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∞:いずれ、去っていく君に

 『わたし』の記憶の始まりには、真白の雪が降っていた。

 鈍色の巨木の下、顔を上げれば空はくすんだ灰の色が見える。そこからはらり、はらりと、真っ白の雪が降り注いでいた。空は灰色なのに雪の白さがとても不思議で、目を離せなかったのを覚えている。


 ぼんやりと見上げていると、強い風が身を叩いていった。身を切るような鋭さにはっと息をつめれば、足元が雪に沈んだ。指先を伸ばして触れると、雪が少しだけ溶ける。


 冷たい。一言呟いたのが、思えば初めて紡いだ言葉だった。声が出たことが不思議で、喉に触れてやっと気づく。ああ、そうか。『わたし』には体があるのだ、と——。


 そのとき初めて、『わたし』はわたしを知ったように思う。それはとてもおかしなことで、同時にとても不安なことで、『わたし』はそっと自らの体を抱きしめた。


『わたし』は、わたし。わたしは金耀樹きんようじゅ。金耀樹は『わたし』を形作るもので、世界を見守り続ける神樹でもある。


 だから『わたし』は、この世界の全てが愛おしく感じるのだろうか。たとえいずれ朽ちていくだけの樹でしかなくとも、『わたし』はこの世界の全てを愛している。


 だから。

 この身が朽ちて枝葉が落ちても、『わたし』はきっとこう告げるのだろう。


 ――この時間の先で出会うはずの君へ。

 君は、わたし(金耀樹)のすべてではなかったけれど。

 『わたし』にとって君は、最初からずっと、ただひとりの人でした。


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