表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「誑魁跋扈の予定調和」編
593/617

593話 「術講義 その1『実技』」


 マキたちが第一休憩所に着くと、そこではゲイルが待っていた。



「よぉ、お疲れさん。こっちも準備ができているぜ。予定通り、講師も連れてきた」



 ゲイルの隣には訓練に帯同する講師たちがいた。


 各種サポート技術を教えるためにハングラスから第三商隊長のモズを含めた数名が派遣され、術の講師としてエメラーダから推薦されたメラキの面々もいる。


 ハングラスとの協力関係は公然のものなので露見しても問題ないが、メラキに関しては高い秘匿性が求められるゆえに別行動で森に来てもらっていた。


 それに加えて、此度は『特別ゲスト』もいる。



「で、こっちがゼイヴァーだ。凄腕の傭兵だから、いろいろと教わるといい」


「ゼイヴァーと申します。よろしくお願いいたします」



 そこには、なぜかゼイヴァーもいた。


 DBDとの同盟は公にできないので傭兵という扱いになっており、今は一般的な革鎧しか着ていないので素顔のままだ。


 彼の場合は全身鎧を着ていることが多いため、素顔のほうが目立たないと判断したからでもある。


 が、目の前に突然金髪イケメソが現れれば、こうなってしまう。



「きゃー、すごいイケメンじゃない!?」


「こらー! 浮気は駄目よ! で、でも、たしかにカッコいいかも…」


「きゃっきゃっ! 楽しくなってきたわー!」


「うっ…そんなに見られると気分が…」


「その物憂げな表情も素敵ねー! 萌えるー!」



 若い女性の視線が集まったことでゼイヴァーが胸を押さえる。その仕草すら女性陣に受けてしまうのは災難だろうか。


 では、こうなることがわかっていながら、なぜ来たのか。


 本来ならばDBDは西部開拓で忙しく、百光長の彼は貴重な戦力なのだが、今後のことを考えて『女慣れ』しておく必要があると判断されて出向と相成った。


 ここで生きていくのならば、嫌でも東側文化に順応していかねばならない。そのためには見聞を広げる必要がある。


 知識と同じく、経験も蓄えれば蓄えるほど人間味に深みが出てくるものだ。彼が見聞きすること、そのあらゆる経験が糧になる。


 そうして得た経験は彼の子供にも伝えられ、東側に根を下ろす時間が増えれば増えるほど、より強固になって血脈を守る力になるだろう。


 それを考えれば、たとえ開拓が多少遅れようとも優秀な若者を育てることには、それ以上の価値があるわけだ。(生粋のDBD人ならば、なおさら貴重である)


 しかしながら彼の場合、女性自体にトラウマがあるわけではないので、女性に囲まれたからといって克服できるかどうかは未知数だ。


 そうなるとただの地獄であるが何事も経験である。それだけ期待されている証拠といえる。



(あっ、ゼイヴァーさんだ。知っている人がいてよかった)



 セノアはセノアで、すでにDBDとの軍事演習にも参加していることから顔馴染みがいて安心していた。


 実際にゼイヴァーの参戦はセノアのために用意された方策の一つだ。少なくとも子供たちの安全に関しては彼も積極的に協力するだろう。



「訓練は明日から開始とする。じゃあ、今日はここで解散だ。明日は早いから夜更かしするなよ」



 もうすぐ日が暮れることもあって休憩所で休むことになった。


 休憩所自体は資材管理の都合上、かなり大きく建てられているため部屋数も多く、二人ないし三人で一部屋を使うことができる。


 セノアは妹のラノアと一緒の部屋に割り当てられるが、夕食後に部屋に戻った頃には疲れてくたくたになっていた。


 ほとんどクルマだったので体力的に疲れているわけではなく、やはり精神的なものが理由だった。



(はぁ…いろいろな人がいるから気疲れしちゃうなぁ。それと比べてホロロさんはすごい。メイド隊の人たちは、いつもみんなキリッとしているし)



 セノアもアンシュラオンの前ではメイドだからわかるが、ホロロがいると場が引き締まるので他のメイドたちも自然と背筋が伸びている。


 彼女の無言の迫力がそれを可能にしているのだろうが、本当に怠けていると魔操羽を刺されて強制起動されてしまうので、常にがんばるしかないブラックな隊でもある。


 しかし、もっとも近くでアンシュラオンとサナに仕える身である以上、それくらいは当然と『ホロロは』考えているようだ。



(無言の迫力ってどうやったら出るのかな? こうかな? むっ、むぅう!)



「ねーね、なにしてるの? へんなかお」


「っ!? な、なんでもないよ。あはは…」



 顔だけ真似たところで意味はない。ラノアの言う通り、変なやつになるだけだ。



(明日からはもっとがんばらないと。少しでも先輩らしいところを見せないとね! うん、がんばろう!)



