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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「誑魁跋扈の予定調和」編
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568話 「やんちゃ無法のホワイト商会 その4『悪を潰す巨悪』」


 しかし、シーマフィアも引くわけにはいかない。



「うちらは長いこと、この都市で仕事をさせてもらっています。そこのところを配慮してもよいのでは?」


「こちらとて都市のために動いているのです。立派な仕事ですよ。あなたも最近の治安悪化はご存じでしょう? こうした風紀の乱れが犯罪を呼び込むのです」


「例外はないと?」


「その通りです。ご不満ならば海兵でも呼んでみますか? こちらは問題ありませんよ。直接ライザック・クジュネに問いただしてもいい。まあ、結果は変わらないと思いますがね」


「くっ…」



 仮にライザックに問うても、おそらく返答は『我々は関与しない』で終わるだろう。


 すでに治安維持を任せているうえ、名誉市民でもあるので殺人すら容認されている身分だ。最初から制限をかけるつもりがないことがわかる。


 ワカマツもそれがわかっているので何も言えないのだ。


 と、その時、少し離れた場所で倒れていた店員が起き上がり、走り出した。



「ひぃいい! ひいっ!!」


「やろう、まだ生きてやがったか!」


「ひっ、ひっ…なんでこんな目に…逃げ、逃げないと……ぎゃっ!!」



 走り出した店員の背中に矢が刺さった。


 右の肩甲骨の隙間を貫き、肺を突き破る。



「おー、姐さんが当てたぞ」


「さすが俺らの姫様だ!」



 撃ったのは黒姫。


 真っ黒な仮面を被った少女がクロスボウを構えていた。



「げはっ…ごほっ……ううう…い、いてぇ…いてぇえよぉおお…!」


「…じー」



 黒姫は倒れている店員のところに歩いていき、じっと様子をうかがいながら新しい矢を装填する。


 狙いをつけ、迷うことなく発射。


 至近距離から放たれた一撃が頭を貫通して、男は動かなくなった。


 その感情が宿らぬ冷徹な所業に、ワカマツは気圧されて身動きが取れない。



「ははは、優しい黒姫に嫌われるとは、よほど女を食い物にする人生を歩んでいたらしい。この子は魔獣でさえ助けるのになぁ。ヤキチ、女の移送は任せる。予定通りに動け」


「おうよ!」



 ヤキチたちは奪った金と女を堂々と馬車に詰め込んでいく。


 麻薬中毒者の女たちがまったく騒がないのが、あまりに異様だ。そんなことにはもう慣れきってしまったのだろうか。


 馬車が移動するのを見届けると、ホワイトも別れの挨拶をする。



「では、我々はこれで失礼いたしますよ。用事は終わったのでね」


「待ってください! このまま帰るおつもりですか? きっと後悔しますよ!」


「ん? まさかこの私とやるつもりですか? その場合、後悔するのは皆さんだと思いますけど?」


「ぬぐっ…」



 部下のチンピラも一般人を脅すためには有用かもしれないが、殺し専門ではない。殺したことがあるにせよ、ほんの数人か多くて十人程度だろう。


 それと比べれば、目の前の仮面連中がいかに殺してきたかを説明するまでもない。ホワイト単体でさえ翠清山で何万と殺しているのだ。


 彼の倫理観からすれば人間も魔獣も同じ。むしろ使えない人間など生きている価値もないと考えている。


 それ以前にこの白い仮面を被っている男に勝てる者など、この都市には存在しない。



「オヤジさん、今度は私にやらせてくださいよぉ。みんなだけ楽しんでずるいですよぉー」


「ハンベエ、お前はやりすぎるなよ。善良な市民の方々を巻き添えにしないようにな」


「わかっていますが…手加減できますかねぇ? ああ、楽しみだ。人が悶えて死ぬのを観察するのが大好きなんですよ。うけけ、けーーーけけけ!!! いやー、楽しくなってきましたねぇ!!」



 不気味な笑いとともにハンベエが怪しげな瓶を取り出す。


 中身の液体は毒々しい紫なので、どう考えても劇薬である。



「ふふ、これはね、『グバロパーン〈小竜噴毒蛇〉』という根絶級魔獣の毒嚢どくのうから抽出した液体でしてね。普通の魔獣なら一滴で動けなくなり、二滴も注入すれば間違いなく死ぬって代物なんです。さて、問題です。ここで蓋を開けるとどうなるでしょう? 空気に触れると急速に気化して周囲一帯を…うけけ、楽しみだなぁ!! これね、西側の軍隊で化学兵器として使われている毒爆弾の原料なんですよね。一度街中で使ってみたかったんですよぉ」


