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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「誑魁跋扈の予定調和」編
624/626

624話 「バティスト司教戦 その2『それはギャグ漫画のごとく』」


「ぐあっ! な、なんだ!? どうした!?」


「わ、わかりません! 砲撃でしょうか!?」


「障壁があるだろう! あんな船の砲撃くらいでどうにかなるか!」


「で、ですが、障壁が壊れたのでなければ、こんな衝撃は…」


「ええい、撃ってきたのならば撃ち返せ! こんな辺境の都市など主砲で破壊してしまえ!」


「おい、お前がバティストか?」


「っ…!」



 混乱しているバティストの前にアンシュラオンが歩いてきた。


 相手もようやくこちらに気づいたようで驚きの視線を向ける。


 だが、その第一声もまた状況を正しく理解していない。



「誰だお前は! 人の名前を呼び捨てにするな! 私は司教だぞ!」


「だからどうした。クソみたいな宗教の司教に何の価値がある? そうやって這いつくばるのがお前の仕事か? だったらお似合いだな」


「面白い! そこまで言えば死罪は確定だぞ! 貴様も火刑にしてやろうか!」


「火刑? 中世の魔女狩りじゃあるまいし、まだそんな原始的なことをやっているのか。なるほど、たしかに劣等種の顔つきだ。知性の欠片もないな」


「ぐぬううっ!! 本気で私を怒らせたようだな! であえ、であえ! 敵襲だぞ!」



 バティストの号令を受けて神官騎士たちがぞろぞろと出てくる。


 というよりは、この衝撃の正体を確かめに甲板にやってきたら、たまたま号令がかかったっぽいが、そこには触れないでおこう。


 その数は、およそ百。


 艦内にはまだいるだろうが、戦闘要員という意味合いでは十分な数だろう。


 そのうえバティストもただの馬鹿司教ではない。



「よもや独りで白兵戦を仕掛けるつもりではないだろうな? それとも伏兵がいるのか?」


「お前程度、オレ独りで十分だろう」


「たいした自信だが、私が誰か知らぬようだな。私こそアモンズの中級異端審問官であり、『アグスニクス・ヘルガ〈手に杭打つ激情の使徒〉』の所有者であるぞ!」


「あっ、知ってる」


「うぇっ…し、知っているのか? う、うむ、それは殊勝なことだな」


「おいおい、情報を知られている段階でヤバいってわからないのか? そうやって馬鹿ばかりやっているから筒抜けになるんだよ」



 こちらもブランおよび、他のカーリス司祭からある程度の情報は事前に仕入れている。


 バティストはカーリス内で四十人しかいない中級異端審問官であり、特別な強化も受けている優れた武人の一人だ。


 そして、彼が使役する人造使徒こそ『アグスニクス・ヘルガ〈手に杭打つ激情の使徒〉』。


 本物の第八使徒であるアグスニクスは『手杭てくいの使徒』と呼ばれ、かつて聖女カーリスを敵視する帝国に捕まった際、手に杭を打たれて改宗を強要されたが、ひたすら拒否して拷問に耐え続けた我慢強い使徒だ。


 もちろんオリジナルではないが、そのレプリカである上級使徒を使いこなすバティストは強い。


 彼がまだ中級審問官なのは単純に賄賂と実績が足りないせいもあるが、十二人しかなれない上級審問官に空きがないからだ。


 それに加え、かつてベルナルドがいた『第三位』と『第八位』が欠番扱いになっているせいもある。(順位ではない。使徒の番号)


 第三位に関してはファビオとの戦いで『アメンズ=メタナイア〈異端への懲罰〉』を失ったことが大きい。上級使徒は簡単に複製できるものではないため、百年経った今でも見通しが立っていない状況だった。


