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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「英才教育」編
91/609

91話 「マキとの別れ、からのぉ~」


(ようやくグラス・ギースともおさらばか。最初から嫌なことがあった都市だから、まったく未練がないな。唯一あるとすれば―――)



 準備が整い、東門に行く。


 そこには、門番のお姉さんことマキがいた。



「マキさん!」



 まずは挨拶がてらに抱きつき、顔を胸にうずめる。


 大きさ、形、弾力、モチっと感等々、審査項目は山ほどあるが、おっぱい博士としては特に顔を埋めた時の感触が重要である。


 姉が100点なのは致し方ないとしても、マキは80点は超えているだろう。60点が及第点だとすれば実に素晴らしい数値といえる。


 しかし、これが最後の抱きつきになるかもしれないと思うと残念だ。



「アンシュラオン君、お出かけかしら?」


「うん、ハピ・クジュネにまで行こうと思うんだ」


「あら、旅行? 少し遠いわね。大丈夫かしら?」


「…もしかしたら、もう戻ってこないかも」


「え!? グラス・ギースから出て行っちゃうの?」


「まだわからないけど、その可能性もあるんだ」


「そんな…何か理由があるの? 私のこと嫌いになっちゃった?」


「ううん、マキさんは大好きだよ! ずっと一緒にいたいよ! でも、それができない原因があって…」


「その原因って何!?」


「それを言ったらマキさんが哀しむかも…」


「何も知らないよりいいわ! お願いだから教えてくれる?」


「全部【領主】が悪いんだ」


「ど、どういうことなの!? もっと詳しく教えてちょうだい!」


「オレがここに来た時、一人だったよね。それでお金を手に入れるためにまた外に行ったでしょ?」


「ええ、魔獣の素材を手に入れるためだったわね」


「なんでお金が必要だったかといえば、妹が領主に人質に取られていたからなんだ。その身代金として『一億円を要求』されていたんだ」


「なっ…ほ、本当なの!?」


「うん、スレイブ館店主のモヒカンに訊けばわかると思うよ。サナはあそこに身を隠していたんだけど、結局は領主に見つかって連れ去られたんだ」


「なんてこと! 犯罪じゃないの!」


「そうなんだよ。しかも悪質なことに、お金を持っていっても返してくれなくて、そこで揉めてひと騒動起こすことになっちゃった。仕方なく力ずくで取り返したけど、逆恨みで指名手配までされたみたいでさ。だからこの一ヶ月、ずっと隠れていたんだ」


「それじゃ、あの領主城の騒ぎって…アンシュラオン君だったのね」


「本当に危なかったよ。サナの大切な貞操を奪われちゃうところだったからね。あいつ、ロリコンだったんだ。イタ嬢が女の子のスレイブを集めているのは、あいつの趣味を隠すためのカモフラージュだったのさ」


「っ!! あの領主様がそんなこと……するかもしれないわね。まさか、キャロアニーセ様がご病気なのをいいことに…! ありえる、ありえるわ…!」


「サナ、怖かったよな?」


「…こくり」


「ほら、サナもそう言ってるよ。でも権力者って酷いよね。こっちの言い分なんて最初から聞かないし、すぐに揉み消そうとする。最低のクズだよ。そんな領主がいるグラス・ギースにはもういられないんだ」


「あの髭オヤジ…! ついにそこまで堕落したのね! 許せないわ…!」



 一部アンシュラオンの嘘が交じっているが、ほぼ事実なので大嘘ではない。


 マキも思うところがあったのか信じているようだ。


 普段からの行いは大切である。いざというときに信じてもらえなくなる。



「妹さんが狙われたのは、たまたまなのかしら? それまでは無事だったのよね?」


「それに関しても、マキさんに伝えないといけないことがあるんだ」


「ごくり。何かしら?」


「そろそろオレの正体を明かすよ。オレは―――【王子】なんだ!」


「えええええ!?」


「マキさん、声が大きいよ」


「ご、ごめんなさい。ど、どういうこと!? 王子様!??」


「東大陸と南大陸の間に、名前がほとんど知られていない小さな島国があってさ。オレはそこの王子だったんだ。だから妹のサナは王女なんだよ。ほら、どことなく気品とかあるでしょ?」


