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ヴィンセントの告白

「へえ、じゃあ本当に卒業したらすぐにレイノー国へ行くんだ。」

「ええ。不安もあるけれど、ワクワクするわ。」

「エミリアはすごいな、遊びに行ってもいいか?」

「もちろんよ!楽しみにしてるわ!」

 ヴィンセントにはこうしてちょこちょこ報告をしているが、兄や両親には微塵も知らせていない。

 長い袖で傷を隠しているので、ヴィンセントにも怪我の事を知られずにすんでいる。


「それでさ・・・。」

 ヴィンセントは何か言いにくそうにしている。

「なに?」

「婚約はどうなってるんだ?」

「・・・。わからない。話にならないから放ってあるの。」

「ちゃんと解消すべきだよ。」

「うん。今も手紙で両親に訴えているわ。でも婚約解消はしない、関係修復しろってばかりで私の意見は全く聞いてくれないの。だから話合いしたって平行線だと思うの、このまま隣国に移住したら有耶無耶になるでしょう。」

「そんなことしたら次の婚約ができないじゃないか。」

「きっとすごい醜聞になるから、新しい婚約なんて無理だと思う。私は隣国で暮らすつもりだし、結婚しなくても構わないわ。」

「え?・・・あちらに永住するつもりなのか?」

「ええ。」

「嘘だろ・・・。何年かで帰ってくると思ってた。」

「夜逃げ同然であちらに行くんだからそれくらいの覚悟はしているわ。」

「あのさ・・・俺、申し込もうと思ってたんだ。」

「何を?」

「エミリアに・・・結婚の。」

「ええっ?!嘘でしょ?!」

 エミリアは驚いた。幼いころに一緒に暮らしていたせいで幼馴染であるが、兄同然の存在だった。


「以前、子爵に申し出たことがあるんだけど断られたんだ。俺の出自的にうまみがなかったんだろうな。」

「・・・我が親ながら嘆かわしいわ。」

 ヴィンセントはソニエル家の長男だった。しかしソニエル侯爵が外に産ませた所謂庶子だった。正妻との間には娘が二人、後継ぎがいない侯爵は無理にヴィンセントを引き取った。

 しかし、正妻はそれを受け入れることが出来ず、幼いヴィンセントに躾と称して折檻を繰り返した。侯爵はそれらをうまくコントロールすることもできず、見かねた前侯爵夫人が知り合いだったフィネル子爵家に預けた。

跡取りは娘のどちらかが婿をとることにしたようだった。


 ヴィンセントにとっては、幸せな時間だった。フィネル家はまだ今のエミリアの父親が爵位を継ぐ前で、エミリアの祖父母が孫たちと同じように大切に育て、教育をしてくれた。

 ソニエル侯爵家の正妻が病死し、またもやヴィンセントは大人の事情で父親のもとに戻された。義理の妹たちとはすごく仲がいいとも言えないが、嫌いあっていることもないというところ。父親とも仲良くしているが、心中は信頼などしていないし、一線を引いている。

 ヴィンセントにとって信頼できる家族はエミリアの祖父母、エミリアと兄のユーロだけだった。


「でも、ヴィンセントが侯爵家を継ぐのでしょう?」

「・・・そのつもりだったけど、迷ってる。だってエミリアはこの国に帰ってくるつもりはないんだろ?俺もレイノー国に行こうかな・・・なんて考えてる。」

「はあ?何言ってるの。一生懸命、爵位を継ぐために頑張ってきたじゃない!侯爵も認めてくれたじゃない。」

「エミリアとともに生きたいんだ。次期侯爵に決まれば、エミリアに婚約を申し込めると思って頑張っただけだ。遅かったけどな。」

 フィネル子爵が自分にメリットのあるバランド家とさっさと婚約を決めてしまった。あの時ほど悔み、フィネル子爵を恨んだことはない。


「ヴィンセント・・・」

「エミリアはどう思ってる?俺と婚約は考えられないか?」

 エミリアは顔を赤くしてヴィンセントを見た。

「・・・考えたことなくて。嬉しいけど。」

「じゃあ、考えてみてくれないか。」

「・・・うん。」

 思ってもみなかった告白に、脳の中がふわふわしている。

 婚約者との問題などどっかに吹っ飛んでしまったエミリアだった。

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