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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「誑魁跋扈の予定調和」編
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583話 「全体試練 その1『一対全』」


 アンシュラオンたちは再び荒野に出て鍛錬を継続。


 いつもの基礎鍛錬と個別練習が終わると模擬戦に入るが、時には『全体試練』が行われることがある。



「ほらほら、どうした。もっと全力で盾を展開させろ! 一メートルも前進していないじゃないか!」


「ぐううっ!」



 アンシュラオンの戦弾がサリータの大盾を圧していく。


 今の彼女は完全武装および魔石を全開にしているので、すでに融合化を果たしたフルパワー状態である。盾も竜盾の上から銀盾を被せた強化版だ。


 そうであるにもかかわらず、戦弾が当たった銀盾には大きな亀裂が入る。


 そのたびに力を供給して直しているが、攻撃が途切れないので、どんどんこちらの力が削られていく一方だ。


 アンシュラオンの言葉は比喩ではなく、本当に一メートルも進めていない。



(なんという威力と圧力だ! 覇王技をこの距離で防ぎきれないとは!)



 全体試練が始まったのは、互いがおよそ三百メートル離れてからだった。


 この距離は一般的な覇王技が届くギリギリの間合いであるが、当然ながら距離があればあるほど力は減衰していく。


 仮に敵が通常の戦士だったならば、あの場所から放った戦弾など牽制にすらならない。簡単に弾くことができたはずだ。


 サリータも最初は距離があるので油断していたが、一発目の戦弾を受けて銀盾が砕け散ったことで嫌でも現状を思い知ることになったのだ。



(壁役の前衛が進まなければ後ろの味方は何もできない! リスクを承知で前面に力を集中しなければ!)



 サリータは『強盾』を使って前方を最大強化。


 強盾は戦艦の副砲すらガードできるといわれるが、アンシュラオンの戦弾は放出維持のレベルが非常に高いので減衰率が低く、速いうえに質量もあるため威力も高い。


 高出力モードで放てば、ほとんど戦艦の主砲に近い威力を有していた。


 さらには常に五つ以上の戦弾が襲いかかり、狙いは非常に正確で緻密。


 的確に同じ個所に当ててくるので、ついに『赤昂せきこうの竜盾』にも大きな亀裂が入ってしまう。


 だが、アンシュラオンの攻撃は緩まない。それどころかますます苛烈になっていく。



「油断するな。攻撃が真正面からだけとは限らないぞ」


「っ―――!」



 大きく外れたはずの戦弾が弧を描いて上空から襲いかかってくる。


 咄嗟に対応して『円強盾えんきょうたて』で全方位をカバーするものの、一発二発は耐えられても真横から抉るように飛んできた戦弾が直撃。強盾の壁を打ち破る。


 それは防御力でかろうじて耐えきったが、次に放たれた一撃が『足場』を破壊。


 完全に体勢が崩れたところに、とどめの一撃が炸裂!



「うああああああああ!」



 膨大なエネルギーの爆発を受けてサリータが吹っ飛ばされる。


 地面に強く叩きつけられた衝撃で盾と鎧が砕け、魔石獣も力を使い果たして消え去った。


 今の彼女ならば錦王熊の突進でもガードできるだろうが、ただの戦弾の連射によってあっさりと倒されてしまう。



(サリータの弱点は、まさに長所の反対。高い防御性能は厄介だが、それ以外の対応手段がないことだ。しかも盾は前面において最大の力を発揮する都合上、それ以外からの攻撃には脆い。スタミナもまだまだ足りないな)



 サリータの盾技術はまだ甘い。前面以外からの攻撃では防御性能が半減するのも仕方がない。


 また、基本的に突進しか攻撃手段がなく、銀の飛弾や単発式爆破銃はあるものの、射程距離は百メートルあるかないかだ。このように遠距離から連続して攻撃されれば、いずれは倒されてしまう。


 そして、この戦いによって、本当に敵が砲弾の嵐を見舞ってきたら彼女では耐えられないことが証明される。


 もともと生身の人間が砲弾を受けること自体が稀だが、DBDの重装騎士たちはその中でも必死に生き延びてきた。


 それと比べるとサリータは覚悟と経験が足りない。潜った死線が少なすぎるのだ。



(翠清山の戦いもそれなりにハードだったが、おっさんたちが経験したものと比べるとたいしたことはないだろう。火怨山もあんなもんじゃないしな。この試練ではそれを理解してくれればいい)



