585話 「お風呂でぬるぬるパニック」
白詩宮に戻ったアンシュラオンたちは、地下二階にある大浴場に来ていた。
この浴場は引っ越してから大改修を施したため、よくアニメで出てくるような豪奢な風呂場に似た造りになっている。
地下だから景観が悪いのかと思いきや、白い壁は色とりどりの植物に覆われ、幾多ある噴水からは常に清浄な命気水が供給されていた。
アンシュラオンが術を覚えてからは、壁にベルナルドが使った『遠近鏡同』と同じ術式を組み込んでいるため、外の映像を映し出すこともできるようになった。
もちろん飲食も可能で台所からの直通エレベーターも使えば、一日中ここで過ごすこともできる。
排泄に関しても入ったままで問題ない。トイレに使っている命気水よりも何倍も強力なので即座に分解蒸発してしまうからだ。
こうした改修には相当なコストを費やしているが、風呂好きのアンシュラオンが凝りに凝って作ったものである以上、普通の風呂場を遥かに凌駕するものに仕上がっているのは当然だろう。
そして、そこにはベルロアナたちもいる。
「ど、どうしてお風呂ですの!?」
「汗を掻いたら風呂に入るに決まっている。そのままってわけにはいかないだろう? お前だって館に戻っていたらシャワーは浴びたはずだ」
「そ、それはそうですけれど……今はその…」
「何を恥ずかしがっている。ファテロナさんなんて、もうスッポンポンだぞ」
「イエス! アイアム! キリッ!」
久々のエア眼鏡を披露しているファテロナは完全に裸だ。
会った時からすでに下着姿だったので彼女の裸には慣れてしまったのが怖い。
「ほら、お前も脱げ。それともオレが脱がしてやろうか?」
「じ、自分で脱げますわ!」
「そうか? じゃあ、サナを脱がすかな」
戦いで傷んだサナの髪の毛をほぐしながらテキパキと服を脱がす。身体にも傷が目立つが、それだけがんばった証拠である。
一方のベルロアナは自ら裸にはなったものの、恥ずかしそうにタオルで胸と股を隠してモジモジしている。
翠清山の時にも一緒に入ったのだが、今は巨乳化してしまったので羞恥心が増しているのだろう。
だが、そんな甘えは許されない。
「タオルはボッシュートだ。命気水だから汚れないけど、うちは全裸が基本だからな」
「きゃぁあああ! 引っ張らないでくださいまし!」
「潔く諦めて入れって。ほいっとな!」
「ひーー! 丸裸ですわー! む、胸がぁああ!」
「お嬢様、お助け…っ…するのです!」
「それは助けているのか? むしろ卑猥に見えるが…」
クイナがすかさず後ろからベルロアナの胸を掴んで乳輪部分を隠す。
が、どうせ大きな胸全部は隠せないし、むしろ百合要素が出てきてしまうので問題が増えているだけの気もする。
仕方なく二人はその状態のまま湯舟に入っていったが、これもなかなかにシュールな光景だ。
ここにいるメンバーは、マキ、小百合、ホロロ、ユキネの妻四人に、アイラ、サリータ、ベ・ヴェル、ミャンメイに加えて火乃呼と炬乃未もいる。
ロゼ姉妹は白スレイブ隊の面倒を見ることも増えたため、彼女たちと一緒に先に入浴を済ませているので不在だ。
「はー、人間の入る風呂ってのは、どうにもぬるいよなぁ」
「アチアチアチッー! 火乃呼の周りだけ妙に熱いよー!」
火乃呼の隣にいたアイラが、煮えたぎる湯に思わず飛び跳ねる。
浅黒い肌が真っ赤になっていたので相当熱かったことがうかがえる。
「だらしないやつだな。これくらいは普通だろう」
「いやいや、おかしいってー! 何度あるのー!?」
「わたくしたちディムレガンは体温が高いのです。特に姉さんは低い時でも八十度以上はありますからね」
