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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「誑魁跋扈の予定調和」編
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569話 「シーマフィア壊滅 その1」


 ハピ・クジュネの港湾区にある雑居ビルの一室。


 そこでは白髪の男と、彼よりも二十以上は年下であろうスーツの男が言い争っていた。



「あいつらのことは放っておけ」


「そんな! 黙っていろっていうんですかい! うちらのシマですよ! あれからもちょっかいは続いている。これ以上は無理です!」


「本来ならば黙ってはいねえ」


「なら、どうして! うちらはなめられたら終わりじゃないですか!」


「じゃあ、お前はあの男に勝てるのか?」


「うっ…」


「海軍でさえ見て見ぬふりだ。これがどういうことかわかるか? クジュネ家が俺らを見捨てたってことだ」


「自殺行為ですよ! 連中とは今まで持ちつ持たれつでやってきたのに! 俺らがいなければ市民の生活は成り立たない!」


「少なくともライザックはそう思っちゃいないようだ。領主のガイゾックも一切関わってこないなら、それが最終決定なんだよ」



 白髪の男、ジュゼーノが苦渋の表情を見せる。


 彼はシーマフィアの四人いる最上位幹部の一人で、先日破壊された風俗店を管理していたハピサラス組の組長である。


 スーツの男は先日アンシュラオンにコケにされた、同じくハピサラス組の若頭のワカマツだ。


 彼らシーマフィアと海軍との関係は、かなり昔から続いている。


 クジュネの家系、すなわち海賊の頭領の一族は武力によって都市をまとめる一方で、シーマフィアは人々の物流と経済面を支えてきた。


 今でこそライザックが商人組合の会長をやっているが、もともとは彼らが組合を守ってきたのである。荒くれ者だけでは都市経済が成り立たないからだ。


 がしかし、ライザックが成長してからはシーマフィアの権益を次々と没収しており、両者の仲は睦まじいものではなくなっていた。


 ライザックの思想は「南部に対抗するために指揮系統は統一すべき」という独裁的なものである。


 それによって火乃呼とも対立していたので、この政策はどの分野においても一貫しているといえた。


 が、当然ながらシーマフィアは反対。自らの利権を奪われるのだからたまったものではない。こうなるとライザックにとってシーマフィアは『目の上のたんこぶ』になる。


 そんな時にアンシュラオンという男が出現した。


 ただ武だけに秀でている脳筋とは異なり、人の営みにも精通している利で動く便利な男でもある。そんな人材が『格安』で買えるとなれば選ばない理由はない。


 しかも、その見返りとして渡すものはシーマフィアの権益そのものだ。


 その証拠に翠清山の利権分配が終わった直後から、ライザックは明らかにシーマフィアを切り捨てにかかった。


 騒動が起こっている現在も「忙しいから」の一言で無視を決め込んでいる始末だ。



「ありえねぇ! 鞍替えなんて許されないですよ! 断固抗議すべきです!」


「うちらは生粋の武闘派組織じゃねえ。多少の荒事には慣れているが、海軍まで敵に回したらこの都市じゃ生きていけねぇのさ。結局は武力が強い人間が最後に勝つってことだ」


「だから黙っていろって言うんですかい! 俺は納得いかねぇ!」


「………」


「オジキ、なんとか言ってくださいよ! ここで抵抗をやめたら終わりですぜ!」


「俺らはそこらのコソ泥や盗賊じゃねえ。ハピ・クジュネに根を下ろしているれっきとした海賊の末裔だ。いまさら治安を乱すような真似はしない」


「そんなんでいいんですか! 少なくとも『あいつ』だけは絶対に殺さないとヤバいですよ! どんなことをしても殺すべきです!」


「さっきから随分と熱くなっているじゃねえか。いつものお前らしくもねぇ」


「なんでもねえですよ。ただ…あいつ……あいつの目が……」



 ワカマツが最後に見たホワイトの目。


 仮面に隠れてよく見えなかったが、闇の中で赤く光った双眸はあまりにも人間離れしていた。


 それを見た時から、彼の中には一つの感情が芽生えていたのだ。


 だがしかし、それを認めるわけにはいかない。



(ふざけるなよ。俺があんなやつにびびるもんか! オジキは歳を取って丸くなっちまった。だが、俺はなめられたまま終わらねえ。近いうちに武闘派をまとめてやつらの事務所に殴り込みだ!! 俺が動かせる人材の範囲内なら文句はないはずだ。やってやるさ。こっちから仕掛けてやる!)