「う、うん。初めて会ったときからずっと思っていたわ。君は何か違うって。たしかに妹さんにも引き込まれるような不思議な魅力があるわね」


「でも、違う国から攻められて王都は陥落。父さんも母さんも殺されたんだ。姉さんが囮になってくれて、オレたちは命からがら逃げられたんだけど、そのショックでサナは声が出なくなって…感情も乏しくなってさ。今じゃ、にこりとも笑えなくなって…うう、サナ……つらかったよなぁ」


「…こくり」


「姉さんのほうも心を病んで人を傷つける暴力的な性格になっちゃって、オレと会うと感情が爆発しちゃうから、できるだけ会わないようにしているんだけど…そもそも今どこにいるかもわからないしね。もう全部バラバラになっちゃった。そんな中でようやく見つけたのが妹だったんだ」


「そ、そんな事情があったなんて! うう、なんてかわいそうに…ぎゅっ!」



 マキは涙を流しながら二人を抱きしめる。



「ありがとう、マキさん。たぶん領主は、その話をどこからか聞きつけたんだと思う。オレたちには『血統遺伝』があって、妹は身体的には普通の女の子だから簡単に付け込めると思ったんだろうね。それでオレたちを騙して、お金も身体も騙し取ろうとしたんだ」


「なんてクズなのかしら! 絶対に許せないわ! これからぶん殴ってくる!」


「ああ、待って! もういいんだよ。マキさんが、あんなやつのために拳を穢す必要なんてないんだ」


「でも、それでアンシュラオン君がこの都市を嫌いになったのでしょう? だとしたら、このままにしておけないわ!」


「いい気分がしないのは事実だけどね。こうして妹も無事だったんだから、オレは罪を許そうと思う。罪を憎んで人を憎まずだよ」


「アンシュラオン君…あなたって人はなんて……。恥ずかしい、私は自分が恥ずかしいわ!」


「いいんだよ、オレのために怒ってくれたんだよね。嬉しかったよ。オレが出て行くのは妹の安全のためなんだ。また領主から狙われるかもしれないからね」


「…そうね。たしかに指名手配までされていたら、いつか見つかるかもしれないわね。まだアンシュラオン君だって誰も知らないだろうけど、ここに残っていたら危険よね…」



(マキさんはいい人だな。話が早くて助かるよ)



 アンシュラオンが平然と嘘をついていることもあるが、そもそもマキが信じやすい性格なのも幸いして、まったく疑っている様子はない。


 しかもイタ嬢に一億くれてやったのは事実であり、調べられても辻褄は合っているはずだ。相手も隠そうとするので、調べれば調べるほど信憑性が増していくのだ。



「それでね、マキさん。結婚の話なんだけど…こんな状況じゃ結婚なんてできないし、オレのことはもう忘れてもいいよ」


「―――っ!」


「そのほうがお互いのためかもしれない。だって、マキさんは領主側の衛士だし、オレと一緒にいたら嫌な命令にも従わないといけなくなっちゃう。マキさんが不幸になる姿を見たくないんだ」


「そ、そんな……そんなことって……嘘でしょう…」


「マキさんが言った多くの人たちの平和を守りたいって気持ち、とても素敵だと思うよ。それじゃあね…バイバイ。本当はずっと一緒にいたかったよ」


「ま、待って! 待ってよ、アンシュラオン君!」


「オレたちはそういう運命だったんだよ。愛し合っていても離れるしかないことだってあるもの…」


「ぁあ……こんなことってあるの!? こんな…こんなこと…! ようやく運命の人に出会えたのに…こんな残酷な結果になるなんて…!」



 マキが崩れ落ちる。


 真面目な女性ゆえに職務と自身の幸せとの間で板挟みになり、苦しんでいるのだろう。



「マキさん…もしまた会えたら…次こそは結婚しようね」


「アンシュラオン君……」



(グラス・ギースか。領主がムカつかなければ悪くなかったかもしれないけどね。とりあえずハピ・クジュネに行ってみて、次にどうするか考えようかな。マキさんは惜しいけど、今はサナの安全を確保するほうが先だ)



