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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「白い魔人と黒き少女の出会い」編
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63話 「ガンプドルフの実力 その1」


「ルールを決めようか。バトルフィールドは、直径三百メートルの範囲。あんたの波動円の距離内だ。それと広域技は極力禁止しよう。ここは都市の中だからね。関係ない人間に迷惑がかかると悪いだろう」


「周囲のことは考えてくれるのだな。安心したよ」


「何もしていない人間を殺すほど悪趣味じゃないよ。この子たちの安全にも関わるからね。どう、それでいい?」


「了解した」



 周囲三百メートルはすべて森の中であり、他の人間の気配はない。この範囲内ならば多少激しく戦っても外に影響は与えないだろう。


 せいぜい憩いの場が削れる程度。この都市が滅ぶことに比べれば微々たる損害である。


 ガンプドルフは、アンシュラオンを観察。


 無造作に立っているが隙がない。自然体で構え、どのような状況にも対応できるようにしているのだ。



(私を前にしても緊張していない。それだけ己の実力に自負があるのだ。むしろ私のほうが緊張しているな。このようなことはいつ以来だったか)



 ガンプドルフほどの剣士を前にすれば、実力ある武人でさえ緊迫感を滲み出すものである。


 だが、それがまったくない。


 かといって油断しているわけでもない。いかなる攻撃であっても耐え切れる自信、それだけの戦いを経験してきた自負に漲っている。


 しかもアンシュラオンは無手。すでにペーグの斧は捨てており、ファテロナの時のように武器は持っていない。


 これこそ相手の実力を認めている証である。生半可な剣士としてではなく、生粋の戦士として戦う気構えを見せている。


 それに―――熱くなる



(面白い。私も久しく真剣勝負からは遠ざかっている。望まぬ戦いとはいえ、熱くならないと言えば嘘になろう。武人として受けて立つ!)



 ガンプドルフの魂の奥底から闘争本能が噴き出してくる。強い敵と戦って自己を高めたいという欲求が溢れ出る。


 これこそ武人。戦うために生まれてきた存在。


 武人としてまみえた以上、全力を尽くすのが礼節である。


 まず仕掛けたのは、ガンプドルフ。


 一気に間合いを詰めて剣を一閃。凄まじい速度の横薙ぎが襲う。


 その剣圧だけで背後にあった太い木がばっさりと切られるほどの剛剣だ。


 アンシュラオンは屈んで回避。左腕で剣を下から弾く。


 だが、即座にガンプドルフの回し蹴りが飛んできた。


 アンシュラオンは右腕でガードしながら、お返しとばかりに反撃の蹴りを放つ。


 轟音を放ちながら飛んできた蹴りを身体を捻って回避するも、激しい衝撃波がガンプドルフを吹っ飛ばす。


 されど防御の戦気を張ってガード。ダメージはない。


 ガンプドルフは木を足場にして跳躍。軽く着地してみせる。



(オレの蹴りをいなすか。戦気の質も別格だね)



 アンシュラオンが腹を抉った領主の騎士は、戦気に触れただけで手が砕けていた。


 だが、ガンプドルフの戦気は非常に上質で硬い。軽く触れた程度では簡単に相殺されてしまう。


 しかも体術もかなりのレベルである。普通、剣士はあまり蹴りを放ってこない。それよりも剣の扱いを重視したほうが効率が良いからだ。


 それでも身体のバランスを考え、牽制であれ蹴りまで使うのは好感が持てる。


 むろんそこらの武人であれば、ガンプドルフの回し蹴り一発で気絶しているだろうから、あれはあれで立派な攻撃手段である。軽く防御するほうがおかしいともいえる。



「まだまだ軽いね。もっと出せるでしょう?」


「様子見の必要はない、ということだな」


「そんな余裕はないと思うけどね」



 アンシュラオンの掌から戦気の塊が放射される。


 拳圧と一緒に放てば修殺になるが、モーションを必要とせず撃ち出すこともできる。それを『戦気弾』と呼ぶ。(略して『戦弾』とも呼ぶ)


