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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「誑魁跋扈の予定調和」編
574/574

574話 「トイレの販売 その1」


 翌日。


 アンシュラオンは、小百合とテトクレアを連れて馬車でホテル街に向かう。


 ホロロがサナと一緒にいて不在の際は、自然とテトクレアを連れていくことが増えていた。



(思えば自立した女性ばかりを選んできたからなぁ。これが普通の女性ってことなのかもしれない。普通も悪くないもんだ)



 マキやユキネしかり、サリータやベ・ヴェルも世間一般では珍しいタイプの女性である。戦える女性を探していたので、それはそれで目的達成だろう。


 一方のテトクレアは、セノアと同じく良くも悪くも普通。


 ただし、一度地獄を見ているので、その分だけ心に余裕があることが他の一般メイドとの違いだろうか。容姿も十分で気軽に連れていける点はメイドとして長所といえる。


 しばらくして目的のホテルに到着。


 ここは馬車のままホテル内に入ることができるため、素性を知られたくない者たちがよく利用する場所らしい。


 アンシュラオンの場合は白詩宮から来ているので素性はバレバレだが、少なくとも誰と会うかまではわからない。


 アンシュラオンが馬車を降りると、即座に一人の青年が駆け寄ってきた。


 高級服というわけではないが、小奇麗で清潔感のある服装をしている二十歳くらいの好青年だ。



「お待ちしておりました。私はゴゴート商会のオロトーンと申します。上司のニクバンドのもとにご案内いたします」


「ありがとう。こっちの二人も一緒に行っていいかな?」


「もちろんでございます」



 オロトーンに案内されて中に入る。


 このホテルは十二階建てで、最上階までの直通エレベーターはないものの八階までのエレベーターは存在した。


 それだけでも東側では珍しく、かなり高水準のホテルだということがわかる(エレベーターが途中までしかないのは安全確保と機密保持のため)


 八階でエレベーターを降りて十階まで階段で移動。その一番奥の部屋に今回の商談相手が存在していた。



「お客様をお連れいたしました」



 オロトーンがノックをすると、ものの数秒で扉が開く。



「お待ちしておりましたよ! わたくし、ゴゴート商会のニクバンドと申します! ぜひとも、はい! よろしくお願いいたします!」



 出てきたのは太った大柄な男。


 身長差がかなりあったため、彼が差し出した手は宙に浮かび、代わりにその突き出た腹がこちらの眼前に差し出される形になった。


 だが、この男にしては珍しく笑顔で対応する。



「初めまして。アーパム財団のアンシュラオンと申します」



 アンシュラオンは真上にある手を軽く掴むように握手する。


 それでニクバンドは、ようやく視線を真下に向けた。



「ああっ、これは大変失礼いたしました! 私としたことが気が逸って、なんというご無礼を!」


「お気になさらず。こんなに背が小さいなんて普通は思わないですからね。仕方ありませんよ」


「いやぁ、そう言っていただけるとありがたいものです。どうぞどうぞ、中にどうぞ! オロトーン、お茶を差し上げて!」


「はい! かしこまりました!」



 高級ホテルに見合った大きなリビングに案内され、ソファーにはアンシュラオンと妻兼秘書の小百合が座り、テトクレアが後ろに立つ。


 こうしたメイドの仕草も一回教えただけですぐに覚えてしまうのは、彼女の素直さがあってのことだろう。そこも気に入っているポイントである。


 ニクバンドもソファーに座ると、さっそく今回の件について謝罪を受けた。



「此度は性急かつ、失礼なお呼び立てをしてしまい誠に申し訳ありません。本来ならば直接伺うのが最低限の礼儀なのですが…」


「いえいえ、なんとなく事情は察しておりますよ」


「そうおっしゃっていただけると助かります」



 ニクバンドはハンカチで汗を拭きながら苦笑する。


 ゴゴート商会は、ライザックの妻の叔父が会長をしている自由貿易郡最大の大商会である。その影響力は北部や最南部にまで至り、荒野全体の経済を支えていると言っても過言ではない。


 そんな大商会が、あえてひっそりと接触してことには理由があってしかるべきだ。


 当然、その事情にもアンシュラオンは気づいている。



(なるべくライザックを通したくないんだろう。会長の姪がいるのならばどうしても挨拶をしなければならないし、その段階でライザックには筒抜けだ)



 ここでハピ・クジュネとは距離を置きたい感情が読み取れる。


 下調べではニクバンドはエリアマネージャーであり、北部における市場調査と新商品の開発を担当しているようだ。


 言い換えると、まだ発展しきれていない北部で不足している商品を調べ上げ、利益が出ると確信したものは輸出し、なおかつ南部には無い新しいものがあったら即座に取り入れるのが仕事である。


 ただし、商会内ではそこそこの地位であるようだが、ライザックを無視できるほどの権力はない。そのことからもおそらく、お忍びでの滞在だとわかる。


 もちろん個人でそんな判断はできないので、もっと上からの指示だろう。姪を無視しても当たり障りがないとなれば会長自身の可能性も高い。



(二つ目の理由は、他の競合相手にオレと接触したことを知られたくなかったんだ。だからあんな回りくどいやり方をした。商会の規模を考えれば、これも納得できる話だ)



 白詩宮に直接行ってしまうと、その情報は即座に広まり、北部にいるすべての商会の注目を浴びてしまうだろう。


 ライザックに関係する商会といっても南部の大商会であることには変わりがない。それがアンシュラオンが作ったばかりのアーパム財団と接触するとなれば、いろいろな憶測が飛び交うのは目に見えている。