 第八位は高齢と病のために現場での活動をほぼ引退しているが、実績があるので名前だけは残す必要がある。


 よって、バティストが入る隙間がなく、致し方なく中級に甘んじているわけだ。


 ただし、第八人造使徒を渡されているあたり、経験値こそベルナルドには及ばないものの、その戦闘力は間違いなく上級異端審問官に匹敵する。


 だが、そんなバティストに対しても少年は態度を変えない。


 周りの百に及ぶ神官騎士を軽く眺めると、こう言い放った。



「ふむ、そうだな。もう夕方だから事後処理を考えて『二秒以内』で終わらせるか。ハンデとして十秒だけ猶予をやろう。その間に万全の防御態勢を整えるといい」


「は? 二秒だと?」


「それがお前の余命だ。準備時間を入れて十二秒だな」


「くくく、はははは! それがこの田舎都市流のジョークなのか? 面白すぎて笑ってしまうわ! なあ、お前たち!」


「そうですな! まったくもって面白い!」


「我々の力を知らぬとは無知の極み! 後悔させてやりましょうぞ!」


「いいのか? もうすぐ十秒経つぞ」


「ああ、わかっているさ。独りでこの数相手に何ができるのか、とくと見せて―――」


「にい、いち…ゼロ」



 アンシュラオンが猶予期間の終了を告げる。


 その瞬間、刹那すら置き去りにされる速度で真卍蛍を抜くと、強力な剣気を発して三百メートルの剣硬気を生み出す。


 それを甲板全体を掃除するように真横に振り抜けば、重装甲の神官騎士でも一瞬で真っ二つ。


 むしろ囲んでいたのが災いし、十人、二十人、三十人と切り裂かれ、一回転した時には百人全員の上半身と下半身が、ずるると滑り落ちて甲板に落下。


 ぶしゃーっと大量に噴き出た血が宙に舞うが、それはこれから起こる【未来の光景】にすぎない。


 実際、この段階では千分の一秒も経過していなかった。彼らはまだ自分が斬られたことすら把握していないだろう。



(馬鹿な!! ありえん! ほとんど見えなかったぞ!)



 ここで凄まじい反応速度を見せた者が、もう一人いた。


 咄嗟に床に伏せたバティストである。


 さすが強化人間かつ戦闘モードということもあり油断はしておらず、最初の衝撃でワインを頭にかぶったことが嘘のような機敏な動きを見せていた。


 ただし、まさに生存本能によるギリギリの回避であり、ケリーと同様に頭頂部の皮膚ごと髪の毛がばっさり斬られてしまい、宣教師のトンスラ(頭頂部を剃るアレ)のごとく血だらけの禿げ頭になってしまう。


 本当ならば回避が間に合っていなかったことから、これも神官騎士が何十人も斬られたことで少しだけ抵抗が生まれたがゆえの幸運である。



(使徒がなければ勝てん! 『アグスニクス・ヘルガ〈手に杭打つ激情の使徒〉』よ!)



 バティストは即座に現状を理解し、0.1秒もかからずに使徒を生み出す。この速度も具現化系の術としてはなかなかのものだ。


 出現した使徒は身体中に棘や杭が刺さった巨大な体躯をしており、獣の毛に覆われた筋骨隆々な屈強な肉体に、大きな角が生えた頭部に加え、顔は怒りに満ちた憤怒の表情を浮かべている。


 その姿は、激情の鬼と呼ぶに相応しい。


 本来の使徒が持っていた赦しと寛容を呪具によって反転させることで怒りのパワーに変えているのだ。


 この使徒は物理攻撃を得意とし、両手に持った斧で怒りに任せて敵を粉々に破壊する。


 また、身体に埋め込まれた杭を相手に打ち込むことで、動きを封じたり激痛を与えたりと、普通の武人が戦えばかなりの脅威になる敵だ。


 が、これまたアンシュラオンには関係ない。


 相手に0.1秒もの猶予を与えたのは使徒を出させるため。それが本物の『アメンズ=メタナイア〈異端への懲罰〉』であることを確認するためだ。


 そもそも最上位の武人の戦闘速度は光速が当たり前で、某ゴールドな聖闘士ではないが、一秒で地球を七周半するような速度で攻防を繰り広げる世界なのだ。


 ゆえに、とっくの昔にこちらは準備万端。


 アンシュラオンから発せられた『神気』によって全身が金色のオーラに包まれ、逆立った髪の毛が揺らめき輝き閃光となって、その場に『戦人神せんじんしん』が降臨。


 その圧倒的な神圧は甲板全体を強烈に席巻し、出現した使徒の存在をかき乱して希薄にさせてしまう。


 本物の前に偽りの力などは意味を持たない。それ自体が罪となる。



「終わりだ、バティスト」



 アンシュラオンが一瞬で間合いを詰めて、その拳を打ち出せば一撃で粉砕!


 拳が触れるまでもなく、発せられた神気が使徒の身体を突き抜け、背後にいたバティストごと貫通!



