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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「誑魁跋扈の予定調和」編
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586話 「リベンジマッチ その1『ホロロとベ・ヴェル』」


 アーパム戦隊は、さらなる強化のために日々特訓を継続していた。


 それ自体は組織全体の力を上げる意味でも大いに役立っている。何の問題もない。


 しかし、こうして各人が実力を伸ばしていけば、いろいろと思うところが出てくるのが人間というものだ。


 その発露の一つが、今まさにここで始まろうとしていた。


 琴礼泉の近くにある森の中で、ベ・ヴェルがホロロに【挑戦状】を叩きつける。



「わざわざ呼び出したと思ったら、こんなことがしたかったのですか?」


「あたしにとっては、この世でもっとも大事なことさ。ようやくこの時が来たんだ。あの時のことは覚えているかい?」


「さて、どの時のことでしょう?」


「あんたと初めて会った時のことさ。あの屈辱を忘れたことなんて、一日たりともなかったさね」


「ああ、弱いくせに粋がっていた頃のあなたですね。それは今でもさして変わっておりませんが」


「相変わらず煽ってくれるねぇ。でも、あたしも少しは強くなった。あんたをぶん殴れるくらいにはね」


「そう思いたいのならば勝手にそう思えばよいでしょう。それが妄想であっても、あなたの中では真実なのですから」


「ふん、減らず口もそれまでさ。アンシュラオン、全力でやって問題ないね?」


「ここならば周りに被害は出ない。立会人はオレが務めるから満足するまでやればいいさ」



 これはただの模擬戦ではない。


 先日も全体試練を行ったが、今回はそれ以上に本気で戦う『真剣組手』が行われるのだ。それゆえに死ぬ可能性も十二分にある。


 こうしてアンシュラオンが立会人をするのは、両者が本気で戦っても死なないようにとの配慮でもあった。



(こいつをぶん殴る。それがあたしの一つの目標だった。ある意味、この時のためにがんばってきたようなもんさね)



 ベ・ヴェルがアンシュラオン隊に入った一つのきっかけが、ホロロにボコボコにされたことである。


 たかがメイド、しかもほぼ一般人であった者に圧倒された屈辱が、彼女に決断を促したのだ。


 しかし、今やベ・ヴェルもアンシュラオンの力を受けて強くなっている。同じく魔人の庇護下にあるのならば条件は対等のはずだ。


 ならば一発。いや、それどころか勝ち目さえあるのではないか。そう思うのも仕方がないことである。



「両者とも結果には恨みっこなしだぞ。特にベ・ヴェルだ。わかったな? 気が済んだら序列は絶対順守だ」


「一つ質問さね。もしあたしが勝ったら『序列の変化』ってのはあるのかい?」


「うーん、そうだなぁ。お互いにタイプが違うから一概に言える問題じゃないけど、考慮しなくはないぞ」


「ご主人様、もし私が負けるようなことがあれば四位の座を明け渡します。神に仕える以上、力の誇示は絶対だと考えておりますので」


「ホロロさんがそれでいいならオレも受け入れるよ」


「じゃあ、あたしが勝ったらホロロを召使にできるってことかい? いいじゃないか! なら、ガツンとやってやらないとね!」


「その代わりそちらの女が負けた場合は、雑用係としてメイド隊で一ヶ月ほどこき使いたいと思います」


「へっ、トイレ掃除でもゴミ拾いでも何でもやってやろうじゃないか。なんなら毎日、あんたの足を舐めてやるよ」


「その言葉に二言はありませんね。では、正式に契約を結びましょう。ご主人様、お願いいたします」


「わかった。この契約書には強制力があるから何があっても拒否することはできない。二人とも条件を確認してね」



 アンシュラオンが契約書を取り出して、今述べた条件を書いていく。


 その内容を両者に復唱させることで『同意』を取り付けてから術式を発動。


 これは新型スレイブ・ギアスを応用した契約術で、もし破ろうとした場合は『能力値の半減』および『許されるまで魔石の使用不可』といった重いペナルティが課される。


 実際に身体を拘束するものではないが、精神がリミッターをかけることで力を出せなくする封印術式の一種といえる。


 アンシュラオンは身内には甘いので、立会だけだと「なあなあ」で済ましてしまう可能性がある。両者が納得するためにも明確な線引きは必要なのだ。



(女性同士の争いも激しいもんだよ。まあ、これくらいじゃないとやる気も出ないか。組織内でも競争意識は必要だからな)