 彼は知らない。それこそが弱い犬の証明であると。


 だが、どちらにせよ、もうすべてが遅い。



「ん? なんだ?」



 その時、ジュゼーノが遠くで何かが割れる音を聴く。


 それはちょうど彼の真下から聴こえてきた。


 彼らがいる場所は雑居ビルの五階。マンションでも上の階の音はよく聴こえるが下の階からはあまり聴こえないものだ。


 となれば、よほど大きな音が鳴ったのだろう。



「何かあったのか?」


「どうせ若い連中が騒いでいるんでしょう。オジキの護衛のために武闘派を集めておきましたからね。血の気が多いんですよ。おい、注意してこい」


「おっす!」



 ワカマツの命令で直属のチンピラが下の階に下りていく。ホワイト商会と一悶着あった時にもいた丸刈りの男だ。


 そして十数秒後。


 ドアが開くと、隙間からさきほど出ていったチンピラの顔が覗く。



「若いやつらは静かになったのか?」


「………」


「おい、どうして黙ってやがる。…? 頭に赤いものが…」



 チンピラの頭から何かが流れて床に落ちた。


 それは大量の血。


 彼らにとって怪我は日常的なものであるが、室内でこれほど出血する事態は珍しい。


 さすがのワカマツも、ぎょっと目を見開く。



「お、おい、血が出てるぞ! だ、大丈夫か!? 喧嘩でもやらかしたか?」


「………」



 丸刈りの男は答えない。


 が、ワカマツたちが呆然とそれを見ている間にも傷口は少しずつ開いていく。


 めきょめきょと彼の身体が割れていき、完全に真っ二つになると、どさっと倒れ込む。


 調べるまでもなくチンピラは死んでいた。



「こ、こりゃ…いったい!! っ!! な、なんだぁ!!」



 突然のチンピラの死に驚いているワカマツの目に、さらに訝しげなものが映り込む。


 姿を見せたのは、バキンとドアを破壊して中に入ってきた大男のマサゴロウ。あまりの大きさに歩くたびに天井に頭がこすれて抉れていく。


 彼の手は、今しがた殺したチンピラの血で染まっていた。



「なっ!! て、てめぇは!! あの時の!!」



 自分の心臓が激しく鼓動する音が聴こえる。


 忘れるわけがない。あの日からずっと思い出しては悔しい思いをしてきたのだ。


 会いたいとは思っていた。復讐したいとは考えていた。ただ、それが今であることは想定外。啖呵を切ろうにも意外すぎて動けない。


 そうこうしている間に『当人』がやってきてしまう。



「やぁ、久しぶりだね。その顔、覚えているよ」



 マサゴロウを押しのけて、黒い少女とともに一人の少年が入ってくる。


 その憎き顔(仮面だが)を見た瞬間、心の奥底から怒りが溢れ出してきた。


 それが力となり、声になる。



「ぐうううっ! ほ、ホワイトォッォォオオオオ!! 貴様、なんでここにいる!!!」


「そんなに大声を出さなくても聴こえるさ。元気そうで何よりだ。ちょっくらお邪魔するよ」



 激しく困惑するワカマツをよそに、アンシュラオンが中に入ってくる。


 同時にマサゴロウが巨体で入り口を塞いだため、彼らは閉じ込められる形になった。



「てめぇ、何の用だ!! いや、こんなことをして無事で済むと思ってやがるのか!! 今度こそ殺すぞ!!」


「あれ? ちょっと会わないうちに凶暴になったね。ここじゃ力の流儀は通用しないって、あんた自身で言わなかったっけ? まあ、ここ以外の世間じゃ、ばっちり通じているみたいだけどさ」