その温度でも平然としている炬乃未が笑う。
ディムレガンは血が炎となる性質上、どうしても体温が高い。
鍛冶の時は摂氏数百度から数千度になるし、どんなに低い時でも五十度にしか下がらない。それ以上低くなると死んでしまうので、これが通常の体温なのだ。
といっても命気水は一定の温度が保たれるように調整してあるため、沸騰しているのは火乃呼の周辺のみであるが。
「ふー、やっぱりお風呂はいいわね。気持ちが落ち着くわ。ほら、ベルロアナさんも恥ずかしがらないの。クイナちゃんもボッシュートね」
「あー! お嬢様ー!」
背後からユキネが忍び寄ってクイナを引っぺがすと、おもむろにベルロアナの胸を掴んで舐め回すように観察を始める。
「あら、綺麗な色。本当に大きくなったのね」
「きゃはっ! 触ってはいけませんわ!」
「反応も初々しくていいわー。ミャンメイさんも触ってみたら?」
「よろしいのでしょうか? あっ、すごく柔らかいですね。とても立派ですよ」
「あうあうあー! 女同士ですのよ! どうして触るのー! しかも許可は出しておりませんわ!」
「女同士だからじゃないの。これも大切なスキンシップよ。せっかくだもの! ぎゅーってしましょう! ぎゅーって!」
「きゃああああ!」
「あーん、可愛いー!」
「では、私はクイナちゃんをぎゅってしますね」
「あうー! 捕まったのですー!」
完全に玩具にされてしまうベルロアナとクイナ。
しかし、彼女たちが命気風呂の真髄を味わうのはこれからだ。
「あ、あぅっ! お嬢様…なにか変…っ…なのです」
「何がですの?」
「この水、身体にまとわりつく…っ…のです」
「ほ、本当だわ。動いている…のかしら?」
「あっ…く、くすぐったい…っ…のです!」
純度の高い命気水はもともと粘度があるが、それがゆっくりと渦を巻くように動き出してベルロアナたちの身体にまとわりつく。
けっして痛くも苦しくもなく、絶妙の力加減で肌を刺激してくるので、これにはマキも小さな嬌声を上げる。
「あんっ! もうっ、いきなりなんだから。アンシュラオン君のこれ…すごく感じるのよね」
「小百合はとっくに癖になってしまいました。もうこれがないと生きていけません!」
普通に愛撫されるだけでも快感を得られるのに、ねっとりとした命気で撫でられれば虜にならない女性はいないだろう。
それを待ち望んでいたように風呂場にいた女性陣たちが、力を抜いて命気の流れに身を任せていく。
当然ながら怪我の治療や疲労回復の効果もあるので一石二鳥だ。
「本格的にマッサージを始めるよー。サナ、おいで」
「…こくり」
アンシュラオンがサナを抱っこすると、命気がさらに圧力を増して各人に合わせた動きに変化していく。
「んはっ! これっ…いい!」
「マキさんは脇下が好きなんだよね。おっぱいの横もなぞってあげるとすごく喜ぶんだ。いわゆる『スペンス乳腺』というところかな。武人の女性は胸の外側が擦れることも多いから感じにくい傾向にあるんだけど、マキさんはここが好きなんだ。わかったか?」
「どうしてわたくしに説明しますの!?」
マキを悦ばせながら、なぜかベルロアナに向かって説明する。
「いや、知りたいかなと思って」
「全然知りたくない情報ですわ!」
「お前も一応は身内になったんだ。ほかの女性のこともよく知っておくべきだぞ。相手をよく知れば、いざという時に思考を感じ取って咄嗟に動くこともできるからな。そのために性感帯や性癖を知るのはとても有用だ」
「そ、そうなのですか?」
「うむ。女性同士で抱きつくときには、さりげなく相手の好きな場所を触ってあげると良いスキンシップになるんだ。距離感も縮まるぞ」