 今回の試練の課題は、主要メンバー全員でアンシュラオンに『手傷を負わせる』こと。最低でも出血を伴うダメージをわずかでも与えることだ。


 それがいかに困難であるかは自分がよく知っているが、それくらいの難度でなければ必死にはなれないだろう。


 ともあれ、これでサリータは早々に脱落。


 壁となる前衛がいなくなってしまえば、即座に他の味方が危険に晒されるのがチームというものだ、


 次々と飛んでくる戦弾が至る所で爆発し、隊は大パニックに陥っていく。



「サリータ! やられるのが早すぎさね!」



 こちらも完全武装のベ・ヴェルが必死に戦弾をよけている。


 が、全力のサリータでも耐えられない威力の戦弾の雨だ。爆発の余波だけでも防具が焼け焦げて手傷を負ってしまう。



「ちっ、このままじゃジリ貧だよ! 突っ込むしかないさね! ユキネも援護しな!」


「まだ射程外よ! こんな中に飛び込んだら死んじゃうわ!」


「じゃあ、どうすればいいんだい!」


「そもそもアンシュラオンさんを相手にする段階で頭がおかしいのよ! しかも実戦モードだし!」



 アンシュラオンが『試練』という言葉を使う際は手加減をしない。全力ではないが一定のルールの中で本気で潰しにくる。


 それを知らなかったベ・ヴェルたちは、今ようやく試練の怖ろしさを体験しているというわけだ。いつもの模擬戦だと思っていたので顔が引きつっている。


 ただし、今の戦力において壁役になれるのはサリータだけではない。



「次はわたくしが行きますわ! はああああ!」



 ベルロアナが金獅子十星天具を大盾に変化させて飛び出す。


 彼女も金色の鎧を着た完全武装であるが、以前翠清山で着ていたものとは異なり、焔紅商会によって打たれた新作である。


 前に着ていたものも先祖から伝わる強力なものだったが、模擬戦で壊したら困るので、こちらで生産されたものを使っているわけだ。


 ちなみに金メッキ加工なので攻撃を受けると色が剥がれてしまうが、炬乃未の合成金属を使うことで十分な防御力を誇っている。



「なんて圧力ですの! でも、これくらいならば!」



 ベルロアナは戦弾に撃たれながらも強引に突進。


 何度も爆発に呑まれてはダメージを負うが、その歩みは止まらない。


 そして、ついにアンシュラオンに肉薄すると、勢いのままシールドアタックを仕掛ける。



(さすがの耐久性だな。サリータとの差はタフネスの度合いか)



 単純に『硬い』という意味ではサリータのほうが頑強だ。


 しかし、ベルロアナの場合は攻撃を受けても耐えきってしまう肉体の強さがある。実際に今も『我慢』して踏ん張っていただけだ。


 評価すべきは、この戦弾の嵐の中でもそれができることだ。こういったタフネスさが、まだサリータには足りない要素である。


 しかし、忘れてはいけない。


 戦士の本領は接近戦にこそある。



「力押しだけでは勝てないぞ。お前よりも力の強いやつは大勢いるんだ。戦気の出力が高いってことは、それだけパワーも上がるからな」



 アンシュラオンが真正面から迎撃。


 ベルロアナの盾に拳を叩きつける!


 覇王技、『赤覇・巨進圧闘拳きょしんあっとうけん』。


 闘気を拳に集め、肥大化させてぶん殴る因子レベル5の技で、大きな体躯の敵に有効な打撃技だ。



「きゃあああ!」



 さすがの彼女も自身を超える威力の攻撃に晒されれば耐えることはできない。


 闘気の拳で殴られて、抉られた大地ごと真横に吹っ飛んでいく。



(とはいえ、闘気でないと簡単に止められない段階でヤバいんだけどな)



