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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「白い魔人と黒き少女の出会い」編
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68話 「王気、それは妹に贈る想花 その2『スレイブ対決』」


「うん、いい響きだ。…妹! 素晴らしいな!」


「いもう…と?」


「ああ、そうだ。オレの妹だ!!」



 アンシュラオンは自分の答えに納得どころか感動さえしているが、困ったのはイタ嬢である。


 いくら白スレイブがいかなる情報も刷り込めるとはいえ、まったく予期していなかった答えである。


 激しく困惑して、最初にこんなことを訊いてしまうほどに。



「その子は、あなたの妹…なのですか?」


「ああ、妹だ」


「血縁者という意味で?」


「は? そんなわけ…あっ、そうか」



 アンシュラオンは一瞬、「そんなわけないだろう」と言いそうになったが、これもまた人種の認識がない世界ゆえの勘違いだ。


 地球ならば肌の色や髪の毛の色で人種や血縁関係を判断するが、この世界では多様な因子があるので一緒の容姿とは限らない。それゆえに見ただけでわかる親子のほうが少ないのだ。


 イタ嬢とて、父親のアニルとは髪の毛の色が違う。


 イタ嬢は濃い目の金髪だが、父親は黒に近かった。もしかしたら母親が金髪の可能性もあるが、それ自体にあまり意味はない世界である。


 だから言い直す。



「サナは他人だ。でも、今から妹にする」


「スレイブに情報として『妹』を刷り込む、ということですか?」


「そうなるな」


「それは、わたくしのやっていることと何が違うのですか?」


「オレはその子を人形にはしない。妹として愛する。それが最大の違いだ」


「意思を尊重するということですか?」


「だが、オレの所有物だ!!! 絶対服従だ!」


「どっちなの!? あなたが理解できない! 意味がわからないですわ!!」


「オレだってお前が理解できないよ、イタ嬢様」


「イタ嬢様って呼ぶな!! わたくしは、ベルロアナ・ディングラスですわよ!」


「そうか、ベルロアナイタ嬢様か」


「交ざってる!! わかりにくくなってますわ!!」



 これでは「ベルロアナイタ」という名前かと勘違いされそうだ。



「オレはその子に金も地位も力も、ありとあらゆるものを与えるつもりだ。オレの妹として最高に幸せな人生を与えると約束する」


「わたくしだって地位やお金を与えることはできますわ!」


「どうやら納得はしていないようだな」


「当然でしょう。あんな説明で納得すると思っていらっしゃったの?」


「ほんと、しつこいな。黙っていればまだ可愛いのに。残念なやつだ」


「わたくしが可愛いのは当然のことです」


「それだけ言えればたいしたもんだ。で、この子に直接主人を選ばせるっていう条件を呑まない限り、お前は永遠に納得しないんだろうな」


「ええ、頑固ですもの」


「執着心が強いだけだろう」


「あなただって、たかがスレイブにこだわりすぎですわ!」


「オレには新しい人生を歩むために彼女が必要なんだ。愛する対象がない人生はもうこりごりさ。この子だけがオレの欲求をすべて満たしてくれる確信がある」


「わたくしだって同じですわ! すべてを受け入れてくれる友達になると確信しております! クイナ以上の資質があるのです! 間違いありません!」


「ほぉ、さすが常連者だな。スレイブに関しては本質を見る目がある」


「わたくしを誰だと思っていらっしゃるの? もう二百人もの白スレイブを手に入れた実績があるのよ! あなたには負けませんわ!」


「すごい数だな。そのうち残ったのは何人だ?」


「うっ…それは……」


「館にいた若い女の子は、この子を除いて三人だけだったな。それ以外にもいるのか?」


「と、友達は多ければいいというものではありませんわ! 厳選してこそ意味があります!」


「強がりやがって。まあいい。お前のほうが手馴れているのは認めてやるよ」



 どうやら引き下がる気は、まったくないらしい。


 サナを買った時もこんな感じで粘ったのだろう。地位と権力を持つ以上、モヒカンでは相手にできそうもない。


 ここまで頑固で執拗な理由は、イタ嬢が的確にサナの本質を理解しているからだ。


 意思が無いからこそ、けっして自分には逆らわない。完全に自分好みの友達になってくれる。彼女にとってもサナは貴重な人材なのである。


 このことから両者には『互いに白スレイブに魅入られた者同士』という奇妙な共通点があった。


 ガンプドルフとは違う意味で互いを理解できる一面があるのは、実に興味深いものだ。



(しょうがないな。オレも白黒つけないと気が済まない性格だし、ここはきっちりと片をつけてやろう。今後も余計な悪感情で邪魔されるのは面倒だ)



