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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
群雄回顧編 「思創の章」
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523話 「クラフト能力」


 二年が過ぎ、六歳になった頃。



「今日は村で小屋を建てるぞ! お前も手伝え!」


「僕もですか?」


「そろそろ覚えてもいい頃合いだろう。手に職があって困ることはないからな!」



 父親のマテオが朝からそんなことを言い出した。


 母親も特に異議を申し立てなかったことから、この地域ではそれが当然のことのようだ。



(今まで労働を強いられたことはなかったけど、たしかに身体の成長具合を考えれば自然なのかもしれないな)



 前世での六歳がどの程度だったか記憶にないが、ファビオの身体はそれなりにがっしりとしており、ちょっとやそっとの運動でも疲れなくなっていた。


 見たところクラリスやマテオも体力的には優れているので、この星の環境条件によるものか、あるいは生きるための労働が当たり前になっていることから、必然的に身体能力が向上しているものと思われる。


 ともあれ、やることもないので快諾。



「わかりました。行きます」


「いい返事だ! 飯を食ったら出発だ!」



 食事が終わり、労働用の服に着替える。


 母親から弁当を受け取ったら、マテオと一緒に家を出てて南に向かう。



(遠出は久しぶりだな)



 すでに述べているように、ファビオが暮らしている家はマテオが木こりということもあってか、北に広がる森林地帯に面した場所にある。


 まだまだ森の入り口部分ではあるが、木々に囲まれた自然豊かなエリアであり、穏やかに暮らすには理想的といえた。


 ただし、人が安定して暮らすには最低限の社会が必要だ。


 当然ながら暮らしているのはファビオたちだけではなく、少し南に行くと『村』が存在している。


 村の人口は、約二千人。


 変哲もない普通の集落であり、アンシュラオンがグラス・ギースに向かう際に見かけた集落群よりも少し大きい程度の村である。


 マテオやクラリスも物を仕入れるために村にはよく赴いている。やはり森だけではすべてを賄えないからだ。


 ただし、ファビオが村に行ったのは、今までで二回だけ。



(平和に見えるけど、日本のように発展しているわけではないから危険も多い。子供の移動に制限が付くのも当たり前か)



 そもそも人口が少ない村なので治安は取り立てて悪くはないが、悪人がいないわけではない。


 その多くは外から入ってくる野盗や盗賊、または詐欺師の類だが、村の防衛力の脆弱さを考えると油断できない存在である。


 また、森には魔獣も住み着いているので注意が必要だ。


 強力な魔獣は森の浅部には出現しないものの、子供だと死亡に繋がる事故に発展する可能性も高い。


 よって、顔見せで二回ばかり両親と一緒に村に行っただけだ。最後に行ったのは、もう一年以上前だと記憶している。



(僕もこの地域に順応しないといけないな。立派な男にならないと!)



 自身の姿が可愛いことは嫌ではないが、やはり中身は男性である。


 美しい母親への憧れは異性だからこそであり、なれるものならばマテオのように逞しくなりたいのが本音だ。


 強い意思をもって意気揚々と歩く息子の姿に、マテオも喜ぶ。



「おっ、やる気があるじゃないか」


「僕だって男ですからね。強くなりたいです」


「そうだ、男は強くなくちゃいけねえ! これからどんどん鍛えてやるからな!」



 それから二時間ほど林道を歩くと、視界に村の外観が映り込む。


 ファビオの家の方角は上り坂になっているので、逆に村に向かう際は見下ろす形になるのだ。


 村の中では、待っていた木こり仲間から声をかけられる。



「よぉ、マテオ! その子はファビオか? 大きくなったな」


「おうよ、前に顔見せした俺の息子だ。今日は出来の違いを見せてやるぜ!」


「はは、親分の子なら期待しちまうな」



 彼らはマテオを親分とした『マテオ組』で、数は十四人。全員がマテオと同じく二十代から三十代の働き盛りの男たちである。


 あらかじめ子供を参加させることは伝えていたので、誰もがファビオを温かく迎えてくれた。


 周囲を見回せば他の木こりの子供も何人か見られる。この日の仕事は子供の教育も兼ねているのだろう。


 子供同士で仲良くという意図もあってか、半ば強制的に他の子供と会話させられたが、あまり長続きはしなかった。



(子供とは会話が合わないな…)