 現状でホロロの序列は、サナ、マキ、小百合に次ぐ四位。


 参考までに以前の序列を出すと


―――――――――――――――――――――――

〇序列(260話「序列って大事だよね」より抜粋)


1位 サナ・パム

2位 マキ・キシィルナ

3位 小百合・ミナミノ

4位 ホロロ・マクーン

5位 ユキネ

6位 サリータ・ケサセリア(暫定)

7位 ベ・ヴェル(暫定)

8位 アイラ・マーフーバ


※番外(協力者枠)

ロリコン、ロリ子、アロロ

―――――――――――――――――――――――


 となっているが、すでにロゼ姉妹やミャンメイが加わっているので若干の変化がある。


 よって、最新の序列はこうなっている。


―――――――――――――――――――――――

〇最新序列


1位 サナ・パム

2位 マキ・キシィルナ

3位 小百合・ミナミノ

4位 ホロロ・マクーン

5位 ユキネ

6位 火乃呼

7位 炬乃未

8位 ラノア・ロゼ

9位 セノア・ロゼ

10位 ミャンメイ

11位 アイラ・マーフーバ

12位 サリータ・ケサセリア

13位 ベ・ヴェル

14位 アロロ

―――――――――――――――――――――――


 五位までは変わらないが、六位に火乃呼、七位に炬乃未ときて、ロゼ姉妹がその次にきている。


 重要なことは、この序列は単純な能力値だけではなく、スキルの『唯一性』や『特殊性』も考慮されている点だ。


 火乃呼や炬乃未の能力が希少であることは明白であるし、ロゼ姉妹も魔石を含めた強化や念話の有用性が加味された結果といえる。


 アイラの順位が上がっているのも特殊な特性が判明したからで、ミャンメイもユニークスキルや食事の重要性が評価された結果だ。


 一方、サリータとベ・ヴェルの順位が下がっているのは、同様の観点から『代わりが利く』人材だからだ。


 女傭兵という希少性はあるものの戦闘が中心となるため、最悪の場合は代わりがいるのは事実である。


 当然、その下にメイド隊や子供の部隊、各種商会のメンバーがいるが、ここではあくまでアンシュラオンの近くにいる女性が対象となっている(アロロもギアスをかけたので序列入りしている)


 この序列は、すでに述べたように変化する可能性がある。新たに優れた能力を持った者が入れば一気に上位に食い込むこともあるだろう。


 正直に言えば、誰だって抜かれるのは気持ちがよいものではない。特にホロロとの差が開くのはベ・ヴェルにとっては屈辱的なのである。


 そのモヤモヤした気持ちをリセットするためにも真剣組手は必要だった。



「準備はいいか? 合図をしたら開始だ」


「ああ、いつでもいいさね!」



 ベ・ヴェルは全体試練の時と同じく暴剣や熊装備を身に付けた完全武装。


 対するホロロは篭手を付けた状態の武装メイド服を装備している。(ガトリングは装備していない)


 こちらは焔紅商会でさらに改良を重ねた『給仕竜装・弐式』となっており、防御力全般が上がったうえに各所に術具やジュエルを格納することで、いかなる状況にも対応が可能となった万能防具だ。


 勝敗の決め方は、どちらかが戦闘不能になるか降参するまで。


 それ以外のルールは無い時間無制限の『一本勝負』である。



「組手、開始!」



 アンシュラオンの号令で勝負開始。



「うおおおおおおお!」



 ベ・ヴェルはいきなり魔石を発動させると、鬼熊の魔石獣と融合して攻防力が激増。


 さらには自らの血を吸わせて『赤の粒子』を身にまとい、しょっぱなから全力攻撃態勢に入る。



(受け身なんて性に合わないさね! 攻めて攻めて攻めまくる!)



 試練ではアンシュラオンにボコボコにされたが、DBDで軍隊式鍛錬法を学んだ今は技術的にもレベルアップしている。


 魔石の扱いに関しても日に日にシンクロ率が高まっており、こうして思い通りに魔石獣を鎧にすることもできる。



(あたしは強くなった! 鍛錬をしていないホロロなんかに負けるもんかい!)



