転生少女の苦悩4
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アニエスは、気付くと自室のベッドに横になっていた。どうやって帰ったか覚えていない。多分、エルネストが馬車で送ってくれたのだろう。
自分が大罪人の娘だという事実が重く圧し掛かってくる。気が付くと、アニエスの目からは涙が溢れていた。泣いていた事に、アニエス自身が驚いていた。
アニエスの出自を知っても、ブリジットは今まで通り接してくれるだろう。アニエスの出自を知っていると思われるフレデリクやエルネストも優しい。学園の生徒や教師に知られてもそんなに動揺しないと思う。なのに、何故こんなに悲しいのか。
……エルネストと結婚できないとわかってしまったから。
アニエスがエルネストの婚約者に選ばれたのは、恐らくマリユスの血を引くアニエスを監視する為。もしくは、魔術の才能があるかもしれないアニエスを利用する為だろう。そうでなければ、平民と第二王子の婚約など周りが認めるはずが無い。貴族のパワーバランスの為でも、アニエスの実力や人柄が認められたからでも、エルネストが自分を愛しているからでもなかった。
便宜上エルネストの婚約者になっているが、それは一時的なもので、結婚まで辿り着く事はないだろう。大罪人の娘と第二王子が結婚するなんて認められるわけがない。いつか、エルネストと別れなければいけない。その事が、とてつもなく辛い。最初は、エルネストの婚約者にはもっと相応しい人材がいるでしょうとか言っていたくせに。
そうか。本当は、嬉しかったんだ。婚約者に選ばれて、エルネストの隣に立つ権利を手に入れて。エルネストの事を、愛していたんだ。どうして今まで気付かなかったんだろう。こんな事になってから、気付くなんて……。
部屋の中に、アニエスのむせび泣く声が響いていた。
「……アニエス、大丈夫?」
翌朝、ドア越しにブリジットの声が聞こえた。ずっと起きてこないアニエスを心配しているのだ。アニエスは、のそりとベッドから起き上がると、重い身体を引き摺るように歩き、ドアを少し開けた。心配そうなブリジットの顔が見える。
「……お嬢、申し訳ないっす。今日は仕事も学園も休ませて欲しいっす……」
アニエスがそんな事を言うのは、初めてだった。
「どうしたの?体の具合でも悪いの?」
「……そうじゃないっす……。でも、今日は……今日だけは、私の我儘を許して欲しいっす。まだ、詳しい事を話す心の準備が出来てないっすけど、落ち着いたら、ちゃんと話しますので……」
ブリジットは、アニエスの目が赤い事に気付き、しばらく沈黙した後言った。
「無理して話さなくてもいいわ。ゆっくり休んで。……そうだ、アニエス、実家に帰ったら?ご両親に会えば気持ちが落ち着くかもしれないわよ。……あ、別にあなたの心配をしているわけじゃないのよ。調子の悪い人に働かれても迷惑なだけで」
慌てた様子のブリジットを見て、アニエスは微かに微笑んだ。
「……ありがとうございます、お嬢……」
しばらくして、アニエスは実家に足を踏み入れた。いつもは両親に会えるのを嬉しく思うが、今は気が重い。
「……ただいま、お父さん、お母さん」
急に帰って来たアニエスを見て、二人は驚いた。
「どうしたの?アニエス。仕事は?勉強は?」
母親のフォスティーヌが心配そうな顔で聞く。
「……仕事も学園も、今日は休ませてもらったっす……」
「具合でも悪いのか?」
父親のジョズエも口を開いた。
「……違うっす。でも、どうしても今日は仕事が手に着かないっす……私、私……」
アニエスは、ボロボロ涙を零していた。
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