 相手が消極的かつ、ファビオ自身もあまり興味がなかったので、軽い挨拶で終わってしまうのは仕方ない。


 親たちもそこは気にしていないようで、そのうち仲良くなるだろうと楽天的に構えているのは幸いだった。


 気を取り直し、マテオ組の面々と広場に赴く。


 そこにはすでに大量の木材が積まれており、複数の小屋を建てる準備ができていた。木に精通した彼らが建てる家は評判が良く、村の建物の二割はマテオ組が建てたものだそうだ。



(家は木造が大半か。うちと同じだ)



 ファビオが村を観察してわかったことは、至る所に木材が使われていることだ。


 家も木造ばかり、というよりは木造しかない。せいぜい石を所々で使う程度だろうか。


 ただし、術式は使われていない。


 グラス・ギースやハピ・クジュネの建造物は、その大半が術式によって強化されているので、木や石で建てたにもかかわらず頑強となる。


 あえて鉄資源を使わずとも賄えてしまうため、製鉄技術があまり進歩しなかった理由にもなっていた。


 が、実際のところ術式は高価だ。


 物質を強化する『核剛金』の術符もコッペパンでは五十万円もしていた。


 流通が少ないグラス・ギースゆえに多少値が張っている面はあるが、それでも平均より多少高い程度である。


 戦士や剣士と比べると術者の数もそう多くはなく、術符だけで対応しようとすると費用が莫大になってしまうのは手痛いデメリットといえる。


 よって、術式で強化している建造物とは、それだけで高級住宅と呼べる代物なのだ。


 財政に難のあるグラス・ギースでそれができたのは、四大悪獣に破壊されたことで防衛に力を入れたことと、もともとエメラーダが管理していた地域なので彼女が力を貸したことが大きいだろう。


 ハピ・クジュネも経済が発展し、錬金術師を招き入れたり、大量に術符を輸入することで強固な街並みを作っていったが、それも大きな都市だから可能なことである。


 一般的な荒野における人々の生活水準は極めて低く、食糧を手に入れるだけでも精一杯なのが実情だ。


 こうした事情を鑑みれば、ガンプドルフがグラス・ギースで妥協したことにも納得できるだろう。



(ここじゃ術式なんて言っていられない。余裕があれば食糧や備品に出費する『未開拓地域』なんだ)



 ファビオも六歳になって活動範囲が広がり、知性も向上したことから自分が住んでいるエリアについても調べてみた。


 村に関してはすでに述べたので、もっと大きな視点で見てみよう。


 両親に訊いたり地図を見たり、あるいは本に書いてあることから推測すると、ここはたびたび話題に出る自由貿易郡よりもさらに南。


 【ニューロード】と呼ばれる八千キロメートル以上続く荒野の一画に作られた自治区の一つであることがわかった。


 名前の由来は、人々が豊かな土地を求めて移動する往来の地だからだ。


 ニューロードは長さだけならば火怨山に準ずるほどだが、合間合間にあるロードキャンプを除き、ほとんど街らしい街もない非常に寂れた地域でもある。


 南部といっても、すべてが北部より発展しているわけではない。


 今でこそ西大陸国家からの入植が行われているが、そもそも東大陸西部の大半は手付かずの荒野が広がっているだけの痩せ地で、それゆえに誰もが手を伸ばさなかった。


 人々の往来があるのならば発展しやすいかと思いきや、あまりに土地が広すぎて対応できないのだ。


 たとえば日本でも『原野商法』と呼ばれる詐欺が流行ったことがあった。


 これはさまざまな虚偽の情報、今後発展するとか高値で売れるとかを吹聴し、荒廃した土地を騙して売りつけるものだ。


 実際にそこに行ってみても、どこまでが自分の土地かわからないほど荒れ果てていたり、それ以前にたどり着けないこともあったというから話にならない。


 また、そうした土地を買ってしまった人に声をかけ、整備代と称して多額の費用を騙し取る二重詐欺も横行していた。


 田舎を見ればわかるが、土地自体は意外と余っているものなのだ。


 問題は、人が住むには適さないものばかりで、それをどうやって開拓して発展させるか、誰がその労力と金を出すかである。


 発展の見込みがない場所に金を出す酔狂はいない。


 入植する西側勢力もDBDのようにやむをえない理由で入植しているのであって、その中でも沿岸部といったまだ有利な土地を率先して狙っていた。


 いまだに彼らの手が伸びていないことからも、ここがいかに見込みがない土地であるかがわかるはずだ。



(この『十三番区』は、まだ森林があるからやっていけるけど、そうではないエリアの人は厳しいはずだ。それだけでも幸せだと思わないといけないな)