「なるほど。勉強になりますわ」
騙されてはいけない。嘘である。いったいどこのエロ漫画知識だろうか。
ただ、アーパム財団においては同性で動くことが多いのも事実であり、相手を理解することは効率を高めるうえで重要な要素となる。
特に魔石は当人の精神ともリンクしており、趣味や嗜好が出やすい傾向にある。その特性を知ることで連携もやりやすくなるはずだ。
ベルロアナもそうなのかと思い、とりあえず見学してみることにする。
が、すぐさま地獄を味わうことになった。
「アンシュラオン様、早く早くー! あっ! そこ、いい! いいですぅ!」
「小百合さんは肌がきめ細やかでどこも感度はいいけど、意外と『後ろ』も好きなんだよね」
「そ、そうです……はぁはぁ、そこ…ああ! 中に入ってきて…! 最高!」
「ひいい! どうなっていますの!? いったいどこに入っているのですか!?」
「ホロロさんは、胸や股を除けばお腹から下乳にかけてかな。こうしてゆっくりと撫で上げてあげると―――」
「はぁはぁ…はぁはぁ……んくっ…がくっ」
「な? すぐに力が抜けて完全受け身モードになるんだ。普段はメイド長として厳しく接してもらっているけど、そのギャップが可愛いだろう?」
「やっぱり全然意味のない情報ですわよ!?」
「しょうがないな。ユキネさんならどうかな?」
「ああーん! アンシュラオンさん! いい! もっと縛って! 私を拘束して滅茶苦茶にしてぇええええ! 抵抗できない! できないのぉおおお! 私、雌豚なのね! あなたの玩具なのね! あはああああーーん! たまらないわああああ!」
「もっと距離が遠のきましたわ!?」
地獄、ここに極まれり。
こんなアブノーマルな世界を見せられて、いったい誰が喜ぶのだろうか。
以前火乃呼も言っていたが、はたから見ればここは変態の集まりなのかもしれない。
では、その火乃呼はどうなのかといえば―――
「よしよし、動くなよ」
「ううっ…ま、待てって……だから尻尾は…あふううう!」
「ほーい、ぬるぬる。しゅっしゅ、ぬるぬるっと」
「おほおおおお! ぐにゅうう! はひはひっ!」
これもはたから見れば、火乃呼の尻尾を掴んで命気で洗っているだけにすぎない。
しかし、ディムレガンの女性にとって尻尾は性感帯だ。適度に力を入れながら圧迫して摩擦を加えると、人間の五倍以上の刺激を受けるという。
火乃呼は両手で浴槽にしがみつきながらも下半身は完全に力が抜けている。相当感じている証拠だ。
続いて尻尾の先端、ハート形になっている部分を手の平で包み込むように、ぎゅっぎゅと力を入れながら擦ると―――
「はひはひっいいいいい! あはっ―――はへぇぇっ…」
あっさりと陥落。よだれを垂らしながら命気水の中に沈んでいく。
ぷくーっと浮き上がってきた時には全身が真っ赤になり、目をとろんとさせて、うっすらと涙も浮かべていた。
「ううっ…なさけねぇ。これをやられると何もできねぇ…」
「しょうがないわよ。アンシュラオンさんにかかったら、私たちなんてこんなものよ」
「次は炬乃未さんだね」
「あっ…そ、そこぉ……あふんっ! あはぁああ! アンシュラオンさぁあああん!」
火乃呼に続いて炬乃未も尻尾をマッサージされて陥落。
さすがにここまで敏感だと私生活に支障が出るので、単にアンシュラオンのマッサージ力が高いだけの話である。
「サリータは横腹を強く押してやると感度が上がるんだ」
「ふっ…ふっ! はぁはぁぁああ! ふーー!」
「ベ・ヴェルはオーソドックスタイプかな。特段弱いところはないけど、胸の周りを回しながら圧迫してあげると、すぐに力が抜ける」