 ただでさえライザックはシーマフィアを切り捨てたばかりだ。その強硬手段が一般の各商会にも及ぶと勘ぐられれば、どうしてもいらぬ騒動が起きてしまう。


 要するに、活気が減っているハピ・クジュネの商会を切り捨ててゴゴート商会に乗り換えるのではないか、と思われるわけだ。


 あるいはゴゴート商会のバックアップを受けたアーパム財団が、すべての商会を取り込んでしまうのではないかとも考えてしまう。


 それだけゴゴート商会の影響力がすごいのだが、そもそも武力をもちいて強烈に改革を行うということは、こうした誤解を受ける可能性も内包するものだ。


 その意味で武断政治は諸刃の剣ともいえる。



「アーパム財団さんは西方の地にも赴いているようですね。何か珍しいものでもありましたか?」


「趣味で探索しているだけのことですよ。魔獣しかいない地域ですから遠慮せず力を使えます」


「そこに赴けること自体がすごいのです! さすがはホワイトハンター。ぜひともお話を伺いたいものです!」



 アンシュラオンが西部に行っていることは公にされていない。


 そのためにマスカリオンに乗って移動しているのだが、ゴゴート商会はすでに情報を掴んでいるようだ。さすがの情報収集力である。



(オレも最大限の警戒はしていたが、兵器の輸送をする都合上、どうしても目立つな。この分だとDBDのことも知っている可能性はあるか。まあ、あえて火種には触れないだろうけど)



 ガンプドルフたちは、アンシュラオンが強いからこそ普通に話せているのであって、そうではない者たちからすればイカれたバーサーカーに近い。


 もし情報の漏洩が起きようものならば、即座に暗殺による報復を試みるはずだ。それが南部勢力ともなれば遠慮はしないだろう。


 ニクバンドもそれがわかっているからこそ、その話題には一切触れない。あくまで「そこそこ知っていますよ」というアピールにとどめている。


 そもそもゴゴート商会は兵器を取り扱う商会ではない。無理に関わる必要はないのだ。(一部の部品は取り扱っている)



「お茶をお持ちいたしました」



 ここで一息。オロトーンが紅茶を淹れてくる。


 さっそく飲むと、ややフルーティーかつ濃厚な渋みを感じさせる面白い味わいだった。



「いい香りですね」


「ありがとうございます。このあたりでは扱っていない茶葉なので、お気に召していただけると嬉しいのですが」


「これはいい。いくつか欲しいくらいです」


「どうぞどうぞ、いくらでもお持ちください! オロトーン、すぐに準備を!」


「はい!」



 社交辞令の可能性もあったのだが、ニクバンドはすぐさま茶葉を用意。


 最初から手土産にする準備が出来ていたのだろう。隣の部屋に入ってすぐに大きな袋を持って出てきた。



(あまり裏表のない男のようだな。これはこれで好感を持てる部類か)



 このニクバンドという人物は、ソブカのような海千山千の気の抜けない商人ではなく、素直に感情を表現するタイプで行動も早い。


 これが無能だと直情型の馬鹿になるのだが、有能ならば多くの相手に好感を持たれる良い商売人になる。アンシュラオンも嫌いではないタイプだ。


 油断はしないが、こちらも相手に合わせて素直に応対することにした。


 そもそもこちらから仕掛けた商談ではない。最悪は何もしなければよいので、戦いと同じく余裕をもって対処すればいいだけだ。


 茶菓子も少し堪能したあと、本題に入る。



「それで、うちにどのようなお話を?」


「それはもう! あの素晴らしい逸品ですよ! あのようなものは初めて見ました! 世界中のどこにもありません!」


「と申しますと、あの【トイレ】のことですね」


「トイレ! そうです、トイレです! あの大きくて高性能な、大変ビッグで素敵なトイレです!」



 ニクバンドが、待ってましたと言わんばかりにトイレを連呼する。


 一応は大商会のエリアマネージャーだ。その語彙力の無さに普通なら面食らうが、それがこの男の醍醐味なのだろう。


 そして彼らの目的は、やはり【トイレ】だった。



(わざと目立つ場所に置いたんだ。あんな奇妙なものを商人が見逃すはずがないよな)



 実際のところ多くの商人がアーパム財団製のトイレに注目していた。


 中には盗み出そうとした者もいたが、買収した海兵や他の商人たちの目があったために失敗に終わっている。


 それに対してアンシュラオンは何もしておらず、術式による防御も施していない。


 べつに盗られたところで目立つのですぐにわかるし、商人たちが互いに牽制し合っていること自体に意味がある。


 そう、誰もがこのトイレに夢中だったのだ。


 当然、大小さまざまな商会がコンタクトを取ろうとしてきたが、その多くはスタートラインにすらたどり着くことができなかった。


 なぜならば、その途中でゴゴート商会がすべてシャットアウトしたからだ。


 表向きは他の商会を使った妨害ではあったが、相手の商会を買収して取引を妨害したり、金をばら撒いて市場価値を変動させて混乱を引き起こしたりと、辞退しないのならばこちらも手段を選ばないと脅していた。


 結果、新型トイレを狙っていた北部勢力の商会はあっさりとこの威圧に負け、すごすごと尻尾を巻いて逃げることしかできなかった。


 アンシュラオンは武力でマフィアを直接排除しているが、経済を武器にする商会もなかなかにあくどいものである。


 だが、どの世界も強者のみが生き残るものだ。ゴゴート商会がそれだけ強い証拠といえる。



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