 普通の戦士がこれをあまり使わないのは、放出系の能力が高くなければ武器としてはイマイチだからだ。


 しかし、アンシュラオンは全因子を持っているので、戦弾一つでも砲弾並みのパワーを持っている。


 直撃すれば、人間どころか建造物程度は簡単に粉々になるだろう。


 それをガンプドルフは―――よけない



「はああ!!」



 真正面から切り裂かれ、二つに割れた戦気弾は両側の木に衝突して爆散。木々を吹き飛ばしながら消失していく。


 剣気をまとった剣は、やはり強い。


 これこそ剣士にとって最強の武器であることを証明する。



(なるほど、これが本物の剣士ってわけだな。これと比べるとラブヘイアなんて未熟も未熟だ)



 目の前の剣士が発する剣気は実に濃厚で力強く、ただのロングソードが名刀にでもなったかのような輝きを放っている。


 剣気と一言でいっても、当然ながら当人の気質によって大きな差が生まれる。


 ガンプドルフの剣気は、若干黄色を帯びた赤といった色合いのものであり、見る者に美すら感じさせる段階に至っていた。


 紛れもなく達人レベル。いや、それを超えた懐の深さを感じる。彼ならばファテロナでさえ軽くあしらえるだろう。


 ただし、感嘆しているのはガンプドルフも同じである。



(凄まじい一撃だ。たしかに様子見をしている余裕はないな。だが、むしろ好都合。こうして相手のほうからまみえる場を提供してくれたのだ。余計なリスクなく強さと人間性を確認できる)



 魔獣の狩場で見た痕跡はショックであった。単純に怖ろしいと思ったし、危険だと感じていた。それは正体が不明だからだ。


 人間は正体がわからないものを必要以上に怖れる。しかし、知識によって正体が判明すれば冷静な対応が可能となるだろう。


 そうやって数々の自然現象を解明して人は成長してきた。ならばこれも同じ。


 アンシュラオンと戦うことで憂いを晴らせるチャンスなのだ。



「少年、本気でいかせてもらう!」



 ガンプドルフは、針状になった細かい無数の剣気を周囲十メートルに展開。


 戦技結界術、『張針円ちょうしんえん』。


 剣王技に分類される結界術の一つで、針状になった剣気が範囲内に入った敵を自動的に迎撃するオートカウンターの技だ。


 針は剣気で生まれているので鋭く強く、鎧で身を包んだ対象であっても穴だらけにする凶悪な迎撃結界術である。


 これを展開しつつ、アンシュラオンに向かって突進。


 そこから高速の剣を振るう。


 アンシュラオンは迷うことなく前進し、ガンプドルフの結界内に侵入。


 それと同時に張針円が一斉に襲いかかるが、それらをすべて回避。


 数百という細かい針が襲っているのに紙一重ですべてよけていた。


 当たりそうなものは叩き落しながら、流れるような動きでノーダメージ。



(なんという体術! この間合いで全部よけるか!)



 ガンプドルフは驚愕。


 たしかに張針円の迎撃機能は直進的で読みやすいが、普通は数本程度はくらうものである。


 そのために細かくして当たりやすくしているのだ。すべて見切るのは尋常ではない。


 それが可能なのも、アンシュラオンの周囲にも結界が張り巡らされているからだ。


 しかし、それは相手を攻撃するためのものではなく、周囲の状況を素早く感知するためのもの。


 戦技結界術、『無限抱擁』。


 周囲を濃厚な戦気で満たし、範囲内のあらゆるものを完全に感知する技である。


 波動円の上位版の技であるが、薄く伸ばすのではなく濃密な質量を周囲に展開させることで【水場】のようなものを生み出し、さらに感度を上げたものだ。


 どんなに小さなものでも結界に触れれば触覚ですべてが理解できるので、形状、速度、角度が一瞬で把握できる。


 それによって三百六十度、どこから何が来ようが即座に対応が可能だ。もちろん、かわすだけの体術がなくては意味がない。


 しかもアンシュラオンのものは水の属性で作ったものなので、実に美しい水色をしている。穢れなく清らかで、所々が白く輝いてもいる。


 まるで清流が固まって生まれた宝石のようだ。生命力と純粋さに溢れ、それだけで一つの芸術品として完成されている。



「ならば、これはどうだ!」



 ガンプドルフが雷衝・五閃を放つ。五つに分かれた雷の刃が、地面を這って襲いかかってきた。


 雷衝はラブヘイアが使っていた風衝の雷属性版である。


 それを五つも同時に放てるのだから、剣士としていかに優れているかがわかる。



(雷衝か。オレの水系とは相性が良すぎるんだよな。しかも地面を這わせるとは嫌な使い方をする)



