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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「英才教育」編
92/608

92話 「ハビナ・ザマへ! 馬車に乗ろう!」


 グラス・ギースを出たアンシュラオンは、地図を広げる。



挿絵(By みてみん)



「ハピ・クジュネに行くルートは二つあるな。西と東、どっちがいいんだろう?」



 地図を見ると、西はハビナ・ザマとハピナ・ラッソ、ハピ・ヤックいう三つの街を経由してハピ・クジュネに至る。


 もう一つの東は、クラス・レッツ、グラ・ガマンという二つの街を経由してハピ・クジュネに至る。


 どちらを選んでも最終的に行き着く場所は同じだが、いざどちらに行こうとすると迷うものである。



「こういうときは詳しい人に訊いたほうが早い。サナも覚えておくんだぞ」


「…こくり」


「どうせ馬車で行く予定だったから、乗り場で訊くか」



 南門を出て少し歩くと、たくさんの馬車が集まっているエリアがあった。


 いわゆる『貸し馬車屋』だ。


 便利な場所には人が集まり、情報も集まるものである。


 大勢の馬車屋の中から、一番人の好さそうな中年男性を選んで話しかけてみた。



「おじさん、ハピ・クジュネに行きたいんだけど、西と東どっちがいいのかな?」


「ここに来たということは馬車を使っての移動だよね?」


「うん、そのつもり」


「大人は一緒にいるのかい?」


「ううん、二人だけの旅なんだ。特に商売とかじゃなくて普通の旅人さ」


「それならば西ルートしかないね。山道も多くて険しい部分もあるけど、途中に街が三つあるし比較的安全なルートだよ」


「東ルートは違うの?」


「東は主に商人が使うルートなんだ。道は広いし平坦で移動しやすいけど、魔獣もよく出るのさ。この前もどこかの商隊が襲われて何人か死んだんじゃないかな。盗賊もよく出るから危ないんだよ」


「商人は西ルートは使わないの?」


「西も使われるけど、どちらかといえば個人でやっている商人が多いよ。大手は輸送船を持っているから東のほうが燃費はいいのさ。まあ、襲われる危険性も高くなるからリスクとの兼ね合いだね。あとは途中で寄る街に用事があるかどうかさ」


「西と東の街って違うの?」


「集まる人間も違うから必然的に特色も変わるね。東のクラス・レッツとグラ・ガマンは鉱山都市なんだ。発掘とかする労働者の街だよ」


「なんか汗臭そうだね」


「ははは、まあそうだね。ノリのいいやつも多いし酒場は盛り上がるんだけど、子供が滞在するにはあんまり向いてないかな。店も大人向けが多いからね」


「西のほうはどんな感じ?」


「西ルートの街は【交易消費都市】だね。おっと、子供には難しかったかな。旅人がお金を落とすための都市って意味だよ」


「娯楽サービスがたくさんあるってこと?」


「理解が早いね。そういうこと。だから旅人向けの施設がたくさんあって、快適な旅ができるんだよ。それを目当てに西ルートしか通らない商人もいるくらいさ。あそこは子供向けの店も多いから西の街はお勧めだね」


「へー、楽しそうだね。ところでハビナ・ザマとかハピナ・ラッソって、グラス・ギースと名前の雰囲気がだいぶ違うよね? どちらかというとハピ・クジュネに似てる気がするんだけど…」


「それは当然さ。西ルートの街はハピ・クジュネの『衛星都市』だからね。三つともハピ・クジュネと繋がっているのさ」


「名前が似ていると思ったら、そういうことか。じゃあ、東はグラス・ギースの衛星都市? 名前が似てるよね」


「形式上はそうだけど、実際はハピ・クジュネが管理しているみたいなもんだよ。私も詳しくはないんだけどね、昔のグラス・ギースはもっと栄えていたみたいで、ハピ・クジュネも含めてこの一帯の中心都市だったらしい。でも、次第に衰退して分裂していったそうだよ」



 およそ千年前、グラス・ギースがまだ『グラス・タウン』であった頃、このあたりは人が住める土地ではなかったため、最初に開墾したグラス・ギースの祖先たちが、この一帯をすべて支配していたようだ。