 ホワイトハンターであるアンシュラオンは目立ちすぎる。


 領主は基本的に上級街から出ないとはいえ、街中には衛士たちもいるのだ。トラブルになるのは確実である。


 今は何よりもサナ。ようやく手に入れた彼女との時間が大切だ。



「サナ、行こう」


「…こくり」



 アンシュラオンは、こうしてグラス・ギースを出立。


 新しい旅が始まるのであった。





  ∞†∞†∞





「あれ? キシィルナさん?」


「ミナミノ…さん?」



 アンシュラオンが都市を出た三日後、マキと小百合がばったりと遭遇。


 東門の門番とハローワークの職員という公職にある二人には、最低限の面識があった。


 ただ、そこまで親しいというわけではなく、顔見知りといった程度である。



「どうされたのですか? かなり顔色が悪いですよ」


「ここ三日、もう力が抜けて何もする気力が湧かなくて…仕事にも集中できないのよ。さっきも騒いだ男がいたから、イラっとしてつい顔を殴ってしまったの…二ヶ月の入院みたいね。まあ、それは公務執行妨害だから、かまわないのだけれど」



 殴ったことは問題ないらしい。


 これがグラス・ギースのルールだ! わかったか愚図め! と言いたくなる。



「キシィルナさんにしては珍しいですね。何かあったのですか?」


「それが…私の大切な人が出て行ってしまったの…。結婚の約束もしたのに…ようやく結婚できると思ったのに…」


「それは…つらいですね。私も同じく何をやってもやる気が出ないのです。アンシュラオン様がいないと世界はこんなにも暗いのですね…」


「え? アンシュラオン君と知り合いなの?」


「はい? キシィルナさんもですか?」


「え、ええ。ミナミノさんはハローワークの職員だったものね。知っていて当然かしら」


「もしやアンシュラオン様が最初に結婚の約束をされたのは、キシィルナさんだったのですか?」


「そうだけれど…あなたも?」


「はい! 二番目の妻です!」


「こんな偶然ってあるのかしら! なにか不思議ね」


「そうですね。私たちって年齢は近いですけど、普段はそんなに話したことなかったですものね。よかったら仲良くしてくれませんか?」


「もちろんよ! でも、ミナミノさんも置いていかれてしまったのね…」


「残って家を守るのも妻の責務ですからね。…とはいえ、このままでは不安ですよね。アンシュラオン様って魅力的ですし、ちょっと風来坊的なところがありそうですから、しっかりと掴まえておかないと怖いです」


「そうね…モテるわよね。絶対に」


「キシィルナさんは追いかけないのですか?」


「私は門番だし、簡単には…」


「グラス・ギースのほうが大事ですか? 私は職を辞めてもいいと常々思っています」


「ハローワークを? あんな大手の企業を辞めるなんて…」


「アンシュラオン様にもそう言われましたけど、やっぱり女は愛に生きるべきだと思うのです。それにアンシュラオン様と一緒ならばお金には困らないですよ。デアンカ・ギースさえ倒すホワイトハンターなのですから!」


「そう…よね。そうなのよね。恥ずかしながら私、そのことに今気づいたわ。今まで彼がデアンカ・ギースを倒した実感がなくて、妙にふわふわした気持ちだったの。でも、彼があの伝説の四大悪獣を倒したのよね。それってすごいことよね」


「その通りです。英雄でなければ絶対に倒せない相手です。英雄の妻なんて素晴らしいと思いませんか? 私は諦めるつもりはありません。この気持ちを行動で示そうと思います!」


「行動で? 辞めるの?」


「いいえ、約束しましたから辞めはしませんが、少しばかり策を弄しようかと考えています。少し危険ですけど、愛のためならばやむを得ません!」


「すごいわ。その執念、見習わないといけないわね。…決めた。私も行動に移すわ。やってみなくちゃわからないものね。まずは領主城に行って問い詰めてくるわ!」


「その意気ですよ、マキさん! 同じ人に愛を捧げる妻同士、私のことも小百合と呼んでくださいね!」


「ありがとう、小百合さん! 一緒にがんばりましょう!」



 婚期を逃した三十路前の女性を侮ってはいけない。


 アンシュラオンの知らないところで妻候補二人が結託する珍事が発生。


 じわりじわりと結婚の足音が近づいていることに、まだ当人は気づいていなかった。




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