577話 「ベルロアナとの契約、妹の友達として」
が、何を思ったのか、これにベルロアナも反応。
「そ、それですわーー! あ、アンシュラオン様は…わ、わたくしに対して真剣に向き合うべきですわ! い、妹として! 兄としてですわ!」
「それはちょっと…」
「わたくしは十六歳です! 妹としてちょうどよいはずですわ!」
「十六歳? 引き篭もっている間に誕生日を迎えたのか…。って、お前はなんでそんなに小さいんだ? アイラは十六…実質十七歳だけど普通の体型だぞ」
「そ、そんなこと自分でもわかりませんわ! 身長が伸びないのですから仕方ありませんもの!」
「うーん、そういえばサナも小さいな」
サナは推定十歳なので小さくて当然だが、六歳か七歳と言われても納得してしまう小ささではある。
そして、ベルロアナも十六歳にしては小柄だ。キャロアニーセはマキと同じか少し大きいくらいなので遺伝ではないと思われる。
とすれば、『精神年齢』が影響している可能性が高い。
その点に関してはマキも指摘。
「アンシュラオン君、女の子は心の成長とともに大きくなるのよ。ベルロアナ様も今が成長期なのだと思うわ。何かきっかけを与えられないかしら」
「きっかけか…」
「当人が言っているように妹にしてあげるとかは?」
「どうやって!?」
「形だけでもいいのよ。…そうだわ! ギアスを使うのはどう?」
「スレイブ・ギアスを? ベルロアナをスレイブにするの?」
「ギアスって『同意契約』なのよね? だったらお互いが同意できるものならば何でもよいのでしょう? 言ってしまえば『約束』もそうよね?」
「優しくいえばそうだね」
スレイブ・ギアスの本質は、民法と同じく『両者間の合意』にある。
スレイブは自分の身を対価にするのでその名が付いたが、それ以外を対価にすることは趣旨に反しない。
もう少し雇用契約寄りにいえば、サナも『妹として雇用している』わけだ。
「じゃあ、ベルロアナ様もギアスで妹として扱ってあげればいいんじゃない? ね、それで決まりよ」
「えええええええ!? 決まっちゃうの!?」
「何もしなければ先には進めないわ。ベルロアナ様もそれでいいわよね?」
「あ、アンシュラオン様が、どうしてもとおっしゃるのならば…い、いいですわよ! お、おにい……様にして…差し上げても!」
「お前のツンデレの使い道はここなのか!? ここでいいのか!? 自分を安売りするんじゃない!」
「あうあうあー! 揺らさないでくださいませー!」
「くそっ! どうしてもおっぱいに目がいってしまう! 悔しい!」
その後、すったもんだの攻防がしばし続いたが、サナの意思を尊重することで妥協。
ただし、妹ではなく妹の友達という扱いに落ち着く。
それでは何も変わっていないと思うかもしれないが、それを『ギアス』にすることが大きな変化となる。
(ベルロアナの精神は『A』もあるんだが…新型ギアスならいけるか)
さすが金獅子。普段はアイラと同じく知能低下状態なのに、その抵抗力は凄まじい。
理論上はアンシュラオンのほうが魔力が高いので問題はないが、ここまで精神が高い人間にギアスをかけるのは初めてだ。その意味で良い実験になるだろう。
「でもさ、ギアスの媒体はどうするの? ベルロアナに合うようなものは用意してないよ?」
「こ、これなんていかがかしら?」
「これってディングラスの秘宝だろう? 触ると火傷するんだよなぁ」
ベルロアナが小剣形態の『金獅子十星天具』を手渡す。
翠清山の戦いの際、触らせてもらった時は不適合者への攻撃が見て取れた。アンシュラオンだから火傷で済んだが、常人だったら腕ごと燃え尽きていただろう。
しかし、試しに触ってみたところ、今は何も起こらない。
「え? どうしてだ?」
「ベルロアナ様の心境に変化があったせいじゃないかしら? 形はともかく、これも魔石なのよね? 当人の意識状態に左右されてもおかしくないわ」
マキが触っても拒否反応は出なかった。
このことから秘宝がアンシュラオンを攻撃したのは、潜在的に残っていたトラウマが知らずのうちに拒絶反応を示したからと思われる。
現在は徐々にトラウマが消えていっているので、それが『金獅子十星天具』にも表れているのだろう。
(変なものを使って何かあっても困る。なら、これでもいいか。向こうが言い出したなら自己責任だしね)
「オレがお前を『妹の友達』と認定する。それはいいとしよう。だが、オレはお互いが平等じゃないと契約はしない。それはわかるな?」
「もちろんですわ。スレイブ契約はお互いが欠点を補い合い、長所をさらに伸ばすものですもの」
「スレイブに関する教養だけはあるんだよな…。じゃあ、お前がオレに対して与えるものは何だ?」
「そ、それは……わ、わたくしがアンシュラオン様を、お、お慕い申し上げるということですわ。さ、サナさんのお友達として! お、お兄様としてですわ!」
「それって価値があるのか?」
「ありますわ! あるべきです! それが責任というものですもの!」
「若干気になる点は残るが…うーん、まあいいか。貴重なロリ巨乳になったことで許してやろう」
謎の論理でいろいろと納得できる者は人生の勝ち組だと思うのだが、貴兄らはいかが思われるだろうか?