 ニューロードが荒れた土地といっても、そこに住み着く者たちも大勢いる。


 西大陸や東部から逃げてきた者、脛に傷を持っている元犯罪者等々、行き場をなくした者たちが集まって自然と集落が生まれていくわけだ。


 最低限の開拓ができたエリアから順番に数字が割り当てられていき、現在では二十に及ぶ自治区が作られている。


 ファビオが住んでいるのは十三番区。ニューロードの北東にある小さなエリアである。


 森林だけは豊富にあるので、必要最低限ではあるものの、その資源だけでも十分に暮らしていけるのが唯一かつ最大の強みだ。


 そして、ファビオはこの生活が気に入ってもいた。


 前世において煩雑な社会で暮らしていた彼にとって、自然溢れた十三区は静かで、傷ついた心を癒してくれる大切な故郷となっているからだ。



挿絵(By みてみん)



「よーし、さっそくやるぞー!」



 大人たちが木材を建築現場に運び込み、マテオの指示で小屋を建てていく。


 その傍らでファビオも工程を教わりながら、子供なりに手伝いを始める。他の子供たちも親の仕事を一生懸命に真似ようとしていた。


 しかし、集中力が長く続かず、飽きて遊び始める者が出たり、上手くいかずに泣きだしそうになっている子もいる。



(しょうがない。まだ子供だ。あんなものだろう)



 一方、身体は子供、中身は大人を地で行くファビオは、大人顔負けの技術で次々と木材を削っては整えていく。


 その出来は実に見事で、他の大人たちも目を見張るほどだ。



「ほえー、ファビオはすごいな」


「さすがマテオさんの息子だ。もう立派な大工じゃないか」


「そうだろう、そうだろう! 俺の息子だから覚えがいいんだ!」



 ここは娯楽が少なく、やれること自体があまりない。行商人も頻繁には来ないので玩具もない。


 ならば自分で作ればいい。


 マテオはファビオと遊ぶ時、常に何かを作ってくれた。木製の小さなクルマの玩具や積み木などを一緒に作りながらコツを教えてくれる。


 そのおかげで前世では日曜大工すらやったことがなかったファビオも、子供特有の吸収力であっという間に手先が器用になっていった。


 といっても、ここまで見事に削れることには『違う理由』がある。



(出来上がりが綺麗になるように、もう少し切れ味を増してみよう)



 ファビオが持っている大工道具が淡く輝くと、形が微妙に変わっていく。


 変わったのは形だけではなく、その性能も大きく変化。


 使用する木材に合わせて最適に調整された道具は、まだ未熟な子供の腕を完全にサポートしてしまう。


 サナたちがディムレガンの武器を使うことで、あの歳にして三大魔獣を倒してしまえるように、たいていの問題は圧倒的に優れた道具によって解決するものなのだ。


 続いてファビオは木材にも触れる。


 それは同じ見た目をしていながらも中身は別物。より弾力がありながら雨風にも強く、劇的に建造物の強度を上げられる材質に変化していた。



(みんなの道具もさりげなく変えておこう。これでお父さんたちの仕事も楽になるはずだ)



「おっ、腕が上がったかな。いい出来だぞ」


「なんか今日は調子がいいよな。木の質もいい感じだ」



 ファビオは手伝うふりをしながら、次々と皆の道具と木材を新しくしていった。


 他人のものは形を変えていないので問題ない。あくまで性能面だけを強化している。


 それくらいの差ならば、まずバレることはないだろう。実際に自分の腕が上がったと思っている者が大半だった。


 その様子を満足げに見守るファビオは、自身の両手を見つめる。



(それにしても、なんで僕にこんな【能力】があるのだろう? 神話や伝承には生まれながらに特殊な能力を持っている偉人が出てくるけど、僕もそうなのだろうか?)



 あくまで本に書いてあっただけなので真偽は不明だが、たとえばかつて王となった人物には『絶対統治』という力が与えられ、一度支配下に置いた地域では反乱が起こせないというチートスキルだったそうだ。


 言ってしまえば絶対に破れないギアスのようなものだが、逆に住民の面倒を死ぬまで見なくてはいけないデメリットも付随してしまうらしい。


 それ以外にも、生まれながらに剣術を極めるようなスキルや、強大な術式を操作するスキル等々、この世界に大きな影響を与えるものがあったという。


 だが、どの人物も特異な力を持つがゆえに戦乱の中に身を置くことになり、死ぬまで心が休まることはなかった。


 強すぎる力には対価や代償が必要だという良い見本である。



(それに比べて僕の能力は、そこまでたいしたものじゃない。ちょっとだけ物を加工したりするだけの『クラフト能力』だ。これくらいならばべつにいいかな)



