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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「誑魁跋扈の予定調和」編
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571話 「公開処刑 その1『反逆者の末路』」


 アンシュラオンがシーマフィアを壊滅させた一週間後。


 港湾区の一画、ハピ・クジュネ軍の軍港の近くに多くの人が集まっていた。


 まず目に入るのが、全身を縄でがんじがらめにされた男たちが十数人。


 その周りには完全武装した海兵らがおり、万一にも逃げ出さないように厳重に監視している。


 また、やや離れた位置には何千人という大勢の人々が集まり、誰もがこちらの状況をうかがおうと熱い視線を向けていた。


 そして、そこにはライザックもいる。



「これより『反逆者』の処刑を行う。よいか、ハピ・クジュネは大きく変わる。変わらねばならないのだ。今日の処刑が身内を裁く最後の日になることを願うが、仮にそうならずとも我々は前に進んでいく! その覚悟をもって見るがいい! そして、胸に刻め!」



 ライザックの強い言葉が民衆に突き刺さる。


 戦後は彼に否定的な意見もあったが、こうして実際に当人を目の前にしてみると、その力強さと迫力に気圧される人々が大半だった。


 やはりリーダーたるものは誰よりも強くなければならない。意思と覚悟と行動によって道を示すのが彼の役割である。


 だが、それに悪態をつく者たちがいる。



「けっ、なにが新しいハピ・クジュネだ。俺らを切り捨てておいて、よく言うぜ。きっとろくなことになりゃしないぞ!」


「そうだ! この恨みは忘れんからな!」


「死ね! ライザック!」



 縄で縛られた男たちが、怒りや憎しみのこもった目でライザックを睨む。


 彼らは最後まで抵抗したシーマフィアの一員であり、言い換えれば『公開処刑』のためにあえて生かしておいた者たちともいえる。


 ハピ・クジュネに明確な法律はないが、当然ながら都市の方針に背いたり明らかな犯罪行為を行った者は裁かれる。


 基本的に裁判といった生温いものも存在せず、都市を管理している海軍が一方的に罪と罰を決定する独善的な方法を採用していた。


 軽い窃盗程度なら釈放される可能性もあるが、それ以外ともなれば、ほぼ確実に刑に処されるだろう。


 ここはその処刑場の一つであり、軍港ということもあって一般人の立ち入りは制限されているため、普段は海兵が淡々と刑を執行していた。


 しかしながら今日は、シーマフィア壊滅を宣言する特別な日である。


 市民を大勢入れて一般公開することで、ハピ・クジュネの現状をよりよく知ってもらおうという計画だった。


 だからこそ最高責任者であるライザックもいるし、治安維持を担当しているアンシュラオンもいる。


 捕まったシーマフィアの連中は、そのアンシュラオンにも激しい敵意を向けていた。



「アンシュラオン、てめぇもだ! 地獄に落ちろ!」


「いつかお前も誰かに蹴落とされるぜ! ざまぁみろ!」



 計画したのはライザックだが実行したのはアンシュラオンだ。恨まれるのも当然である。


 が、当人はその罵倒を涼しい顔で受け流す。



「これほど響かない言葉も珍しいな。所詮はお前たちもならず者。そこらの海賊ふぜいが、ちょっとした金と地位を手に入れて勘違いした成れの果てだ。もしお前たちが人々に活気と富を与えていたら、こんなことにはなっていない。全部自業自得だ」


「お前だって似たようなもんだろうが!」


「馬鹿が。同じにするな。立場の違いってやつをこれから思い知らせてやるよ」


「何をするつもりだ!」


「ハピ・クジュネのことは、お前たちのほうがよく知っているだろう?」


「うっ…」



 アンシュラオンの視線の先には鉄製の『檻』を運ぶ海兵がいた。男たちもそれを見て思わず怯む。


 ハピ・クジュネにおける重犯罪者への刑罰は、主に二種類。


 一つは縄で縛って海に放り投げ、自力で生きて戻れた者を釈放するというものだ。もちろん溺死すれば、そのまま死亡の荒っぽい方法といえる。


 なぜ謎の救済措置があるかといえば、単純に強い者を生かすことが都市にとってもメリットになるからである。


 もともと海賊は荒くれ者の集団。アンシュラオンが言ったように、三百年前までは単なる海辺で活動するだけのならず者だったのだ。(しかもグラス・タウンの支配下にあった)


 そんな彼らの価値観においては、強い者こそが正義。


 クジュネ家が頭領になったのも肉体的な強さによって、ならず者たちを腕力で締め上げて統率していたからだ。アンシュラオンを受け入れたのも、その強さが規格外だったからである。