 だが、今はハピ・クジュネのほうが経済的にも上になっており、グラス・ギースが管理しているのは、ブシル村を含む北方の村々だけだという。


 それに伴い、近隣都市はすべてハピ・クジュネ寄りの姿勢になり、西ルートの都市に至っては名前まで変えて衛星都市になった経緯がある。


 金がないところに人は集まらない。かつての栄光だけで飯は食えないのだ。世の中は厳しいものである。



(随分と落ちぶれたものだな。絶対に領主のせいだよ。ざまあみろ)



 さすがに子孫のアニルは関係ないと思われるが、坊主憎けりゃ袈裟まで憎いといわんばかりに、とことん領主を毛嫌いしていることがうかがえる。


 ただ、今のアンシュラオンの興味は、すでに次の都市であるハビナ・ザマに移っており、離れる都市への関心は薄かった。


 もともと風来坊なのだ。嫌な都市なら出て行ってしまうのが正解だろう。



「サナ、西にするか? たくさん娯楽もあるらしいぞ」


「…こくり」


「よし、ハビナ・ザマに向かおう!」


「本当に二人だけで行くのかい?」


「うん、二人だけの気楽な旅を満喫する予定さ」


「それはいけない! 西ルートとはいえ、子供の二人旅は危ない。おじさんは心配だよ」


「大丈夫だよ。自分の身は自分で守れるし」


「しょうがない。うちの馬車に乗っていきなさい。安くしておくから」


「本当に大丈夫なんだけど…」



(さて、どういう腹積もりかな?)



 考えるふりをしつつ、アンシュラオンは中年男性を観察。


 ここは荒野だ。日本のように誰もが親切ではないし、子供だって平気で騙そうとする悪い連中もいる。常に相手の本性を見抜く力が必要だ。


 こういうときは周囲の反応や、相手の目や雰囲気から察することができる。



(他の御者たちも緊張していないし、不審な挙動もないか。周りにいる人たちも明るいオーラをまとっているから、少なくとも悪い人じゃなさそうだ。本当にオレたちを心配しているだけかな)



 戦気術を学ぶと、相手が発している生体磁気の性質を常時観察する癖がつく。戦いでは必須の技能だからだ。


 それは一般人が相手でも同じだ。オーラは肉体と精神と霊のものがあるが、肉体のオーラだけでも黒ずんだ場所によって、だいたいの傾向性を悟ることができる。


 目の前の男性は全体的に明るいオーラを発しており、善人と呼んでも差し支えない人物だと思われた。


 ただし、注意は怠らない。



(この人が善人だからといって、誰かに騙されないとも限らないけどね。まあ、それならそれでなんとでもなるか。どちらにしてもサナにとっては良い経験になる)



「わかった。お言葉に甘えることにするよ。よろしくね」


「子供は素直が一番だ。ほかに荷物はあるかい?」


「こっちは大丈夫だよ。これだけさ」


「子供は身軽でいいね」



 アンシュラオンは旅人用のリュックを見せる。一般街の店で買った中くらいのサイズのものだ。


 常人にとってみればポケット倉庫は極めて高価であり、子供が持っていると盗まれる危険性が高いという話を聞いたため、ダミー用に普通のリュックも持ち歩くことにしたのだ。


 実際、食べ物や服を入れているので怪しまれることはないだろう。



「じゃあ、準備を始めるよ。おーい、もうすぐ出るぞー!」



 男性が手馴れた様子で馬車の準備を始めると、声を聴いた他の客が集まってきた。


 それと同時に、体格の良い男たちも五人ほどやってくる。


 男たちは剣や鎧で武装しており、顔つきも商人とは明らかに異なっていた。



「あれって傭兵?」


「そうだよ。『渡り狼』の傭兵さ。警護を頼んだんだ」


「移動しながら傭兵業をする連中だっけ。送り狼になったりしない?」


「子供のわりに面白い言葉を知っているんだな。大丈夫。彼らも仕事だからね」


「できれば女の傭兵がいいなぁ」


「子供なら女性がいたほうが安心するからかな? でも残念ながら女性の傭兵は少ないんだ。我慢しておくれ」



(小百合さんも同じようなことを言っていたな。女性自体が戦闘に向かない…とは思えないんだよな。姉ちゃんを見ているからさ。まあ、移動するだけだし男で我慢するか)




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