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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
群雄回顧編 「思創の章」
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533話 「カーリス教の伝来 その2『やり口』」


 それから一ヶ月。


 合同会議で強い権限を持つファビオが難色を示したため、ひとまずカーリス教の布教は保留となった。


 しかし、彼らは滞在を続け、粘り強く何度も布教申請を送ってくる。


 これで街に何も利益を与えなかったら追い出す口実にもなったのだが、街で『慈善活動』を開始。



「皆さん、お菓子の時間ですよ」


「わーい、おかしー!」


「お菓子ちょうだいー!」


「紙芝居を見たらあげますからね」


「かみしばい! かみしばい!」



 子供たちは、突然街に来た白いローブの集団に興味津々だ。


 司祭服に着替えた中年のシスターが、このあたりでは珍しい菓子を持って子供たちを誘導。


 広場の一画で紙芝居を始める。



「昔々、カーリス様が地上に舞い降りました。カーリス様は迷える地上の人々に正しい生き方を教えるために、わざわざお空からやってきたのです」


「カーリスさまって、だれー?」


「女神様がお遣わしになった『聖女』様です。カーリス様は癒しの術をもって多くの人々の苦しみを和らげ、さまざまな『罪』をお許しになりました」


「つみって、なにー?」


「悪いことをすると罪を背負うのです。皆さんもお母さんやお父さんの言いつけを守らないと悪い子になってしまいますよー。悪い子には罰が下りますからねー」


「えー、やだー!」


「こえー!」


「偉大なるカーリス様には数多くの弟子が集まり、その力を分け与えられました。それがカーリス教の始まりだったのです」



 中年のシスターは、手慣れた様子で子供たちに紙芝居を見せていく。


 彼女はもともと子供好きなのかもしれない。子供の質問にも丁寧に答える姿には慈悲深さすら滲んでいた。


 ただし、やっていることは半分布教である。


 たまたま通りがかったファビオが、それを見かけて注意する。



「シスターメイディ、何をしているのですか? 僕たちはまだ布教を許可していませんよ」


「これは北の村長さん、今日もご苦労様です」


「もう一度言います。布教は禁止です。即刻、退去してください」


「そんなにカリカリして、きっとお忙しいのでしょうね。お菓子でもいかがですか? 疲れた時は甘いものが一番ですからね」


「話をはぐらかさないでください。昨日も注意しましたよね? これでもう何度目です?」


「はい、重々承知して反省しております。ですが、子供たちがせがむものでして…」


「お菓子を餌にしているだけですよね?」


「単に物をあげるだけでは人は成長いたしませんわ。何かの対価として報酬をもらうことを幼い頃から教えていけば、将来は必ずや良い働き手になるでしょう」


「それは各家庭でやることですし、考え方も人それぞれです。あなた方が無理に教えることではありません」


「お若いのにしっかりしておられます。さぞや立派な教育を受けられたのでしょう。素晴らしいご両親なのですね」


「それはどうも。で、撤収していただけますよね?」


「しかし、子供たちも楽しみにしておりますし…」


「それは順序が逆です。お菓子をぶら下げるから終わらないのです。まずはそれをやめてください」


「そんな…子供にお菓子をあげるだけではありませんか。この街ではそんなことも許されないのですか?」


「言っていることが矛盾していませんか。対価としてもらうから価値があるのですよね? そもそもの目的が布教であることは明白です」


「これはカーリスの慈善活動なのです。布教ではございませんわ」



(何も反省していない…)



 話が通じない様子にファビオは軽い頭痛に襲われる。


 彼女はシスターメイディ、四十七歳。カーリス教の司祭として各地で慈善活動を行っているシスターの一人である。


 ちなみに司祭の職自体に性別は関係なく、男性の場合はブラザーと呼ぶそうだが、普通は「~司祭」と呼べばよい。


 それはそうと、ずっとこの調子なので困っている。


 ファビオが見つけた時は注意をしているのだが、その時はやめても、いなくなるとまた始めてしまうのだ。フェイントをかけてまた注意しても、平謝りはすれど、また目を盗んで再開する。