 それゆえにこの刑罰は、海賊にとっては至って普通のものといえる。


 そして、もう一つの罰が檻に入れて沈めるというもの。


 手品の脱出トリックの失敗で溺れ死ぬ事例があるように、縄で縛られるだけでもかなり生存率が低くなる。


 それが檻ともなれば普通の人間ではもはや脱出は不可能。強い武人には無意味だが、常人用の刑罰なので死亡する可能性は極めて高い。


※武人の場合はライザックと一騎討ち等々、違う刑罰となる。こちらも強ければ免除される



「くそが…絶対に俺らを殺すつもりかよ。けっ!」


「あんなのに入れられて沈められたら…もう終わりだな。つまらねえ人生だったぜ」


「ざけんな! こんなの認められるか!」



 確実な死が目の前にあるのだ。男たちが絶望して喚き散らすのも仕方がない。


 が、わざわざ公開処刑にした意味には、まだ気づいていなかった。



「さあ、こっちに来るんだ」


「ああ…!」


「やめて! お母さんに乱暴しないで!」



 男たちが檻に入れられるのかと思っていた矢先、女性と男の子が連れてこられる。


 年齢は女性が三十過ぎで、子供はまだ八歳くらいだろうか。ハピ・クジュネではよく見かける仲睦まじい親子といった様相だ。



「ん? 処刑するんじゃないのか?」


「彼女たちは何者だ?」



 これには観衆も何事かと困惑している。


 だがしかし、その姿を見た縄で縛られた男の一人が叫ぶ。



「お前たち! どうしてここに! 逃げたんじゃないのか!」


「あなた…ごめんなさい。捕まってしまって…」


「お父さん…何が起きているの? ぼく、わからないよ…」


「そんな…! なんてことだ!」



 会話から察するに、二人は死刑囚の家族のようだ。


 男もひどくショックを受けたようで、さきほどまでの強気の態度が一転。一気に顔が青ざめる。



「誤算だったか?」


「アンシュラオン! お前の仕業か!」


「仕業もなにも、他の三つの街はハピ・クジュネの衛星都市なんだから逃げられるわけがないだろう。まあ、だからこそグラ・ガマンに逃げようとしたんだろうけどな」



 北部の街は数が限られる。西を避けるのならば、向かうは東のルートしかない。


 東ルートにあるクラス・レッツとグラ・ガマンの二つの街は、ハピ・クジュネよりもグラス・ギースのほうが影響力が強い。


 いくらハピ・クジュネといえども強引に兵を派遣できないため、そこまで行ければと男は妻と息子を逃がした。


 がしかし、男がそう考えた段階でライザックが思いつかないわけがない。交通ルートに網を張られ、あえなく御用となった。


 一般人が交通ルートを離れるのは極めて危険ゆえに、時間さえわかれば捕らえるのはそう難しくないのだ。


 そんな彼女たちに対しても、ライザックは非情の宣告を下す。



「三人まとめて檻に入れろ」


「っ…! やめろ! 家族だけは見逃してくれ! 頼む!」


「最終警告を無視したのはお前だ。俺はそれに対して都市の責任者として適切な処置を下すだけだ。お前に力があるのならば檻を壊して自力で脱出してみせるのだな」


「できるわけがない! 俺は武人じゃないんだぞ!」


「ならば死ぬしかない。それとも檻を引き上げる二週間後まで耐えるか? だいたいは何も残らないがな」



 なぜ処刑がここで行われるかといえば、この海には死肉だけを食するピラニアのような魚型魔獣がいるからだ。


 彼らは骨まで食い尽くすので二週間もあれば何も残らない。檻の掃除の手間も省けるというわけだ。



「不満か?」


「当たり前だ!」


「いいだろう。予定変更だ。最初に女と子供から沈める。そこで家族が死ぬ様子を見ているがいい」


「あなた! いやあああ! 出して! 出してよ!」


「お父さん! ぼく、死んじゃうの!? 助けて!!」



 ライザックが海兵に命令を下し、二人が沈められようとした瞬間、ついに男が折れた。



「わかった…! 降参だ! 服従するから助けてくれ!」


「二言はないな?」


「ああ、だから…頼む。何でもするから!」


「その言葉の真偽は行動によって示してもらうぞ。此度だけは罪を不問とする。三人を連れていけ」



 ライザックの言葉を聞き、処刑を見学していた者たちからも深い息が吐き出される。


 処刑自体が緊張感を伴うものなのだが、今回は明らかに様相が異なる。アンシュラオンとライザック以外の誰もがその圧力に負けそうになっていた。


 今後の人生が幸せかはともかく、最初の者たちは許された。


 だが、そんな慈悲がいつまでも続くわけがない。


 次の男も妻と子供が捕まって致し方なく服従を申し出るが、それをライザックは却下。



「駄目だな。すでに遅きに失した。過ぎた刻は戻らない」


「なんでだよ! さっきのやつは許したじゃないか!」


「状況が異なる。お前は警告に従わなかったうえに海兵に対して攻撃まで仕掛けた。死罪が妥当だろう」


「お前たちが裏切ったからだろうが! 当然の報復だ!」


「そう考える危険分子を野放しにしておく馬鹿はいない。檻に入れろ」


「はっ!」


「くそっ! やめろ! 子供はやめてくれ!」


「パパー!! うぇーん! こわいよー!」



 男と一緒に妻と娘も檻に入れられる。


