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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「誑魁跋扈の予定調和」編
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567話 「やんちゃ無法のホワイト商会 その3『力の流儀』」


「うちはうちでやらせてもらってますんでね。そんなことは関係ないですよ。ほら、わかったなら金を持ってこい。今なら売り上げの九割で手を打ってやる」


「む、無理です! 払えませんよ! そんなことしたら、うちらもヤバくなる! というか高すぎる! 二割五分が相場ですよ!」


「なるほど、条件を呑めないと。出向いたうえにさらに顔を潰されたんじゃ、しょうがない。ヤキチ、女たちを連れてこい」


「おうよ! もう準備してあるぜ! おら、出せ!」



 ヤキチが合図を出すと、店の中から女たちが引きずり出されてきた。この風俗店で働く女たちである。


 ただし、その風貌は普通の女性とは違い、痩せこけていたり目の下にクマがあったりと、健康とは言いがたい雰囲気を醸し出していた。


 事実、彼女たちは健康ではない。



「支配人さん、あんたらも物好きだな。麻薬中毒の女ばかりを集めてさ、こんな品質で客は満足するのか?」



 その女たちは、ほぼ全員が麻薬中毒者。


 中には普通の借金を返済するために働く者もいるが、多くは麻薬が欲しいが金は無い女性たちであった。


 彼女たちは売人にそそのかされて、ここにやってくるのだ。「そこで働けば麻薬をくれてやる」と。


 そのまま稼ぎ続けられればよいが、途中で駄目になれば売り飛ばされて終わりだ。ラブスレイブになるか、もっと酷い目に遭うかもしれない。



「女性は健康であるから美しい。それを維持してやるのが所有者の義務ってもんだ。管理が悪いのはいただけないな」


「そ、そんなことはあなたには関係ない! こっちの自由だ! そういうのが好きな客がいるんだ」


「ああ、そうだな。おたくらの勝手だ。それに文句はない。ただ、こっちも商売でね。遊びでやっているわけじゃない。金を出すか女を全員渡すか、今すぐ選んでくれ。それと、今後うちの命令には絶対服従だ。守れないのならば潰す」


「なっ! そんな権利がどこにあるってんだ!」


「あんたもわからない人だな。そんなにオレを楽しませたいのか? ヤキチ、マサゴロウ、好きにしろ」


「オヤジの許可が出たぞ!! やっちまえ!!」


「逆らうとは馬鹿なやつだ」


「ま、待て!! そんなことをしたら―――ぐべっ!」



 支配人はマサゴロウに顔面を蹴り飛ばされ、ごろごろと吹っ飛んだ。


 顔が潰されたうえに首が変な方向に曲がっているので、どう見ても死亡確定だろう。


 ただでさえ巨漢かつ武人でもあるマサゴロウの蹴りを受けたのだ。戦気を使わずとも一般人ならば即死は当然である。



「おら、出せ出せ! 金目の物は全部出せ!!」



 仮面の男たちが次々と店の中に入り、金庫やら高そうな装飾品を引っ張り出してくる。



「ふんっ」



 この男たちの前では金庫も意味がない。


 マサゴロウが軽く引っ張るだけで鉄の金庫さえ簡単に引き裂かれる。中からは札束のほかに金塊も出てきた。



「ははは、これを溶かして新しい仮面でも作ってみるかな。黄金の仮面ってのは憧れるよな。でも、歩くたびに敵が出てきたら面倒だからやめておくか。ん? あれは爪だったか? まあ、どっちでもいいや」



