541話 「アメンズ=メタナイア〈異端への懲罰〉」
ファビオたちの行動に無駄はなかったものの、突然起きた暴挙に対して後手に回ったのは否めなかった。
ファビオとディノが駆けつけた時には、傭兵やハンターたちは予想以上の大規模な攻撃を行っていた。
あちこちから赤い火の手が上がり、狼たちを燻り出そうとさえしている。
「皆さんは消火活動を! 傭兵は僕たちが対処します!」
「火をかけるとは許せん! やつらを捕らえろ!」
ファビオが集めた人員の大半は戦闘向けではないので、彼らには消火活動を頼み、ディノの衛士隊が火を付けていた傭兵たちに詰め寄る。
しかし、彼らも正式な依頼を受けてやっていることだ。
当然ながら両者は衝突。
「衛士が出しゃばってくるんじゃねえよ! こっちは仕事だぜ!」
「こちらも仕事だ! 都市の資源を台無しにするつもりか!」
「んなことはカーリスどもに言えよ! 知ったことじゃねえ!」
「よそ者が! 好き勝手しやがって!」
「ぐえっ!」
頭に血が上ったディノが斧で傭兵をぶっ叩く。
もちろん刃ではなく反対側の『斧頭』のほうで叩いたのだが、バトルアックスは斧頭も若干尖っているため、くらったほうはただでは済まない。
叩かれた傭兵は、地面に倒れて意識を失う。
それに他の傭兵たちがヒートアップ。
「てめぇ! 衛士だからって、やれねぇとでも思ってんのか!」
「これ以上、お前たちの無法を許すか! 立ち去らなければ、次は刃で脳天を叩き割るぞ!」
「やれるもんならやってみやがれ! 死ぬのはてめぇだ!」
「言ったな! 衛士への脅迫は重罪だ! 衛士隊、いくぞ! 俺たちの森を守る!」
興奮状態にある敵対者同士がぶつかり合うのは必然。
半ば予想通り、一気に戦闘状態に突入してしまう。
その現状にファビオは顔をしかめる。
(くっ、やはり止められなかったか。ハローワークの誘致が仇になるとは!)
ハローワークは便利だが、通貨の流通以外ではあくまで仲介斡旋を行うだけの組織だ。
グラス・ギース支店がそうであるように、都市内部での権力闘争には一切関与しない。依頼があれば代理で募集を行って手数料をもらう。それだけである。
このシステムのおかげで都市に人は集まったが、郷土愛を持たない外部出身者のほうが多くなった。今の対立構造そのものが、発展したがゆえに招かれた災いといえる。
「ディノ、援護します! できれば殺さないでください!」
「それができればな! 命と森を守るほうが優先だぜ!」
ファビオも弓矢を使って傭兵たちを迎撃。
なるべく殺さないように手足を狙うが、数が多くて次第に余裕がなくなっていく。
そして、指が滑って放たれた矢が敵の頭部を射貫いた時、自分の中で何かが壊れた気がした。
(僕はこんな未来を求めていたわけじゃない。ただ生活が豊かになればよいと思っていただけなのに。何が悪い? 誰が悪い? カーリスが悪い? 人の欲望が悪い? いや、僕が悪いのか!)