 そうしてライザックが執行命令を下そうとした時であった。



「息子を許してやっておくれ!」



 一人の高齢の女性が、警備をしていた海兵の制止を振りきって走ってきた。その言葉から男の母親であることがわかる。


 彼女が捕まっていないのは、一緒に暮らしていなかったことと逃亡を図らなかったおかげだろう。同じ家族といっても、どれだけ深く関与したかで罪が変わるのは自然なことだ。


 女性はライザックの前にひざまずくと助命を嘆願。



「頼むよ! 悪い子じゃないんだ! 親孝行の良い子なんだよ!」


「悪いな。何があろうとも刑の執行は止めない。海賊には海賊のルールがある」


「お願いだ! お願いだ! 頼むよ! この通りだ!」


「無理だな。決定は覆らない」


「どうしてもかい?」


「二言はない」


「こんなにお願いをしているのに…それでも殺すっていうんだね…」



 ライザックの言葉を受けて母親の声音と顔付きが変わっていく。


 ばっと立ち上がった彼女の手には銃が握られていた。



「あたしだって海賊の端くれさ! あんたたちを殺してでも息子を助けてやるからね!」


「いい面構えだ。それでこそ海賊の女だ。よかろう、俺を殺せたら三人を助けてやる」


「あんたの了承なんていらないん―――」



 母親が問答無用でトリガーに力を入れた瞬間だった。


 突如として彼女の身体が消えた。


 あまりに速すぎて誰もがその光景を正確に認識できなかったが、続いて落ちてきた『手足』が地面にどさっと音を立てたことで、ようやく何が起きたのかを知った。


 女性は【死んだ】のだ。


 頭部と胴体を消されて。



「母は強いな。尊敬するよ。だが、愚かで無謀な選択だった」



 戦気掌で母親を殺したのはアンシュラオン。


 本当ならば手足も一瞬で蒸発させられたのだが、死んだことを人々に見せつけるために残したのだ。


 また、あえてアンシュラオンが横から手を出したのは、ライザックと組んでいることを市民にアピールするためでもある。



「おふくろ! おふくろおおおお! アンシュラオン! お前は絶対に許さねえ! ぶっ殺してやる!」


「悪党どもはいつも自分のことしか考えない。お前が他人にやってきたことも少しは考えてみろ。オレは優しいからお前の母親を痛みなく殺してやったが、ライザックは違うぞ」



 アンシュラオンの視線を受けて、ライザックが改めて命令を下す。



「檻を沈めろ」


「っ…! やめろ! くそっ! 開けろ! 開けやがれ!!」


「いやああああ! 助けてぇええ!」


「パパ! ママ!」



 男が必死にあらがうが、常人が鋼鉄の檻を壊せるわけがない。妻の悲鳴も娘の恐怖も海水に呑まれて泡となって消えていく。


 ライザックはそれを見ても特に反応を示さない。粛々と都市の管理者としての責務を果たしているのだ。


 一方のアンシュラオンにも特段の感想はない。



(治安悪化を食い止めるには力による抑制が一番だ。ライザックが一般人を入れたのも、そのことを理解させるためだからな。そして、これにはもう一つの目的がある)



 次に処刑される男が引っ張り出される。


 が、海兵は男の縄を剣で切って自由にした。



「おっ、なんだい? 俺は釈放ってか? ありがてえな」


「勘違いするな。だが、チャンスはくれてやろう。こいつに武器を与えろ」


「…?」



 男は訝しげな視線をライザックに向けながら、放り投げられた剣を取る。当然だが、まだ状況を理解していないようだ。


 すると今度は、同じく武器を持った男が海兵に連れられてやってきた。


 見たところ一般人のようだが、シーマフィアの男を憎悪の表情で睨みつけている。



「お前はこの男の妻をさらった。覚えているか?」


「いいや、知らないねぇ。いちいち覚えてなんていないさ」


「お前は覚えていなくとも当事者は覚えている。だから復讐の機会を与える」


「へぇ、決闘ってか。勝ったら解放してくれるのか?」


「クジュネ家の名にかけて約束しよう。強い者が生き残るのは絶対の道理だ」


「そいつはいい! 新しいハピ・クジュネは俺に合っていそうだぜ! 解放されたら海軍で雇ってくれよな!」



 男は上機嫌で剣を振って具合を確かめる。


 この男は、ブッソンという名のそこそこ腕の立つ傭兵崩れで、そこらの海兵にも負けないほど強い。相手が裏番隊でなければ逃げおおせていただろう。


 ただし、その腕を見込まれてシーマフィアに雇われ、街中や荒野で人をさらっては違法風俗店に提供していた悪党だ。


 対する男は妻をさらわれただけの一般人であり、その実力差は明白である。憎しみの感情だけで勝てるほど戦いは甘くない。


 がしかし、それは一対一だった場合だ。


 復讐を誓う男の後ろから新しく三人の男がやってきた。もちろん彼らも各々で武器を持ち、ブッソンを怒りの形相で睨みつけている。



「ふん、そうだと思ったよ。四対一か。まあ、それでもいいぜ」



 加わった三人も見たところ一般人である。武人であるブッソンからしてみれば、たかが四人など物の数ではない。


 だがしかし、ライザックはまだ開始の合図を出さない。



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