 ファビオがこの能力に気づいたのは三歳の頃、父親と一緒に玩具を作っている時だった。


 もっとこうしたほうがよいと頭の中で考えていた時、手が光って玩具に形態的変化が生まれた。それは些細な変化だったが、頭の中で想像していたものがそのまま出来ていたので驚いたものである。


 それから少しずつ実験を重ねることで、六歳にしてある程度使いこなせるようになっていた。


 その性質からファビオは、この力を『クラフト能力』と呼んでいるわけだ。



(条件は簡単。手で触れている物質なら、だいたいのものは変化させることができる。これはけっこう便利だ)



 まず最初の条件は『手で触れている』ことだ。


 これは発動のための前提条件になっており、それによって『情報の解析』を行っているらしい。


 「らしい」と伝聞形式なのは、自分で解析の結果が見えるわけではないからだ。なんとなく終わったことがわかる程度で、詳細なデータが表示されるわけではない。


 ただ、今やったように触れている物の性質を『想像に沿って』一定の範囲まで自由に操作できることは間違いない。


 もっと硬くなればいいのに、もっと柔らかくなればいいのに、といった願望や想像が反映され、現状で可能な範囲内で変化が起こる。


 これがクラフト能力の一つ目の力である『性能変化』だ。ある程度は形態も変えることができるので、より詳細にいえば『形態性能変化』ともいえる。



(大きく中身を変えないせいか性能変化は難しくない。でも、『もう一つの力』は制御が難しいな)



 一つ目の力だけでは、あえて『クラフト』と名付けるのは適当ではないように思える。ゆえに、クラフト能力にはクラフト足りえるための、もう一つの側面があった。


 それは【元の素材を材料】にして『まったく新たな性質をもった素材を生み出す力』である。


 たとえばファビオが右手で石ころを握り、能力を発動してみるとする。


 この時に『性能変化』を使えば、右手の石は存在したままの状態で性能だけが変化することになる。


 ただし、これだと大きな変化は難しい。


 さきほどやったように「もう少しだけ切れる」とか「弾力と耐久性を増す」といった限定的な効果しか得られない。


 一方、もう一つの『再構築』能力の場合は、その制限を超えて何でも付与することが可能になる。


 仮にファビオが「燃える石」にしたいと思えば、簡単に着火できる『燃料石』として生まれ変わらせることが可能なのだ。


 しかしながら、万能な力など存在しない。



(完全に新しく生み出す場合は元となった素材は消えてしまうし、何よりも『素材以上のものは作れない』。何事も全部は上手くいかないものだ)



 ゲーム的な表現をすれば、『石』を消費して新たに『燃える石』を作るわけだから、その付与分の力をどこかから持ってこなければならない。


 それを石から抽出することも可能ではあるが、もともと火属性を持っているわけでもないので、ただの石ころから作られる燃える石は、その性能分を差し引いて極めて小さなものとなってしまう。


 いろいろと実験した結果、この場合は『元の三割以下』の質量になってしまうことがわかった。



(逆に考えれば、三倍の消費量を用意すれば優れたものが一つできる『可能性』があるわけだ。とはいえまだ失敗も多いし、かなりリスクを伴う力だ。今のところは性能変化でいいかな)



 変化に関しては、物質のデータをいじる『情報術式』に近い能力といえるだろう。いわば核剛金の術式を展開しているのと大差ない。


 再構築する能力においては、さらに難しい処理を行うため、その対価も相応なものとなってしまう。


 結局六歳の身では、道具や木材を強化するくらいしかできなかった。



(でも、これで十分だ。お父さんたちの手助けができるだけの力があればいい。多くを望む必要はないんだ)



 術符が容易に手に入らない場所においては、この能力は非常に有用だ。


 結果的に今回建てた小屋の評判は上がり、それによって新たな仕事の発注が生まれていく。


 ファビオ自身も道具の管理を積極的に行うことで、職人たちからの信頼を得ていった。彼が整備したものは、なぜか質が上がるからだ。


 大人たちは不思議な現象に首を傾げながらも、その大らかさから特に気にする様子もない。


 穏やかな場所では精神も安定するものだ。そういうところもファビオは気に入っていた。



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― 新着の感想 ―
新章を見ましたが、凄い展開ですね。これからが楽しみです!
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