 あまり強く言うと相手は黙ってしまうので、こちらが一方的に怒っているようで周囲の心証が悪くなるだけだ。


 さらには子供たちからも非難の声が上がる。



「ファビオ! おかしたべたいー!」


「そうだそうだー! おかしをいじめるなー!」


「いやいや、やっぱりお菓子しか見ていないじゃないですか。いいですか、この人は約束を守れない悪い人なのです。擁護したらみんなも悪い子になってしまいますよ」


「それはいやだー」


「でも、おかしはほしー!」


「お菓子はユーナたちが作ってくれますから、そっちでもらってください」


「ユーナのは飽きたよね」


「うん、あきたー。ユーナって料理うまくないよね」


「僕が怒られるので誹謗中傷はやめてください!」



 事実とはいえ怖ろしい発言である。


 その怒りと不満を一方的に受ける夫のことをもっと考えていただきたい。



「ユーナのお菓子だって、あんなに大好きだったじゃないですか」


「この人がくれるのは味がおくぶかいんだよ」


「そうそう、おくぶかいの。舌の上でとけるんだよ」


「完全に買収されている! シスター! 何か変なものが入っているんじゃないですか!?」


「滅相もない! 言いがかりです! これはカーリス神殿で開発した特別なお菓子なのです。いわば『先進国のお菓子』です。申し訳ありませんが歴史が違うのです」


「勝ち誇らないでください。怒られているのはあなたですよ」


「お菓子に罪はございませんもの」


「堕落の罪はあるのでは?」


「カーリス様は、お菓子程度で目くじらを立てるほど短気ではございませんわ」


「砂糖は麻薬ですよ。あれには中毒性があります」


「もしそうならばとっくに規制されています。されていないのならば、問題ないということではありませんか? それともこの街では禁止なのですか? お料理にも砂糖は使いますし無いと不便ですよ」



 ああ言えばこう言う、とはまさにこのことだろうか。若干の怒りが湧くが、ここは人目もあるので我慢だ。


 とはいえ、シスターの言うことも事実である。


 カーリス教の発祥地は、ダマスカス共和国と同じ北大陸諸島にある『ロイゼン神聖王国』だ。


 ロイゼン神聖王国は西大陸所属ではないものの、西大陸と非常に近い距離にあることから文化的には同レベルであり、先進国といっても差し支えない大国である。


 規模としてはDBDの十倍以上で、その軍事力も比べることができないほど強大だ。彼らならばルシアに真正面から対抗できると聞けば、その強さが実感できるだろう。(全面戦争になれば負ける可能性が高いが、島国なので防衛に徹すれば守りきれる)


 カーリスの総本山である第一神殿もロイゼンの首都にあり、ロイゼン王室も幼少期から必ずカーリス教を学ぶ義務があるほど、かの国ではカーリスが浸透している。


 逆説的にいえば、その大国を支えているのがカーリスという『宗教』なのだ。世界中に信者がいるので、彼らが一斉に蜂起すればルシアを内部から攪乱することも容易である。


 他国はそれを知っているがゆえに、よほどのことがなければロイゼンに対して攻撃を仕掛けることはない。


 メイディたちも第一神殿から命令を受けて各地に派遣されている『布教隊』の一つであり、恵まれない者に施しを与えながら布教活動に勤しんでいる。


 慈善活動自体は公然と非難できないので、それを盾にしているというわけだ。



(宗教を使って国力を維持している大国か。厄介すぎる。しかもこの人は真面目に信じているだけだから、なおさらたちが悪い)



 当然ながら悪いと思っていないから悪びれない。良く言えば敬虔な信者、悪く言えば頑迷な人間、どちらにしても迷惑である。


 この日はなんとか追い出すことに成功する。


 が、次の日になると、今度は若いシスターが折り畳み式のテーブルを持ち込んで子供たちを集めていた。



「はい、みなさん。今日は読み書きの練習をしましょうね」


「よみかき?」


「みなさんは文字を習っていますか? ご本は読めるかな?」


「本はあるよー」


「ちょっとよめるー」


「あら、すごいですね。でも、基礎からちゃんと学ぶと、もっとご本が楽しくなりますよ。お姉さんと一緒に学びましょうね。ちゃんとできた偉い子には、お菓子をプレゼントしますよー」


