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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「白い魔人と黒き少女の出会い」編
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58話 「領主登場、深まる対立」


「じゃあ、そういうことで」


「ま、待ちなさい…待って……」


「最初より元気がないじゃないか。どうした、イタ嬢様」


「イタッ!? いたい、いたい、いたい!! どうしてなのか、その名前はすごく痛いですわ!!!」


「お前の素敵なニックネームだろう? 街ではお前のことをみんなそう呼ぶ。しょうがない。スレイブを友達にして自己満足に浸っているやつだからな。そりゃ引くわ。ドン引きだ」


「ひいっ!!! 嘘、嘘よ!!! 知らない! そんなの知らない!」


「さよなら、イタ嬢様。クイナちゃんと仲良くな。その子は頭がいいから、ちゃんとお友達ごっこに付き合ってくれるだろうさ。二度と会うことはないだろうけど元気でな」


「ま、待ちなさい! あなたは、あなたはその子をどうするつもりなの!?」


「決まっている。オレのものだから好きなようにする。一緒に寝て、お風呂に入って、ご飯食べて、ちゅっちゅして、ナデナデして、抱っこするんだ」


「わたくしより最低ですわ!!! なんですか、それは! ただの変態行為ではありませんか!!!」


「お前と一緒にするな。愛情を確かめ合う共同作業だ」


「一方的でしょう!!」


「そんなことはない。お前のように一方的に人形にはしない」


「いいから、クロミを放しなさい!」


「はっ? クロミ?」


「その子の名前よ! 黒いからクロミ。いい名前でしょう?」


「壊滅的なネーミングセンスだな」


「あなたには聞いていないわ! クロミ、こっちにおいで!」



(何を言っているんだ。懐くわけがないだろうに)



 と、アンシュラオンが思ったとき、腕の中にいたサナがもぞもぞと動く。降りたそうにしている。



「なんで…ああ、そうか! スレイブ・ギアスか!」


「クロミは私と契約しているのよ! 命令には逆らえないわ!」


「お前、友達に絶対服従を強いているのか。本気で最低だな。だから白スレイブを探していたんだな。痛い女だ」


「あなただけには言われたくないわ!! ファテロナ、捕まえて!」


「嫌です」


「嫌!?」


「お友達同士のやり取りに、メイド風情が割って入るのは道理に合いません」


「と、友達ってそういうものなの?」


「そうです。思いきり感情をぶつけ合うのです!! 激しく! 燃えるように! あああああ! こんなふうにぃいいい! ビリビリビリッ!」



 思いきりオスカルを引き裂く。



「オスカルがー! ファテロナ、言うことを聞きなさい!」


「私はお嬢様のスレイブではありません。あくまで領主様のスレイブです」


「そ、そうだけど! 私のお付きでしょう!」


「ごらんの通り、裸です」


「脱いだのはファテロナじゃないの!」


「装備もなくしたので無防備です。そういうわけですので、私はここで見ております。はぁはぁ。もっとお嬢様が苦しんでくれれば最高なんですが……泣け、早く泣け! クカカカカ」



 涙ぐむイタ嬢を観察して興奮するファテロナ。相当歪んでいる。



「いいわ! あなたにはもう頼まないから! 出あえー、出あえー! 侵入者よ! 私の七騎士、出てきなさい!!」



 イタ嬢が廊下のスイッチを押すと警報が作動。


 その音を聞きつけて六人の騎士が走ってきた。どうやら通路の東側は彼らの待機室だったようだ。



(ああ、あそこにいたやつに似てるな)



