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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「誑魁跋扈の予定調和」編
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584話 「全体試練 その2『二強、サナとベルロアナ』」


 技はユキネに直撃。


 咄嗟に刀でガードしたが、そのまま押し込まれて戦気の刃が『獣鎧』を切断。



「す、すごぃ……この痛み、すごぃいいい!」



 本体であるユキネも肩から腹に大きな裂傷を負い、魔石獣が生命維持を最優先にしたことで能力も解除される。


 もし融合化していなければ身体ごと真っ二つだっただろう。もちろんそれを見越して威力を調節しているが、力の差は歴然だ。


 がしかし、その瞬間。


 数メートル背後に気配を探知。


 『彼女』はすでに攻撃態勢に入っており、アンシュラオンの背中を目掛けて剣を振るっていた。



(相棒はアイラか。なるほど、考えたな)



 ユキネとの戦闘中に背後から急接近していたのはアイラだった。専用武器であるシミターもすでに『破邪の剣光』のスキルで『聖剣化』している。


 それ自体はいい。彼女も日々成長しており、魔石の力を上手く引き出せている証拠だ。


 問題は、あの暗闇の中でも正確にこちらの位置を捕捉していた点だろう。


 これはアイラの『ユニゾン型の能力』を生かした戦法で、ユキネとリンクすることで『魔石の共有』を行った結果である。


 お互いの魔石同士で力を貸し合う『魔石共鳴』に関しては、翠清山で小百合とホロロが実際にやっていたが、これには魔石の種類や相性がもっとも重要な要素となっていた。


 アイラの魔石も『結界型』ゆえに同じく結界型のユキネとの相性は抜群。さらには補助型の力を使って思考まで共有すれば、真っ暗な結界内でも自在に動くことができるわけだ。


 また、アイラの能力を併用すれば敵側の術式武具や術符を無効化できるのも強みだ。相性によっては格上の実力者すら一方的に狩れるだろう。


 が、こうして晒されてしまえば、ユキネとリンクしていようが問題はない。


 するりと剣撃を避けつつ、尻を思いきり引っぱたく!



「あいたーーー!」



 アイラは空中で何度も回転しながら尻を地面に打ちつけて着地。


 真っ赤に腫れ上がった尻の痛みに悶絶して動けない。彼女もここでリタイアだ。


 とはいえ、アンシュラオンの背後を取ったのだ。素晴らしいコンビネーションである。



(ユキネさんとの姉妹コンビは、まさに原点にして頂点か。基本はこの形が最適かもしれないな)