「んぐううっ! んっ! だ、駄目さね! これやられると…あはああ!」
「ミャンメイは全体が柔らかいから、万遍なく震動させてあげると喜ぶんだ」
「だ、旦那様! こ、これは…ふわわわ!」
「アイラは、まあ適当にやればいいかな」
「扱いが雑すぎー!? 乙女はどこだって感じるんだからねー!」
「アンシュラオン様、私もお願いいたします! ウィーキャンドゥーイット!」
「ファテロナさんはどうなんだろう? とりあえずいろいろ締めてあげるね」
「おおううう! 首を絞められてるぅうううう! イグウウウ!」
ヤバい性癖が見つかったものである。
近年では『首絞めプレイ』なるものが流行っているようで、たしかに酸欠状態によるアドレナリンやエンドルフィンの増加に加え、支配感や服従感によって快楽が強まるようだ。
ただし、当然ながら危険なので、武人のファテロナはともかく一般人はできるだけ控えたほうがいいだろう。
ともあれ、他人の性癖をとことん見せつけられたベルロアナは頭が大パニックだ。
「はぁはぁ! とんでもないところに来てしまいましたわ! わたくしは馴染めるのかしら!?」
「…ぐいぐい」
「さ、サナ? ま、まさか…! だ、駄目ですわ! 今は本当に駄目ですのよ!」
「…ぐい!」
「あー! ぬるぬるして踏ん張りが利きませんわーーー!」
サナに引っ張られていく先は、もちろんアンシュラオンの膝上だ。
しかし、前とは違って今は裸である。アンシュラオンも裸なので下腹部が前見えだ。
ベルロアナが思わず硬直していると―――
「象さん、ぱおーん!」
「ひー! これはなんですのー!?」
「すまんすまん。ついうっかり」
見られたのならば、ついついはっちゃけてしまう。
これが男プライドである!
「…ぐいぐい!」
「サナもマッサージしてほしいんだな。いいぞ。たっぷりしてあげるからね」
「…こくり!」
同じくもう片方の膝の上に座ったサナに対しては、純度百パーセントの命気をたっぷりと塗りつけてあげる。
そのたびにサナがびくんびくんと震えるが、自ら身体を擦りつけて「もっとくれ」とアピールしてくる。
人喰い熊戦では純度の高い命気を吸収して暴走したことがあるが、今のサナならば十分に耐えることができるようだ。
「ベルロアナも純度が高いので大丈夫かな? ほれ、いいかげんに手をどけろって。胸くらい見られてもいいだろうに」
「嫌ですわ! そんなはしたな―――くひいいいい!」
「膝の上にいるんだから抵抗できると思うなよ」
「はっはっはっ! ビリビリしますわーー! なんですのこれー!?」
「あっ、すまん。サナの雷が漏れてた」
「そこは管理をしっかりしてくださいませー!? 死人が出ますわよ!」
「まあまあ、そう怒るなって。おっ、意外といけるじゃないか」
「あふぅうう!」
ベルロアナにも純度百パーセントの命気を吸収させるが、さすがは金獅子。
サナよりも耐性がないはずなのに鼻血が出たり気絶したりもしない。命気の力が思ったより浸透していくのがわかる。
(ベルロアナも身内になったんだから、慣らしていけばいろいろな変化が起こるのかな。しばらく実験してみるか)
「うーん、モミモミモミ」
「あはーーー! 揉んでますわーー! がっしり揉んでますわー!」
これも男プライドの哀しい性だが、むしろ揉まねば失礼だろう。
巨乳に対する畏怖と敬愛の念を込めて丹念に揉むのだ!
「あっ、ああああ! こ、こんなの! こんなのだめえぇええええ! わ、わたくし、おかしくなってしまいますわぁぁぁあああ!」
そして、びくんびくんと身体を大きく痙攣させて意識を失う。
ベルロアナ十六歳。初めての絶頂であった。




