第二王子の初恋2
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時は流れ、エルネストが十六歳の時。エルネストは学園の行事で、他の生徒達と一緒に孤児院の子供達の世話をする事となった。子供達はエルネストが優しく勉強を教えると笑ってくれたが、エルネストは複雑な思いを抱いていた。
行事が終わり孤児院から学園へと戻ろうという時、エルネストは、孤児院の庭にアニエスがいるのを見つけた。薄い緑色のワンピースを着たアニエスは、庭の草むしりをしていた。何故孤児院にいるのか不思議に思いながら、エルネストはその場を去った。
その三日後、ルヴィエ邸に遊びに来たエルネストは、さりげなくアニエスと庭で二人きりになった。アニエスは木刀で素振りをしていたが、エルネストが声をかけると、綺麗な紫色の瞳でエルネストを見つめた。
「ねえ、アニエス。君、この前、孤児院にいなかった?」
「……ああ、私を見ている男子生徒がいると思ったら、やっぱりエルネスト殿下だったんすね。いましたよ、孤児院に。草むしりの手伝いをさせてもらってたっす」
「どうして?」
「……私、赤子の頃孤児院に捨てられていたみたいなんです。それを今の両親に拾ってもらって……。その孤児院が、エルネスト殿下が先日いらしていたあの孤児院っす。一歳にも満たない内にマリエット家に引き取られたんで、当然孤児院にいた時の記憶は無いっすけどね。しばらく私を育ててくれたのは確かっすから、何か恩返しがしたくて」
「そうだったのか……」
大人びた笑みを浮かべて自分の出自を話すアニエスを、エルネストはじっと見ていた。
「しかし、エルネスト殿下は子供の扱いもうまかったんすね。孤児院の先生が言ってましたよ。子供達が、また殿下に会いたがってるって」
それを聞いて、エルネストは目を伏せた。
「どうしました?」
「……本当は、年下の子と接するのは好きじゃないんだ。どう接したらいいかわからなくて……。僕はただ、第二王子としてどう行動すればいいか考えて子供達と接していただけなんだ。それなのに慕ってもらって、申し訳ないと思って……」
エルネストは、自嘲気味に笑った後言葉を続けた。
「……あの時の僕の笑顔も優しい言葉も、全て偽物なんだ」
しばらく沈黙が続いた後、アニエスが口を開いた。
「……いいじゃないっすか、それでも」
「え?」
「殿下の優しさが偽物でも、子供達の笑顔は本物っす。確かに殿下は、子供達を楽しい気持ちにさせていたっす。もっと自分を誇っていいと思うっす」
エルネストは、目を見開いてアニエスを見た。世界が一変したような気持ちになった。
「……まあ、でも、殿下はやっぱりお優しい方だと思いますよ」
アニエスは、にこりと笑った。普段無表情でいる事の多いアニエスがこんな風に笑ったのを、エルネストは初めて見た。
思えば、あの時からエルネストはアニエスに心を奪われていたのかもしれない。エルネストは、あの時のアニエスの笑顔を思い出しながら医務室へと走っていた。
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