 水と雷は相性が良すぎる。両者は結びつき融合する性質を持っているので、無限抱擁での迎撃は難しいと判断。


 アンシュラオンは跳躍して回避。


 が、ガンプドルフはすかさず追撃。


 上空に逃げたアンシュラオンに対して、さらに高く跳躍し、剣気を雷気に変えて力を溜める。


 そのまま集めた雷気を振り下ろすと落雷が発生。真下に向かって強烈な一撃となって降り注ぐ。


 剣王技、『剣雷震けんらいしん』。


 剣士因子3で使える技で、集めた剣気と雷気を一緒に放出して真下に叩き落とす技である。


 剣衝のように斬るのではなく、質量を生かして叩きつけるので、打撃に近い圧力を与えることができるのも特徴だ。


 さすがに上空では攻撃をよけることはできず、アンシュラオンも攻撃を受けるしかない。


 落雷―――激震!


 爆音を上げ、森の中に雷が落ちた。


 街で馬鹿騒ぎしている連中がその音を聴いたかはわからないが、もし聴いてもお祭りの余興だと思って、どんちゃん騒ぎを続けることだろう。


 それほどまでに響き渡る一撃。因子レベル3の技であるが、使い手の能力が高ければ一撃必殺の技ともなる。


 その威力は絶大で、地面に直撃した瞬間に大地はもちろん、周囲の木々も焼け焦げるほどの高威力であった。


 大地に激しい雷の跡を残して、技が終了。


 ガンプドルフも着地する。



(手応えはあったが…)



 ガンプドルフの手には、しっかりと直撃した感触が残っている。


 あれをかわすことは、いかに少年でも難しいだろう。


 倒したとは思わない。多少手傷を与えられればと思っていた。


 が、平然と立っている


 マントが焦げて消失してしまっているものの、服や仮面にはまったく傷がない。


 その様子に思わず汗が滲む。



(これだけの威力の技でも無傷なのか! 防いだ? いや、違う。流したのだ!)



 気づけば無限抱擁が消えている。展開した結界を放棄し、その質量を使って雷撃の一撃を水と一緒に流して防いだのだ。


 これは相性が良い水と雷だからこそできる芸当だ。水に雷を吸収させ、そのまま地面に流した。アース線と同じ要領である。


 そう言えば簡単に聞こえるが、今まさに強力な攻撃を受けようとしている中で、そこまで冷静に対応することは至難の業といえるだろう。


 特に剣士の攻撃力は高いのでアンシュラオンとてダメージを負うはずだ。それを怖れずに対応する精神力に驚嘆を隠せない。



「直撃すれば少しはダメージを受けたかもしれない。うん、いいよ。やっぱりいい腕だ。そんな相手に顔を隠すのは失礼かな」



 アンシュラオンは仮面を外して投げ捨てる。


 この夜の闇の中でも白い髪と肌は変わらずに美しく、そこに獰猛な獣の赤い瞳が加わることで極上の美しさを表現していた。


 まさに今、世界が少年を中心として動いているかのように、くっきりと彼だけが浮かび上がって輝いて見える。



(…美しい。そして、それ以上に強い。只者ではないどころではないぞ。まさに超一流の武人だ。震える…この私が! 『聖剣長』である私に畏怖を与えるとは!)



 ガンプドルフが怖れる相手は少ない。


 せいぜい西側で勢力を拡大している大国、ルシア帝国の天帝直属の騎士である雪騎将くらいだ。


 彼らと比べてもアンシュラオンは遜色がないどころか、彼らでさえガンプドルフの一撃ではダメージを受けるはず。


 それを無傷で防ぐ段階で、すでに達人の領域を遥かに超越していた。




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