 アイラに関してもいろいろと試している最中だ。


 唯一相性が悪いのは、サリータのような防御型との組み合わせだろうか。単純にアイラが脆すぎるので、いくら能力を共有しても攻撃を受ければ落ちてしまうのだ。



「もらったよ!」



 続いて果敢に飛び込んできたベ・ヴェルが、攻撃の打ち終わりを狙って鬼重爪で攻撃を仕掛けてきた。


 だが、アンシュラオン相手に真正面からは圧倒的に分が悪い。


 逆にカウンターで腕をはたいてやると、その反動で自分の爪が顔面に当たって鼻血を噴き出す。



「練度の差を考えろ。上位の戦いでまぐれ当たりは無いぞ」


「ちっ、さすがだね! でも、あたしにはこれしかないのさ! とことん攻めるよ!」



 ベ・ヴェルは自らの鼻血を舐め取って、ひたすら連撃を仕掛けてくる。


 彼女の能力は血を媒介にして強力なバフをかけるものだが、相手に当たらない以上は自分の血を使うしかない。


 わざと自身の爪を身体に食い込ませて魔石獣に血を吸わせ、真っ赤な『赤鬼』に変化。ステータスが急上昇したことで攻撃はさらに苛烈になる。


 されど、どんどん減っていく血に焦りを感じるのが人の性というもの。


 ゲームでも残りゲージが目に見えて減っていくと冷静な判断力を失い、攻撃一辺倒になって精度が下がっていく者を何度も見てきた。


 それが雑魚相手ならばともかく、冷静に状況を分析する上位の武人が相手では隙だらけ。


 アンシュラオンは回避に専念してさらに焦らし、ベ・ヴェルが自滅するのを待つ。



「息が上がっているぞ。そろそろ限界か?」


「はぁはぁはぁ! くそおおお! 当たれ当たれ当たれぇええ!」


「一度下がることも覚えろ。最低でも二人がかりでこい」


「くっ…そおおおお!」



 結局はスタミナ切れで動きが鈍ったところを狙い、因子レベル3の魔王技である『凍流波とうりゅうは』を使って凍らせる。


 錦熊と違って人喰い熊は寒さに弱い傾向にあるため、こうして消耗させればバフも切れて戦闘継続が難しくなる。これで彼女もリタイアだ。


 ベ・ヴェルの誤算はサリータが早々に離脱したことだろう。本来ならば壁役が相手を抑えている間に力を溜め、機を見て一気に押し込むのがアタッカーの役割だ。


 ただし、これも逆に考えれば、まだサリータ以外と連携が取れるほど練度が高くないことを示している。


 仮に同じアタッカーのマキに合わせて挟み撃ちにできれば、もう少しまともな攻撃になっただろう。


 が、出足で遅れてしまったので置いて行かれたのだ。これも状況判断の稚拙さが原因であり、経験不足のせいといえる。(マキはキャロアニーセたちと訓練していたので経験値が高い)



(それぞれに長所はあるが隊としての総合力は低い。まだ黄劉隊には及ばないか)



 単体ならば黄劉隊の面子より強いものの、連携を含めれば彼らには及ばない。


 できればコウリュウといった上位の武人を隊だけで倒せるようになれば、アンシュラオンとしても動きやすいのだが、なかなか上手くはいかないものだ。


 しかし、唯一これに対抗できる者たちが【二人】いる。



「わたくしはまだやれますわ!」



 力が残っていたベルロアナが向かってくる。


 盾では押し負けるため、今度は長剣に切り替えて戦弾を切り裂く方針に変更したらしい。


 だが、高速発射される戦弾に対処できずに、いくつも被弾。



「動きが遅いぞ。胸が重いのか? もっと因子を引き出せ」


「くううっ! はぁああああああ! まだまだああああ!」



 ベルロアナの本領は、まさにここからだ。


 攻撃を受け続けたことで目が覚めたのか、ようやくエンジンがかかってきた。


 金獅子十星天具が黄金色に輝くと、溢れ出る光が身体にまとわりついていく。


 手足には爪、身体には体毛を模した鎧に、頭部からは『たてがみ』のごとく黄金の毛が逆立って宙になびく。


 翠清山でも起こった『金獅子化』現象である。


 原理としてはサナたちの融合化に近いもので、おそらくは秘宝に金獅子の力が込められているため、それを引き出すことで合体現象が起きるのだと思われる。


 こうなったベルロアナは、ディングラスの象徴である金獅子そのものだ。


 強引に腕で戦弾を薙ぎ払いながら、突っ込んで剣撃を見舞う。


 アンシュラオンはそれを真正面から迎撃。


 戦刃で対応するものの、相手のほうが威力が高くて刃が抉られていく。



(あの時のおっさんと同レベルのパワーか。身体能力も上がっているし、さすがは五英雄筆頭の因子だな。だが、それは借りものの力だ)



 その火力は魔石を解放したガンプドルフに匹敵する。


 この状態になると初代ディングラスの戦闘経験値も共有できるため、さきほどとは比べ物にならない練度で攻撃を仕掛けてくる。


 しかしながら、これが魔石と同じならば弱点も同じ。


 アンシュラオンも卍蛍を取り出し、高出力の剣気を放出して対応すると強引には圧せなくなった。


 それを続けていくと徐々にメッキが剥がれていく。



(身体が…ついていかない! 反応が遅れます…わ!)



