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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「誑魁跋扈の予定調和」編
612/617

612話 「謎の女たち その1『後始末』」


 翠清山の西、第一魔獣自治領の片隅に二つの人影があった。


 一人はロゼ隊を襲おうとしてゼイヴァーに撃退された緑髪のショートボブの女。もう一人はゲイルやマキと戦っていた金髪セミロングの女だ。


 逃げた時の二人は全裸および半裸状態だったが、今は最低限の衣服を着ている。


 どうやら彼女たちの装備は『拾った』もの、言い換えれば他者から奪ったもので、だからこそ使い古されて破損もしていた。


 今着ている服も近くを通りがかったハンターから奪ったものである。



「クロシスの反応が消えましたわね」


「また特別?」


「かもしれません。どうやら我々が思っているより上質な人間が多いようです」


「あいつも特別だった。次は狩りたいな」



 二人の周りには幾多の魔獣の死骸が転がっており、どれもが首を失って絶命していた。


 緑の女は魔獣の首を手に取ると、そこからこぼれる血液を頭に浴びせる。


 それを見た金髪の女は不思議そうに首を傾げた。



「それ、どうなんですの?」


「ぶしゃーってして楽しい」


「楽しいのかどうかよりも、エネルギーの摂取に適しているかが重要ですわね」


「それなりに吸収できる。でも、獣のやつは微妙。なんでだろ?」


「あなたが吸い取っているものが、血液中に保存されている因子情報だからですわ。人間のほうが情報量が多いのでしょう」


「そうなの?」


「知らないでやっていたのですか?」


「うん、なんとなく」



 すっぽんの生き血が一番有名だが、血液を飲むことで栄養素を摂取することができるのは事実だ。


 また、血を飲むことで一時的な若返り効果が確認された研究結果もある。若い人の血を輸血に使うことで元気になるのも、あながち間違いではない。


 ただし、女が血液から摂取しているもの、その最たる要素は『因子』である。


 たとえば武人が技を使ったり術士が術を感覚で覚えるのも、すべては血液に因子情報が格納されているからだ。それゆえに血の沸騰のようなことが起きるのだ。



「でも、ウラネブラは赤いのを吸わない。どうして?」


「わたしには違う目的があるからですわ」


「だから『ここ』を吸うの?」



 緑の女が魔獣の唇を引っ張る。



「魔獣のは嫌ですわ。気持ち悪い」


「ははは、クロシスっぽい言い方」


「クロシスの役割は生命素の吸収でしたか。殺さねば摂取できないのは効率が悪いですわね」


「あたしもそうでしょ?」


「殺さずとも血を吸えればよろしいのでしょう? それならばやりようはありますわ」


「ざくっとしてぶしゃーするのが楽しいから嫌」


「まあ、あなたはそうでしょうね」


「ウラネブラのは?」


「わたしには経口摂取の力が与えられました。できれば逞しい殿方か麗しい女性がよろしいですわね。たとえばそう、さきほどの御仁のような。とはいえ、人間は口づけがあまり好きではないようですが」