「まったく、こいつは加減できそうもないな。観衆はオレが水泥壁でガードするから好きにやれ」


「ありがとうございます、オヤジさん! 話がわかる上司って、やっぱりいいですねぇー」


「オレはもっと話のわかる部下が欲しかったけどな」



 毒を見たワカマツたちは思わず後ずさる。


 いや、毒よりもハンベエの狂気に満ちた声と雰囲気に圧倒されたのだろう。毒が本物ならば明らかに常軌を逸している。



「正気か、あんたら! なにを考えてやがる!」


「おや、焦っているようですね。ここじゃ力の流儀は通じないんじゃないんですか? おかしいなぁ、聞き間違いですかねぇ。で、どうします? いいですよ、逃げても。今なら見逃してあげますから」


「ぬううっ…!!」


「あ、兄貴ぃ! こいつら…ヤバイですよ! 絶対やべぇ! イカれてやがる!」


「くうううううっ!! 帰るぞ!!!」



 男は部下を連れて帰る(逃げる)ことを決断。懸命な判断だろう。


 だが、捨て台詞も忘れない。



「ホワイトさん、このことは高くつきますよ!」


「それはいい。高いものは大好きでしてね。いつでも送ってください。安物だったら返品しますから厳選はしっかりお願いします」


「くそが!! どこまでも馬鹿にしやがって!!」



 苦々しい顔をしてシーマフィアたちは帰っていった。


 これで彼らとは完全に敵対関係になったことを意味する。



「オヤジさん、せっかくいいところだったのに…」


「焦るなよ。これから好きなだけ殺させてやる。やることは山積みだからな」


「ふふ、わかりました。楽しみにしていますよ」



(表があれば裏もある。裏の仕事は裏の人間に任せるのが一番だ)



