転生妻の帰還1
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翌朝、食事を取った後アニエスとタチアナは広間に呼ばれた。レーヴ王国への資金援助の条件がどうなるか、はっきりする時が来たのだ。
広間で待っていると、ヴァルトルがやって来て、その後ろから一人の男性が姿を現した。白髪交じりの黒髪を長く垂らした、威厳のある五十代くらいの男性。彼が皇帝のヨナーシュ・ベンディークに違いない。
彼は、玉座に座ると、赤い瞳でアニエス達を見据えた。
「アニエス・アベラールとその侍女だな。顔を上げよ」
顔を上げたアニエスは、ヨナーシュの顔色を即座に観察した。血色も肌艶も良く、元気そうだ。ゲームの世界では、皇帝は肺の病に罹っていたのでその病に効く薬草を飲ませたのだが、効いたようだ。
「まずは礼を言おう。アニエス妃から頂いた薬のおかげで、体調が良くなった。心より感謝する。何故私の病を知っていたのかは気になるが……まあ、追究しない事としよう」
「……ありがとうございます」
ヨナーシュの言葉にホッとする。
「それと、レーヴ王国への資金援助の件だが、約束通りアニエス妃からの要望に応えよう。近日中にロック・オーバンなる魔術師をこちらに向かわせて欲しい。……援助額も、当初の希望通りにしよう。半額にはしない」
「……!衷心よりお礼申し上げます」
まさか金額まで当初の希望通りにしてくれるとは。
「エルネスト殿下とアニエス妃の仲の良さはこちらの耳にも届いている。早く帰ってあげなさい。馬車を用意しよう。今から出立すれば暗くなる頃には治安の良い町に着くだろう」
何から何までありがたい。
アニエスが重ねて礼を言おうとした時、広間の扉が勢いよく開かれた。衛兵らしき者が慌てた様子で言葉を発する。
「皇帝陛下、急ぎお知らせしたい事が!」
「どうした、客人の前だぞ」
「それが……アニエス妃がこちらに滞在している事と、ヴァルトル殿下と結婚するかもしれない事がどこかから漏れたようで。絶対にアニエス妃を帰すなと商人や農民達が城に押し寄せているのです」
「何!?」
四日間皇帝の状態を見て、病が癒えるようならアニエスは結婚せずに帰るという事まで漏れているという事か。
「どこから漏れた……!」
ヴァルトルは、苦虫を嚙み潰したような表情をしている。
クヴィエト帝国の国民、特に農民は、魔物の被害に苦しんでいる。そこに魔術を使える事で有名なアニエスが現れたものだから、絶対にヴァルトルと結婚して、魔物を討伐してもらおうと考えているのだ。
「……人数はどれくらいだ?」
「……数えきれません。数百……いや、数千人かもしれません。城の周りを取り囲んでいます」
衛兵が、ヴァルトルの質問に苦しげに答える。
「説得は難しいか……アニエス妃を帰す為、包囲網を突破する方法を考えなければ」
「ああ、それなら……何とかなるかもしれません」
アニエスが、不敵な笑みを浮かべた。
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