 忠犬ペーグのような魔獣の鎧に身を包んだ男たちが、息を切らせながら整列する。



「お、お嬢様! お呼びでしょうか!」


「よく来たわね、私の七騎士! そうよ、曲者よ! ついにあなたたちの出番がやってきたのよ!」


「それは…はぁはぁ、ありがたいことで…ぜぇぜぇ」


「なんで息切れしているのよ!」


「ずっと出番がなかったものでして…少し運動不足で…」


「何をやっているの! 毎日ぐーたらしているからでしょう!」


「申し訳ありません! タダ飯が美味くて、ついうっかり!!」


「ほら、さっさとあいつを捕まえて!」


「了解しました!」



 ちなみにペーグがいないことには誰も気が付いていない。



「よ、よし、みんな! ついに我々の出番だ! お嬢様のために戦うのだ!」


「お、おう! や、やろうぜ!」


「じゃあ、あれか? やるっていうなら最初はあれだろう?」


「おっ、あれか? できるかな?」


「あんなに練習したんだ。やれるさ」


「い、いくぞ! 隊列はいいな? いっせーのー!!」



 何やら七騎士、もとい六騎士が何かをやっている。どうやら隊列を組んでポーズを決めたいらしい。


 イタ嬢の護衛にと領主に雇われてから十余年。侵入者などまったくやってこないので日々肥えていき、衰え続ける自分たちに危機感を感じていた。


 何よりも、その存在意義に疑問を感じていた。


 そんな彼らにとってアンシュラオンの出現は大歓迎である。


 そして、ついに五年かかって修得した決めポーズが発動する。



「俺の名前は、韋駄天のグ―――」



 ドスッ



「私の名前は、強撃のゴ―――」



 ドスッ



「わたすの名前は、大壁のベ―――」



 ドスッ



「オラの名前は、震天のプ―――」



 ドスッ



「オイラの名前は、千軍のヌ―――」



 ドスッ



「ミーの名前は―――」



 ドスッ





「「「「「「 お嬢様…どうかお元気で―――がくっ 」」」」」」





「私の七騎士が―――!!!」




 彼らがポーズを決めている間、アンシュラオンが腹を殴って回ったのだ。


 七騎士、一度も戦闘せずに全滅である。



「ちょっと!! どうして待たないのですか!!」


「男の決めポーズなんて見て楽しいか? オレは楽しくない」


「なんなのよーーー! なんなの、なんなの、なんなのーーーー!! あなたは何なのよーーーー!!」


「だから変態白仮面だって。それじゃ―――」




―――「これは何事だ!」




「あっ、お父様!」



 アンシュラオンが帰ろうとしたとき、騒ぎを聞きつけたのか一人の男性が護衛の騎士二人と一緒にやってきた。


 領主城内に響いているので、これだけ警報が鳴っていれば気づくのは当然だろうか。



(お父様? もしかして、あれが【領主】か?)



 目の前にはヒゲを生やした五十代くらいのおっさんがいた。


 西側の貴族を意識したような豪華な赤い服を着て、頭には羽付き帽子も被っている。それだけ見れば、たしかに貴族に見えなくもない。


 が、顔はどちらかというと普通以下なので、あまり似合っているとは言いがたい。



(家の中で着るには不便そうな服だな。まあ、おっさんの服の趣味なんてどうでもいいけどさ)



 領主はいつもこんな格好をしているわけではない。今日が特別な日だからだ。


 ただ、そんなことはどうでもいいアンシュラオンにとっては、そういった趣味のおっさんとしか映らないし、同時にそれでもまったく問題ないことである。


 重要なことは、この男が領主であるということだ。



(領主か。こいつも娘と同じく、オレの物に手を出したやつなんだよな。このまま出会わなければ見過ごしてやろうと思ったが…どうするか)



