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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「愛の約束」編
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80話 「サナとモヒカン その1」


 営業停止中ではあるが、鍵はかかっておらず開いていたので遠慮なく入る。


 どの道アンシュラオンは鍵がかかっていても壊して入るので、結果は同じであるが。



「モヒカン、いるか」


「あっ! 旦那!!」



 あのあと最低限の補修はしたらしく、板が打ち付けられており、一応床というものがある。


 そこに目の下にクマを作ったモヒカンがいた。なぜか正座だ。



「どうして正座だ?」


「正座しないほうがいいなら…いたっ!」


「オレの前で足を崩すとはいい度胸だ」


「酷いっす!? じゃあ、なんで言ったっすか!?」


「言えば足を崩すと思ったからだ。崩したら石を投げてやろうと狙っていた」


「暴君より横暴っす!?」



 これに意味はない。


 単純にモヒカンに追加制裁を加えただけである。



「旦那、心配したっすよ! どうなったっすか!?」


「その前にこれもやろう」


「ひっ!」


「安心しろ。石じゃない」



 ドサドサと大量のお菓子を床に置く。


 押し売りされて困っていたブツである。



「何すか、これ?」


「見てわかるだろう。お菓子だ」


「それは見ればわかるっすが、意味がわからないっす!!」


「意味がわからないか? ならば覚えておけ。これからオレが菓子を置いたら全部食えよ」


「はぁ、わかったっす」


「尻からな」


「尻から!?」


「承諾したんだから約束は守れ」



 最後まで話を聞かずに承諾すると酷い目に遭うという、よい教訓である。


 それからサナを見せる。



「ほら、サナもいるぞ。万事上手くいったということだ」


「…じー」



 サナはじっとお菓子を見ていた。


 まだ欲しそうだが、さすがにカロリーが気になるのであげないでおく。



「それより領主はどうなったっすか! 朝から大変だったっすよ!」


「その様子だと、領主城で何かあったことは伝わっているようだな」


「はいっす。急に衛士たちが領主城に集まり始めて、裏の業界ではけっこうな騒ぎになっているっす」


「事の詳細は知っているか?」


「そこまではわからないっす。賊が入ったとだけ伝わっているっす」


「ふむ、けっこうやったのにそれだけか。領主が口止めしたのか? まあ、恥を晒すだけだからな」



 昨晩の出来事は領主にとって汚点である。たった一人の少年に好き勝手されたのだから立場がないだろう。隠すのも当然だ。


 だが、人の口に戸は立てられないもの。そのうち嫌でも詳細は出回るだろう。



「今までどうしていたっすか? 逃げて隠れていたっすか?」


「馬鹿を言うな。オレが逃げるわけがない。ハローワークでお近づきになったお姉さんの家に泊まっていたんだ。サナの服もそこで借りた」


「…そんな! 自分がどれだけ心配したか! 徹夜で待っていたっすのに、女の家に泊まっていたなんて酷いっす!」


「冷静に考えてみろ。苦労して取り戻したあとに、わざわざお前に会いたいと思うか? 正直、ありえない選択だ。そんな暑苦しい顔を見たいわけがない。モヒカンより女性を選ぶのは当然だろうが」



 何が哀しくてモヒカンのことを心配せねばならないのだろう。


 こいつのことなど、どうだっていいのだ。



「どうせお前が心配していたのは自分の身だろう? まあ、そんなことはいい。ここじゃ椅子もない。裏の店に案内しろ。そこで全部話してやる。茶も出せよ。値段が一番高いやつだぞ」


「は、はいっす。相変わらず態度が異様に大きいっす」


「言っておくが、オレはもう客ではない。お前たちの支配者だ。すべての財産をオレのためだけに使え。逆らったらどうなるかわかるな? お前たちをスレイブにして強制的に使役してやるぞ。オレにとって男は虫けら以下だから普通の生活が送れると思うなよ。最初の仕事はそうだな…くくく。お前たちの汚い尻を変態どもに安く売ってやろう。せいぜい楽しんでこい! それが嫌なら従え!」


