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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「誑魁跋扈の予定調和」編
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595話 「術講義 その3『各々の資質』」


「出来た人は実際に放ってみましょう。形を作ったら『射出する』という意思を発すれば自動的に飛んでいきます」



 射出の方法には複数のやり方があるが、ここでは一番簡単な『反発式』を使うことにする。


 少しだけややこしい話をすれば、この反発式は撃ち出す魔力弾のほかにもう一つの射出用の物質を逆側に作り、それを圧縮崩壊させることで反発するエネルギーを生み出して指向性を与えるやり方だ。


 もう一つの方法は、生み出した魔力弾から魔素を噴射することで移動エネルギーを捻出するものだが、扱いを間違えると当たる前に力を使い果たしてしまうので上級者向けといえる。


 実際は意図的にカスタマイズしなければ反発式が自動選択されるため、術士は撃ち出したい弾の大きさや形を作ればよいだけだ。



「魔力弾さん、お願いします!」



 セノアが命令を発すると、掌にあった魔力弾が飛んでいく。


 彼女のBPの少なさや術式の不安定さから銃弾というほどの威力はない。命中率も良いとはいえず、いくつか外してしまう。


 しかしながら金属の的に窪みができていることから、まともに受ければ大人でも失神するレベルの衝撃はありそうだ。


 地球でも強力な空気銃を使えば木の板くらいは貫通できるので、それに近い威力だろうか。初めてにしては悪くない出来だ。


 しかも術式攻撃は防御無視だ。高い防御力を誇る相手や硬い鎧に有効なのも大きなメリットだろう。(防具は耐久値にダメージが入る)



「で、できた! できました!」


「よくできましたね。良い結果ですよ。続いてバレアニアさん、どうぞ」


「はい!」



 次にバレアニアが魔力弾を射出。


 セノアのものよりも速く飛んでいったが威力は低く、表面が軽くへこむ程度だった。命中率は高いので、しっかりと制御できているのは評価ポイントだろう。


 これは魔素の質量が少ないために起こる現象で、手先は器用だが魔力値が低いことを意味する。


 悪い結果ではなかったものの、当人は気に入らなかったようで軽い苛立ちを覚えていた。



「イマイチね。セノア様には及ばないわ」



(十分すごいんだから比べなくてもいいのに…)



 と、セノアも内心では思うのだが、自分もたびたび比べてしまうので、そこは口にしないでおく。


 そして、全員の試射が終わったところで各人の特徴が明らかになる。


 まず、威力という意味でもっとも強かったのがラノアで、次にメルが続く。メルは半ば貫通しかけていて、ラノアに至ってはあっさりと貫通していた。


 こちらはセノアたちの逆で魔力値が高いことを示している。ラノアに関しては命中率も高いことから術式操作の才能も十分だ。


 続いて細いニードル型にしたり、刃状にして放ったのがディアナとアイシャン。


 こちらは応用力に優れていることを示し、術をカスタマイズする際に必要となる素養だ。


 最後にもっとも速度があったのが、マイリーンとアン。


 さきほど説明した射出方法を考えればわかりやすいが、射出側の爆発力が強かった結果として起きた現象であり、いわば瞬発力の高さに該当する項目といえる。


 まとめると、術式の構築速度に長けているのがセノアとバレアニアで、バレアニアのほうが制御が上手いが、術が完成するまでの速度はセノアのほうが上となる。


 構築速度に長けていれば即座に術が生み出せ、時間との勝負である実戦においては最重視される項目である。


 ただし、制御が甘いと数十センチ単位で狂いが生じるので、ただ速ければよいというわけではないが、何事も速いに越したことはないのも事実だ。


 一方、魔力量と威力に長けるのがラノアとメル。


 威力は高ければ高いほど良く、同じ術式を使っても数倍の差が生まれるとなれば、それはもはや別種の武装とも呼べる。


 この威力の高さは『維持力』と『規模』にも関わっており、より大規模のものをより遠くまで減衰せずに送り届ける力でもあるので、有効射程距離にも大きく影響を及ぼす要素だ。