 これらの金塊もすべてボッシュートである。


 昔は金塊の何が良いのかわからなかったが、コレクションとして持っている分には悪くないだろう。



「ひゃっはー!! 死ねや!」


「ぎゃっーーー!」


「ぎゃはははは!! さいっっこうだなぁ!! この感触がたまんねぇよぉお!」



 ヤキチも楽しそうに店員を斬っていた。堂々と人を斬って楽しむとは、さすがにいい性格をしている。


 一方、マタゾーは雑魚には興味がないのか黙って見ている。


 ハンベエも同様に静かだが、彼に至っては活躍されると周囲が全滅するので黙ってくれていたほうがいいだろう。


 そんな中、こんな一幕もあった。



「た、たすけ…で…」



 逃げ遅れたさきほどの一般人の青年に、斬られて身体から血をドクドク流している店員が近寄る。



「ひいいい! 来るな、来るな!! うわああ!」



 そのあまりの形相に恐れをなした青年が、店員を蹴り飛ばして逃げる。蹴られた店員はその後、二度と起き上がってくることはなかった。


 蹴って逃げた青年は、これを知ったらどう思うだろうか。何を感じるだろうか。ぜひ訊いてみたいものである。


 それを見ていた少年は心底楽しそうに笑う。



「ははははは!! いいぞ、ほら、もっとやれ。日々退屈なさっている野次馬の皆さんを楽しませてやるんだ! 場外乱闘もありだぞ! 観客の皆さんも参加したければ、どうぞご自由に。一緒に楽しもうじゃないですか」



 その様子を野次馬の観客たちが息を呑んで見ていた。


 だが、彼らの顔は変に引きつっているものの、なぜか笑顔。誰もが恐怖を感じながらも愉しんでいる心情が読み取れる。


 たとえば目の前で交通事故が起きて人が吹っ飛ぶと、「おっ、すげー飛んだ! やっべー!」と、興奮して楽しくなるのと同じ気持ちだ。


 災いが自身に降りかからない限り、すべては楽しい【劇】なのである。


 こうして裏通りが一瞬にして略奪の場と化す。


 突如現れた仮面の集団によるあまりに不可解で理不尽な行動は、現実感が希薄で、まるで映画のワンシーンを見ているかのようだ。



「おいおい、これも昨日出た強盗団と同じなのか?」


「それにしては堂々としているよな。どっちかというとマフィアっぽいが…」


「でも、あそこはシーマフィア管轄の店だろう? この都市じゃ海軍とシーマフィアが利権を二分しているんだ。わざわざ争うやつなんているか?」


「ちょっと海軍を呼んできたほうがよくないか?」


「そ、そうだな。とりあえず報告しとくか」



 市民の中には、これも最近多発している凶悪犯罪かと勘ぐる者たちがいたため、少し離れた表通りにいる海兵に事情を説明する。


 がしかし、彼らは「その者たちには関わらぬように」の一言で追い返された。何度食い下がっても同じ対応なので『戻ってくる』しかない。


 そう、ここですでにおかしなことが起きている。


 関わるなと言われたのだから戻ってくる必要などないのだが、なぜか妙に気になってしまうのだ。



「あそこの店ってよ、俺も一度入ったことあるけど、女の子がかわいそうすぎてたなかったんだよな…」


「痩せすぎてる子ばかりだもんなぁ。どこの層を狙ってるんだ?」


「そういやアーパム財団の食堂にいた子とかは、ふっくらしていてかわいかったなぁ。笑顔も自然だったし、ああいう子のほうがいいよな。健康的でさ」


「そうでしょうとも。あなたは見る目がある」


「うえっ!?」



 いつの間にかホワイトが目の前にいた。


 そして、懐から数十枚のビラを取り出す。



「今度、新しい娼館が出来るそうですよ。ここでは健康的な女性が、ちゃんとした福利厚生の下で働いています。当然、強要はされておらず自分の意思で勤務しているのです。ハードなプレイができる子は少ないですが、お互いの性欲を発散できる場所としては、こんなところより何十倍も健全です。はい、ビラをどうぞ」


「ど、どうも…」


「下のところはクーポン券となっていますので、ぜひご利用ください。ただし、うちの女の子に乱暴な行為は禁止ですからね。調子に乗ると、ここにいるような連中がお宅にも訪問することになりますよ」


「は、はい…気をつけ…ます」



 何をもって『健全』なのかと疑いたくもなるが、たしかに襲撃されている店で働いている女性は不健康で正常な状態ではない。


 彼女たちは毛布に包まれて保護されており、立つのもやっとの者が大半だ。


 それと比べれば、自分の意思で性欲を満たしたいと考えている女性が、無理なく働ける環境は健全なのかもしれない。


 生々しい話で申し訳ないが、早い段階で命気水で洗浄すれば避妊も可能だ。設置されている風呂がすでに命気水であるし、事前に子宮に命気を浸透させておけば受精しない(精子が死ぬ)