「わーい! おかしー!」


「おねーさん、おっぱいでかー」


「うふふ、そうね。みんなのお母さんよりも大きいのかなー? さぁ、鉛筆を持ってくださいね」


「ちょっとちょっと、またですか!」



 そこにまたファビオが飛んでくる。


 どうせまたやると思って見回りに来たのだが、ものの見事にやっているのだから頭がさらに痛くなる。



「シスターキャサリン、ここでの活動は禁止と言いませんでしたか?」


「子供に教育を施して何が悪いのですか?」


「それは街が決めることであって、あなたが決めることではありません」


「子供には教育を受ける権利があります。たしかにこの街では識字率も高くて驚いておりますが、また違う側面から学び直すことで新しい発見があるはずです」


「それはその通りですが、布教に繋がる以上は認めるわけにはいきません」


「オルシーネ様、どうかご慈悲を。わたくしはただ子供に健やかに成長してほしいだけなのです」


「ですから、そのお気持ちはご立派ですが、街には街のルールがあってですね」


「明確な教育機関は無いと伺いました」


「それぞれの成長具合に合わせて教育は行っています。だから識字率も高いのです」


「共に学ぶことで子供たちは一体感を覚えるはずです。それは街にとっても重要なことではないのですか?」


「それはそうです。子供たちは一緒に遊びながら物事を覚えます。しかし、一律での教育にはデメリットもあります。それゆえに強制的な義務教育はやめて各家庭における教育を重視しているのです」



 日本では学校による義務教育があり、それによって規律ある団体性と文化の発展および、高い識字率を維持している。


 それ自体は非常に優れている。他の発展途上国でも導入されるほどに素晴らしいものだ。


 しかしながら、ユアネスの教育方針は異なる。


 あくまで各々が自由意志によって成長することを推奨し、勉学を重んじる家庭では知識を与え、実務作業を重視する家庭では若い頃から親の仕事を手伝う。


 住人同士の距離も近いことから望めばいつでも協力し合う環境があることで、そうした多様性を生み出せるわけだ。これも規模が小さい街だからこそできることである。



「我々がやっているのは一律で学ぶ方式よりも高度な教育です。それに文句を言われる筋合いはありません。ロイゼンからやってきたあなたならば、それが理解できるのでは?」


「オルシーネ様は聡明な御方のようですね。高い知能と教養をお持ちです。ですが、わたくしも教育に情熱を燃やす身。この地域ではまだまだ教育のレベルが低いと存じます。ロイゼンの教育を受けることで発展に寄与できると自負しております」


「それは殊勝な精神ですね。ぜひがんばってください。ですが、ユアネスでは求めておりません。ありがた迷惑です」


「なぜですか? それは子供たちの未来を奪うことではないのですか?」


「逆です。むしろ未来を広げるのです」


「そんなことはありません。知っておかねばならないことを教えられないのは、まさに不幸です。虐待です。違いますか?」


「一方的に意見を押し付けることこそ虐待ではないのですか?」


「いいえ、正しいことを教えるのは大人の義務です」


「なぜあなたが正しいと言いきれるのです?」


「ロイゼンはカーリス様によって発展しました。ならば、カーリス様の教えが正しいことは明白です」


「それはロイゼンの話であってユアネスには該当しません。あなたは今日、文字の読み書きを教えるために来たのですよね? それでは布教と同じではありませんか」


「子供のためになるのならば、そんなことは些細な問題です」


「いいえ、大きな問題です。街のルールに違反しています」


「認識の違いですね。子供には正しい教えが必要なのです」



(あー、面倒くさい。なんで引き下がらないのだろうか)



 心の中で本音が漏れてしまうほど、こういうタイプは面倒だ。


 それだけならばまだよいのだが、シスターキャサリンは非常に容姿が優れている。美しい薄いブロンドの髪に餅のような白い肌、整った顔立ちに加えて巨乳ときている。


 この世界ではすべての因子が内包されているので、ブロンドだろうが色黒だろうが場所に関係なく産まれてくる。それ自体は珍しくない。


 だが、ロイゼンで育った彼女には、やはり独特の雰囲気と魅力があるのだ。


 いわば日本人男性が北欧系の美女に憧れるような、あのなんともいえない気持ちである(実際は日本人男性は白人女性に性的興奮を覚えにくいともいわれているが、多少の憧れはあるだろう)