「わ、私は司教で枢機卿で!! オール・バティスト―――でぇええええ!」



 直後、爆散。


 使徒ごとバラバラになったバティストの肉片が、ボトボトと床に落ちてきた。


 そして、このタイミングで他の神官騎士たちも自身が斬られたことに気づき、上半身がずるりと落ちて大量出血の嵐が発生。


 甲板は溢れ出る血液で真っ赤に染まり、彼らの罪もここで断罪された。



「二秒もいらなかったな。と、これが例の本か」



 アンシュラオンが肉塊の上に落ちていた『アメンズ=メタナイア〈異端への懲罰〉』を拾う。


 意図的にこの本への攻撃は避けたので、予定通りに入手することができたのは朗報だ。



「ユキネさんたちが港に降りた連中から盗めたなら、これで二冊か。貴重な呪具って話だから利用したいよな。おっと、ほかの戦利品も漁らないと」



 マスカリオンに終わったことを伝えると、籠を吊るしたヒポタングル空戦隊がやってきて甲板に着地。


 そこからマタゾーやヤキチといった腕利きの裏スレイブたちが出てくる。



「お前たちは艦内に残っている神官騎士を排除しろ。いつも通り、殺すのは男だけだ。女は騎士であっても確保しろ」


「神官騎士が相手とは腕が鳴るでござるな。お任せくだされ」


「へっ、堂々とカーリスをぶち殺せるなんて最高だなぁ!」



 マタゾーたちは意気揚々と艦内に入っていく。


 神官騎士は強敵の部類だが、雑魚ばかり相手にさせると腕が鈍るので、たまにはこうして激戦を用意してやるのも主人としての務めだ。


 続いて二つ目の籠からは、ゲイルたち黒鮭商会のメンバーが出てくる。



「ゲイルもよろしく頼むよ。裏スレイブだけだと絶対金目の物を見逃すからさ」


「了解だ。にしても派手にやったな」


「時間をかけるわけにはいかなかったからね。あいつはユキネさんたちじゃ少し手に余るだろうし」


「そんなに強かったのか?」


「まあね。使徒ってやつを含めれば確実に王竜級は超えていたね。能力を使わせたらギリギリ魔戯級に入るかも。世界的宗教の枢機卿ってだけはあるよ」


「それを一瞬で倒す兄弟のほうがヤバいけどな」



 何度も言うが、バティストは弱くはない。


 事実としてファビオからしてみれば、ベルナルドは超が付くほどの難敵であった。


 天使に覚醒していなければ負けていたことを考慮すれば、それに準ずる強さであるバティストを相手にするにはマキやユキネたちでは荷が重い。


 正直、完全武装のゼイヴァーでも勝てないだろう。ガンプドルフ級の武人でなければ戦えないほど彼は強かったのだ。


 が、あれだけ猛威を振るったカーリスの異端審問官もアンシュラオンにかかればこのざま。ギャグ漫画になったかのように一瞬で撃破されてしまう。


 なぜ短期決戦を挑んだかといえば、カーリスの戦艦がここにやってきた事実はできるだけ伏せねばならないため、今回ばかりは長引かせるわけにはいかなかったからだ。



(まあ、こいつ程度ならコウリュウでも倒せたかもしれないけどさ。思えば北部ってのも危ない場所だよな)



 コウリュウは魔戯級の龍人だ。魔戯級であること自体が世間一般では異様であり、そうした特異性こそが北部の長所となっている。


 その意味でもバティストは完全に見誤っていた。戦う相手を間違えたのだ。


 それからは戦利品集めが始まった。言い換えれば略奪である。



「オヤジ、隠れていた女どもを見つけたぜ!」


「よっしゃ! 全員捕縛だ! くくく、たのしー! オレ、カーリス大好き! 質のいい女を勝手に補充してくれるからな!」



 戦艦には女の司祭も何十人もいたため無事に御用である。


 クレールと同じく彼女たちも地獄の二択を選ぶ羽目になるだろうが、労働者が増えてラブスレイブ不足なので強制的に娼館送りにしてもいいかもしれない。


 男に関しては、艦内で発見した神官騎士三十人余りは全員殺し、それ以外の戦艦を動かすための人員、操舵士や観測士、エンジニア等は殺さずに確保する。(神官騎士の半分以上はマタゾー単独で倒している)