 もちろんこれは特殊な方法であり、通常の風俗嬢はキャサリンのように懐妊してしまうことも多い。この店の者たちの中にも受精してしまっている子がいるはずだ。


 ただし、ゼイヴァーとの会話でも出たが、男女平等を訴えるのならば女性だって性欲を満たせる場があってもよいわけだ。


 何よりも重要なことは『正しい価値観』の中で、働く女性と客がお互いに納得することである。そこに一方的な強制力があっては意味がないのだ。


 襲撃した事情が少しずつわかるにつれて、野次馬の中にも謎の仮面集団を応援するグループが生まれていった(ちゃっかりビラをもらっている)


 だが当然、これだけのことをやっていれば【抑止力】がやってくる。



「おら、どけどけっ! どかんかい!」



 観衆の中から野太い怒鳴り声が響き、誰かが割り込んできた。


 彼らは六人組の男たちで、五人はチンピラ風、真ん中の一人はスーツ姿である。



「おんどりゃ!! こりゃどういうことじゃ!」



 先頭を歩いていた男が、キャンキャンと吠える。


 丸刈りのいかにもチンピラといった様相で、その手慣れた感じから、いつもこうして他人を威圧していることがうかがえる。明らかに堅気ではない連中だ。



「おう、お前ら、ここでなにしとんじゃ! 人様のシマだとわかってのことかい!!」



 チンピラは手に棍棒のようなものを持っていた。強盗団しかり人間は武器を持つと自信がついて、ついつい攻撃的になってしまうものだ。


 それが普段と同じ状況ならば、それなりの威圧効果を持っているのだろう。彼の周囲から野次馬が逃げたように。


 だが今日は、とてもとても相手が悪い。



「なんじゃぁ! 人の話を聞いとんのか! それとも俺らとやるって……いう……の……か………」



 身体は正直である。


 彼の本能が近づくことを拒否し、ついには止まってしまった。


 目の前には巨漢のマサゴロウ。完全にチンピラが見上げる形になる。



「な、なんじゃ、お前ら!! なにしてんじゃぁ!」


「見てわからないのか?」


「て、てめぇらこそ、わからねぇのか!! 俺たちがいんだぞ!」


「言っている意味がわからん」


「がっ!! て、てめ…がっ……何しやが…がはっ」



 そのチンピラもマサゴロウにあっさりと捕まる。


 ホワイトから見ればノロマな動きでも、常人からすれば恐ろしく俊敏なゴリラに近い。普通の人間が対抗できるはずもなかった。


 マサゴロウは、その大きな手でギリギリと頭を締め上げる。



「がっ…がああ…がはっ、やめっ…はな…せ……」


「な、なにしとんじゃああ!! お前ら、ぶっ殺すぞ!!!」



 相手の仲間が駆けつけるが、その前に槍を持ったマタゾーが立ち塞がる。



「そこから一歩でも動くでない。動けば殺す」


「うっ…! なんだこいつは!!!」


「オヤジ殿、どうされる? 一突きで殺すか? それとも少しずつ削ぎ落として殺すか? 拙僧はどちらでもかまわぬ」



 マタゾーも疼いてきたのか、相手が弱者であっても殺してもいい気分になったようだ。


 すでに殺すことは確定で、どう殺すかの話になっているのが怖い。



「な、なんだ…こいつら! 俺らが来たってのに、なんでやめねぇんだ!?」



 チンピラたちは、その温度差に驚いて動けない。


 こちらは威圧するつもりで行ったのだが、相手は最初からこちらを殺すつもりでいる。


 その覚悟の差、圧倒的な意思の違いに場慣れしている彼らでも戸惑っているのだ。


 そんなチンピラにホワイトが近寄る。



「やぁ、やっと来てくれたね。待ちわびたよ。でも、対応が遅いんじゃないかな。少し拍子抜けだ」


「ああん? 誰じゃ、このガキ―――ぶへっ!!」



 チンピラの腹が槍の石突きで叩かれ、吹っ飛ばされる。



「がほっ、げほっ…がっがが……がぼっ!!」



 チンピラは激しく吐血。