「だったら、ぶしゃーっとしたあとにすればいいよ。あたしが狩るから」


「あまり好みのやり方ではありませんわね。互いの感情をぶつけ合うからこそ、得るものが驚きに満たされるのです。それこそが求める活力ですもの」


「感情も大事?」


「あなたの場合は、そのままでもいいですわ。どのみち今のわたしたちでは返り討ちですわね。本来の性能を引き出すためにはもっとエネルギーを吸収しないと」


「これからどうするの?」


「この地のことはまだよくわかっておりません。もう少し調査がてらエネルギーの確保に努めましょう。では、そろそろ行きますわよ。長居は危険ですわ」



 金髪の女、ウラネブラが動こうとした時だ。


 何かが刺さった感覚と同時に、足が動かなくなる。



「あら? んん? どうしたのかしら?」


「あはは、馬鹿っぽいー」


「あなたには言われたくありませんわよ!」


「って、あれ…あたしも前に進まない?」



 それを笑っていた緑の女も、気づけば足が動かなくなっていた。


 二人が悪戦苦闘していると、やや離れた位置の茂みが動き、そこからメイド服の美しい女性が出てきた。



「まさか本当に逃げられるとでも思っていましたか? あれだけ派手に逃げていれば位置を特定するなど造作もないことです」



 このような事態にホロロが黙っているわけがない。


 二人が逃げた瞬間からヒポタングルを使って空から追跡しつつ、魔獣を放って位置を捕捉していた。


 そもそも緑の女が殺した魔獣は、ホロロが男たちを逃がさないように用意していた駒だ。その減り方で相手の動きが手に取るようにわかる。



「あなたは誰かしら?」



 ウラネブラがホロロを興味深く見つめる。


 その視線はゲイルやマキを品定めしていた時以上に鋭い。それだけのプレッシャーを感じるからだ。



「不法侵入者に名乗る名は持ちません。素直に投降するか、完膚なきまでに叩きのめされるかを選びなさい」


「ふふ、すごいエネルギーを感じるわ。あなたもあの人間みたいに特別なのね」


「今度はあたしがやる! あれの赤は美味しそうだ!」


「勘違いしないでください。私は話し合いに来たわけでも戦いに来たわけでもありません。あなた方を『一方的に蹂躙じゅうりん』しに来たのです」



 ホロロの魔操羽が次々と二人に突き刺さる。


 ベ・ヴェル相手には手加減をしたが、敵である二人に遠慮は不要。


 五十に近い羽根が彼女たちの精神に介入する。



「うぐっ…この…! 足と腕が…! 動きづらい!」


「わたしも腕が少々。でも、まったく動けないほどではありませんわね」



 しかしながら、腕や足の一部は封じられても完全に操作しきれない。


 クルルザンバードの力をもってすれば、そこらの人間どころか殲滅級魔獣すら操作可能だ。それを受けてこの程度で済むほうがおかしい。


 ただし、この事態もホロロには予測済みである。



「やはり普通の人間ではないようですね。肉体はもちろん、精神や神経の構造がだいぶ違います。その魂さえも」



 見た目は人間だが、筋肉や腱の位置も多少異なっており、血管に流れる液体も厳密な意味での血液ではない。


 一番の違いは、脳ではなく『心臓に似た核』で動いている点だろうか。


 脳もあるにはあるが、肉体機能を円滑に動かすための補助機構にすぎず、胸にある核が主体となって命令を発している。


 言ってしまえば『魔神』に近い構造だ。


 その核が強い抵抗力を持っているので精神操作が通じにくいのである。



―――「情報更新。中位守護者級の『隷土れいど』と認定。出力向上」



 そして、二人の身体が光り輝くと、刺さっていた魔操羽が抜け落ちていく。


 セノアたちが戦っていたクロシスという少女も術に対する強い耐性があったが、どうやらこの二人も似たような能力を持っているようだ。


 精神攻撃から解放されたウラネブラは斧を構える。



「あなたは独りで来たのかしら?」


「ええ、そうです」


「それは失敗でしたわね。多少ですが、わたしたちも回復しています。二人ならばあなたを仕留めることも可能ですわ」


「はは! 赤いのはあたしがもらうよ!」


「その前にわたしと口づけですわ!」



 ウラネブラが斧を大きく振り回して迫ってくる。


 緑の女もハンターから奪ったナイフを構えながら、回り込むように突っ込んできた。


 精神操作が効かない相手の場合、ホロロは一気に不利になる。それは自他ともに認める弱点だった。


 がしかし、ホロロに焦った様子はない。それどころか口元に薄い笑みを浮かべていた。


 ホロロは六翼を展開すると『魔共波』を発動。振動する精神波が周囲を襲う。



「こんなもので!」



 ウラネブラはわずかに動きを鈍らせたものの、かまわず突っ込んでくる。


 されど、それだけで十分。


 ホロロは余裕をもってポケット倉庫からガトリングガンを取り出し、ウラネブラに向かって射撃。


 装填された何百という貫通弾が、ガガガン!という甲高い音を立てて命中していく。


 が、大きなダメージは与えられない。


 低出力モードのマキに思いきり殴られてもたいしたダメージを負わなかったのだ。術式弾とはいえ貫通弾では効果が薄いのも仕方がない。


 ただし、近い距離から受けたことで、弾の威力に圧されて身体が前に進まない。



「あはは! もらった!」



 その隙に緑の女がホロロの首を狩ろうとしてくる。


 ゼイヴァーの前ではまったく通用しなかったが、あれは相手が悪すぎた。スピードもあることから女の物理戦闘能力はけっして低くない。


 だが、ホロロはすでに左手の篭手から格納式ソードを展開。


 右手のガトリングガンでウラネブラを攻撃しつつ、迫ってきた緑の女のナイフを軽々と切り払う。


 挟まれる形になったため、ホロロが跳躍して距離を取ろうとする。


 そこに緑の女が追撃を試みるが、すでに六翼から何枚もの羽根が飛び出て女に突き刺さる。



「はは! こんなの効かないよ!」



 と、無防備な状態で羽根が刺さった直後―――ボンッ!