「ところでベルロアナ、お前はまだ力の使い方が全然なっていないな。気絶する癖も直っていないだろう?」
「うっ…」
「毎回倒れていたら守るクイナちゃんたちが大変だ。しょうがないから足手まといにならないようにオレが稽古をつけてやる。それがオレへの対価だ。いいな?」
「よろしいのですの? それではなんだか甘えてばかりいるような気がしますわ」
「そう思うのならば態度や行動で示せ。お前はサナの練習相手に最適だからな」
ベルロアナの力はサナに匹敵する。パワーでは数段上をいくだろう。
近い位置にいる二人が切磋琢磨することで強くなれるのならば、けっして悪い条件ではない。
「ほら、反対側を握れ」
「も、もうやるんですの!?」
「早いほうがいいだろう? オレは自分で術式を構築できるから機械は必要ないからな」
「そ、そうですけれど…こ、こうですの?」
「じゃあ、いくぞ。オレはお前をサナの友達として迎え入れ、サナの兄として接することを誓う。お前の幸せと健康が損なわれないように努力し、その力が暴走しないように正しく導いてやる。だから緊急時においてはオレの言うことを何でも素直に聞くこと」
「わたくしもあなた様を…お友達の…あ、兄としてお慕いすることを誓いますわ。な、何でも言うことを…聞きますわ」
二人の意思が『金獅子十星天具』を通じて混じり合い、一つの誓いとして刻まれていく。
一度だけ剣が大きく金色の輝きを発してから、少しずつ元に戻っていった。
「終わったのですの?」
「ああ、しっかりと術式は発動しているぞ」
「こういう形の契約は初めてでしたが、意外とこんなものなのですわね」
「そうだな…」
ベルロアナとの契約でも不思議な映像は見られなかった。
本格的なスレイブ・ギアス契約ではないことに加え、媒体が特殊だったからかもしれない。他の女性の場合は人生すべてをかけた契約なので、その意味でも重みが違う。
されど、アンシュラオンとの繋がりが深まったのは事実だ。
「では、次は私もお願いいたします」
「ファテロナさんも? でも、あなたはもうスレイブ…じゃなかったね」
「はい。どフリーでございます」
一番スレイブっぽいのに実はスレイブではない代表的な女性だ。彼女との契約に障害はない(一応は領主に雇われているが、別の雇用契約を結んでも問題はない)
がしかし、ここで相手の思惑に気づく。
「もしかしてオレと契約すれば強くなれるかも、とか思ってる?」
「はい。私も獣を出したいのです。こう、ぐわーっ! ガブッ!っと」
「魔石獣のこと? でも、たぶん出ないよ」
「エーーー! ナンデダヨー!!」
「あれの原理はよくわかっていないし、特殊な魔獣鉱物が必要だからね。魔石は用意できるとしても、ちゃんとしたスレイブ契約じゃないと駄目じゃないかな?」
「お願いシマスダーー! もう底が知れてルノデスー! 私の実力は完全に底を尽きました! クヤシイデスーー!!」
「いやまあ、そうなのかもしれないけど…」
翠清山で大活躍したものの、ベルロアナはともかくファテロナはこのあたりが強さの限界だ。それは当人が一番わかっていることである。
されど一方で、マキたちは劇的に強くなっていく。それに焦りを感じて思いついたのが同じ環境に身を置くことなのだろう。
なんだかんだで理由をこじつけて契約すれば、その恩恵にあずかれると思ったのだ。
「というか、絶対にキャロアニーセさんの命令だよね」
「ピューピュー、なんのことやらー。クイナがどうなってもよろしいのですか? 最近はそちらのメイドとも仲がよろしいようですが。彼女の安全のためにも契約を考慮すべきでは?」
