転生少女と結婚式1
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アニエスが学園を卒業してから約二か月が経った。そんなある日の朝、エルネストは王城のある一室の前に立った。ドアをノックして声を掛ける。
「アニエス、入ってもいい?」
「はい、どうぞ」
エルネストは中に入ると、目を瞠った。そこにいるのは、白いウエディングドレス姿のアニエス。今日、二人の結婚式が行われる。
「……似合わないっすかね?」
アニエスが、自信なさそうに言う。
「そんな事ないよ。すごく……綺麗だ」
「ありがとうございます」
着付けをした侍女もニコニコしている。エルネストが目を細めてアニエスを見つめていると、また部屋がノックされた。入って来たのは、フレデリクとブリジット。
「二人共、結婚おめでとう」
「おめでとう。アニエス、すごく似合ってるわよ!」
口々にお祝いを言ってくれた。フレデリクは王太子だが、ブリジットの卒業後に結婚する事になっているので、第二王子のエルネストの方が先に結婚する事になる。
「今日から王宮に住むのよね。慣れない事ばかりで大変かもしれないけど、幸せになってね」
「ありがとうございます、お嬢」
アニエスが微笑む。そう、今日がゴールではない。今日から始まるのだ。アニエスは、気の引き締まる思いがした。
突然、部屋のドアが激しくノックされた。
「フレデリク殿下、エルネスト殿下、いらっしゃいますか!?」
「どうした?」
フレデリクが聞くと、部屋に入って来た文官らしき男が慌てた様子で話し始めた。
「王城の前に集まっている一般市民が、次々と倒れているんです!」
「何だって!?」
今日は、結婚式の後一般市民に第二王子の妻をお披露目する予定だ。王城の前には、早くから多くの国民が集まっている。
「なので、フレデリク殿下とエルネスト殿下にも対応をお願い致したく……陛下は、既に会議室にいらっしゃいます」
「……わかった、すぐ行く」
フレデリクは、そう言ってエルネストをチラリと見た。エルネストは、溜め息を吐いて言った。
「……僕もすぐ行く。アニエス、また後でね」
「はい、お待ちしております」
そして、二人は部屋を去って行った。
「大丈夫かしら、一般市民が何人も倒れるなんて……」
ブリジットが不安そうに言った。アニエスは、窓に近付き外の景色を見下ろした。二階部分に当たるこの部屋からは、城の前が見える。
確かに、外では人々が慌ただしく動き回っているようだった。耳を澄ませば、人々が叫ぶような声も聞こえる。何が起こったのかと考えていると、ふと一頭の蝶が目に入った。
濃い水色の羽の珍しい蝶。それを、アニエスは図鑑で見た事があった。ユキルリタテハ。それは、雪のように大量の鱗粉を振りまくが、その鱗粉には毒が含まれている。その鱗粉に触れるだけで、嘔吐、眩暈等の症状を引き起こす。
「お嬢、あそこにいる蝶、毒を持ってるっす。会議室に行って、皆に知らせて下さい!」
「わかったわ!それで、アニエスはどうするの?」
「あの蝶は、ある種のハーブの匂いに弱いと言われてるっす。だから……」
アニエスは、鏡台をじっと見ると、置いてある香水の中の一つを手に取った。
「これを蝶に掛けてくるっす」
そう言うと、アニエスは事もあろうに窓から側にある木に飛び移ろうとした。
「待って、その格好で退治しに行く気?」
ブリジットが慌てて呼び止めた。
「おっと……」
アニエスは、丈の長いウエディングドレスを着ている。これでは動きにくいし、一般人に見られたら、第二王子の妻がとんでもないお転婆だと知られてしまう。
アニエスは、ドレスの裾をたくし上げて側にあったピンで留めた。そして、クローゼットの中から、黒いフード付きのコートを取り出すと、それを羽織った。
「早くあの蝶を何とかしないといけないので、行ってきます」
そう言うと、アニエスは窓から飛び出して行った。侍女がポカンとした顔でアニエスを見ている。近くの木に飛び移ると、アニエスは蝶に向かって香水を振りかけた。
香水は蝶に掛かったはずだが、全く弱る様子が無い。下を見ると、一般人が数人倒れているのが見える。被害が広がる前に何とかしないと。焦っている内に、蝶はどこかに行ってしまった。
「アニエス!」
エルネストの声が聞こえる。見ると、いつの間にかエルネストや衛兵たちが木の側に来ていた。
「蝶はどうなった?」
「香水を掛けましたが、弱る気配がありません!逃げて行きました」
「そうか。今日は結婚式は中止して、一般市民を非難させる事になった。降りておいで!」
「わかりました!」
退治できないものは仕方がない。もどかしい思いを抱えながら、アニエスはひらりと木から飛び降りた。
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