛みつこうとした。

「ニコル!!」

ニコルを庇ったアニエスの右腕に蛇が噛みつく。

「母上!!」

ニコルが悲痛な叫び声をあげる。アニエスは、顔を顰めながら右腕を反対の手で押さえた。腕から血が流れる。異変に気付いたのか、じきに衛兵達が駆け付けてきた。

「魔物だ!!」

「妃殿下が怪我をしているぞ!」

「ニコル様、こちらへいらして下さい!危険です!」

衛兵がニコルを安全な場所に避難させてくれた。アニエスは、六枚ほど紙を取り出すと、それぞれに魔法薬を垂らし、素早く動いて蛇の周りを取り囲むように紙を置いていった。

 紙から炎が巻き起こる。蛇は逃げ切る事が出来ずに、苦しげに喉を鳴らしながら焼き尽くされていった。

「……良かった……」

そう言うと、アニエスは地面に倒れた。


 目が覚めると、そこは自室のベッドだった。

「アニエス!」

「母上!」

エルネストとニコルが、ホッとしたように言葉を発した。

「ああ、ニコル……無事で良かった。エル様も、お忙しいのに側にいて下さったんですね。ありがとうございます」

「気にしないで。……アニエスが倒れたって聞いて心配したよ」

エルネストが、優しい笑顔で言った。あの蛇に噛まれた時に、毒がアニエスの体内に入ったようだが、命に別状はないとの事だった。


「母上、ありがとうございます!父上が言ってました。母上は私を守る為にあの蛇と闘ったんだって。私も、母上のように優しくて強い人になりたいです!!」

ニコルが、無邪気な笑顔で言った。

「……ありがとう。ああ、そろそろ家庭教師が来る時間っすね。ニコル、自分の部屋に戻って準備しなさい」

「はーい」

ニコルには、家庭教師をつけている。座学はあまり好きではないようだが、幼いながらに自分の立場はわかっているようで、教師の話は真面目に聞いているらしい。ニコルは、アニエスに「早く元気になって下さいね、母上」と声を掛けると、パタパタと部屋を後にした。


「……あの子は、本当に私に似てるっすね。似ていない所といったら、垂れ気味の目くらいでしょうか」

アニエスが、ぼそりと呟く。

「そうだね。アニエスに似て、可愛い女の子に育ってくれたね」

「……でも、第二王子の娘があんなお転婆で良いんでしょうか。私が言う事でもありませんが」

「大丈夫。君はニコルとしっかり向き合って教育してくれている。愛情も注いでくれている。ニコルは、きっと素敵な女性になるよ」

エルネストの言葉を聞いて、アニエスは少し安心した。

 まだ不安に思う事もあるが、今は自分を信じてニコルと向き合っていこう。そして、家族や国民を守っていこう。アニエスは、そう決意した。


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