 秘宝を使ったベルロアナは因子レベルも向上している。受け流すことは容易だが、真正面から叩き潰すとなれば闘気を使うしかない。


 それでも弾き飛ばすのが精一杯。


 ベルロアナはすぐさま立ち上がり、再度こちらに向かってくる。



「まだまだぁあああ!」



 戦気の質も日々の鍛錬で劇的に良くなっているので、その耐久性はさらに増していた。さすがは才能お化けである。


 が、アンシュラオンがベルロアナに対応しようとした瞬間。


 今度は死角からサナが飛び込んできた。


 実はベルロアナが走り出した時には戦弾の爆発に紛れて、その真後ろにぴたりと張り付いて身を隠していたのだ。


 そして、彼女が吹っ飛んだ瞬間に飛び出してアンシュラオンの背後に回った。サナらしい見事な作戦である。


 ただし、その動きはすでに見えていた。



(たしかにサナは速い。が、おっさんがそうであったように、それ以上の速度と体術で対応すれば問題はない)



 アンシュラオンは足に命気を展開。向かってくるサナに対して滑るように移動して距離を取る。


 スピードはサナと同じにしてあるが、運動性はこちらのほうが遥かに上。


 摩擦を無くしたことで前後左右に自由に動けるので、ヌルヌルした動きで彼女を翻弄する。


 サナもジグザグに直角移動する雷の動きで追いつこうとするが、連続でやればやるほど、どうしてもその分だけスピードと威力が落ちてしまう。


 アンシュラオンは勢いが弱まった刀を軽々と戦刃でガードしていなし、体勢が崩れたところを蹴り飛ばす。


 サナはギリギリで防御に成功して着地するも、そこに戦弾が飛んできて被弾。吹き飛ばされて地面に叩きつけられる。


 幸いながら砕けた陣羽織が身代わりになって衝撃を吸収してくれたが、大きなダメージを受けてすぐに動くことができない。


 アンシュラオンは追撃の構え。ここで攻撃されればサナはリタイア確定だ。



「サナ! 今助けますわ!」


「お前は動きが単調すぎる」



 ベルロアナが突っ込んでくるが、再び巨進圧闘拳で殴り飛ばす。


 周りの援護がなければベルロアナも恐るるに足りない。サリータ同様、動きが止まったところを戦弾の嵐で釘付けにすればいい。


 いくらベルロアナがタフとはいえ、こう何度も直撃を受けていれば次第にダメージは蓄積。


 ピシッという音が響き、金獅子十星天具に小さなヒビが入る。



「こ、壊れてしまいますわ! 誓いの証が!」



 と、ベルロアナは慌てているが、あの秘宝は修復能力があるので放っておけばすぐに直るし、持ち主の生体磁気を吸収すればさらに修復は早まる。


 一度彼女が寝ている隙にファテロナの許可を取って折ってみたが、勝手にうねうねと動いてくっついてしまった。あの程度の破損は問題ないだろう。



(いまだにあの金属が何かよくわからないんだよな。本当に【オリハルコン】なのか?)



 炬乃未が調べたところ、秘宝に使われている金属は未知のものであることがわかった。


 自在に変化できる性質から、彼女いわく『オリハルコン〈黄金の羊〉』ではないかと推測している。


 オリハルコンはよく伝説上の金属としてファンタジーに出てくるが、この世界では『半有機的物質』と呼ばれるもので、名前の通り有機的な側面と無機的な側面を併せ持った非常に希少な金属である。


 その製造方法と用途はまだわからないことが多く、噂によれば神機の装甲にも使われているらしいので、それだけでも価値が高い。(だから神機は修復能力が高い)