 女の左肩が粉々に吹き飛ぶ。



「えっ…なにこ―――れ」



 女が驚く暇もない。


 身体中に刺さった羽根が次々と破裂し、それに伴って女の身体も面白いように穿たれて破壊されていく。


 大納魔射津のような火と風が入り交じった爆発ではない。見た目では何も起こっていないように見えるが、なぜか身体が吹き飛んでいく。


 これは『魔共波』の力を羽根に込めた『魔共羽』という新しいスキルだ。


 通常の魔共波は、全方位に音属性の精神振動波を放つ能力だが、さまざまなものを巻き込んでしまうので使い勝手が悪いし、威力も分散されてしまう。


 しかし、こうして羽根に限定することで力を集約することができ、狙った箇所だけに振動波を送り込むことが可能になった。


 また、精神感応波の部分を削除して、振動だけに特化させたことで物理的な威力も倍増。


 一枚でこの威力だ。それが数枚刺さるだけで振動が共鳴して―――バババン!


 女の両腕と両足が爆ぜ、胴体の下半分も吹っ飛ぶ。


 ゼイヴァーがあれだけ叩いてもたいした傷を負っていなかった女が、いとも簡単に破壊されてしまう。



「マーベラス! 素晴らしい力ですわ!」



 ウラネブラが、斧を振り回しながら弾幕を強引に突破してくる。


 ホロロはガトリングガンを投げ捨てて空に舞い、魔共羽を使って攻撃。


 緑の女同様、羽根が突き刺さった部位が次々と破裂していく。



「ぐうっ!! これくらいで!」



 ウラネブラは共振の嵐に襲われながらも、破損した身体を引きずって向かってくる。


 その根性は見事だが、すでにスピードもパワーも激減してしまっていた。


 ホロロは大型のライフルを取り出すと空から射撃。


 発射されたのは、『八十ミリライフル弾』。


 サリータとベ・ヴェルが運用試験をした時に使った魔人甲冑用のアサルトライフルである。


 それを人間でも使えるようにカスタマイズしたものだが、どう見ても大型かつ重いので『竜測器昇りゅうそくきしょう』を付けていない装備では持つこともできない。


 さらに六翼を使うことによって空中での完璧な姿勢制御を成し遂げつつ、両腕の人間離れした腕力でがっちり固定。


 当然、対戦艦または対魔人機用の『軍事兵器』ゆえに、アンシュラオンが作った鎧人形(低レベル版)すら一撃で貫通破壊する威力を誇る。


 それを人間がくらえば、こうなる。



「ウガウッガ――ウアッウグ―アッッガ―ガ―アアァァァア!!?」



 大口径のライフル弾が次々とウラネブラに襲いかかり、頑強な身体を破壊。


 斧がひび割れ、ドガガガガンと火花を散らしながら身体が抉り取られていく。


 たしかに術は効きづらいようだが、ならば物理兵器で叩きのめせばよいだけだ。


 軍事兵器の製造と量産に取りかかっているアーパム財団にとっては、恰好の実験台でしかない。


 そして、ウラネブラも身体の大部分を失って力なく倒れる。


 二人の身体からは煙が立ち上がり、ブスブスと焼け焦げた臭いが周囲に充満していた。



(身体の大半は機械ですか。しかし、一部は人間の臓器も交じっているように見えますが…)



 大型ライフルを放り投げたホロロが地面に着地。


 まだ警戒しながらも少し離れた位置で倒れた二人を観察する。


 身体の外骨格は機械のフレームに似ており、流れる血も筋肉も別種のものだ。ただ、マキがそう感じた通り、一部の臓器は人間に近い形状をしていた。



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