自問自答しても答えは出ない。
ファビオが殺すまでもなく、ディノたちも戦いに必死で双方に死者が出てしまっていた。
戦いは一層と泥沼の様相を呈する。
森が血と炎で赤く染まっていき、ファビオの現実も奈落に落ちていく。
「予想通り、ぶつかり合ってくれているようですね」
一方その頃、ベルナルドたちも森への侵入に成功していた。
ファビオは傭兵の対処で手一杯で、こちらにまで注意が及んでいない。
三人という身軽さもあり、火と煙で視界が塞がれていることも利用して、極力人目につかずに深部に入り込んでいく。
だが、すでに深部では刃狼たちが出現しており、傭兵隊と激しい戦いを繰り広げていた。
今回は魔獣との戦いを想定しているので重武装の者も多く、刃狼側も簡単には倒せずに時間がかかっている。
赤刃狼がいるところは相変わらずの火力で薙ぎ払っているが、傭兵隊が数十にも分かれて動いているため、こちらも潰すのに手間取っているようだ。
ただし、戦線が拡大したせいで、刃狼の群れの一部がベルナルドの前にも出現。
三人をニ十頭もの刃狼が取り囲む。
「群れの規模は、なかなかに大きいようですな」
「だが、所詮は魔獣だぜ。俺らの敵じゃねえ。司教、やっちまってもいいですよね?」
「カーリスは聖なる戦いを否定しません。危機と困難に対しては勇敢に立ち向かうことを是とします。全力戦闘を許可します」
「では、ここは我らにお任せください」
ガジガとジャコブは鎧を着込んでおり、ガジガは剣、ジャコブは戦斧といった武器も携帯している。
だが、最初に二人が取り出したのは『本』だった。
「来いよ、バルヴァハ!!」
「いでよ、バルヴァハ!」
二人が本を開くとページが光り輝く。
放出された光は粒子となって変化を始め、即座に特定の形となって顕現。
ガジガの本から出現したのは、コウモリに似た異形の存在。
毛むくじゃらの身体に特徴的な翼、長い耳に少し潰れた顔まではコウモリに近いが、身体は四肢を持った人型で、手には数珠を持ち、よくよく見れば身体中にいくつもの『唇』が張り付いている。
―――「ワシャシャワシャシャシャッ!」
その異形の何十もの口々から、謎の言葉が発せられる。
言語自体が違うので何を言っているのかわからないが、仮に同じ大陸語を使っていたとしても、あまりの早口のせいで理解が追いつかないだろう。
そんな叫び声にも似た奇妙な言葉が、刃狼に到達した瞬間。
「ギャンッ!?」
「グルッ―――ルル!?」
突如として刃狼たちが苦しみ始める。
ギャンギャンと痛みを訴える個体や、やる気がなくなってうずくまる個体、いきなりばたんと倒れる個体に加え、中には自ら頭を地面にぶつけている個体すらいた。
「ぎゃはははっ!! ワンコロにはお似合いの姿だぜ! 俺の【バルヴァハ説教型】の前じゃ雑魚だな!」
人造使徒『バルヴァハ』。
彼らが持っている本、『アメンズ=メタナイア〈異端への懲罰〉』から生み出された【生体兵器】である。
これが何かを説明する前に、カーリスの『戦力と兵器』について説明しなければならないだろう。
カーリスの通常戦力は、一般兵士および、ベルナルドたちが連れているような神官騎士たちである。(神聖騎士を含む)
兵士の水準は他の軍隊とさほど差はないが、神官騎士たちは普通の騎士よりも明らかに強い。
なぜ彼らが怖れられているのかといえば、総じて『真言術を習得』しているからである。
グランハムは術符を使うことで魔法剣士的な立ち回りをすることが可能だが、神聖騎士および神官騎士は初代カーリスが編み出した真言術を使うことによって、術符無しでも癒しや防御結界といった高度な術式を扱うことができる。
カーリスが編み出した真言術は『光』に属するものが多く、回復や自己強化といったものに長けているがゆえに、通常よりも高い肉体能力を持つ武人を育成しやすい傾向にあった。
こうした事情から神官騎士は耐久性に優れ、長期間の厳しい戦闘にも耐えることが可能になる。
継戦力の重要性はアンシュラオンも常々説いているので、全員がタフネスになることがどれだけの戦力強化になるかは、いまさら述べる必要もないだろう。
その証拠に混乱した狼がジャコブに噛みつくが、彼はびくともしない。