 そうして普通の少女は、緩やかな睡魔に襲われてベッドに吸い込まれていった。





  ∞†∞†∞





 翌日。


 休憩所の前にマキ隊とロゼ隊が並び、本日のスケジュールがマキから告げられる。



「午前中は各自で訓練を行うわ。私の隊はモズさんたちとゼイヴァーさんから基本的な戦い方を教えてもらって、それを反復する練習をすること。セノアちゃんの隊は講師の方から術を教えてもらってちょうだい」



 せっかく講師が来たので教えを請わない手はない。


 特に警備商隊の戦い方はマキ隊が求めるものと合致する。彼らから学ぶことは非常に多いだろう。


 がしかし、マキ隊は各自の武具を装備するとゼイヴァーだけに殺到。



「ゼイヴァー様、いろいろと教えてください!」


「ゼイヴァーさん、武器の持ち方を手取り足取り教えてください!」


「ああ、うっかり転んでしまいました! ぎゅっ! あっ、見かけによらず逞しい!」


「あ、あの…モズ殿もいらっしゃるので、そんなにこちらに来ずともよろしいのでは…」


「私はゼイヴァー様がよいのです!」


「ぜひゼイヴァー様に!」


「うっ、また気分が…」



 哀しいかな、若い女は正直で残酷だ。生殖本能に従ってイケメソのゼイヴァーのもとに集まっていくのは仕方がない。


 一方のモズはモズで無口で感情を表現しないタイプなので、これに関して特に言及はしない。付き合いで来ているので、むしろ楽でよいと思っている節もありそうだ。


 だが、ここでマキが釘を刺す。



「最初に忠告しておくけど、訓練に集中できない人がいたら老師の道場送りにするから覚悟してね」


「ひーー!」


「老師は嫌ーー!」



 アンシュラオンの要請を受け、アルは道場を始めている。


 因子が破損してしまったので覇王技は使えないが、過酷な修練で得た技術や経験は朽ちることがない。それを後進に伝えるのが目的だ。


 アルは主に男性や少年スレイブの稽古を担当しているので、さほど女性陣と縁があるわけではないが、陽禅公と同郷ゆえか非常に訓練が厳しい。


 戦いに対する考え方が異様にストイックであり、一度でもあの指導を体験するとアンシュラオンがいかに女性に甘いかを痛感する。


 マキ隊も研修として一度だけ稽古をつけてもらったことがあるが、隊の全員が口々に二度と行きたくないと漏らしたほどだ。


 ちなみに子供には優しいので黒の十六番隊の残りの八人は、そちらで基礎訓練を日々重ねている。魔石の使い方も学べるので一石二鳥である。



「ゲイルさん、警備は任せるわね」


「おう、がんばってきな」



 ゲイルたち黒鮭商会も教えられることは多々あるが、基本は警備隊として邪魔が入らないように周囲の警戒にあたっている。


 アンシュラオン領といっても森の中だ。魔獣たちは普通にいるし、当然ながらギアスがかけられているわけではないので、ほぼ初めて翠清山に入った時と大差ない。


 それはそれで自然の防波堤となるため、侵入者対策としてあえて放置している状態だ。


 ということで、マキ隊はゼイヴァーから軍隊式訓練法を学ぶ。


 サリータたちが経験したものと比べて若干マイルドだが、それでも全体の連動を第一に考えており、主に体力作りと連携について学ぶことができるのは大きい。


 マキもDBDとの合同演習には参加していないため、自分に足りない要素をそこから学び取っていた。


 それが一通り終われば、今度はモズたちから銃火器や術符の扱いについて学び、実際に的に向けて撃っていく。


 この程度の訓練ならば白詩宮の庭でもやれるが、やはり街の中なのでバズーカといった激しい重火器は使いづらい。翠清山だからこそ自由にぶっ放せるのだ。


 その後は順次、優れた武人との個人訓練が始まる。


 マキからは格闘術、モズからは集団戦闘での位置取りや状況判断力、ゼイヴァーからは武器の扱い方を学ぶ。


 最初は浮かれていたマキ隊も身体を動かせば、少しずつ集中力が増して熱が入っていく。


 このあたりはギアスの効果もあるかもしれない。そういう契約を結んでいるので魔石が精神に作用してやる気を引き出すのだ。



「では、術の実技を始めましょう」



 一方、ロゼ隊も少し離れた位置でメラキの講師から術を学んでいた。


 講師は三人とも女性で、アンシュラオンの要請で男は入っていない。


 この点は徹底されており、『時が来るまでは』少年スレイブとも一緒になることはない。完全に別々で養成している。


 なにせアーパム財団では、ゲイルやアッカランといった各商会のトップたちを除けば『女性のほうが地位が上』である。


 男は女のために死ぬ生き物。それを幼少期から徹底的に教え込むことでアンシュラオンが求める理想社会が生まれるのだ。


 多少過激な思想ではあるが、女性を消耗品にする社会が崩壊することは現在の日本を見ればよくわかるだろう。



「実際に術に触れてみることが大切です。まだ術士の因子が目覚めていない人でも私たちがサポートしますので問題ありません。必ず使えるようにいたします」



 最初にやらせたのは、因子レベル1で使える『水玉』への『干渉』だ。(水玉が一番安全だから)


