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私の婚約者はちょろいのか、バカなのか、やさしいのか  作者: れもんぴーる


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ヨハンの(少し気持ち悪い)努力

 ああ、思い切ってレイノー国に来てよかった!


 卒業式の翌日、寮から自宅まで送りたいと花を抱えてエミリア様を迎えに行った。

 エミリア様は、旅の支度をしていた。

 実家に帰る気もヨハンに会う気もなかった・・・。

 それだけでもショックだったのに、例の幼馴染の男が何とエミリア様に別れの挨拶にキスをしたのだ。


 ショックでどうやって家に帰ったのかわからなかった。

 様子のおかしい僕を心配した家族に聞かれるがまま、これまでのことを話した。初めは慰めてくれていた家族だったが、何週間経過しても何の連絡もよこさず、こちらからも連絡がしようのないことに怒り始め、婚約破棄を言い出した。

 僕が、僕たちが悪いのだからと諫めても、無断で姿を消したエミリア様とそれをごまかしバランド家と何とか縁をつなごうと必死のフィネル子爵に腹が立った僕の家族は婚約破棄を突き付け、慰謝料を請求してしまった。


 ああ、もうダメだ。最初に不誠実なことをしたのはこちらなのに、それを棚に上げて慰謝料を請求するなんて・・・でもエミリア様はそれを望んでいた節があった。そうしてでも僕との婚約を解消したかったんだ。

 きっとあの侯爵令息と・・・


 ショックで仕事が手につかず、食事もろくに食べられず目の下にクマを作り、ふらふらな僕を見て心配した姉が一つの噂を教えてくれた。

 隣のレイノー国でアルテオ人の通訳付き観光案内が評判で、エミリアという若い女性がやっているというものだった。

 すぐさま荷造りを始めようとした僕を姉はしかりつけた。

「その考えなしの行動は止めなさい。本当にそれがあなたのエミリアさんかどうかわからないでしょう?そうだとしてもあなたが行ったら怖がられるか、嫌がられるに決まっているわ。」

「・・・でも、確かめたい。元気でいるのか、怖い目に合っていないか、寂しくないのか、ご飯は食べれているか・・・もしかしておかしな奴に付きまとわれたりしてたら僕が陰から見守って・・・」

「もう、うるさい・・・というか、気持ち悪いわ。いい加減諦めたらどうなの?アイラの件、同じ女性として許せないもの。エミリアさんの気持ちもわかるわ。」

「・・・・。挽回するチャンスが欲しい。僕はエミリア様しか駄目なんだ。」


 姉は気持ち悪いと思いながら、内心、可哀そうだとも思った。

 アイラも悪いが、それを受けたバランド家も悪かったのだ。お人よしのヨハンが振り回されているのに気が付かず、止めてやらなかった家族も悪い。

「じゃあ、見てきてあげるわ。」

「え?何を?」

「レイノー国のエミリア様をよ。」

「姉上・・・姉上!!」

「叔母さまと一度レイノー国の教会に行きたいと言っていたの。夫が許可してくれたら確認してきてあげるわ。」

「・・・ありがとうございます。恩に着ます。で、いつ出発されますか?明日ですか?何なら今日すぐにでもいかれたほうが・・・」

「ヨハン。気をしっかり持ちなさい。」

「・・・すいません。」


 それから2週間も待たされたが、姉と叔母がレイノー国に旅立っていった。そして帰国後、通訳兼観光案内人について教えてくれた。

 伝え聞く限りではエミリア様に間違いない。でも平民だと言い張り、両親はいないという。そしてアルテオ国には未練もないと。

 叔母は、あの所作は平民ではないという。そして常に行動を共にしている護衛がおり、まずまずの男前で頼りがいのあるがっちりした男だという情報も知らされた。

 その情報に焦燥感が募る。あの侯爵令息とも距離が離れ安心していたのに、新たな敵が現れる。しかもずっと一緒にいるらしい。

「・・・もうダメだ・・・」

 がっくりするヨハンに叔母が檄を飛ばす。

「その程度であきらめるのなら、忘れなさい。」

「あきらめません!」

「あの仕事はまだこれから伸びる。客が増えるときっと人手が必要になると思うわ。その時にあなたが助けになれば彼女も・・・」

「!」


 ほんのわずかに光が見えたヨハンはレイノー国のギルドや仕事斡旋の事務所などに手紙を送りエミリアのところが求人を出したらすぐに知らせて欲しいと連絡をした。多額の謝礼もすると書き添えると、どことも了承との返事が来た。

 それから、まだレイノー国にいるのがエミリアと決まったわけでも、求人が出るともわからないのに、ヨハンはレイノー国の言葉を勉強し、あちらの国の労働や居住に関する法律も調べた。

 エミリアかもしれない、その一念だけでヨハンは恐ろしいほどの集中力でいろんなものを吸収していった。


 そしてついに、念願のレイノー国の商業ギルドから連絡が来た。

 しかもただの事務員や観光案内人の募集ではない。法律の専門家、トラブルに対応できる人材とまさに自分にぴったりの求人ではないか!

 ヨハンは迷うことなく、安定した優良職を退職してレイノー国に駆け付けたのであった。


 相当の努力をして、私的感情は押さえつけ一事務員としての対応を心掛けたおかげで、はじめは敬遠されていたが徐々に普通に対応をしてもらえるようになった。

「エミリア、仕事終わりにご飯行かないか?」

 護衛のディックがエミリアを誘っている。ヨハンは自分の席でこれ以上ない位聞き耳を立てている。

「そうね。」

「ヨハン殿も・・」

 と、ディックが声をかけようとしたところをかぶせるように

「喜んで!」

 と返事した。

 ちらっとエミリアを見たが、嫌そうな顔もせず笑っていたのでヨハンは心の中で嬉し涙を流したのだった。


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