「うう、とんでもない状況になったっす…」


「自業自得だ。命があるだけましだと思え」



 そもそもこの事態は、モヒカンが領主の圧力に負けたせいでもある。同情する必要はない。



(多少遠回りしたが、ようやく本来の路線に戻ったな。あとはサナのギアスについて詰めるだけだ)



 感慨深げにアンシュラオンは裏の店に行く。


 最初と違うのは、手に感じるサナの体温があること。


 このためだけにがんばってきたのだ。最後の詰めはしくじるわけにはいかない。




 裏の店に入り、椅子と茶を用意させる。


 サナも茶をすすりながら、少し高い椅子に足をぶらぶらさせていた。


 それがもう、とてつもなく可愛い。



「サナは可愛いなぁ。ナデナデナデ!」


「………」



 サナは、されるがままにナデナデされている。


 当人も嫌がっているわけではない。その証拠にサナの手は、アンシュラオンの服を握っていた。



「驚いたっす。こんなに懐くなんて一度もなかったっす」



 モヒカンが驚愕しながら、おかわりの茶を持ってくる。


 彼が管理していた頃は、サナは何の反応も示すことはなかった。敵意や哀しみすらもなく、まさにただの人形であった。


 それが一日経ってみたら、わずかながらであるが人間味を宿しているのだ。彼からすれば奇跡としか言いようがないだろう。



「お前たちの愛情が薄いからだ。これが愛だ。人徳の力だ」


「はぁ、そうっすか。愛は偉大っすね」


「ようやくお前にもわかるようになったようだな。中途半端なモヒカンのくせに」


「そうなったのは旦那が引っ張ったからっす。しかし、やっぱり領主と揉めたっすね」



 モヒカンが呆れたように言う。


 すでにモヒカンには事の顛末を話している。こういった男には正直に全部話したほうがよいのだ。巻き込めば逃げられなくなるからだ。



「やっぱりとは、どういう意味だ」


「最初から喧嘩腰だったっす」


「そりゃお前、自分のものを奪われたら誰だってそうするだろう」


「そうっすけど、自分だったら我慢するっす」


「それもお前の生き方だが、オレは違う。やられたらやり返す。相手の財産と生命が尽きるまで報復し続ける」


「恐ろしい思想っす」


「オレにとっては普通だと思うのだが…お前たちは平和でいいな。それじゃ外の世界では生きていけないぞ」


「旦那はどこから来たっすか!? 怖ろしいっす」


「殺さねば殺される世界だよ」



 火怨山では相手を殺すまで戦いは終わらないし、一部の魔獣を除いて相手も死ぬまで殺しにくる。


 完全に相手を破壊し尽くすまでが戦い。家に帰るまでが遠足と同じことである。



「ところでイタ嬢のやつに、お前が情報を漏らしたことを言ってしまったが大丈夫か?」


「大丈夫じゃないっす。これから何が起こるのか怖いっす」


「オレのスレイブ計画に支障が出るようなら言えばいい。そのときは領主城ごと消してやる。楽しい人生設計を邪魔されるのは一番イラつくからな」


「ま、待ってくださいっす! どうか殺すのだけは…!」


「そろそろ覚悟を決めろ。オレを取るか領主を取るか、二者択一だ」


「できれば両方の間をうろうろしたいっす」


「まったく…それもまた商人らしいか。安心しろ。どうせ領主には何もできないさ。あいつもスレイブにどっぷりみたいだしな」



 領主にとってもスレイブは貴重な人材である。新しいスレイブ商と新しい絆を作るより、すでに慣れているモヒカンを使い続けたほうが楽だろう。


 多少信用が揺らいだかもしれないが、アンシュラオンの力を見ている領主ならば納得するはずだ。これは事故みたいなものだ、と。



「サナも手に入ったし無理に事を荒立てることもない。相手が仕掛けてこない限りは、この都市内部では穏便に動いてやる」


「本当っすか?」


「本当だよねー、サナちゃん」


「…こくり」


「ほら、サナもそう言っているだろう。可愛い、可愛い」



 アンシュラオンが再び、緩みきった顔でサナを撫でる。


 柔らかい頬も、ぷにぷにしてみる。



「し、幸せだ。超絶に可愛いな。オレのものだぞ。オレのものだ。ふふふ…」



(やっぱり変質者っぽいっす)