 ファビオは性への誘惑に強く、同じく巨乳のユーナという伴侶がいるので大丈夫だが、問題はそれ以外だ。



「…美しい。神話に出てくる天使のようだ…」



 一緒にいたキリポが、恍惚とした表情でシスターキャサリンを見つめている。


 内心で「またか」と思ったが、こうなってしまったらもう止まらない。



「ファビオ! 僕もシスターキャサリンに賛成です! 教育は大事ですよ! ぜひ教えを請いましょう!」


「キリポ、色香に惑わされないでください。これも『彼らの手口』なのです。布教の口実であり常套手段といえるでしょう」


「なんてことを! 彼女は純真な気持ちで子供の未来を考えているのに、どうしてそういう目で見るのです! 不純ですよ!」


「そういう目で見ているのは、キリポのほうではありませんか」


「シスターのおかげで教育に目覚めただけです! 見損なわないでください!」


「ああ、キリポ様はわかってくださるのですね!」


「はい、わかりますとも! ぜひともご一緒させてください! 知識に関しては僕もそれなりに自信がありますから!」


「仲間ができるなんて嬉しいです。毎日怒鳴られて、ずっと怖かったのです」


「それはそうでしょう。こんな辺鄙な田舎の街にまでやってきて、わざわざ先進国の知識を与えてくださっているのに、こんなうるさい男に捕まって怖くないわけがありません! これだから既婚者は悪なのです!」


「ご理解いただけて嬉しいですわ。では、こちらの分をよろしくお願いします」


「はい! あぁ!! 胸が腕に当たるぅううう!」



 キャサリンが近づくと胸が大きすぎてどうしても当たってしまう。


 それにキリポは一撃でノックアウト。デレッデレの笑顔で愛想を振りまいていた。



(こいつ! 殴ってやろうか!)



 殴りたい、この笑顔。


 だが、歯医者で頭に胸が当たると幸せになる現象を思い出し、同じ男としてそこだけは共感するしかないのがつらいところだ。(面倒な患者にはそうして黙らせるらしいが)


 また、キリポはこれまで独身を貫いてきた。


 それは自分で選んだことなのだが最近では嫉妬心が芽生えたようで、ファビオがユーナと乳繰り合っていると羨ましそうに眺めてくる。


 ディノが嫁さんと仲睦まじく歩き、子供を背負っている姿を見ても悶絶するので、ここのところ情緒不安定だったのも確かだ。


 そんな時、先進国からやってきた垢抜けた女性と出会えば、魅了されてしまうのも仕方がない。性欲というものは適度に吐き出していないと、いざというときに爆発してしまう良い事例といえる。


 キリポが寝返ったことで見逃すしかなくなり、徒労感に襲われて街をさまようファビオ。



(やっていることは悪くない。しかし、これはすべて計算ずくだ。当人たちに自覚がないのが一番の問題ではあるが)



 キャサリンも自分は正しいことをしていると思っている。だから譲らないし正当性を主張し続ける。


 がしかし、ファビオには、これが『いつものやり口』だとわかる。なぜならば前世でも同じ場面を何度も目撃したからだ。


 宗教の勧誘を見ていればわかるように基本は二人一組の女性を使う。そのほうが警戒されにくいわけだ。場合によっては赤ん坊を抱いていることもあるから実にいやらしい。


 お菓子や紙芝居も子供に思想を伝える常套手段だ。子供の精神は柔軟性に富んでおり、良くも悪くも受けたものをすぐに吸収してしまう。


 メイディやキャサリン自身も幼い頃からこうした教育を受けているので、それが当たり前になっているのだろう。


 しかも露骨に美女を使って大人まで籠絡ろうらくするあたり、かなり狡猾な手口といえる。



(おそらくはアンリ・イノール司祭長の指金だ。やり慣れているな)



 正攻法では議会で強い発言力を持つファビオを突破できないので、こうして外野から攻めているのだ。


 イノールとは一度だけ陳情の際に会ったが、ひたすらファビオをおだててきたことから印象は極めて悪かった。


 お世辞はお世辞と見破られたら意味がない。表向きは柔和で敬虔な信徒を演じているが、時折見せる醜悪さを隠しきれていない。


 それで警戒を強めることにもなったので、会ったこと自体は悪くなかったが、逆に相手もなびかないファビオに対して警戒を強める結果になった。


 今ではファビオを避けるようになったことが、その証拠である。



「はぁ、困ったな」


「なんだい兄さん、昼間からため息かい? 若いのに大変だねぇ」


「あなたは…クロスライルさん?」



 街角でばったりとクロスライルと出会う。


 彼はイノールと会った時に護衛についていた人物で、お互いに軽く自己紹介もしたので素性は確認している。


 が、やはりウエスタンハットにライダースーツは目立つ。


 やや垂れ目でニヒルな口元なども相まって、ハリウッド俳優かと思えるほどのイケおじである。こんなにインパクトがある人物など、この街どころか日本にもなかなかいないだろう。



