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転生少女と継承者1

よろしければ、お読み下さい。

 しばしの沈黙の後、アニエスは口を開いた。

「……ロック様がマリユスの息子って、どういう事っすか。マリユスの子供は、私一人じゃなかったって事っすか……?」

「ああ、勘違いしてたんだね。違う違う、君はマリユスの娘じゃない。君は……ナディア・フーリエの娘だよ」

「は……?」

「信じられない?でも、これに書いてあるんだよね」


 ロックは、側に置いてあった自分の鞄から、分厚い赤い表紙の本を取り出した。それを見て、アニエスが言葉を発した。

「まさか……マリユスが書いた本……!?」

「ああ、知ってたんだ。そうだよ。この本には、魔術の方法が詳しく書いてあるけど、マリユスの日記でもあったんだ」


 日記によると、マリユスは魔物を生み出して国を混乱させようとしていたが、ナディアにことごとく邪魔された為、ナディアの子を人質にして彼女の動きを封じようとしたらしい。どういう心境かはわからないが、マリユスは攫ったナディアの子――アニエスを自分の家で丁寧に扱っていた。

 自分と農民の娘との間に出来た子――ロックは、マリユスが捕まる三日前にその娘の遠縁に預けた。ロックが罪人の子として生きるのを避けたかったのかもしれない。


「そんな……私は、マリユスの子だと思って……。髪の色も瞳の色もマリユスと同じだし……」

「マリユスとナディアは同じ一族だからね。ナディアの子がマリユスと同じ特徴を持っていても不思議はない。……ちょっと失礼」

ロックはアニエスに近付くと、ワンピースの右腕の袖を捲り上げた。アニエスの右腕の痣が露になる。

「ナディアの子の右腕には痣があったらしい。やっぱり君は、ナディア・フーリエの子供だよ」

アニエスは、ロックの茶色い瞳を見て言った。

「……あんたの瞳の色は、紫じゃないんっすね」

「ああ、この瞳の色は、薬を飲んで変えているんだ。本当の瞳の色は、紫だよ」

「本当に、あんたがマリユスの子で、私がナディアの子……なんっすね……」

「そうだよ。……最初に僕がマリユスの子だと知った時は驚いたけどね、すぐにマリユスの魔術に魅せられたよ」


 ロックは優しい夫婦の下で何不自由なく育てられたが、九歳の時に転機を迎える。ある日、夜中に目が覚めたロックは、自室から抜け出しリビングに入ろうとした。そこで両親の話し声が聞こえ、立ち止まった。リビングの中にいる両親は、ロックが聞いている事に気付かず話していた。

「あの子が良い子に育ってくれて良かった……。クローデットがマリユス・ヴィトリーとの間に子を儲けたと知った時はびっくりしたけど……」

「ああ、しかもマリユスがこの家にロックを預けて数日もしない内にマリユスが投獄されるとはな……」

どうやら、クローデットというのはロックの本当の母親の名らしい。話を聞いている内に、ロックは自分がマリユス・ヴィトリーの子であると理解した。

 初めは動揺したが、自分の父親の事を知りたいと思い、数日後ロックは一人でマリユスの自宅を訪れた。誰もいないマリユスの家で、ロックはマリユスの面影を探した。そして、本棚の裏に隠し部屋がある事に気付き、足を踏み入れた。

 狭い部屋の中には、木でできた机と椅子だけがあった。机の上には、分厚い赤い表紙の本が一冊。その本を開いて、ロックは目を輝かせた。本をめくる手が止まらない。書かれている素晴らしい魔術の数々に心を奪われた。

 数ある魔術の中でも、特に魔物を生み出す魔術に魅せられた。使用してはいけない魔術とわかっていても、この魔術を使いたいという気持ちを抑えられなかった。

こっそりマリユスの本を持ち帰ったロックは、密かに魔術の訓練を始めた。血筋というべきか、ロックは呑み込みが早く、十三歳の時には既に魔物を生み出せるようになっていた。

 別に、ロック自身がこの国を混乱に陥らせたいと思っていたわけでは無い。しかし、尊敬するマリユスが国の滅亡を望んでいるのなら、マリユスの代わりに自分がその望みを叶えてやろうと思った。


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