「いいだろう。お前の提案を受けよう」


「ほ、本当ですか? 最後にまた力ずくで引っぺがすのは無しですわよ!」


「そんなことはしない。もしオレが勝ったら潔く引き下がれよ。二度とこの件に関しては文句を言うな。邪魔もするな」


「あなたこそ、わたくしが勝ったら二度とちょっかいを出さないでくださいませ!」


「わかった。お互いに納得する。それでいいな? 契約違反は【死】だぞ」


「当然です。それこそ書類に捺印したってよいくらいですわ! いくらでも首を持っていきなさい!」


「その覚悟、信じるぞ」



 イタ嬢の目には正真正銘の覚悟があった。


 ことスレイブに関してのみ彼女は信頼できる。



「こちらが言い出したことですもの。あなたが勝負の仕方を決めていいですわよ。せめてものハンデよ」


「たいした自信だな。では、十メートル離れてお互いに呼びかける。それでこの子が自らの意思で自分のところに来れば勝ちだ。それでいいか?」


「わかりました。シンプルでいいですわ」


「それじゃ、お前はあっちだ。オレは反対側に行く」


「いいえ、わたくしがあっちで、あなたが反対側ですわ」


「なぜだ?」


「何か罠があったら困りますから」


「ふん、好きにしろ」



(もしオレが本当に罠を仕掛けるなら、むしろ逆にするがな。まあ、罠なんてないけどさ)



 イタ嬢の性格を知っていれば罠にはめることは簡単そうだ。面白いほど予想通りに動くので、少しだけファテロナの気持ちがわかる。



 そして、両者が距離を取る。



 まだ地面に座っているサナから、互いに十メートルほど離れて対峙。



「それじゃ、いつでもいいぞ」


「あなたには負けませんわ!」


「オレも負けるつもりはないがな」



 こうして勝負は始まった。


 その様子にイタ嬢は、ほくそ笑む。



(うふふふ、主人であるわたくしが負けるわけがありません。呼べば必ずやってきますもの! 勝負に持ち込んだ時点で、わたくしの勝利ですわ!)



 ベルロアナが呼べば、サナはやってくる。スレイブ・ギアスが精神に作用するから嫌でも逆らえないのだ。


 誰がどう考えても、この勝負は明らかに彼女に有利である。


 だからこそガンプドルフも不安を抱く。



(少年、どういうつもりだ? また何かをやるつもりなのか? そこまで術式に詳しくはないが、一般人がスレイブ・ギアスに逆らうことは難しいと聞いているぞ)



 精神ジュエルを専用の機械なしで外すことは危険。それがわかっているアンシュラオンは、サナのギアスを外すことができない。


 しかし目の前の少年が、そんなことを忘れているわけがない。だからこそ余計に不安なのだ。


 すでに武力では対抗できない。アンシュラオンがその気になれば、この場にいる全員を殺して逃げることは簡単だ。


 それでも勝負を受ける意味があるのか、ガンプドルフにはわからなかった。



「クロメ、こっちよ! ここに来なさい!」


「おい、クロミだろう。名前を忘れるなんて本当に友達か?」


「うっ、ちょっと間違えただけよ! 今日会ったばかりですもの! しょうがないわ!」


「オレだって先日会ったばかりだ」


「それでどうして、そのふてぶてしい態度と自信なのですか!?」


「あれはオレのものだからだ」


「クロミ! あっちに行ったら毎日変態的なプレイを強要されるわよ! 貞操の危機よ!! だからこっちに来なさい! ここなら安全よ!!」



(やれやれ、酷い言われようだな)



 パンティーを頭に被り、サナの顔を舐めたりすれば、誰だって危ない人だと思うだろう。


 客観的に見れば、イタ嬢の発言はすべて正しいから困る。



「ねえ、あなたは奴隷になりたいの!? そんなわけありませんよね? なら、わたくしとお友達になりましょう!? あなたもなりたいでしょう!? このベルロアナのお友達に!」



 その言葉に、サナが一瞬ビクッと動いた。


 おそらく『ベルロアナ』『友達』というのがキーワードになっているようだ。


 ただ、一瞬動いただけで、サナはそれ以上は動かない。じっとイタ嬢を見ているだけだ。



(やはりスレイブはキーワードで支配するようだな。犬なんかが長い命令に対応しづらいのと同じだろう。簡単な言葉で刺激を与える方式なのかもしれないな)