「一度しか会っていないのに名前まで覚えてくれるとは、嬉しいもんじゃないの」


「覚えますよ。明らかに異質ですので」


「誉め言葉として受け取っておくよ、お若い村長さん」


「クロスライルさんは昼間からお酒ですか?」



 クロスライルの手にはウイスキーの瓶が握られている。


 最近になって街で流行したもので、これも専属の行商人が仕入れてくるものだ。



「昼からの飲酒は禁止されていないんだろう?」


「そうですね。しかし、そもそも飲む人がいなかったので盲点でした。今度の会議で禁止を提案しましょうか」


「なんでもかんでも禁止じゃつまらんよ。いいじゃねえか、酒くらいはさ。あんなクソみたいな坊主の護衛をやってんだ。ストレスも溜まるってもんさ。といってもオレは酔わないから単に味を楽しんでいるだけだな」


「あなたは彼らの仲間ではない…ですよね」


「仲間と思われるくらいなら死んだほうがましだね。あくまで仕事さ」



 クロスライルの態度を観察していると、カーリスの司祭たちとは一定の距離を置いていることがわかる。


 それどころか侮蔑にも似た視線を送っているので、護衛は仕事として割りきっているのだろう。その意味では比較的話しやすい人物である。



「で、悩み事かい? やつらの『戦術』に随分と手こずっているみたいじゃねえか」


「正直、困っています。無理やり排除もできませんし」


「銃で撃つのが一番早いぜ。ズドンとな。なんならオレに依頼したらいい。数秒で終わる話さ」


「いいのです? 傭兵は契約が命ですよね? 護衛契約に反するのでは?」


「隠れてやっちまえばバレやしないさ。カカッ! まあ、兄さん好みの提案じゃないわな」


「ええ、できるだけ自由は守りたいですし…」


「それだけ良い街ってことだ。気に病むことはないさ。ただ、そういう場所には害虫がたかりやすいってだけの話だ。あいつらは『寄生虫』だからな。良い街ほど狙われるし、少しずつ養分を吸い取られて弱体化させられちまう。まったくもってクソみたいな連中さ」



 酒を瓶ごとラッパ飲みする姿が、あまりに荒野に合いすぎる。


 同じ男として思わず見とれてしまうほどだ。



(なんだろう、この人は。妙に惹かれる魅力がある。今まで見た傭兵とは全然違う雰囲気だ)



 傭兵というよりは完全なるアウトロー。その日を好きに生き、好きに死んでいく潔さが態度から滲み出ていた。


 ますます彼に興味が湧いたので事情を訊いてみる。



「どうして護衛を?」


「たまたま雇われただけさ。他の傭兵連中は、北で盗賊団に襲われた時に死んじまったよ」


「では、その後は独りで撃退したのです?」


「まあな、オレって強いからさ。荒野じゃ力だけが正義だ。自分しか頼れるものはねぇ。他の連中は覚悟が足りなかった。それだけさ」


「すごいですね。あなたみたいな人は初めて見ます。なんというか格が違う」


「なんだい兄さん、羨ましいのかい? だが、オレみたいな生き方はしないほうがいいぜ。どうせいつか野垂れ死んで終わりのつまらん人生さ」


「それにも憧れます」


「兄さんは既婚者なんだろう? そっちのほうがいい人生だ。奥さんを大切にしなよ」


「ありがとうございます。僕も家族が一番大切です」


「いい笑顔だ。兄さんは強いな。覚悟がある。聞いたぜ、あんたがこの街をここまで育てたんだろう?」


「僕だけの力ではありませんよ。皆が協力し合って生まれた結果です」


「カカッ、その謙虚さをあのクソ坊主にも教えてやりたいもんだねぇ。わかっていると思うがカーリスには気をつけな。伊達に世界で覇権を握ってないぜ。早めに追い出すことを強く推奨するね」


「それができればよいのですが…。また話しに来てもいいですか?」


「こんな男でいいならどうぞ。荒事しか対応できんがね」



 クロスライルは酒瓶を回しながら去っていった。


 その去り際も自然と格好がついていて、ついつい姿が消えるまで眺めてしまう。



(そうか、昔見た西部劇のガンマンに似ているんだ。憧れるな)



 クロスライルと話して多少は気が晴れたが、やはり問題は解決していない。


 それからもファビオは彼らのやり方に苦労させられるのであった。



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