 現在では手に入れることが難しいため、一キログラムもあれば莫大な資産が手に入るともいわれている。



「二人が作ってくれた時間を無駄にはしないわ!」



 ベルロアナを釘付けにしていると、猛ダッシュで飛び込んできたマキが『烈火・鉄華流拳てっかりゅうけん』を放つ。


 今回は全体試練なのでマキも参加しているが、アンシュラオンに対して並の攻撃は通用しない。最初から全力の攻撃を放つことは正しい選択だ。


 が、たしかに当たれば必殺の一撃ではあるものの、そうであるがゆえにどうしても大振りになってしまう。


 アンシュラオンはマキの拳を軽々とかわし、カウンターの一撃を腹に叩き込む。



「ぐはっ…!」



 強烈な打撃を受けてマキが悶絶。


 ついでに篭手を蹴り飛ばしてやれば、その衝撃で鉄が流出して技がキャンセルされる。


 『烈火・鉄華流拳てっかりゅうけん』の弱点は、相手に流し込むために鉄を溶かした状態で維持するので、その間は防御力が低下することと、流鉄の管理が難しいことだ。


 こうやってかわされてカウンターを受ければ、いつも以上のダメージを負って鉄も流れてしまう。


 かといって防御に鉄化を使ってしまうと肝心の攻撃が弱くなり、決定打を失ってジリ貧になる。



「力の集約と発動がまだまだ甘い。通常の拳打と同じ速度で鉄を流し込めるようにならないと上位の武人には通じないよ。ただでさえオレは的が小さいんだ。簡単には当たらないからね」



 アンシュラオンは戦弾を撃ちながらでも身体を自在に動かせる。


 戦気を完璧に操っているので技の発動速度が異様に速いからだ。


 その意味でマキの課題は、やはり鉄化をいかに素早く操作するかである。そのためには力をもっと使いこなす必要があった。



(逆にそれ以外の欠点はあまりない。スピードとパワーに優れたアタッカーは、ただそれだけで強いからな)



 もしマキがアンシュラオンと同レベル帯にまで到達すれば、自分以上のパワーを持つことができるだろう。それだけでたいていの敵は倒すことが可能だ。


 ガンプドルフ同様、戦いにおいては火力こそ正義。倒せる武器があることは大きな強みなのである。



「影から失礼!」



 マキが突っ込んできたことで乱戦に突入。


 今度はファテロナが影から出現し、血恕御前を足に突き刺そうとしてくる。


 が、全方位を警戒していれば対応は容易。


 円の動きで紙一重でかわすと、地面ごと蹴り上げてファテロナを宙に飛ばして戦弾を撃ち込んでやる。



「あっ…これ死ぬやつ」



 死を感じ取ったファテロナは戦気を爆発させて緊急回避で離脱するも、足に被弾して地面に墜落。


 相変わらず防御は紙装甲なので、あの一発で足の肉が吹き飛んでしまう。


 暗殺者が速度を奪われれば、もう役には立たない。影の中に逃げて早々に戦線離脱だ。


 彼女の課題はすでに述べたので特筆すべきことはない。相手が悪すぎるだけだが、上位の武人と戦うには単純に力不足である。


 だが直後、視界が黒に染まる。


 どうやらファテロナは囮だったようで、この隙にユキネが接近して能力を発動させていた。



(うーん、本当に真っ暗だ。でも、これはこれで連携に問題が出るよな)



 ユキネの『幻麗月げんれいげつ』は半径百メートル程度を自身の狩場にするもので、その中でこそ最大の能力を発揮する。


 極めて強力ではあるものの当人以外は内部が見えないため、同士討ちを怖れて仲間も手が出せないのが欠点だ。


 なれば当人が敵を倒せばよいのだが、アンシュラオンは至る所から襲ってくる『幻麗斬げんれいざん』をすべて迎撃。


 手と足に戦刃を展開して、百に及ぶ斬撃を軽々と打破してしまう。



(嘘でしょ! 見えないし感じないはずなのに、どうやって全方位からの攻撃を防ぐの!?)



 達人のマタゾーでさえ、まったく反応できなかった技だ。平然と対応してしまうほうがおかしい。


 ただし、これはあくまで斬撃なので、威力を出すためには「振る」という動作が必要になる。


 ユキネ自身は刀を振っていないが、スキルとして力が発動するまでの時間にわずかな猶予があるのだ。アンシュラオンほどの超人ならば対応は容易である。


 また、結界内において通常の波動円は意味を成さないが、無限抱擁といった濃密な戦気を展開すれば体表はカバーできてしまう。


 そして、こうして斬撃を防がれてしまえば、攻撃の強弱によって距離を測られて反撃の一撃を受ける羽目になる。


 アンシュラオンが手刀を宙に繰り出すと戦気の刃が出現。


 覇王技、『空斬衝くうざんしょう』。


 以前、人喰い熊相手に使った因子レベル4の『瑛双空斬衝えいそうくうざんしょう』の片手版かつ下位技の因子レベル2の技だ。


 下位技はカスタマイズが楽なので、三十メートルほど伸ばして射出してやれば当てることはそう難しくない。



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