 精神術式は難しい術である。長い命令を与えることもできるが、それだけ長い式になると両者ともに負担が大きい。


 あの緑のジュエルも品質があまり良くないらしいので、もともとそこまで高度な命令は組み込めないのだろうと思われる。


 また、領主城内部での他のスレイブの様子から、その人間の理解力によって結果も変わってくることがわかった。


 この場合、サナが『友達』という言葉をあまり理解していない可能性が高い。


 友達自体を知らなければ友達になるという意味もわからず、説明しない限りはキーワードが意味を成さない。これも言葉による印象付けの穴である。



 それと同時に―――【意思が無い】から



 彼女は単純にキーワードを感知すると流れる電流に反応したにすぎない。だからそれ以上は何もしないのだ。


 自ら行く、という意思を発しないと人間は歩くこともできない。その証拠をまざまざと見せ付けているようだ。


 ただし、ギアスを侮ってはならない。


 なぜこれほどまでにスレイブ文化が発展しているのか、その理由が示される。



「クロミ、おいで!!」


「っ…」


「え? 動いた? そ、そうよ!! そう! もっとおいで!」



 その時、たまたま発したイタ嬢のシンプルな言葉が、少女の精神に働きかける。


 これはスレイブ館で何度も時間をかけて教え込まれた言葉だからだ。


 「おいで」「戻れ」「ご飯」「トイレ」などなど、非常に簡単な単語は理解できるし、そう言えば命令には従う。


 精神とは、あくまで肉体を動かすための「補助装置」にすぎない。意思が無くても反復によって反射のパターンを刻むことはできるので、それをギアスで刺激するわけだ。



「立って! こっちに来て!」



 黒い少女が―――立った



 そして一歩、前に出る―――イタ嬢に向かって



「おいで、おいで!」



 また一歩、前に出る。


 その姿は、まるで人形に語りかけるかのよう。


 命令を与えて、それをただ受け取った人形が動いているだけの光景。



(哀れとは言わない。それがスレイブだし、スレイブの主としての気構えだ。お前は本当に立派なスレイブ使いだよ)



 アンシュラオンはイタ嬢を褒める。


 なぜならばスレイブとは、本来はそういった存在だからだ。自分の物であり道具であり資産にすぎない。


 それが勝手に動いては困る。だからギアスを付けて管理する。住む場所や服、食事を与えて養ってあげる。自分の財産だからだ。


 友達だろうと妹だろうと関係ない。契約によって結ばれた二つの要素が合致して動くだけだ。


 両者にとって幸せな契約ならば、それが一番に決まっている。買い主は満足し、スレイブは安定を得る。立場こそ違うが完璧な互助関係である。


 イタ嬢は、それを見事に実践しているだけだ。


 中にはファテロナのようにスレイブでありながら自由に過ごし、その強さから特権を与えられる存在もいる。


 荒野で苦しんで生活するよりは、よほど立派な生活であり、成功者とも呼べるだろう。


 スレイブの扱いという点に関して、イタ嬢に何の落ち度もない。だから褒める。



 また一歩、少女が動く。



 サナの身長はかなり低いので、まだ十数歩の猶予はあるが、このままではイタ嬢の手に渡るのは明白。



 それでも―――動かない



 アンシュラオンは、じっとその様子をうかがっている。まだ一度たりとも話しかけていない。



(何のつもりか知りませんが、この勝負はわたくしの勝ちですわね。あなたには最初から勝ち目などないのですわ!)



 イタ嬢からは、アンシュラオンが勝負を諦めたように見える。


 もしかしたら飽きたのかもしれないし、取り戻してみただけで満足したという可能性もある。


 さすがのイタ嬢もそこまで命知らずではないので、あとで一億は返すつもりだ。彼に対して損害を与えなければ、少しは納得するだろう。


 一歩。また一歩。


 クロミと呼ばれる少女が近寄ってくる。



「ああ、わたくしの友達になるのよ! あなたはわたくしと一緒に生活して、何不自由ない生活を送るの! それが一番幸せなのよ! だからわたくしの言うことを聞きなさい! 友達になりなさい!!」


「………」



 それらの言葉は少女には届いていないだろう。それはイタ嬢も理解している。


 だが、人間にとって重要なのは自分自身である。その事象や現象の真実ではなく、自分にとってどう利益が生まれるかが大切なのだ。


 ベルロアナにとってサナの気持ちなど必要ない。


 傍にいて、一緒にいて、友達と言ってくれるなら誰でもよいのだ。



 彼女の心の闇が―――噴出!



 領主の娘として隔離された空間で暮らし、どうやっても外の子供たちとは相容れなかった孤独と寂しさが滲み出る。


 だって、しょうがないから。こうしたほうが早いし楽だから。それしか方法がないから。


 ずっと自分に言い聞かせてきた言葉は、いつしか心の中に【怨念】として深く執拗にこびりついてしまった。


 それを正当化するだけの権力があったことが、彼女の人生を狂わせる。



「わたくしを見て!! わたくしに触って!! クロミ!!」



 その必死な声が、一直線に注がれる。




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