転生少女と幽閉3
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その日の夕方、現王レオナールは執務室にいた。書類に目を通していると、部屋のドアがノックされた。「入れ」と言うと、ブリュノ・ミストラルが入って来た。もうすぐ五十歳になる、経験豊富な宰相だ。
「失礼致します、陛下」
「どうした?」
「王妃殿下の暗殺未遂についてですが」
レオナールは、チラリとブリュノに目をやった。ブリュノは、白い口髭を手でひと撫でして言葉を続けた。
「メイドを装った暗殺者の家から、アニエス・マリエットが書いたと思われる手紙が発見されています。彼女が事件の黒幕である可能性が高いでしょう。エルネスト殿下と彼女の婚約は見直した方が良いのでは?」
「……本当に彼女が手紙を書いたのか、もう少し検証してからでもいいだろう。私としては、なるべくエルネストが選んだ相手を信じてやりたいしな」
「陛下がそうおっしゃるのなら構いませんが、あまり悠長な事は言っていられませんよ。婚約を破棄すべきだと主張しているのは私一人ではないのですから」
「……わかっている」
「賢明な判断を期待しておりますよ」
そう言って、ブリュノは部屋を後にした。一人になると、レオナールは溜息を吐いて背もたれに身体を預け、天を仰いだ。
「……あまり時間が無いぞ、エルネスト……」
翌日、アニエスは塔の部屋で目を覚ました。ベッドから体を起こし、大きく体を伸ばす。すると、タイミングを見計らったかのようにドアがノックされた。
「おはようございます、アニエス様」
「おはようございます、リュシーさん。……敬語じゃなくてもいいっすよ。私はまだ平民ですし、幽閉されている身なので」
「いえ、あなた様はエルネスト殿下の婚約者ですから、そういうわけには参りません。……こちら、朝食でございます」
リュシーは、食事の乗ったトレイをテーブルに置くと、続けて言った。
「それと、エルネスト様から差し入れがございます」
リュシーは、一旦廊下に出てから、大きな木箱を運んできた。
「ありがとうございます、リュシーさん」
「恐れ入ります。では、私はこれで失礼致します」
リュシーが部屋を出ると、アニエスは食事の乗ったトレイを見た。パンとスープとサラダがある。これだけあれば十分だ。食事を終えると、アニエスは空の食器を乗せたトレイをドアに空いた穴から外に置いた。
そして、アニエスは木箱を開けた。中には、青色の簡素なドレスが入っていた。
「……幽閉された者に与える着替えにしては可愛いっすね」
アニエスは、早速ドレスに着替えた。サイズがピッタリだ。箱の中にはまだ何か入っている。取り出すと、それは今朝販売された新聞だった。世間の情報を知る事が出来るのは嬉しい。
箱の奥にもう一つ差し入れが入っている。それを見て、アニエスはフッと笑った。
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