 講師が各人の前に小さな水玉を作り、術式に干渉できる回線を子供たちに与える。これによって素人でも術を操作することができるわけだ。


 術に慣れさせるための行為であり、この世界に入ったばかりの初心者に対する一般的な基礎訓練課程といえる。


 子供たちはじっと水玉を見つめたり、指で触れてみたりと興味津々である。この時だけは皆が一つのことに集中していたので静かだった。


 そうして十数分くらい経った時だっただろうか。


 各水玉にさまざまな変化が起こった。



「くるくる…くるくる」


「わっ!? ラーちゃん、すごい! どうやったの? 玉が回ってるよ!?」


「んー、くるくるまわす…だけ?」


「えええええ!? そんなのできないよー!」


「こうして…こう」


「がーん! 私、負けてる!?」



 最初に水玉を動かしたのはラノアだった。明らかに自分の意思で回転させている。


 他方、セノアの水玉には直接的な変化はない。



「わ、私…やっぱり才能がないのかな…」


「色が変わっていますよ」


「色?」


「ええ、色です。ラノアさんのものに比べて、セノアさんのほうが青いように見受けられます」


「色……あっ、ほんとだ」



 講師に指摘されて二つの玉を比べると、たしかにセノアのほうが青みがかっているように見える。


 普通の水は無色透明ではあるものの、それだけだと見づらいので意図的に青くしているのだが、それがさらに深い青になっているのだ。



「水分子に干渉して性質に変化を与えています。だから見え方が違うのですよ」


「これは…良いことなのですか?」


「もちろん。立派な術式干渉です」



 ラノアがやった水流の変化は『術式操作』の一つで、物体や思念を自由に動かす技術だ。


 たとえば術の軌道を変化させたり、より高度になれば遠隔操作で自由に動かすこともできる。遠隔操作の有用性はアンシュラオンの戦いを見てもわかるはずだ。


 一方のセノアがやった『状態変化』は術の性質に変化を加えるものであり、『水覇・硫槽波』のように真水を硫酸に変えたり、味を変化させることができるので用途は多様といえる。



「やはりアンシュラオン様がおっしゃるように才能がおありですね」


「ほ、本当ですか!? よ、よかった!」



 セノアは自身の手をぎゅっと握り締める。


 彼女に足りないのは成功体験だ。それを積み重ねれば少しは自信が持てるようになるだろう。


 そして、隊長であるロゼ姉妹が結果を出したことが影響したのか、それから次々と他の子供たちの水玉にも変化があった。



「あっ、大きくなった」


「わたしのは小さくなったよ」



 姉のマイリーンは大きくなり、妹のアイシャンは小さくなる。こちらもラノアがやった『術式操作』と同様のものだ。



「んー、ふわふわになった?」


「それは波打っているんだと思うよ。私のは色が変わったかな?」



 ラノアほどではないが、メルも『術式操作』で水玉が波打っている。ディアナのほうはセノア同様、色味が白に近づいていた。


 こうした事例を見ても得意な系統がわかるようになっていて、術式操作が得意な者は元素術式に長ける者が多く、状態変化が得意な者は情報術式に長ける者が多い。


 いわば感覚で術式を動かせる者と、中身の情報を解析して変化させられる者との違いである。アンシュラオンは元素術式のほうが得意なので前者となる。


 これによってマイリーンとアイシャンのアッテ姉妹とメルは、元素術式が得意であることがわかった。ディアナはすでに情報術式が得意であることがわかっているので、その通りの結果だ。



「バレちゃん、すごい! 凍っているよ!」


「これくらいは当然ね。というか、アンのは何?」


「これ? 水飴だよ。舐めると甘いし」


「水飴!?」



 バレアニアがやったのも状態変化だが、氷に変化させることはかなり難しい。それこそ上位属性を操るようなものだ。


 アンに関しても状態変化だが、こちらはねっとりとした飴状に変化して甘味が増している。同様に優れた技術であり、彼女もまた情報術式が得意であることがわかる。


 べつに陽キャで何も考えていないからといって、元素が得意なわけではないようだ。このあたりも術の不思議である。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング

励みになりますので、評価・ブックマーク、よろしくお願いします!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