「そっち側の女の子を人質にする意味がわからないよ。でも、たしかにクイナちゃんは不安だなぁ」
「あの…私、駄目…っ…ですか?」
「君は普通の女の子だからね。ほんと、後方支援とはいえ翠清山でよく死ななかったよ。根本的に強くなってもらわないと心配でしょうがない。何かあったらテトクレアが哀しむしね」
「申し訳…っ…ないのです」
クイナはベルロアナの援護があってようやく並以下。一般人なのだから当然でもある。
だが、彼女はすでにベルロアナのスレイブなので手の出しようがない。
「そうだな…クイナちゃんたちには新しいギアス媒体をプレゼントするよ。オレが仲介するから契約をやり直してみな」
「ありがとう…っ…ございますなのです!」
クイナたちのジュエルは、スレイブ商が扱っている一般的な緑のものだ。それをサナたちと同じく魔獣鉱物に変更してみる実験である。
彼女たちとは直接契約できないが、ベルロアナがアンシュラオンと繋がったことで何らかの変化が起こる可能性はある。
また、ゴゴート商会経由でも希少な魔石が手に入るようになったので、試してみたい魔石は少しずつ増えていくはずだ。
自ら望んでくれるのならば、こちらとしてもありがたい。
「えーと、ファテロナさんはどうしようか」
「私はアンシュラオン様と契約を結びますでゲス! それはジャスティス! ディスティニーなのです! ジミントウホウカイ! センゴシハイカラノダッキャク! イエェー!」
「こう言ってるけど、マキさんはどう思う?」
「召使契約でも結んでおけばいいんじゃない?」
「もっと好待遇をキボンヌ! 良い魔石をください」
「えーと、何かあったかな? まあ、適当に見繕ってみるよ」
「よろしくお願いいたします」
ファテロナに関しては目ぼしい魔石がなかったので、手に入るまでひとまず紫のジュエルを使って『妹の友達と一緒に暮らしている綺麗なお姉さん』というポジションにしてみた。
それがいったい何になるのか、と問うてはいけない。そういう認識でアンシュラオンと繋がることに意味がある(と考えている)のだ。
契約内容はベルロアナとほぼ同じで、強くなるために協力する代わりに、手が空いている時はこちらの依頼を受けてもらうことにした。
「綺麗なお姉さんですから、エッチなご要望も引き受けますよ。オラッ! ショジョの穴モラッテケー! セイジョウノウ、ドントコイ!」
「こら、駄目よ! それは認めないからね!」
「ぐえー! チクビハヤメロー!」
暴走するファテロナをマキが押さえ込む。
この光景も見慣れたが案外悪くないものだ。
(うちには暗殺者がいない。ファテロナさんを使えるのならば、こちらもありがたいかな)
彼女傘下の暗殺メイド隊も館にはいるので、そうした戦力も限定的とはいえ動かせるのは大きい。
ということで、無事契約は成ったが―――
「…ぐいぐい。ぺしぺし!」
「さ、サナ、またなの?」
「…こくり、こくり!」
サナがしつこく要求するので、再び両膝にサナとベルロアナが座ることになる。
今度こそ何もしないでおこうと思うも―――
「ぐ、ぐおおおお! 手が勝手にー!」
「きゃー! なんで胸を揉むのですわー!?」
「目の前にこんなものがあるから悪いんだ! オレは悪くない!」
「こ、こんなの! こんなの! もう結婚ですわ! 結婚! 結婚! 結婚ですわぁああああああ!」
「血痕? 怖いこと言うなよ」
いくらベルロアナのものとわかっていても、目の前に大きな胸があったら揉んでしまう。
それが男の哀しき宿命なのである。