「ふざけやがって! ここがどこだかわかってんのか! うちの事務所だ!! 何人いると思ってやがる! お前たちなんざ、あっという間にバラバラだ!!」


「ふーん、そうなんだ。マサゴロウ、何人いたっけ?」


「覚えていやせん。五人殺したところで数えるのをやめましたが…わらわらと群れていた気がします」


「という話だけど、ここって何人いるの? これくらいの相手なら最低でも三百人は用意してもらわないとね。この子の分がなくなっちゃうよ」



 サナが着ている黒装束には赤黒い染みが多々見受けられる。これは彼女のものではなく、当然ながら返り血だ。


 ここに来るまでにも大小含めて六つの組を潰したので、いろいろなところで付いた血である。


 彼女も今夜だけですでに二十人以上は殺しているはずだが、名崙級の武人からしてみれば物足りない数だ。



「なっ!! なぁ!! し、下のやつらはどうした!! なんで来ない!?」


「だから殺したよ。嘘だと思うなら見に行けば?」


「うそ…だろう? お前ら、いつここに来た!!」


「んー、二分くらい前かな? これでも遊びながらゆっくり来たんだよ。単独でのタイムアタックなら一秒を切る自信があるし」


「ば、馬鹿な…下にいたのは全員が武闘派だぞ! 武人だって大勢いた!」



 ハピサラス組は総勢で千を超える組織だが、事務所には最低でも六十人の人間が詰めていたはずだ。その全員が武装した武人または準武人クラス。


 いくら奇襲とはいえ、それをたかが二分で全滅させるなど、ありえない。あってはいけない。


 と思うのが常人の発想である。



「そうか! お前ら、大人数で来やがったな! 卑怯なやつらだ!!」


「中に入ったのは、オレとこの子を入れて五人だぞ?」


「ご、五人…!?」


「もう一つ言えば、戦ったのはマサゴロウと二人の構成員だけだ。オレとこの子は参加すらしていない。いやぁ、さすがにショックだな。あんたら弱すぎだよ。一応その筋の人間なんだろう? 傭兵団とまではいかなくても、もうちょっと歯ごたえがないとさ」


「うちらは生粋の武闘派じゃねえんだよ!」


「威張って言うことか? 海軍に頼って自分たちの戦力を拡充しなかったのが、あんたらの運の尽きってわけだ。したところで結果は変わらないけどね」


「クソがっ! 海軍とグルになりやがって!」


「それが何か? あんたらがビジネスパートナーとして相応しくなかっただけでしょ? 海軍だって大変なんだ。いつまでも使えない連中を守っている余裕なんてないのさ」


「ふざけるな! お前らもあいつらも絶対に殺す!!」


「あっ、そう。おや、もしかしてそちらは組長さんかな?」



 アンシュラオンがワカマツを無視して、ジュゼーノに目を向ける。



「ええ、ハピサラスの組長をやっておりますジュゼーノと申します。どうぞお見知りおきください」


「ホワイト商会のホワイトです。よろしく」



 さすが大きな組を一つ預かる親分だ。この状況でも落ち着いている。


 だが当然、こんなことを認めるわけがない。



「ホワイトさん、お噂は伺っておりますが、これは少々やりすぎじゃないですかね。表では英雄のあなたが、そんな仮面を被って裏稼業とは。市民が知ったら哀しみますよ」


「見物人は喜んでいたけどね。最近は活気がなくて寂しいもんだ。誰もが派手なショーを求めている。需要を満たすのが商売の基本でしょ?」


「この都市は広いようで狭い場所だ。お互いに殺しあっていれば、あっという間に人が住めない街になる。昔みたいにドンパチやる時代じゃないんですよ」


「ははは、腑抜けてるなぁ。それは巣穴に引っ込んでいる、あんたらだけの流儀だろう? だが、外は違う。いつも通りの魔獣だらけのフロンティアだ。守りに入った瞬間に衰退は始まっているのさ」


「フロンティア…ですか。懐かしい響きだ」



 開拓とは、ただ人が住みやすいように整備することだけではない。厳しい自然環境と対峙することで人間自身が鍛えられることを意味する。


 ジュゼーノも若い頃は海賊としての自信と矜持に溢れていたものだ。それがいつしか立場を守るだけになっていることに気づく。



「はっきり言おうか。もうシーマフィアは必要じゃないんだよ。あんたらがやっていた裏の商売は時代遅れだし、暴力装置としての役割も機能していない」



 ヤクザや暴力団、マフィアがなぜなくならないのか。誰もが一度はそう思ったことがあるだろう。


 まずはマフィア自体が相当な戦力を保有しており、国の機関よりも強大である場合は手が付けられないだろう。実際にそういう国もあり、そこでは犯罪組織が国を牛耳っている。


 また、それほど強大でなくとも上手く潜伏している場合は、単純に誰が組員かわからずに倒すに倒せないこともある。


 もし味方に敵と癒着している者がいたら情報が漏洩し、襲撃する前に逃げられるだろうし反撃を受けてしまう。敵と味方が常にはっきり分かれていないことも殲滅できない原因の一つになる。


 それ以外には、マフィア自体が外部勢力に対しての抑止力である場合があり、日本の暴力団もその一助になっているといわれる。彼らがいないと外国人や半グレ連中が好き勝手してしまうからだ。


 ただし、近年では生粋のヤクザが絶滅し、外国勢力と一緒になって悪さをする組織も増えたので基本的に害悪であることには変わりない。


 どのパターンにおいても国家機関と密接に関わっていることが多く、必要悪として認識されてきた歴史がある。


 が、悪は悪だ。


 すでに海軍はアーパム財団をパートナーに選んでおり、戦罪者という悪もアンシュラオンという強大な力によって統制されている。


 よって、抑止力の面からもシーマフィアは必要ない。



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