 まだアンシュラオンが少年の姿だからいいが、少女を触りながら、にやけて「オレのものだ」とか言っているのは危ない人である。


 しかし、それ以上にモヒカンには気になることがある。


 じっとサナの首元を見るが、そこにジュエルは存在しなかった。代わりにアンシュラオンが買った中身がないペンダントだけがある。



「あの…精神ジュエルはなんで壊れたっすか? 普通は専用の機器じゃないと壊せないどころか、外すのも無理なはずっす」


「オレは何もしていないぞ。勝手に壊れたんだ」


「そんなことはありえないっすが…」


「壊れたものは仕方ない。そもそも品質が悪いんだ。安物を売りつけやがって」


「うちの商品はどれも最高品質っす! あのジュエルだって希少なもので、白スレイブの品質にも自信があるっす!」


「あー、わかったわかった。お前の店の質が高いのは認める。サナがいたんだからな。それ以外の子もみんな可愛いよ」


「ご理解していただけて嬉しい限りっす」



 モヒカンが笑う。


 やはり自分の店の商品には愛着があるらしい。



「いきなり外したら精神に影響が出るのだろう? サナは大丈夫なのか?」


「うーん、それも人それぞれっすからね。どれくらい干渉されていたかにもよるっすし…素人じゃわからないっすね。ただ、その子に関しては良い方向に出たんじゃないっすかね?」


「うむ…最初に会ったときより感情が出ているな」



 今日もずっとサナを観察していたが特段の変化はなかった。頷いたりぎゅっと握ったりする仕草が増えたので、むしろ感情が豊かになったようにすら思える。


 サナの精神は、どうも普通の人間とは違うようだ。あの黒い深遠が、たかだか軽度の精神術式で壊れるとは思えない。


 今のところ問題はないし、あったとしてもどうしようもないので、この問題は気にしないことにする。



「それよりギアスだ。確認するが、何でも好きに制約をつけられるんだな?」


「そうっす。白スレイブだけの特権っす」


「イタ嬢の様子を見る限り、キーワードで縛っていたようだが?」


「よく気が付いたっすね。その通りっす。いくつかのキーワードをキーにして術式を発動させるっす。イタ嬢様の場合は、『友達』『仲良し』『服従』『共同生活』とか、そういったものを設定するっす」


「ただし、効果は当人の理解力に応じて変化する、だろう?」


「…それに気づくとはすごいっす。もはやプロっす」


「それくらい見ていればわかる。やはりそこまで万能ではないか」


「所詮、機械っすからね。べつにキーワードがなくても問題はないっす。その子は反応が鈍かったのでそういうやり方にしただけっす。両者が納得する形にするのがベストっす」



 ファテロナを見ていればわかるが、ギアスがなくても契約すればスレイブなのだ。両人の意思があれば問題ない。


 そもそもギアスも内容があまりに不当なものであり、当人が『本当に無理』と思えば効かないこともあるらしい。



(そういえば、イタ嬢との友達付き合いが無理で売られたスレイブもいる、と衛士たちが話していたな。ジュエルに込められるものなんて所詮はそんなものか。しかし、やらないよりはよさそうだな)



 やるとすれば、『アンシュラオンの妹』といったものだろうか。一応、他の精神術式に抵抗するために『絶対服従』も入れておく予定だ。


 すでに精神術式にかかっていれば、他人からの支配系の精神攻撃に抵抗することができる。操られないようにするためにも有用なことなのだ。



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