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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「誑魁跋扈の予定調和」編
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578話 「アイラの特性 その1『違和感』」


 ある日のこと。


 アンシュラオンが白詩宮の台所に行くとミャンメイとアイラがいた。どうやら昼食の準備をしているようだ。


 ミャンメイは料理人なのでいても問題ないが、アイラが手伝っているのは珍しい。


 それをじっと眺めているとアイラが視線に気づく。



「なにー?」


「アイラ、お前もう船降りろ」


「きつすぎワロターーーー!」


「お前、ワロタ文化がいつまでも続くと思うなよ。こんなの一瞬で消え去るからな」



 言語とは常に移ろうものである。特に現代ではその傾向が強く、すぐにまた新しい言葉が生まれるだろう。


 チョベリバ!



「というか痛すぎだよ。いきなりパンチが強いってー!」


「すまんすまん、ちょっと考え事をしていてな」


「考え事をしていて、その発言はおかしいでしょー! なんでよー!」


「いや、べつに不満があるわけじゃないんだ。ただ、お前だけやたら能力が低いなーと思っていただけだ」


「すごい失礼なこと言ってる!? 私だって、ちゃんとがんばってるよー! 最近じゃ警備だって担当しているしねー!」


「魔石の力だろう? お前の実力じゃない」


「それは言わない約束じゃんかー! 魔石との相性とかもあるんだから、これも私の力なの!」


「それはそうなんだが…取り立てて長所がないよな」


「さっきから傷つくことばっかり言ってるー! 痛い痛い!」



 ここ最近はサリータやベ・ヴェルも成長してきたことで、なおさらアイラの脆弱さが目立つようになってきた。


 もちろん魔石を使えば悪くはない。が、あまり役立たない者が少し役立つようになっただけであり、三大魔獣の魔石を使ったわりに結果は微妙。


 非戦闘員よりは明らかに強いが、戦闘要員として使うには心もとない二軍の戦力に成り下がっているのが実情だ。



「この家だって魔石の力で守ってるじゃんかー」


「たしかにお前には自宅警備員という仕事があるが、それで満足か?」


「その言い方も癇に障るよねー! 私だって外に出ていろいろやりたいんだよー!?」


「うーん、お前をどう使えばいいのか、いまいちわからないんだよなぁ」


「旦那様、アイラちゃんは役立っていますよ。こうして手伝ってくれますし、いるだけで楽しい気持ちになりますから」


「ミャンメイはいい人だよねー! 大好きー!」



 と、ミャンメイはカバーしてくれるが、今ではメイドがいるので雑用もさほどない。


 アイラ自身も白詩宮を術式攻撃から守る以外は、さしてやることがないから手伝いに来ているにすぎないのだ。



(アイラの使い道か。無理に役立たなくても、いるだけで価値があるのは事実なんだが…どうしたものかな)



 アイラはサナとの関係性からも必要な人材だ。他のメンバーとも仲良くやっているし、火乃呼の緩衝材にもなれる。


 そう思うからこそ才能を強化してやりたいと常々考えていた。


 しかし、武術の達人であるアンシュラオンから見ても、アイラには秀でたところはない。才能はあるのだが、それが十全に発揮されているとも思えない。


 暇だったので引き続き二人の様子を見ていたところ、ふと違和感に気づく。



「アイラちゃん、それ取って」


「はい」


「アイラちゃん、それ―――」


「はい」


「アイラちゃん―――」


「はい」


「アイ―――」


「はい」


「―――」


「はい」



 最初はミャンメイが指示を出して、それに一つ一つ対応していたのだが、次第にその間隔が短くなっていく。


 最後にはミャンメイが何も言わなくても、相手が求めていることを完璧に理解して先に動いているではないか。


 そのおかげで見る見る間に料理は完成する。



「アイラは普段から手伝っているのか?」


「えー? ほとんど手伝ってないよー。今日で三回目くらい?」


「そのわりには慣れていたが…料理は作れるのか?」


「んー、ユキ姉と一緒に賄い料理を作っていたくらいかなー? でも、得意とかそんなんじゃないよ。自分独りじゃ作れないし」


「ふむ…」


「では、皆さんを呼んできます。お食事にしましょう」



 お昼時になり、白詩宮の食堂に小百合たちが集まってくる。


 今はメイドも大勢いるのでテーブルに着く者たちも二十人以上。かなりの賑わいを見せる。


 普通だとメイドは別の場所で食事を取るのだが、サナの情操教育のためにも一緒に食べることを推奨している。どうせなら楽しいほうがいいからだ。


 ちなみにサナは、ホロロとテトクレアと一緒にベルロアナの館に遊びに行っているので不在だ。昼食もそちらで取る予定である。


 ベルロアナと契約してからサナはますます彼女が気に入ったようで、友達以上の本当の姉妹のように仲良くしていた。



(サナは順調に成長しているなぁ。少し寂しいけど良いことだ。と、今はアイラのことに集中するか)



