転生少女と幽閉5
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エルネストとシリルは、衛兵の訓練場で一人の兵士と向き合っていた。
「俺は、王妃殿下を暗殺しようとなんてしていません!」
黒い短髪のその兵士は、エルネストの問いにはっきりと答えた。彼の名前はユベール・バルテ。ルヴィエ家の庭でアニエスを連行した兵士だ。年齢は二十一歳らしい。
「しかしあなたは、お姉さまを解雇される原因を作った王妃殿下を恨んでいるのでは?」
シリルが口を挟んだ。
「確かに、俺の稼ぎだけで親の治療費を捻出するのは難しいです。でも、だからといって王妃殿下を殺害しようとなんてしませんよ!ましてや、アニエス様に罪を擦り付けるなんて!あんな素敵な方に……」
「ん?」
「素敵?」
シリルとエルネストが揃って声を出した。ユベールは、ハッとしたように口元を手で押さえた。顔が少し赤い。
「まさか、あなた、アニエスの事……」
エルネストが聞くと、ユベールは言いにくそうに答えた。
「……剣術大会で彼女の剣技を見て、その……一目ぼれしました」
先日の剣術大会は、学園関係者以外も参加可能で観覧も自由なので、ユベールがあの場に居てもおかしくないのだが、一目ぼれ……。
「も、もちろんエルネスト殿下の婚約者であるアニエス様とどうにかなりたいとは思っておりません。それと、本当に俺は暗殺には無関係です。信じて下さい!」
とりあえず、ユベールの言葉を信じる事にして二人は訓練場を後にした。エルネストは、げんなりした顔で呟いた。
「……彼女には、人たらしの才能でもあるのか……?」
夜になり、リュシーはアニエスの部屋に向かった。ドアの前に、夕食を食べ終えたアニエスが置いた食器とトレイがある。
リュシーは服のポケットから鍵を取り出すと、ドアの鍵穴にそれを差し込み、回した。そっとドアを開けて中に入る。ベッドでは、アニエスがスヤスヤと寝息を立てていた。リュシーが近づくと、アニエスは寝返りを打った。一瞬目を覚ましたかと思ったが、違うようだ。アニエスは、悲しげな顔をしている。そして、寝言を口にした。
「殿下……会いたい……」
リュシーは、しばらくの間じっとアニエスを見つめていた。
翌日、エルネストは暗殺未遂犯のポーラがいる留置所を訪れていた。鉄格子を挟んで向かい合うと、エルネストは口を開いた。
「まだ黒幕について教える気にならない?君、自分に暗殺を依頼したのがアニエス・マリエットではないとわかっているだろう?」
ポーラの自宅を捜索した所、暗殺の報酬を前もって受け取っていた事が判明した。直接依頼人から受け取ったのだろう。
そして、ポーラがターゲットやその周囲の者について詳細を調べた形跡もあった。アニエスの容姿はもちろん、第二王子の婚約者でありながら剣術大会で準優勝した事も知っているようだった。
ポーラは、エルネストと視線を合わせず、無言を貫いている。
「……調べたけど、君、弟と妹がいるそうだね。君がいなくなると、二人共生活が大変になるね。もし君が依頼主について話すなら、二人に経済的な援助をしてもいいんだけど」
ポーラの年齢は二十歳そこそこだが、まだ十歳にも満たない弟と妹がいる。仲が良い兄弟だと聞いているが、エルネストの提案にも、ポーラは顔色を変えない。
「……もしかして、もし捕まっても依頼主の名を明かさなければ弟達の生活を保証するとか言われたのかな?」
ポーラは、まだ黙っている。
「甘いな。依頼主が君の弟達を援助するはずがない。君の弟達は、王妃を殺害しようとした者の身内という事で、白い目で見られるはずだ。そんな者を特別な理由なく援助したら、怪しまれるからね」
ポーラの眉が動いた。顔に汗も滲んでいる。エルネストの方便に耳を貸しつつある。もう一押しだ。
「今、君の自宅から押収した手紙のインクの成分を調べている。もし珍しいインクだったら、購入した者がわかるかもしれない。それと、指紋って知ってる?アニエスから教えてもらったんだけど、指の先の模様って、一人ひとり違うんだって。手紙についている指紋を調べれば、依頼主がわかるかもね。そうなったら、僕と君との取引は無しだ」
現在、この世界でインクの成分を調べる技術は無いし、指紋を正確に照合できる人物はいない。しかし、ポーラはそんな事を知らない。彼女はしばらく考え込んだ後、口を開いた。
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