 ベルロアナの弱点の一つは、魔石自体が武器である点だ。


 それゆえに迎撃されて大きく武器が弾かれてしまうと、魔石との結合にわずかな乱れが生じて反応が鈍くなり、強化が解ける危険性も内包している。


 事実、アンシュラオンの本気の一撃を受けて剣を手放しそうになった際、波動が揺らいで金獅子化が解けそうになった。


 多少離したからといって簡単に解けるものではないが、万全の力を発揮するためには常に持っている必要があるわけだ。


 こうなると致命的な弱点にも思えるが、解決策は簡単だ。



「ベルロアナ、その秘宝が『補助具』であることを忘れるな」


「補助具…ですの?」


「そうだ。そいつは『覚醒型』の魔石だ。つまりは、お前が本来持っている力を『恒常的に引き出せるまでの補助輪』にすぎない。その段階に至れば、秘宝はただの便利な小道具に成り下がる」



 この秘宝は聖剣でもなんでもなく、あくまで初代が子孫に向けて残した『トレーニング器具』にすぎない。


 サナたちに与えた魔石も同じで、付与や強化といった括りはあるものの、テラジュエル化した魔石は総じて『覚醒型』に変化する。


 覚醒型の最大の特徴は、当人が持つ潜在能力を引き出せることだ。一度引き出した因子や身体能力は、封印でもされない限りはけっして失われることはない。



「与えられる力だけに頼らず、それに追いつけるようにしがみつけ。お前には才能がある。ここまでオレと打ち合えるやつなんて、そうそういないぞ」


「わかりました―――わ!?」



 そんなベルロアナを遠慮なく殴り飛ばすと、今度はサナに向かう。



「サナ、もっと力を引き出せ。身体能力だけじゃなくて雷の力を上げるんだ。お前の中にはもっと強い雷が宿っているはずだ」


「…こくり!」



 サナの魔石は覚醒型だが、青雷狼が生み出す雷も大きな力になっているので、その意味では付与型の効果も併せ持つ。これは魔石獣の力だ。


 ただし、覚醒型であるということは、この雷もサナがいずれ自身で発することができるようになることを意味する。


 彼女の速度が雷によって上がっているとなれば、雷の威力が向上すればさらに速くなるのは道理だ。


 サナが魔石にアクセス。さらに強い力を要求する。



―――〈グルルルッ!!〉



 青雷狼の唸り声とともに雷の出力が上がっていく。


 この状態では青雷の域を出ない。アンシュラオン相手に青雷では勝ち目はないだろう。


 だが、魔石の中に新しい鼓動を感じる。


 それはサナの中に眠っている膨大な力の源泉であり、本来のあるべき姿。



「っ―――!」



 サナの周囲に『黒い雷』が交じり始めた。


 まだ青い雷が七割、黒い雷が三割程度だが確実に出力が上がっている。


 サナもその圧力に負けないように全身の戦気を燃え立たせて耐えていた。



「いい調子だぞ。力に呑まれないように維持しながら、そのまま黒雷を操ってみせろ。お前の本当の力は、その黒い雷のほうだからな」



 サナが今後どうやって強くなるかの答えも簡単だ。


 『グラサナ・カジュミライト〈庇護せし黒き雷狼の閃断〉』はその名の通り、本来の姿は『黒い雷狼』である。


 翠清山で人喰い熊相手に魔石が発動した際、モグマウスを喰らうことで黒雷狼となったことがその証拠だ。


 今はモグマウスを吸収していないのでエネルギー不足であるが、『ファイヤー・ジンウルフ〈赤なる刃の燃ゆる狼〉』の魔石を喰らって融合したことで、その分の出力、従来の倍の力を扱うことができるようになった。


 赤刃狼は同じ狼型であり、小百合やホロロから無理やり奪ったものとは違って相性は抜群だ。


 サナが震える手を向けて、黒と青が入り交じった『黒青雷』を放射。


 それらはアンシュラオンの戦弾を易々と破壊し、かすかに触れた地面すら大きく破砕しながら突き進む。


 あまりの威力の強さに青雷のほうが負け、大きく軌道が逸れて当たりはしなかったが黒雷の力は見ての通り強大だ。



「よし、融合化も試してみろ」


「…こくり! …ぐぐ!」



 俊敏な青雷に比べて黒雷は『重い』らしく、その点でかなり苦労したが、サナの身体がこれまた青七割、黒三割の狼型の鎧に包まれる。


 立っているだけでバチバチと青と黒の雷が荒れ狂い、大気を伝って激しいプレッシャーが伝わってくる。


 荒れ狂っている段階で制御が不安定である証拠なのだが、それが逆に防御力を上げる結果となり、アンシュラオンが放った戦弾も到達する前に霧散してしまうほどだ。


 その状態で駆け出せば、こちらも今までの倍に近い速度で疾走!


