転生少女と幽閉2
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「……幽閉って、こんなんだったっすかね?」
塔にある一室に押し込められたアニエスは、思わず呟いた。塔そのものは重苦しい石造りだが、部屋の中は快適だった。広い上に、窓から日が差し込んで明るい。ベッドも広々としていて、清潔なシーツが掛けられている。
緑色のワンピースを着たままベッドに横になり、アニエスは考え込んだ。王妃殿下が襲われた理由は何だろうか。個人的な恨みというよりは、何らかの利益を期待しての犯行のようにも思える。
アニエスが考えていると、ドアがノックされた。体を起こして「どうぞ」と声を掛けると、メイド姿の女性が部屋に入って来た。
「お初にお目にかかります。私、本日よりアニエス様のお世話をさせて頂きます、リュシーと申します」
リュシーと名乗ったメイドは、茶色い髪を一本の緩い三つ編みにして、背中まで垂らしている。年齢は三十代くらいだろうか。彼女が緑色の瞳を半分隠すように微笑むと、こちらの心が和むのを感じる。
「……幽閉されてるのにこんなに丁重に扱われて良いのかとも思いますが……よろしくお願いします」
アニエスは、リュシーに頭を下げた。
「全く、アニエスが暗殺未遂なんて、するわけないのに!」
ブリジットが憤慨して叫んだ。ここは、王城にあるフレデリクの自室。今この部屋には、フレデリク、エルネスト、ブリジット、そしてもう一人、ブリジットの兄のシリルがいた。
「おい、暗殺未遂の件については聞いているが、何故俺までこの部屋に呼ばれたんだ」
シリルは、眼鏡をくいっと上げて不機嫌そうに言った。
「それは、お兄様が経済やこの辺りの商会について詳しいからよ」
ブリジットが、事も無げに言った。
「どういう事だ?」
シリルの疑問に、エルネストが答える。
「母上が命を狙われる理由を考えてみたのですが、思い当たる理由が一つしかないのですよ」
レーヴ王国の王妃は、服や調度品等王宮で必要となる物をどの商会から購入するか決定する権利を持っている。そして最近、王妃は取引先の商会を変更したのだ。
理由は簡単。今まで取引していたエトワール商会が、不当に吊り上げた価格を王宮に請求していた上に、酷い労働環境で従業員を働かせていた事が発覚したからだ。エトワール商会に代わり取引をする事になったアルコンスィエル商会は、小規模ながらも堅実な経営をしている。
「成程。エトワール商会の関係者が黒幕の可能性があるが証拠がない。それで、人脈の広い俺にエトワール商会との橋渡しをしてもらいたいわけか。アニエスの無実を証明する為に、あそこの従業員に話を聞きたいんだな」
「さすがシリル殿、話が早い。お願い致します」
エルネストが、笑顔でお願いする。シリルは、溜め息を吐いて応えた。
「第二王子の頼みとあらば、仲介しますよ。……全く、俺も暇じゃないんだが」
シリルは、現在二十三歳。両親は健在だが、既に侯爵家を継いでいる。それもこれも両親が、要約すると「領地経営めんどいから優秀なお前に任せるわ」という事を言ってさっさと引退してしまったからだ。
そんな事情を知っているフレデリクは、シリルに同情する視線を向けていた。
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