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留学生

 学院生の一学年下に隣国からの留学生がいると聞き、知り合いの令嬢にお願いし、挨拶をさせていただいた。 

 隣国からの留学生ソフィア・トゥーリはレイノー国の貴族である。侯爵家の令嬢で、この国へは語学を学び、将来自国の益になる見識を広げるために来ていた。


「エミリア様、わたくしが留学に来た理由はお話ししましたわ。貴女がわたくしに近づこうとする意図は何なのかしら?」

(おおっ!いきなりけんか腰!挨拶の時からにこりともしてくれないし、機嫌が悪そうとは思っていたけど・・・私に会いたくなかったのかしら。)

「お忙しい所、時間をとっていただき申し訳ありません。私は卒業をしたら、隣国に行こうと考えております。」

「それで?」

「色々準備を進めておりますが、わからないことも多くお話を聞かせていただけないかと思いまして、友人に引き合わせをお願いしました。例えば、安全に暮らすのならどこの地域が良いのか、家を借りたり働き口を探すのにはどういう手はずがあるのか、観光地や、行った方がいい所とか、服装とか、気をつけるところとか、食べ物とか・・・。あ、申しわけありません!夢中になってしまって。」

 相手が気乗りをしなかったことを思い出し、言葉を止めた。

 さぞかし興味のない話をだらだら聞かされて不機嫌にさせてしまったと思い、恐る恐るソフィアを見た。

 ソフィアは先ほどまでの表情とは打って変わって、笑顔でこちらを見ていた。


「ごめんなさい、嫌な思いをさせて。貴女の思いを聞かせて欲しかったの。これまで留学生と知り合いだと自慢したいがために近づいて来る者、隣国とのつながりを持ちたいと欲得だけで近づいてくる者、珍しい動物を見るような感覚で近づいてくる者など色々いてね。嫌になっちゃって牽制することにしているのよ。本当にごめんなさい。」

「いいえ!確かに私も自分の欲の為にソフィア様の時間を頂戴してしまいました・・・申し訳ありません。」

「いいのよ。そういう欲のことではないから。貴女が我がレイノー国のことを知りたいと、本当に我が国に行きたいという気持ちが伝わってきて嬉しかったわ。私が知っていることなら喜んでお伝えするわ。代わりにと言っては何だけれど、お友達になってくださるとうれしいわ。」

「もちろんです!なんて嬉しい。ソフィア様、ありがとうございます!」

 お互い寮で暮らしており、一緒に過ごす時間はたくさんあった。

 二人は気が合い、あっという間に色々な話もする間柄になり、学園でもよく一緒に過ごすようになった。


 そんなある日、ソフィアとエミリアは街に出てお茶と買い物を楽しんでいた。

 ソフィアの護衛が馬車を回すよう御者に知らせに行き、侍女が会計にと、ほんのわずかな時間ソフィアの周りから人が離れた瞬間に男がソフィアに向かってきた。

 偶然それに早く気が付いたエミリアは考える間もなく勝手に体が動き、フィアの腕を引っ張ると、自分の後ろに隠した。

「つっ!!」

 刃物でエミリアの腕が傷つけられる。

「きゃあ!!」

 まわりの悲鳴で護衛が戻り、その男が取り押さえられる。


 犯人はソフィアを追いかけてきたレイノー国の貴族だった。

 一度はソフィアの婚約者候補に挙がったことがある男だったが、身辺調査の結果、侯爵令嬢を妻に迎えるにはふさわしくない所業がばれすぐに外れた。その身辺調査のせいで、様々な悪行が親に知られ、弟に後継を奪われたことを恨みに思っていたようだ。

 青ざめた顔のソフィアがすぐに医師の手配をするように侍女に指示する。そいてエミリアの両親にも連絡をするというのを必死で止める。

「お願い、両親に知られると家に連れ戻されてしまうわ。傷ものだからって無理やり今の婚約を押し通されてしまう。お願い、言わないで!」

 傷はズキズキと痛むが、たいしたことはなさそうだ。

「でも・・・」

「お願いします!全然大したことがないので。それに大ごとになったら外交問題になるかもしれない。とりあえず、手当てが終わったら寮に戻りたいの。」

「・・・わかったわ。」

 ソフィアは、護衛たちにも口止めをすると治療を終えたエミリアと寮に戻った。


「エミリア様、本当になんといってお詫びをすればいいのかわからないわ。」

「大丈夫ですから。」

「体に傷をつけてしまうなんて・・・ドレスを着たときに目立ってしまうわ。婚約者の方にも・・・」

「いえ、先ほどももうしましたが婚約解消を狙っておりますし、傷など・・ソフィア様が無事でよかったです。」

「新しい婚約者を探すのならなおさらですわ!」

 ソフィアは涙を落として、エミリアの腕を見る。

「新しい婚約者を探すつもりもありません。身軽になってレイノー国に行きたいと思っております。ですから気にしないで下さい。」

「エミリア様!」

 ソフィアはエミリアの手を握りしめると、レイノー国に行くときには必ず力になってくれると約束してくれた。 

 貴族子女がお供も護衛も連れずに一人で外国に暮らすとなると危険だということだ。後ろ盾や紹介を経ながら、新しい地に根付くまでは用心を重ねたほうがいい。それまで屋敷に住んで欲しいという。

 初めは全力で辞退したが、ソフィアも命の恩人だからと譲らず、申し出を受けることにした。

 エミリアは図らずも、新たな生活の基盤と安全が保障されたのだった。



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