 一瞬でアンシュラオンの懐に潜り込むと、その雷爪を振るう。


 アンシュラオンも『蒸滅禽爪じょうめつきんそう』を使って迎撃するが、黒雷が含まれた爪は触れたものを抹消する力を宿す。


 両者の爪が激突。


 蒸滅禽爪が砕かれてアンシュラオンの手から鮮血が舞う。


 手加減はしていない。高出力モードで本気で技を展開している。それを強引に打ち破って貫いたのだ。


 しかも三割の力でこれだ。十全な力を発揮すれば恐るべき力となるだろう。



「いい感じだぞ! 新しい黒千代にもまとわせてみろ!」


「…こくり!」



 真黒千代にも黒青雷が絡みつき、その力を劇的に上げていく。


 懸念されていた刀身の強度も黒雷を想定して作られているので、今のところ焼けつく様子もない。実に見事な出来栄えだ。



「オレも全力の剣気でいくぞ! お兄ちゃんと勝負だ!」



 そのまま真卍蛍で斬り合う。


 両者の刀身がぶつかるたびに、迸る雷と剣気の火花で周辺の大地が蒸発していく。


 技量と腕力の違いでサナが押される場面が多いが、威力ではけっして負けてはいない。ほぼ互角だ。



(素晴らしい力だ。サナが大人になった時が楽しみになる。もしすべてが黒雷になれば決戦モードのオレにも追いつけるかもしれないな)



 未来のサナに想いを馳せて思わずにやけてしまう。


 だが、やはり黒雷は消耗が激しい。


 しばらくすると魔石が明滅を始めてエネルギー切れを訴える。



「魔石を喰ってみろ。戦いながら補給をするんだ」


「…こくり!」



 サナが腰紐を引っ張ると、そこには大量のジュエルが固定されていた。


 これは緊急時のエネルギー補給のための魔石で、以前小百合が実験で喰らっていたものと同じである。


 中には討滅級のジュエルもあるが、ほとんどが根絶級以下の魔石なので値段的にもそこまでのものではない。


 それを―――ジュルル!


 サナの魔石が雷を通じて他の魔石のエネルギーを吸収。ほぼ一瞬で飲み干してしまう。


 それによって明滅は多少和らいだが、所詮は比べ物にならないクズジュエルたちだ。数度剣撃を放っただけで再び明滅が激しくなり、あっという間にガス欠に陥る。



「…ふー、ふー!」


「あー、それくらいが限界か。やっぱり狼の魔石じゃないと駄目だな」



 あれだけのジュエルを喰らっても延長時間は、およそ一秒といったところだろうか。それだけ黒雷が使う力が強いのだ。


 サナの融合化も解けてしまったので、ここで終了。


 とりあえずアンシュラオンに手傷を負わせるという目標は達したため、試練は合格となる。



「みんな、よくがんばったな。成長が見られて嬉しいぞ」


「アンシュラオンが強すぎて敗北感しか残らないさね。どうしてホロロはいないのさ」



 ベ・ヴェルが文句を言うが、単純にホロロにも同じ苦しみを味わわせたいだけだと思われる。


 とはいえ、彼女の場合は負けても喜ぶと思うが。



「ホロロさんと小百合さんこそ本当は戦闘要員じゃないんだぞ。彼女たちはサポートの援護要員だ。それを忘れるなよ。まだまだお前たちには強くなってもらわないと困る。最低でも聖剣を持たないガンプドルフくらいは倒せるようにならないとな」


「師匠、それはさすがに無理では…」


「泣き言は聞きたくない。お前らに求めているのはそのレベルだと理解しておけ。あのおっさんは、そのうえで聖剣も使うし魔人機にも乗るんだ。戦艦に乗って指揮も執って、オレたちと政治的な交渉もする。それと比べればたいしたことはないだろう。お前たちは、ただ戦えばいいんだからさ」


「は、はい! がんばり…ます……。うう、比べられる基準が高すぎる…」



 実際にDBDとの演習でガンプドルフの強さを見ているサリータは、アンシュラオンが本気であることを知って絶望する。


 が、サナがあれだけ強くなる可能性を秘めているのだ。その補佐をするのならば、この程度の課題はクリアしてもらわないと困る。



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