 サナを取り戻したので、もうここに用はない。


 あるとすれば報復だが、イタ嬢はあまりに痛いので見逃してもいいとは思っていた。領主はすでに若干忘れていたが、今こうして出会うと少しばかりの怒りも湧いてくる。


 まずは相手の出方をうかがおうと、アンシュラオンはじっと立っていた。


 案の定、イタ嬢が助けを求める。



「お父様、この人がわたくしのクロミを奪うのよ!」


「クロミ? 何だ、それは?」


「昼間買ったスレイブですわ! 彼女がクロミです!」


「ああ、そうだったな。…あれか」



 領主は、アンシュラオンに抱かれているサナに視線を移す。


 その目には、娘に買ってあげた【玩具】、という以上の感情は見られない。



「クロミがさらわれそうなの! 助けて!」


「ベル、あいつは誰だ?」


「知らない人よ! 賊だわ!」


「まったく、この忙しい時に…たかが玩具で手間を取らせるものだ」



 領主にとっては、そんなことよりも大事なことがある。それを邪魔された怒りのほうが強かったようだ。


 加えてイタ嬢は彼にとって大事な娘。唯一の跡取りである。そのため、こういった口調になる。



「なんだお前は! 娘の玩具をどうするつもりだ! あれはわしが買ったものだぞ! この盗人が! どうやって入った!」


「盗人だと?」


「そうだ。他人の物を奪えば盗人だ。それ相応の罰が与えられるぞ。いくら子供とて罪は変わらない」



 わかってはいた。そうなると予想していた。


 だが、実際にそう言われるとイラッとするものだろう。



「そうだったな…。そういうやつだっていう可能性も十分あったな。オレも大人になったつもりだったが、ムカつくものはムカつくな。いや、相当ムカつくな、こいつは」



 ぶつぶつと独り言のように呟きながら、改めて怒りが湧き上がるのを感じた。


 領主に興味はなかったが、これによってアンシュラオンは、ただで帰るわけにはいかなくなった。



「お前が領主か。人の物を奪っておきながら、その言い方はムカつくな」


「奪ったのはお前だろう!」


「この子はオレが予約していたものだ。それを奪ったのはお前のほうだ」


「お前だと? 領主に向かって、その口の利き方はなんだ!?」


「おい、論点をすり替えるなよ。お前が奪った話をしているんだぞ」


「わしは何一つ奪ってはいない」


「スレイブ館でこの子を買っただろう。先に予約していたのはオレだ」


「それがどうした。先に金を払ったのはこちらだ。それ以前に、この都市はディングラス家が管理する個人都市だ。嫌なら出て行けばいい」


「出て行くという点に関しては、オレもそれでまったく問題ないが、所有権に関しては譲れないな。そこまで言われたら、詫びを入れてもらわないと収まりがつかないぞ」



 サナを抱きながら領主に一歩一歩近寄る。


 その気配を察して、護衛の騎士二人が前に出る。首にジュエルがあるところを見ると彼らもスレイブのようだ。


 実力的には七騎士と同等か、下手をすればそれより強いだろうか。さすが領主の護衛なだけあって上質なスレイブがそろっている。



「おい、そのスレイブは市民権を持っているのか?」


「スレイブに市民権など必要なかろう! 早くそいつを捕らえろ!」


「はっ! ただちに!」


「そうか。それを聞いて安心した」



 アンシュラオンの手が―――伸びる


 高速で放たれた一撃は誰の目にも捉えられることなく、護衛の騎士の腹に突き刺さった。


 鎧を壊し、皮膚と筋肉を抉り、さらに貫く。覇王技、羅刹だ。


 騎士も気づいた時には、すでに腹に穴があいていたという状況である。



「なっ…が……これは…!?」


「どうした? ほら、引き抜いてみせろよ」


「ぐううっ、くうっ!! ぐぐあああ、手が! 手が焼ける!!」



 アンシュラオンが戦気を放出し、腕の周囲をガードする。


 それだけで騎士はアンシュラオンの腕に触れることができず、それどころか近寄っただけで自分の手が焼け崩れていく。


 両手の指が完全に消失。もはや武器すら持てない状態に陥り、持っていた剣を落とす。



「ははは。それじゃ鼻くそもほじれないな。そんなやつを守るからだぞ。では、もう一つ罰を与えてやろう」



 アンシュラオンが軽く蹴った瞬間、男の両足が吹っ飛ぶ。


 ほとんど触れてもいないのに、戦気の余波だけで足が消え去った。支えるものが失われ、がくんと男は通路に崩れ落ちる。



「ぐっ、ひっ、ひぃいい! あ、足がぁあああ!」


「あはははは! まるで虫けらだな! どうしたんだ、おい。オレを捕まえるんじゃないのか? なあ、おい」



 倒れた騎士の頭を、足でぐいっと踏みつける。


 だが、騎士はそれどころではないようで、ただただショックを受けて悶えている。


 その様子にアンシュラオンは興醒め。



「つまらんな。もう終わりか。安心しろ、命までは奪わないさ。これからも這いずって、こいつに媚を売って生きるんだな。まあ、使えなくなったスレイブがどうなるかは知らないけどさ。ほら、早く治療しないとお仲間が死ぬぞ」



 その言葉に、慌ててもう一人の騎士が駆け寄って応急手当を行う。


 抉られた腹は焼かれていて出血は止まっている。だが、ショックのほうが酷くて、護衛の騎士はすでに失神してしまっているようだ。


 まだ生きているのは強靭な生命力を持つ武人の因子があるからだろう。そうでなければ、すでに死んでいたはずだ。



「なっ…!! これはいったい!!」



 領主は、何が起こったのか理解できていないようである。


 娘よりも若く見える背の小さな男が簡単に護衛を倒したのだ。驚くのが普通だろう。



「さて、次はお前だな」



 それから領主に向かう。



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