 続いて、応用に長けるのがディアナとアイシャン。


 応用力があれば刻一刻と変化する状況に対応でき、カスタマイズの幅も広がるので多様な敵と戦えるようになる。


 トラップを仕掛けたり、普段とは違う方法で相手の虚をついたりと、正面からの力押しだけで勝てないときは彼女たちの力が必要になるだろう。


 最後に、瞬間的な爆発力に長けるのがマイリーンとアンとなった。


 術式においても高い瞬発力は刹那の攻防で生死を分ける。


 たとえば特定の術式を瞬間的に大きく広げたり、近距離で大火力の術式を放つ際に有用で、一瞬とはいえラノアたちを上回る力を出せるのが魅力だ。


 とはいえ構築速度が遅く持続性もないので、術の使いどころが重要になる。



「続きまして『無限盾』も作ってみましょう。やっていることは魔力弾と同じですので、盾を生み出すイメージで枚数を重ねていってください」



 今度は魔力弾の応用である『無限盾』の練習が始まる。


 この術式はサナもよく使っていたことから実戦での有効性は実証されている。特に子供は身体能力が低いので覚えておいて損はない。


 今回も構築速度の高いセノアがもっとも素早く生成し、ラノアが作ったものは魔力量が多いため、より強固であった。


 各人は魔力珠の力を借りながら、それぞれの特性に合った無限盾を生み出し、それを的にして魔力弾の練習に励む。


 術の鍛錬もひたすら基礎の反復だ。面白いつまらないにかかわらず、集中しながら淡々と続けるしかない。


 正直なところ無限盾も術符で使ったほうが手軽だ。今の近代化された戦場で、いちいち生み出す者は皆無だろう。


 ただし、術符は高い。その都度、多額の金がかかる。


 それを考えれば術を学ぶことには意味があるし、こうして練習を重ねていけば因子が覚醒していく『可能性が高まる』。


 では、なぜ世間一般で術士が少ないかといえば、そんなことをやっている暇もなく死んでしまう劣悪な環境条件が第一に挙げられる。


 術を学ぶ余裕があるのならば身体を鍛えて働き、術符や術具を買ったほうが簡単で生存率が高い。


 それゆえに術は金と暇がある者、または高度な術を継承するメラキのような特殊な者しか扱わなくなっていき、次第に衰退していった。


 だが、その術符を作るのもまた術士である。いくら軽視されていても術士がいなければ世界は回らない。


 アーパム財団の怖ろしいところは、メラキを仲間に引き入れたことで術士の養成を始めている点だ。


 それは財団の特異戦力強化に繋がるだけではなく、術の世界においても非常に意味と価値があることといえる。


 今はまだ伝統工芸の保護に近くとも、いずれ大勢の強力な術士が誕生すれば、世界がその偉業と脅威に恐れおののくに違いない。



「次は『術糸』そのものの操作を学びます。ジュエルに接続する際にも使いますし、物質に働きかける時にも使う基本の術となります」



 講師が、すでに構築が終わっている魔力弾に術糸を接続すると、魔力弾がくるくる回ったり上下に動いたりする。


 これはアルが魔石を調整する時にやっていることと同じで、内部の情報をいじって操作しているのである。


 この術糸自体も魔素で作られているため、より物質性を高めれば単純な紐として活用することもできる。


 よく地球でも念力やサイコキネシスといったものが話題になるが、あれは実際のところ、こうやってエネルギーの糸あるいは半物質体の紐を生み出して持ち上げているだけなので、はっきり言えば力技に等しい。


 だが、術糸の本来の使い方は、やはり物質の情報操作にこそある。



「セノアさんは『核剛金かくごうきん』の術式は覚えましたよね?」


「え、えと、核剛金って…たぶんアレのことですよね。でも、まだ上手く発動できなくて…」



 セノアは他の子供たちよりも一足早く情報術式の勉強をしていたが、そうとは知らずに数式だけ覚えさせられていたので、今になって慌てて復習をしているところだ。


 それゆえに寝る時間を削ってまで術の勉強をしており、その中の一つに『核剛金』がある。


 ただ構築するだけの魔力弾とは異なり、核剛金などの強化系術式は対象の情報を読み取る力も必要となることから、より高度な術式といえる。



「何事も実践あるのみですよ。試しにこの石にかけてみてください。魔力珠のサポートがあればできるはずです」


「は、はい…」



 断るわけにもいかず、致し方なくセノアは用意された石に目を向ける。


 それと同時にロゼ隊のメンバーから熱い視線も感じる。明らかに手本となることを期待している目だ。



(き、緊張する…。みんなが見ているんだから、しっかりしないと。ええと、たしかこうだよね?)



 まずは石に術糸を接続して『内部の数値』を読み取る。これは肉眼を使うのではなく『術士の眼』を使って『視る』のだ。


 上手く集中できないと他の数値が見えてしまうし、交じり合って読み取れないこともある。そもそも調子が悪いと見えないこともある。だからこそ術は難しい。


 しかし、魔力珠が光ると―――鮮明


 近眼の子が眼鏡をかけた時のように、一気に視界がクリアになって細かい数値までよく視えるようになった。



(はっきり視える! これなら…こう…数値をいじって……)



 この術は原子と原子を繋ぎ止める結晶構造を強化する術式だが、その一つ一つを操作して強固にしているわけではない。


 核剛金という『すでに作られたプログラム』を走らせることで、半ば自動的に動き出す仕組みになっている。


 それ以外の処理は基礎エンジンたる星のシステムがやってくれるため、術士がやることは魔素の生成とプログラムの起動コードを覚えることであり、あとはどれくらい細かい操作ができるかが腕の見せ所である。


 個人向けにカスタマイズするような詳細な調整を施すためには、より深くにある内部データを操作する技術が必要だが、今のセノアにそこまで求めているわけではないだろう。


 今の自分ができること、表層にあるデータをいじって核剛金の術式が成功する。



「で、できた…! できました…よね?」


「ええ、しっかり『堅く』なっていますよ。数値は『視え』ましたか?」


「はい! こんなにはっきり視えたのは初めてです!」


「慣れていけばブースター無しでも術が素早く使えるようになります。が、そうなったらもっと強いブースターを使うことになるでしょう。ともあれ、今の核剛金だけで術士は一生暮らしていけるのです」



 たとえばマキが購入した核剛金の術符は、一枚五十万円。


 それを術士が四十万で請け負うとしても、依頼側は十万も安くなるのでお互いに利益が出る。仮に三十万でも客が増えれば一生安泰だ。


 あるいはアカリのように『符行術士』になれば、自ら術符を作って術具屋に卸せばいい。もはや金に困ることはないだろう。


 ただし、術は悪用できるので狙われることも多く、あまり大っぴらにやると拉致される危険性が高まるので注意が必要だ。(アカリも能力があったので親に売られた)


 メラキや錬金術師が隠れ住んでいる理由が、まさにそれである。



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