 その際の戦闘でこちら側の裏スレイブも何人か死んだようだが、彼らにとって戦いで死ぬことは悦びなので、誰もが満足そうに笑っていたのが印象的である。


 また、戦利品の中にはこんなものもあった。



「兄弟、これって例の紋章じゃないのか?」


「本当だ。ちょっと待ってね」



 ゲイルが、神官騎士の手に漢字のタトゥーがあることに気づいて死体を持ってくる。


 アンシュラオンが解析を開始するとプレートの形になって収束。書かれていたのは『矢』の文字で、おそらくは第三階級の『正紋』である。


 大邪正紋は宿主が死ぬと近くにいる者に寄生する習性があるが、性質が穏やかな部類の正紋だったがゆえに、そのままとどまっていたのだろう。(どちらにせよ時間が経てばプレート化する)



「まだあるかもしれない。もっと調べてみて!」



 甲板で殺した神官騎士の死体もすべてチェックしたところ、複数の正紋を獲得することができた。


 思わぬ収穫があったことに、にんまりと笑みがこぼれる。


 それ以外にも金目の物をすべて奪い終えると、捕らえた者たちに封印術式を施してからヒポタングル空戦隊に輸送を託し、自らはマスカリオンに乗ってガイゾックの艦に降り立つ。



「やぁ、おひさ。元気にしてた?」


「相変わらず破天荒な野郎だぜ! 白兵戦で艦を押さえちまうとはな!」


「まともに戦うなんて馬鹿らしいからね。どんな兵器だって使っているのは人間なんだから、そっちを狙ったほうが効率的さ」


「がははは! それができりゃ苦労はねえよ。今回は本当に助かった。マジで感謝しているぜ」


「オレ無しで普通に戦っていたらどうなっていたの?」


「間違いなく第一海軍の半数は壊滅だな。俺自身も敵艦に乗り込むつもりでいたが、その場合でも勝てたかどうか怪しいもんだ。どちらにせよハピ・クジュネの防衛力はガタガタになっていたはずだぜ」


「それは危なかったね。戦艦ってやっぱり強いんだなぁ」


「曲がりなりにも最強の兵器だからな。で、あのカーリスの戦艦はどうする?」


「欲しいといえば欲しいけど、もらっても邪魔だからガイゾックにあげるよ」


「太っ腹だな。カーリスの戦艦といえば高級品だ。巡洋艦とはいえ製造費は軽く千億以上はかかっているはずだぜ」


「こっちはこっちで建造中だからね。それよりはハピ・クジュネの防衛力を上げたほうがお互いの利益になる。ただ、あのまま使うと問題だから装甲を増やして見た目だけは変えたほうがいいね。ところでこの艦は何なの?」


「こいつか? これは海底遺跡から発掘した古代艦だ。戦艦かはわからねえが改造して使ってやってんのさ。まあ、今回が処女航海だがな」


「へー、面白い形だね。じゃあ、あとは任せるよ。オレは帰るからさ」


「戦艦をもらうんだ。俺もそれに見合うもんをやらないとな」


「べつにいいけどね。普段から好き勝手させてもらっているし」


「そうはいかねえ。こっちにも海賊のプライドってもんがある。そうだな、でかいもんが嫌なら『クルマ』をやろう」


「クルマ? どんなの?」


「それはあとのお楽しみだ。駐車場に届けさせるから後日確認してくれや」


「オッケー。楽しみにしておくよ」



 後日届いたクルマは四十メートル四方の大きめのクルマであったが、一番の違いはこれも遺跡から発掘されたものである点だ。


 どうやらロックゴロクネスと一緒に発掘されたものらしく、全体的な色合いや造りがよく似ていた。


 ただし、破損が激しかったことから、メインエンジン以外は現代の技術で換装されているようだ。


 中は広く、部屋もあるので独自に風呂とトイレを組み込めば、この一台だけで荒野で寝泊まりすることも可能だろう。


 また、このクルマのもう一つの特徴は『格納庫』を有していることだ。


 明らかに人型のロボットを乗せるように設計されているので、かつては神機が格納されていたのかもしれない。


 ガンプドルフが保有する魔人機くらいの大きさならば、二機程度は無理なく格納できるサイズである。



(なんだか面白いものをもらったな。普段はマスカリオンを使うけど、自分のクルマがあるってのもいいもんだ。いろいろ改造して使ってみよう)



 こうしてハピ・クジュネはカーリスの襲来を見事撃退。


 バティストについても、もともとはヴェルトに向かう予定だったため、戦艦を含めて『行方不明』という扱いになったようだ。


 それによって引き続き、アンシュラオンは何も知らないカーリス教徒を毒牙にかけ続けるのであった。



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