それは細身で小柄のガジガも同様だった。術による身体強化を施しているので防御力が跳ね上がっているのだ。
こうした真言術の習得方法に関してもカーリスは秘匿しており、教徒であり修道課程を経た者でないと教えることはしない。
一部では漏洩している術もあるが、重要な術には独自のプロテクトが施されており、こちらも専用の読解コードがないと読み取れないようになっていた。
また、ガンプドルフが保有している魔人機に関しても、ロイゼンが大国ゆえに何十機も保有しており、優れた騎士に優れた機体が与えられた彼らは極めて強力な軍隊である。
しかし、それだけにとどまらないのがカーリスの怖ろしさだ。
たとえば法王派に属する裏の実行部隊『アプス〈喪する者〉』では、聖女に準ずる力を持った女性たちに『神器』と呼ばれるデバイスが与えられている。
神器とは高純度のエネルギー体であり、その力を利用して【人工生命体】を生み出すことができる『兵器』だ。
生み出せる存在は多種多様。神器の種類によっては特殊な能力を宿した『人造神』を創造でき、その戦力は一人で戦艦に匹敵するほどともいわれている。
話を『アモンズ〈懲断する者〉』に戻そう。
大前提としてアモンズとは、いわゆる『アプスになれなかった者』たちの集まりである。
そもそもアプスに属するためには、絶対条件として性別が女性である必要がある。神器も基本的に女性にしか扱うことはできない。(守護騎士を除く)
これはカーリスが女性崇拝であることと密接な関係があるが、その段階で多くの者が弾かれてしまうのは仕方がない。
能力があるにもかかわらずあぶれた者たちは、男性司祭や神官騎士となって派閥に関係なくカーリス教団に尽くすか、ベルナルドたちのように教皇派に集まってアモンズとして再編成されることになる。
そこで彼らに与えられるのが、『似非神器』たる『アメンズ=メタナイア〈異端への懲罰〉』だ。
神器ではないが神器に類似するものであり、似非といっても出力次第では神器に匹敵する貴重な術具である。
この『アメンズ=メタナイア〈異端への懲罰〉』にはオリジナルが存在し、もともとは前文明の遺跡から発掘されたものといわれている。
能力は、天使や龍神、精霊といった自然霊の力を『吸収して使役』するというもの。
精霊の力を使うという意味ではガンプドルフの聖剣に近いが、取り込まれた自然霊は強制使役されるので、問答無用で酷使される運命にある。
その過程で元の姿は失われ、新たな人造生命体として再構築されることから、自然霊の権利など知ったことではないという前文明らしい極めて乱暴な術具である。
能力の凶悪さから『呪具』のカテゴリーに入るが、カーリスでは『聖具』と称してコピー品を高位神官に配っている有様だ。
そして、ガジガとジャコブが本から出した存在も、そうした邪術によって生み出された人造生命体であり、カーリスでは『使徒』と呼ばれて使役されている武器であった。
「俺の『説教』をくらって悔い改めろ、犬っころども!」
ガジカのものは【第六使徒バルヴァハ】の量産型の一つ、『バルヴァハ説教型』。
バルヴァハは基本兵装として『三叉槍』持ち、その見た目から悪魔を連想させるが、カーリスから見れば守護天使に等しい存在といえる。
この説教型は物理戦闘を苦手としてる反面、『音属性の状態異常攻撃』を得意とし、さきほどの奇声に似た『説教』を聴いてしまうと精神が掻き乱されて、混乱または錯乱状態に陥ってしまう。
さらに続けて数秒も聴いてしまえば、完全に自我が破壊。
目の前にいるものが群れの同胞であることも忘れ、同士討ちを始める。
「邪なる魔獣よ、聖なる『天罰』を受けろ」
そこに今度は、ジャコブが生み出したバルヴァハが『三叉槍』を振り回して刃狼たちを次々と串刺しにしていく。
近接だけにとどまらず、遠くの個体には雷撃を放つことで一撃で即死させる。
ジャコブのものは『バルヴァハ天罰型』。
説教型とは反対に物理戦闘を得意とし、雷撃まで操る攻撃タイプの人造使徒である。
このほかに『バルヴァハ祝福型』が存在し、そちらは回復や防御を担当するサポートタイプとなっている。
このように第一から第十二までのオリジナルの使徒がおり、それぞれの量産改良品がアモンズのメンバーには与えられていた。