 最近の合同鍛錬を見てもわかるが、基本的にホロロと小百合は訓練に参加していない。彼女たち二人はサポートメンバーだからだ。


 戦いとは戦闘行為だけによって成立するものではない。日々の生活や道具の管理、経済的な支援があってこそ成り立つ総合的なものだ。その意味でホロロと小百合の貢献度は計り知れない。


 となればそもそもの問題として、それにもかかわらず戦闘メンバーのベ・ヴェルに付き合っている段階でホロロはハンデを負っていることになる。


 が、勝負を受けた以上は決着がつくまで戦いは終わらない。


 ベ・ヴェルは、これまで得たすべてをぶつけるために全力で駆け抜け、暴剣を思いきり叩きつけようと腕を振った。


 ホロロはその場に立ち尽くして何もしない。


 そして、暴剣が彼女をすり抜けて【ベ・ヴェルに】―――ドゴンッ!!



「っ―――!??!」



 何が起きたのかまったく理解できなかった。


 真っ暗になった視界の中で白い火花が散り、空気を掴むように掌を宙で開いたり閉じたりしてしまう。


 完全に当たる間合いとタイミングだったにもかかわらず、なぜか得物は自分自身にぶち当たったからだ。


 だが、それは錯覚でも幻覚でもない。紛れもない現実である。



「くそ! どうし―――でっ!?」



 続いてベ・ヴェルの左拳が【自分の左頬に】―――メキィッ!!


 強烈な一撃が頬骨を軋ませ、左上の奥歯がへし折れた音が響く。



「ごぶっ…! なんだい…こりゃ!!」



 ホロロはまったく動いていない。手すら動かしていない。殴っているのはベ・ヴェル自身なのだ。


 その後もベ・ヴェルが身体を動かそうと脳から命令を発しても、そのたびに攻撃を受けるのはなぜか自分自身。


 その自傷行為は頭部に集中し、顔面が大きく腫れ上がって次第に原形が失われていく。


 もともとベ・ヴェルの魔石は攻撃力に特化している。それを自分で受ければこうなるのも当然だ。


 その奇妙で間抜けな光景にホロロが冷淡な笑みを浮かべる。



「何も学んでいませんね。戦う前から勝負はついているのですよ」



 もちろん、これはホロロの仕業だ。


 開始直後にはベ・ヴェルに『魔操羽』を突き刺しており、身体の制御を奪っていた。


 クルルザンバードの力を吸収した『リズホロセルージュ〈神狂いの瑠璃鈴鳥〉』は精神支配力が劇的に向上し、神経を刺激することで相手を思い通りに動かすことができる。


 一度支配されれば、そこから抜け出すことは至難の業。欲望や感情が強ければ強いほど、逆にその流れを利用されてしまう。



「っ……あっ……ぐ……―――っ」



 自分の力でボコボコにされたベ・ヴェルが、意識を失ってバタンと倒れる。


 よく耐えたほうだが、皮肉にも自身の血を吸ってパワーアップした腕力で殴ったので、そう長くはもたなかった。


 ここでアンシュラオンが組手を止める。



「勝負あり。…って、聴こえないか。ホロロさん、どうする?」


「彼女が納得するまで何度でも受けます。獣には痛みをもって身の程を教えなければなりませんから」


「じゃあ、一度治すよ。ほら、しっかりしろ」



 アンシュラオンが命気でベ・ヴェルを癒す。


 意識を取り戻したベ・ヴェルは、状況を察して歯軋りをする。



「負けた……何もできずに……かい…」


「歯が治ってよかったですね。本当ならば総入れ歯でしたよ。ご主人様に感謝することです。で、もう一度やりますか?」


「くっ…」


「今のは無かったことにしてあげてもよいのですよ。あなたがそう望むのならば、ですが」



 真剣勝負は一度きりが常識だ。それを知りながら、あえてホロロは相手に再戦の機会を与える。


 これほどの屈辱はない。が、ベ・ヴェルも止まれない。



「ちっ!! もう一回さね!」


「こき使う期間を二ヶ月に延長します。了承しますか?」


「何でもやってやるよ! 一発殴るまでは終われない!」



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