 『裏番隊』のやり方は見ての通り、暴力による問答無用の強制排除だ。ここが単に見回りをしている他の部隊とは異なる点である。


 もちろんホワイトことアンシュラオンの目的は治安維持だ。


 ただし、その幅はどんどん広がっていき、次第に自分の価値観にそぐわない相手や商売敵の排除に変わっていく。


 突然心変わりしたわけではない。これは最初から決まっていたことだ。


 本当に治安を良くしたいのならば、裏側にいるマフィアこそ排除しなければならないのは道理であろう。


 そして、その後釜に座るのはアーパム財団であるべきだ。


 特に『女性保護』は最優先課題であり、女性の生活を豊かにしてこそ健全な社会が生まれる、というのがアンシュラオンの思想でもある。


 わざわざこんな茶番を演じているのは、単なる息抜きかつ趣味ではあるが、一番の目的は裏番隊を制御するためだ。


 結成初期に好き勝手させた結果、加減ができずに皆殺しにしてしまったので、こうしてアンシュラオン自らが手綱を握っているわけだ。


 今晩も彼らの勝手にさせていれば、おそらくは手当たり次第に殺して終わっていただろう。他の店に迷惑がかかった可能性も高い。



「次の店に行くぞ」



 次もやり方は同じ。


 事前にみかじめ料を請求し、それを断ったら店員を殺して金を奪い、ピンク系の店では女も奪っていくというものだ。


 基本的にどの店もシーマフィアに金を払っているので拒否するしかない。もし受け入れてしまえば今度はそっちからも攻撃されてしまうからだ。


 逃げたい。逃げられない。払って楽になりたい。


 でも、払ったらあとが怖い。でも、払わねば死ぬ。


 と、葛藤している間に裏番隊による襲撃が始まり―――



「わ、わかった、払う! 払うから!!! 許してくれ!」


「もう時間切れだな。あんたは頼るべき相手を間違えた。おい、やれ」


「ふふ、じゃあ、さよならのお時間ですね。はい、ちょっとチクってしますよ」


「ま、待って…まっ…うぐっ…ぐううう…がはっぁあ…!」



 ハンベエが注射針を使って毒を注入すると支配人が苦しみ出す。


 自分の身体を掻きむしり始めて数秒後には、白目を剥いてがくっと倒れた。



「あーあ、死んじゃいましたか。どうにも一般人は弱すぎるんですよね。ゆっくり死んでいく様子を観察するのが好きなのになぁ。じゃあ、次の人どうぞ」


「やめてくれ! やだ! 死にたくないぃいい!」


「はい、ぶすりと」


「ひぎいいいっ! っぁっぁああ!! うううぐ! げぼっ!」



 ここは違法クラブの一つで、麻薬や盗品の取引現場にも使われる店だ。客が望めば違法風俗店としての機能も持っているらしい。


 ただし、高級店とは違って安っぽいバーなので集まるのはチンピラばかり。店員も似たようなものだろう。


 そんな彼らはハンベエに弄ばれて死んでいく。


 死ねば善人も悪人も変わらない。その意味で死は平等である。



「これで店員は全員処分できたか。女を連れてこい」


「へいっ、オヤジ!」



 女たちは店員の死体を見ているので抵抗するそぶりはない。震えて声も出ないか、ヤク中で思考が上手くまとまらないかのどちらかだろう。


 だが、その中に一人だけまともな女がいた。


 厚化粧をして高そうなコートを着た、いかにも水商売といった様相の三十代後半の女性だ。



「お前は身寄りのない女たちを匿うふりをして店で働かせ、無理やり客を取らせていた。間違いないな?」


「た、助けて…! シーマフィアから命令されてやっていただけなんだよ! こ、これが仕事だったんだ! 仕方ないだろう!」


「それで甘い汁を吸っていたのならば同罪だ。言っておくが、女だからといって全員助けるわけじゃない。お前のような悪女には、それに相応しい罰を与えてやる。おい、連れていけ」


「へへ、残念だったなぁ。楽しい楽しい生き地獄が待ってるぜ」


「ひっ! ひぃいい! い、いやあああ! 助けてよぉおお!」



 女は髪の毛を掴まれて無造作に引きずられていく。


 現在は労働用に少しずつ男のスレイブ隊も編成しているので、彼女には彼ら用の劣等ラブスレイブとして役立ってもらう予定だ。


 ラブスレイブ契約に同意しなければ、そのまま性処理用の消耗品にしてもいい。罰なのだから、べつにスレイブにする必要性はないのだ。



(悪を潰すのは正義じゃない。それより強い悪だ。無秩序な悪は伝染病のようなもので放置しておくと増え続ける。歯止めをかけられるのは制御された巨悪による武力だけだ)



 光があれば闇もあるように、世の中はけっして美しいものだけで出来ているわけではない。


 たとえば善性の強い人間は、まともがゆえに暴力を振るえないだろう。


 しかし、それでは悪人たちの思うがままに事が進んでいく。彼らは暴力を厭わないからだ。


 かつてのファビオを見ればわかるように、抵抗しない善はむしろ悪手にもなりうる。善良な人間に犠牲が出てからでは遅い。


 であれば、より強い悪がそれ以上の武力によって従来の悪を排除せねばならない。そこで足踏みをしていると被害が拡大し続けるだけだ。


 その現実を嫌というほど知っているアンシュラオンは、悪を利用することを躊躇わないのである。



「今日はこれで撤収だ。保護した女はいつも通りに運べ」


「うすっ!」



 仮面の集団は素早く店を出ると、大型の馬車に女性たちを乗せて移動を開始。


 こうした店で働いていた女性は処女ではないので、アンシュラオンが自分のものにするわけではない。


 薬の影響は命気で浄化できるため、まずは衣食住を充実させて再び依存させないように教育を施す。


 それで日常生活を送れるようになったら、最低限の能力がある希望者はアーパム財団傘下の商会で働いてもらえばいい。受け皿はすでにあるのだ。



(あとは麻薬の出所だな。最近になって流通が増えたから何人か売人を拷問してみたが、どうやら生産地はハピ・クジュネではないようだ。となると、南部からの密輸を除けばソブカの派閥の管轄か?)



 ソブカが初めて自己紹介をした時、アロロが闘病中に使っていた『コシノシン』と呼ばれる医療麻薬について言及していた。


 あれもラングラス派閥の管轄であり、麻薬の元締めはグラス・ギースにいるようだ。



(ソブカも派閥全部を仕切っているわけではない。むしろ下っ端幹部の一人だという話だからな。まあ、麻薬の件はしばらく泳がせておくか。それより先にシーマフィアを潰しておこう)



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