オリジナルは非常に強力な使徒で使い手が限られることと、量産型を生産するために必要になることから、基本的には第一神殿の地下に封印されているので、まずお目にかかることはないだろう。
ただし、量産型であってもこの性能である。
あっという間にニ十頭の刃狼が息絶える。
「殲滅、完了いたしました」
「よろしい。では、先に進みましょうか」
ベルナルドたちは、人造使徒を使いながら障害を蹴散らして森を進む。
その間も遭遇した刃狼とは戦闘になるが、たった二体の量産型使徒の前になすすべもなく敗れていく。これが同じカーリスであるイノールですら恐怖するアモンズの圧倒的な戦闘力である。
ベルナルドに至っては、わざわざ使徒を出す必要もない。
喉笛に噛みつこうとした刃狼を造作もなく掴み返すと、片手で首をいともたやすく捻じ切る。
そうかと思えば、因子レベル3の魔王技である『熱火線』を発動。放射されたレーザーで数頭の刃狼を真っ二つに焼き切る。
高い身体能力は、最低でも第五階級である王竜級以上の高レベル帯の武人そのものだ。それに加えて高度な術まで扱いこなすとなれば、明らかに戦士と術士の『モザイク〈複合因子』である。
モザイクだから強いわけではない。二つの因子を上手く扱えねば器用貧乏になってしまうのだが、彼はその両者を高いレベルで維持していた。
「殺める時は、苦しませず一瞬でお願いしますよ。それがせめてもの慈悲ですからね」
炎の揺らめきが反射する眼鏡の内側には、何の感情も浮かんでいない冷徹な瞳があった。
時には遭遇した傭兵すら口封じで躊躇なく殺す。彼らは使命のためならば虐殺すら厭わない。
カーリスの聖典には、自らを犠牲にしても異教徒を倒すべし、とも書かれている。それを文字通りに実践しているだけなのだ。
しかし、いくら刃狼を倒しても門戸は閉ざされたまま。
調査の時と同様に、森は外敵に対して道を示さない。その資格がないからだ。
ただし、今はファビオという監視者がいない。
「周囲の警戒を。誰か見ていたら確実に殺しなさい」
「はっ」
周辺に誰もいないことが確認されると、ベルナルドは三つの十字架を取り出す。
これは『イビチャンヘルツ〈迷える三匹の子羊への鎮魂歌〉』と呼ばれる術具であり、三つの十字架が共鳴することで特殊な波動を生み出し、周囲に術式の痕跡がないかを調べるものだ。
「ベルナルド卿、どうですか?」
ジャコブの言葉に、ベルナルドは首を横に振る。
どうやら術具を使っても結界の存在を感知できないようだ。それだけ結界が高度なものであることがうかがえる。
が、この男を侮ってはいけない。
「反応はありません。しかし、違和感を感じませんか?」
「いえ、特には」
「俺も何も感じないっすね」
「どうやらあなた方には、まだまだ信仰心が足りないようですね。いえ、それも致し方ありません。そのために私がいるのですから」
ベルナルドが自身の横髪を押さえつけるように掻き上げると、頭皮の上に『黒い十字架の焼印』が現れる。
これは異端審問官になる際に必ず押されるもので、ガジガやジャコブの頭部にも存在するものだ。(髪の毛を伸ばすと見えない)
「なぜ私がリスクを負ってまで森にやってきたのか。それには一つの確信があったからです」
ファビオ同伴の調査の際、この十字架がわずかに疼いた。
それはとてもとても小さな反応だったが、けっして見逃すことはない確かな波動であった。
今も術具には反応がない。しかし、この刻印だけは絶対に誤魔化すことはできない。
「ここには必ず何かがあります。強引にでもそれを炙り出しましょう」
ベルナルドが因子レベル5の魔王技、『破邪顕生』を発動。
この術はパミエルキが使ったものと同じで、効果は『術式の無効化』である。
とはいえ範囲が狭いのが難点であり、特定の相手や攻撃してきた術に対して使うのが通常の使い方だ。ベルナルドもこのままでは同じやり方しかできない。
がしかし、今度はポケット倉庫から丸い水晶を取り出す。
これは魔力珠の一種で、『多震増幅宝珠』と呼ばれる術の効果を増幅させることができる『聖具』だ。
宝珠という名称からも極めて高価なものであり、カーリス内においても簡単に手に入れることができない貴重なものであるが、重要な使命を持った者にはこうして貸与されることがある。