 呼吸ができずに苦しんでいるが、警告を無視した男のほうが悪い。



「オヤジ殿への無礼は許さん」


「マタゾー、手を出すのが早すぎるぞ」


「申し訳ない。これでも気を遣ったのでござるが、相手が弱すぎて加減が難しいですな」


「まあ、お前にしては優しい一撃だったからな。案外まともに僧侶をやっているじゃないか」


「恐縮でござる」



 マタゾーにしてみたら、軽く槍の後ろ側でつついたくらいの感覚である。


 だが、常人にとっては石が剛速球で飛んでくるようなもの。筋肉の断裂、臓器の破壊が起こり、男は半死状態だ。



「いやぁ、本当に申し訳ない。うちの連中は血の気が多くてね。ああ、かわいそうに。怪我を治してあげましょう」


「げほっ、がほっ…ううっ…痛ぇ…痛ぇ……え? 痛く…ない?」


「マサゴロウ、お前も放してやれ」


「わかった」


「ごはっ、ごほっ…くそ……」



 瀕死のチンピラを命気であっさりと治療する謎の少年。


 それを見たリーダー格であろうスーツの男、ワカマツがホワイトの正体を見破る。



「あんた…やっぱりあの…」


「おっと、ここでの私はホワイトですよ。お間違えなく」


「…最近、ここいらで暴れているって噂を聞きますよ。いったいどういう了見ですか?」


「見ての通り、これも治安維持の一環ですよ。我々『ホワイト商会』は正式に都市から依頼されて動いていますからね。まあ、アーパム財団の下請け業者って感じです」



 アーパム財団内では『裏番隊』と呼ばれているが、表向きの商会名は『ホワイト商会』となっており、財団からの委託を受けた形にしてある。


 こうすることで彼らが何をやっても財団には責任が及ばず、仮に追及されてもトカゲの尻尾切りのように簡単に切り捨てることができる。


 そして、またトカゲの尻尾のごとく違う名称で再生すればいい。


 アンシュラオンも仮面を被っている間は、それがバレバレの偽装であっても、形式上はホワイト商会のホワイトという謎の人物にすぎないのだ。


 しかし、バレバレであるからこそ、ワカマツたちも迂闊に手が出せない。



「どう見ても強盗にしか見えませんが」


「これでもかなり加減をしているんですけどね。見解の相違ってやつですかね」


「これで…ですか? うちがシーマフィアだってことはわかっていますよね?」


「ええ、もちろん。ちゃんと調べていますよ」


「…経緯を説明していただいてもよろしいですかね?」


「女性を不当に軟禁して風俗嬢として働かせているといった密告が入りましてね。調査を行った結果、悪質と判断して是正勧告をしたのですが、支配人の方が強情でして。話がこじれてしまったので、こうなっただけのことです」


「ホワイトさん、そいつは筋が通っていないんじゃないですかね? ここはもともとうちの管轄の店です。治安維持の対象外では?」


「スジですか? スジ肉は好きじゃないなぁ。私は柔らかいのが好きでしてね」


「冗談を言っている場合じゃありません。うちら筋者が、どうしてそう呼ばれるかはご存知でしょう? 筋道こそが重要なんです。あなたがやっていることは非常に危険だ」


「筋は通しているつもりですよ。強い者が勝つっていう力の流儀でね。我々のほうが彼らより強かった。それで十分じゃないんですか?」


「そんなもの、ここじゃ通じません。うちらは存外、狭い世界ですからね。お互いに協力するってのが筋なんです」


「そうですか? 我々の流儀は通じているみたいですけどね? ほら、あんなふうに」



 あらかた争いは終わっており、屍の山が転がっている。彼らは弱いから死んだのだ。


 否。


 『弱い者は、より強い者に従う』という理に逆らったから死んだのだ。その意味で彼らは筋を通さなかったのである。



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