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転生少女の決意1

よろしければ、お読み下さい。

 エルネストが目を覚ますと、そこは自室のベッドの上だった。横を見ると、側に置いてある椅子に制服姿のアニエスが座っており、居眠りをしている。何故か木刀を抱くように握り締めて。婚約者とはいえ、これでよく二人きりになる許しを得られたなと思う。

 エルネストが苦笑すると、アニエスが目を覚ました。

「殿下、目が覚めましたか。ご無事で何よりっす」

無表情で言っているが、目が赤い。心配してくれていたのだろう。エルネストは、上半身を起こして言った。

「うん、心配掛けたね、アニエス」

「殿下は五時間くらい気を失ったままでしたからね……。全く、王族が平民を庇って健康を害するとか、前代未聞っすよ」

「メイドの仕事をしながら学園に通う王族の婚約者も十分前代未聞だけどね」

しばらく沈黙が流れた後、二人は笑い合った。窓の外を見ると、もう夕方だった。

 アニエスの話によると、あの後学園にはもう魔物が一匹もいない事が確認され、ロックは留置場に連行されたらしい。

 「それと、フレデリク殿下が今回の事件や私の出自について陛下に説明して下さったようなんですが、陛下から私に話があるそうなんです。二日後、また登城させて頂くっす」

「そう……何の話なのかな?まあ、今日は大変だったし、帰ってゆっくり休んでよ」

「ありがとうございます。そうさせて頂くっす」

そして、アニエスはルヴィエ邸に帰っていった。


 ルヴィエ邸に戻ったアニエスを、ブリジットが泣きそうな顔で迎えた。

「アニエスー、無事で良かった。心配したのよー」

 ブリジットは、魔物の騒動が起こった時にフレデリクに避難するよう言われて自宅に帰っていた。その後フレデリクから事の顛末を聞いたものの、実際アニエスの無事を確認するまでは心配だったのだ。

「あ、心配って言うのは、私の世話をしてくれる人がいなくなる事が心配っていう意味で……いえ、違うわね。あなたの事を大切に思っているから、心配したのよ。……お帰りなさい、アニエス」

「只今戻りました、お嬢」

アニエスは、微笑んで言った。本当に、アニエスは周りの人間に恵まれた。


 次の日、アニエスは刑務所に足を運んだ。

「そう……あなた、ナディア・フーリエの娘だったの……」

面会したイネスは、アニエスと目を合わせないまま呟いた。くすんだ白の服を着ていて、以前より少し痩せているように見える。アニエスは、魔物が出現していた理由や自分の出自についてイネスに説明した。

「薬草実習の時に魔物があなたを襲うのをやめたのは、あなたが生み出したからじゃなくて、自分を倒しうる存在だと本能でわかって恐れていたからかもしれないわね……」

「もう魔物が極端に増える事は無いと思うっす。騎士団の方々も生き残っている魔物を倒す為に頑張ってくれていますし、安心して下さい」

「……え?」

「先生は、私を殺害しようとした理由を私怨だとおっしゃってましたが、これ以上魔物による被害者を出したくないというのが大きな理由ですよね?私は、先生に安心して欲しくて今日ここに来たっす」

「……あなた……」

イネスは、目を見開いてしばらくアニエスを見つめた後、フッと笑った。

「本当、敵わないわね。……ねえ、あなたの母親がナディア・フーリエなのはわかったけど、あなたの本当の父親が誰かは知ってるの?」

「はい、マリユスの本にその辺についても書いてありました」


 ナディア・フーリエは、元々薬師の夫婦の間に生まれた平民だったが、魔術の才能があった為、騎士団と共に自然発生した魔物を倒す手伝いをしていた。そんな中出会った騎士団の男と恋に落ち、結婚した。

 その男との間に出来た子供――アニエスを出産した時期に、親戚のマリユスが魔物を生み出している事を知り、マリユスと対峙した結果、殺害された。

 ちなみに、マリユスの本には書いていなかったが、ナディアの夫は行方不明になった自分の子を探したが結局見つける事が出来ず、ナディアの死から三年経った頃、騎士団の任務中に殉死したらしい。


 「そう……もうあなたには、血の繋がった家族がいないのね……」

「はい。でも、私には私を育ててくれた両親がいますから、寂しくはないっす」

そう言って、アニエスは笑った。

「……あなたがこの先幸せに過ごせる事を祈ってるわ」

イネスは、そう呟いて微かに微笑んだ。


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