ベルナルドはそれを使って『破邪顕生』の力を増幅。範囲を劇的に広めることで周囲数十キロまで延長する。
すると、その端が何か強いものとぶつかり、互いに相殺して消えた。
それを感じ取ったベルナルドは笑う。
「やはりありました。結界です」
「結界…このような場所にですか?」
「このような場所だからでしょう。かなり巧妙に隠されていましたが、さすがにこの宝珠の前では無力だったようですね。それに、この混乱が我々に大きく味方しました。平時での使用は目立ちすぎますからね」
広範囲に『破邪顕生』を使ってしまうと、それこそ術式武具や燃料ジュエルといったあらゆる術の力が失われてしまう。
今が混乱のさなかだからこそ、紛れて堂々と使えるわけだ。(アイラの破邪結界は敵味方の判別が可能なので、これより優れているが効果範囲は狭い)
「隊を呼びますか?」
「いいえ、混乱が収まれば動けなくなります。拙速であっても今は行動を優先すべきです。このまま進みましょう」
「へっ、面白くなってきやがったじゃねえかよ。何が出てくるかな」
三人は結界があった方角に向けて最速で最短距離を移動。
反応があった場所までたどり着くと、そこでは破損した結界の隙間に新たな道が生まれていた。
武力に優れるベルナルドたちは、怖れずにずんずんと進む。
すると、そこには光り輝く大樹があった。
「これは…たいそう立派な大樹ですね。このようなものが隠れているとは」
世界樹はいつも通りに生命の力を周囲に発しており、キラキラと幻想的な光景が広がっていた。
この状況には、さすがのベルナルドも驚きを隠せない。
「あそこに家があるぜ!」
そして、ガジガが大樹の根元にある家を発見。
家があるということは誰かが住んでいることを示している。
三人は使徒を展開しつつ慎重に近づき、離れた位置から家を攻撃。
ベルナルドが放った熱爆球によって爆散した壁から、中の様子を確認する。
「誰もいませんな。波動円にも人の気配がありません」
「術で隠れている可能性もあります。注意は怠らないように。おそらく相手もかなりの腕利きです。ガジガさん、ついてきなさい」
「了解だぜ」
ジャコブを外の見張りに立たせ、ベルナルドとガジガが中を捜索。
しかし、やはり誰もいない。
「生活の痕跡は残っています。直前まで誰かいたのは確実です」
「へっ、きっと司教の術にびびって逃げたんですよ」
「それはそれで問題ですがね。やりすぎた結果です。しかし、この聖印の疼き。おそらくは相手も我らと同種の能力者でしょう」
「は? アモンズってことですか?」
「この波動は間違いありません。しかし、現役のメンバーは全員、例外なく管理されています。であれば『脱走者』か『追放者』になります。どちらにせよ放置はできません」
「そいつが神託と関係があるんですかね?」
「ここまで大規模な結界とこれだけの大樹があったのです。無関係ではないでしょう。ほかにもまだ何か隠されている可能性があります」
「じゃあ、ここも燃やして炙り出しますかい?」
「いえ、今日はもう戻りましょう。この場所がわかっただけでも価値があります。そろそろ外の戦いも終わりそうですからね」
「ちっ、あと少しだったのによ」
「ふっ、追い詰めますよ。必ずね」
ベルナルドたちは森に戻っていくが、探知用のマーキングをしたうえで結界を補修。再び他者が入れないようにする。
いくら宝珠の力を借りているとはいえ、これだけの結界を即時に修復してしまう段階で、ベルナルドの能力はあまりに傑出していた。
(あの男はまさか…)
その様子を隠れながら見ていた者がいた。距離があったおかげで異変に気づき、なんとか寸前で逃げ延びたタイスケである。
彼は去っていくベルナルドに安堵しつつも、発せられた強大な圧力に脂汗が止まらない。
なぜならばベルナルドは、カーリスの中で『悪い意味で有名人』だからだ。
(褐色の肌に『強化人間』特有の禍々しい気配。それにあの顔付き、たしかに昔の面影がある。やはり『千人焼きのベルナルド』か! …最悪の男に見つかってしもうた。ここはもう終わりかもしれぬな)
絶望に打ちひしがれながら、タイスケは闇に消えていった。




