悪役令嬢と転生少女2
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ブリジット達が話していると、不意に獣の唸るような声が聞こえた。見ると、ブリジットの倍はあろうかという虎のような魔物がテラスのある庭に入り込んでいた。令嬢達の顔が一瞬にして強張る。しばしの沈黙の後、魔物が咆哮すると、令嬢達は一斉に逃げ出した。
「きゃああっ!」
「来ないでえっ」
「ま、待ってよ……」
逃げようとする際、ブリジットは転んで足を捻った。一生懸命逃げようとするが、足がうまく動かない。令嬢達に助けを求めるが、誰も助けてくれない。ふと、魔物と目が合ってしまった。魔物がブリジットに向かって駆けてくる。もう駄目だと思って目を瞑って数秒。何も起きる気配が無い。恐る恐る目を開けたブリジットは、目を瞠った。
アニエスが、魔物の前に立ちはだかり、木刀を魔物の口に突っ込んで応戦していたのだ。アニエスは、ギリっと歯を食いしばって踏ん張るが、魔物はアニエスの木刀を嚙み砕いた。そして、魔物の前足でアニエスは弾き飛ばされる。
「あっ……!」
思わず声が漏れる。アニエスは、苦しげな顔をして地面に蹲っていた。やはり女の子の力では魔物には勝てない。そして、魔物がまたブリジットの方に駆けてきた。
すると、アニエスがよろよろと駆け寄って来て、ブリジットを正面から抱き締めるようにして庇った。
「な、何してるの!あなた、死んじゃうわよ!?」
「私はお嬢の専属メイドっす。お嬢の事は何があっても守るっす」
「私、あなたの事を虐めてたのよ。どうして私なんかを守るのよ」
「『私なんか』なんて言わないで下さい。お嬢は確かに人にきつく当たる事がありますが、私は知っています。お嬢が誰よりも努力していた事を。誰よりも優しい事を……」
そんな事を言われたのは初めてだった。いつの間にか、ブリジットの目には涙が浮かんでいた。
魔物がすぐそこまで迫り、もう駄目かと思われた時、魔物が呻き声を上げて倒れた。
「無事ですか、ブリジット嬢!」
見ると、騎士団の男達が次々と庭に入って来ていた。魔物は、騎士団の槍によって倒されたのだ。
「……た、助かった。助かったあああ……」
ブリジットは、アニエスと抱き合って泣き続けた。
その後、知らせを受けたブリジットの父親が半狂乱で帰ってきたり、逃げ出した令嬢達が揃って土下座せんばかりに謝ったりと色々あったが、今は笑い話だ。
そして現在。アニエスとブリジットは、ルヴィエ邸のリビングにいた。
「お嬢。今日エルネスト殿下に、私が学園で囲まれている事を教えて下さったそうっすね。ありがとうございます」
「いいのよ。……何だか、急に昔の事を思い出したわ。アニエスは私の事を優しいっていうけど、どこをどう見たら優しく見えるのかしら……」
「お嬢は、下の身分の者も一人の人間として見ていたっす。母親が病気だから暇を頂きたいと申し出た庭師には、見舞金を渡すよう旦那様に進言していた事もありましたし、他にもお嬢の優しさを感じられる場面は多々ありました」
「そう……でも、そんなの当り前じゃない?」
「その当たり前が出来ない貴族は多いっすよ」
まあ、褒められて悪い気はしない。ブリジットは、微笑んで言った。
「……側にいてくれてありがとう、アニエス」
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