「ねえ、小百合さん。アイラってどう?」


「アイラさんですか? いつも通りですけど何かありました?」


「いや、どうなのかなーって。足手まといになっていない?」


「ちょっとちょっと、本人が目の前にいるんですけどー! しかも質問が漠然すぎるじゃんかー!」


「いまだにお前のことがわからなくてな。ただ、さっきの様子を見ていて不思議に思ったことがある。午後は少し実験してもいいか?」


「うう、全然信用がないんだけどー。私のこと、もっと大切にしてよねー。貴重な美少女枠なんだからさー」


「美少女であることは認めるがな。綺麗所はたくさんいるから、それだけじゃ生き残れないぞ。もっと別のところで長所を見せないとな」


「そんなこと言われてもねー。自分のことなんて私が一番よくわからないよー」


「それはお前が馬鹿だからだ」


「きつすぎワロター! 馬鹿って言っちゃいけないんだよ!」


「じゃあ、阿呆だ」


「アホならいいかー」



 当人自体にやる気がないことが最大の問題なのだが、これはラポットからも指摘されていたので生来の能天気さゆえであろう。


 午後。


 休憩時間が終わると、アイラを小百合の事務所に連れていく。


 ひとまず机に座らせてみるが、まったくもって似合わない。


 周囲の面々が元ハローワーク職員だったこともあり、OLの仕事場に色黒女子高生ギャルが混ざったかのような違和感だ。


 ともあれ実験開始である。



「ここで小百合さんたちの手伝いをしてみろ」


「えー! 事務なんてできないよー!?」


「言われたことをすればいい。小百合さん、こいつにできることをやらせてみて」


「わかりましたー! アイラさん、ビシバシいきますよー!」


「というか、このマッチョのウサギってなんなのー!?」



 相変わらず事務所内では、小百合のウサギ(マッチョ)が働いているが、そのうち嫌でも見慣れるので抗議はスルーである。



「では、アイラさんには書類のチェックをお願いします。何か変なところがあったら言ってくださいね」


「文字を読むのは苦手なんだけどなー」


「文句を言わずにさっさとやれよ。サボったら夕食抜きだからな」


「アンシュラオンが目の前で見ていると集中できないんだけど!? もー、なんなのよー」



 ぶつくさ言いながらもアイラは仕事に取り掛かる。


 しかし、その態度とは裏腹に渡された書類をテキパキと処理し始めた。



「おい、本当に見ているのか?」


「見てるよー! 嘘だと思うなら確かめてもらってよねー!」


「小百合さん、どう?」


「問題はありませんね。まあ、最終確認ですから私がすでに目を通していますけれど」


「次はもう少し難しくしてみて」


「はい。では、こちらの計算をしてくださいね」


「えー! 計算なんてできないよー!?」



 次はチェックではなく、提出された領収証を自分で計算してまとめる作業だ。


 小百合はほぼ暗算でやっているが、ソロバンや簡易計算機もあるので時間をかければ誰でもやれる仕事である。


 が、アイラは特に機器を使うこともなく書いていく。



「ちゃんと合っているのか?」


「話しかけないでよー。わからなくなるでしょー」


「あとで確認するからな」


「はいはい、好きにしてー」



 終わった書類を確認してみるが、こちらも異常なし。


 あまりに意外な結果だったので小百合にも相談してみる。



「たしかアイラも教育を受けていないよね?」


「ユキネさんが言うにはそうですね。生活に必要な最低限の読み書きはできますが、普段から勉強している様子はありません。暗算も得意には見えないのですが…」


「ふーむ、やっぱりそうだよね…」



(アイラに何かが起きている。なんとなく想像はできるけど、もう少し検証が必要だな)



「ここはもういい。次はメイドの仕事を手伝え」


「えー! 次から次になんなのよー」



 アイラにメイド服を着させて、他のメイドと一緒に仕事をやらせる。


 最初に窓拭きをさせてみたが、あまりの手際の悪さに辟易するほどだった。



「真剣にやれよ。それじゃ効率が悪いじゃないか」


「もうっ! 後ろから話しかけるから集中できないのー!」



 その後もメイドの仕事を手伝わせてみたが、どれもが散々な出来であった。



(なぜだ? 料理や事務仕事はできて、どうしてこんな簡単なことができないんだ? わからん。こいつがわからん!)



「ご主人様、ただいま戻りました」



 ますますわからなくなったところ、ちょうどホロロがサナを連れて戻ってきた。その後ろにはテトクレアもいる。



「ああ、お帰り。サナ、どうだった?」


「…こくり、こくり!」


「そうか、楽しかったか。よかったな、ナデナデ」


「ご主人様は何をしておられたのですか?」



 ホロロの視線がメイド姿のアイラに向く。



「いやさ、アイラをどうしようか迷っていてね」


「ついにメイドに降格ですか。そうなると思っていました」


「ちょっとー!? ホロロさんも私への評価が低いんだけど!?」


「毎日遊んでいるようなものでしょう? 当然の評価です」


「痛い痛い! 言い方きつすぎー!」



 さっきも述べたが、アイラの仕事は魔石の力で白詩宮を守ることだ。が、アンシュラオンが術式を学んでからは常時結界を張っているので、実のところそれらが破られない限りは出番がない。


 なので、たまに観光区のラポット一座を手伝いに行く以外は、食っちゃ寝生活を満喫しているのだ。


 その姿は、ほぼニートである。



「お前もロリコンと一緒で太るぞ」


「私は運動しているから太らないよー! 日々踊り子の練習に励んでいるしー!」


「ホロロさん、今はアイラの実験をしているんだ。ちょっと付き合ってもらえる?」


「かしこまりました」



 今度はホロロの監視のもとで働かせてみる。



(こいつは独りだとダレるからな。これならば大丈夫なはずだが―――)



「アイラ、なんですかそれは。メイドの仕事をなめているのですか!」


「ひー! 怒らないでよー! ちゃんとやるからー!」


「アイラ、そこはもっと丁寧に」


「やってるって!」


「アイラ、あそこは―――」


「はいはい」


「アイラ」


「ほいっと」


「………」


「ふんふーん♪」



 小百合の時と同じく、徐々にホロロの指示が出る前に自ら動くようになり、ほぼ完璧に仕事を終えていた。


 これにはホロロも驚愕している。



「これは…驚きました」


「でしょ? だから不思議なんだよ。まあ、おかげでだいたいわかってきたけど」



 アイラに関してようやく一つの仮定が生まれたので、これからそれを確かめてみることにする。



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