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あるエルフ少年の復讐譚  作者: 原作者:ポムの樹 著者:漆黒の勇者
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三話『思惑』

「お疲れ様です、メビウス隊長」

「もう隊長ではないよ、クシャナ。それで、魔王軍の動向はどうだったかな」


 座っている僕に対して、軍隊式の敬礼をしているこの女性の名は、クシャナだ。

 肩の長さに切りそろえられた赤髪がサラリと揺れ、手に持っていた資料を読み上げ始めた。


「魔王軍は二日後にここに到着する見込みです」

「そうか……早いな。うん。これからの計画を伝える」


 思ったより魔王軍の動きが早い。このままでは人族と魔人族にはさみうちにされてしまう。

 僕たちにとってはこの世界のどこにも、安全なところなどないのだ。


「まず、僕たちは計画通り勇者からエルフを横取りすることに成功した」

「そう……ですか。エルフは本当に存在していたんですね」

「しかし、思ったよりゼオンの仲間が多くて、子どものエルフ四人しか確保出来なかった」

「それは……」

「そうだ、この四人が死ねば、エルフの種は潰える。それは僕たちの敗北を意味する。だからここで一度、二つの班に分かれる」


 黙って話を聞いていたクシャナが口を開く。


「私は何をすればいいのでしょうか」

「エルフたちを連れて魔人領の内側へ向かってくれ」


 魔人の領地は、魔王城を囲むようにほぼ円形に広がっている。必然的に、内側に行けば行くほど魔王軍の警備は厳しくなる。

 しかし、今は内側の方がいい。なぜなら、魔王軍は僕たちを追ってどんどん範囲網を外側に広げているからだ。外側にいてもいずれ見つかるなら、いっそ内側へ。


「軍の包囲網を突破するには、君の空間魔術しかない。内側に無事ついたら、エルフをつれてここへ向かってくれ」


 厳封された封筒をクシャナに投げる。その表面には住所を示す記号が書かれている。


「どこですか?」

「行けば分かる。開けるなよ?」

「分かりました。しかし、私の魔術で転移できる距離には限りが……」

「そこは考えている。とある場所に竜車を用意してある。それで移動してくれ」


 僕は手元にある地図の一点を指さした。


「何手先まで読んでいるんですか……」

「こうなると分かっていた訳じゃない。しかし、僕たちに失敗は許されない。魔王様のために、僕は出来ることをやるだけだ」


 クシャナは感動したように目元を潤わせると、深々と頭を下げて、しばらく動かなかった。

 僕は慎重にならざるを得ないだけだ。

 僕がゼオンに胸を切り裂かれ、立ち止まった時、あいつの傷は既に治っていた。

 しかし、僕を追撃しなかった。とどめの一撃を放つ直前でいきなり停止したのだ。

 ただ我を失ったように自分の手を見つめながら、近くにいるだけで圧倒される殺気を放っていた。

 あいつは、不気味すぎる。今はエルフたちを少しでもあいつから遠ざけたい……。



「あのガキを探せッ! 黒髪で耳の長い真っ白なガキ! 俺の元に連れてこい!」

「はぁ、ゼオン。まだ言ってんのか? あいつが生きてるとしても、今は魔人領の中だぜ? 人間は魔人の警戒網をくぐれない。忘れたのか?」


 隻腕の屈強な男がため息を吐く。


「だからお前らなんだろうが! 金なら積む! 絶対に生きて連れてこい」


 俺は息を荒らげながらモンフィスに怒鳴った。


「ギャハハ、怖い怖い。分かったよ。それにしても、何故そこまであのガキにこだわる?」

「俺の手に傷をつけた」


 俺は左手についた星型の傷を見せつけた。

 モンフィスが呆れ顔で嘲笑った。


「手前から手を差し出してたじゃねぇか、避ければよかっただろ」

「今まで俺の神聖術で傷が残ったことは無かった。これが俺の人生で唯一の傷なんだ」

「ふん、俺なんて片腕がねぇってのに。傷ぐらいでキレやがって」

「お前と一緒にするな」


 俺は会話を強制的に終わらせて、部屋の隅に転がっている女の死体に近づいた。

 手を翳して蘇生させる。

 真っ白な長い耳に若干の生気が宿る。あのガキの母親だ。


「おい、エルフ、起きろ」

「うっ、うう」

「お前の息子の名は?」

「言わ……ない……」

「もう一度死の痛みを味わうか?」

「ッ……それでも……」

「俺は何度でも殺す。早く吐いた方がいいぞ」


 女はぶんぶんと首を振ってうずくまった。

 俺は剣で太ももを刺した。


「ああぁぁぁあ! んぐッッ……〜〜」


 そのまま放置しておく。出血でいずれ死ぬ。

 仲間と話していたモンフィスが近づいてくる。


「まだ口を割らねぇのか。大したもんだ」

「面倒なだけだ」

「まあ、名前なんてなくても見つかるさ。真っ黒い魔人たちの中に真っ白なガキがいればすぐ分かる」

「それならいい。さっさと行け」


 モンフィスはつまらなそうに肩をすくめると、仲間を連れて部屋を出ていった。

 部屋に女の悲鳴だけが響き渡る。


「なんで、なんで……あの子をさがすの!?」

「……お前には関係ない」


 太ももから剣を引き抜き、軽く首を跳ねる。

 絶対に見つけ出す。

 この目的は、何よりも優先させる。

 あのガキを、捕まえてやる。

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