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1:忘れることが『救い』なら、世界はずっと静かでいられた。

「守ってやるよ、絶対にな」


 赤い夕日、唇を伝った鉄錆の味を覚えている。忘れることはない。あの瞬間、《《オレ》》は生まれて初めて『生きる意味』を得た。


「守ってやる、何があっても」


 それは決意であり、約束であり——そして『あいつ』とオレを縛り続ける、《《呪い》》となった。


「またな」「ああ——またね」


 そして時は駆け足で通り過ぎる。誰も止めることはできない。だからオレは何度でも間違いを犯すのだろう。何度でも、何度通り過ぎても、きっとオレは同じ結末を辿るだろう——



「そして」


 顔を上げると薄っすらと光が差していた。夜明け前、短い薄明の頃。うつらうつらと机に突っ伏すオレに向かって、そいつは訥々《とつとつ》と語り続ける。


「そして、神樹の力によってこの地はひと時の安定を得たのです。あの樹はこのオルフェの地のくさびであり、同時に人と大地の契約の証でもある——って聞いてますか、エン様」

「悪い寝てた。聞いてなかったからは最初から頼む」

「ふざけないでくださいよ。何時間話してたと思ってるんですか」


 怒りをあらわにされても、聞いていなかったものは聞いていない。オレが大きく伸びをしていると、そいつ——従者であるアインは緑の目を剣呑に細める。


「エン様が聞きたいっていうから喋ってたっていうのに、それひどくないですか?」

「確かに聞きたいとは言った。だが、夜が明けるまで喋れとは言ってねぇ」

「だったら止めてくださいよ! 誰も聞いてないのに喋り続けるとか馬鹿じゃないですか!」


 そう思うのだったら自分で止めろよ。と思っても言わないのがオレの良いところだ。心の中で自画自賛していると、アインが顔を覗き込んでくる。その顔を見るともなく見ていると、やつは疲れ果てたようにうなだれた。


「エン様ー、私の時間を返してくださいよー」

「無理だ。出来るもんならオレが自分でやっている」

「デスよねー。というか、よくよく考えてみたら、私早朝からお勤めがあるんですけど」

「そいつはご苦労ー。オレはこれからゆっくり寝る」

「エン様の極悪非道ー!」


 アインが怒り狂っているが、やつの場合は自業自得のような気もする。朝から務めがあるというのに、延々と喋り続けていたのはやつ自身であって、オレの所業ではない。……若干心苦しくはあるが。


 従者の茶色い髪を引っ張ってから、オレはそそくさとベッドに潜り込む。布団は夜の間に冷え切っていて、思わず身震いしてしまう。その様子をジトっと見つめていたアインは、心からの想いを込めて言葉を吐き出した。


「おやすみなさいエン様。ど・う・ぞ、良い夢をー」

「まるで永眠しろと言わんばかりだなてめえ。良いからとっとと部屋に戻れよ。今なら少しは寝られるだろ」

「言われなくても戻りますよぉ。私の睡眠時間が惜しいですからねぇー」

「はいはい、悪うございましたー」


 傍目から見れば険悪な会話だろうが、これはオレたちにとって日常会話だ。オレとアインは幼い頃の付き合いで——わずかな例外を除けば、唯一まともに会話できる相手だった。


 アインが部屋から去れば、俺はずっと『ひとり』だ。

 オレはこのオルフェの家にとって存在しないもの。初めから必要ない——嫡子エルンストの《《余分》》だった。


 だから、オレには失うものなんてない。たったひとつ——あの朽ちかけた老樹を除いて。


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