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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「白い魔人と黒き少女の出会い」編
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52話 「潜入領主城 その2」


 しばらく進むと、前方に二人の衛士を発見。


 どうやら雑談をしているようだ。



「知っているか? またイタ嬢様がスレイブを手に入れたらしいぜ」


「そうなのか? いくらだ?」


「ああ、話によれば二千万だってよ」


「二千万!? 額がおかしいだろう!?」


「しょうがねえ。白スレイブを買ったらしいからな。白スレイブは高いからなぁ…」


「俺らの給料の何百倍だ!? 普通のスレイブにしていれば百万もしないだろう。いや、数十万で済む」


「それだと『お友達』にはなれないんだろうよ」


「前に買ったやつはどうしたんだ? たくさんいるじゃないか」


「気に入ったのは何人か手元に置いているらしいが、飽きたやつは売り払ったらしいぜ」


「…怖ろしい話だ。鬼畜だな」


「いや、そうじゃねえよ。飽きたやつってのは、イタ嬢様と友達でいることが飽きたスレイブってことだ」


「は? 白スレイブだから自由に命令できるんじゃないのか?」


「そういう話だが…精神制御ってのも万能じゃない。どんなにがんばってもよ、どうしても無理ってのはあるだろう? 相性とかもあるだろうし、『あっ、こいつとは無理だわ』って思うことがさ。結局、作り笑いしかできなくなって、イタ嬢様の心のほうがもたなかったって話だ」


「痛ぇ!! 心が痛ぇよ…!!! 泣けてくる!!」



 イタ嬢は、衛士からも同情されるレベルであることが判明。



「にしても、その情報はどこから入ってきたんだ?」


「【侍従長のファテロナ様】からの情報だ。帰り際に知り合いのメイドがたまたま会ってな。教えてもらったらしい」


「あー、ファテロナ様か。つーか、情報を漏らしていいのか? あの人もスレイブだろう? といっても一等一級スレイブだから、俺たちより上だけどさ…」


「まあ、あの人はイタ嬢様の世話ができる非常に数少ない人材だからな。いいんじゃないのか?」


「そっか…。めっちゃ美人だよな、あの人。嫁さんになってくれないかな」


「無理無理。お前には無理だって。それ以前にイタ嬢様のお付きなんだから無理に決まってるだろう」


「そう言うなよ。可能性はあるだろう。寿退社ってこともありうるし」


「それはあっても、相手はお前以外の誰かだろうさ」


「ちぇっ、世知辛い人生だぜ」



(イタ嬢のやつ、自分に都合が悪くなると売り払うだと? 自分の物すら大切にできないやつは最低のクズだな。そんなやつのところには一秒たりとも置いておけん)



 雑談にかまけている二人をやり過ごして先に進む。


 貴重な情報ももらったし、特に倒す理由もないだろう。



 またしばらく進むと、小さな建物が見えた。


 領主城の外には、所々に『物置』が設置されている。


 物置といっても大きさはかなりのもので、そこらの一軒家よりも大きな建造物である。アンシュラオンが発見したものも、その中の一つであった。



(まさかここにはいないと思うが…波動円にも生物の反応はないしな。だが、一応確認しておこう)



 周囲に誰もいないことを確認して扉に手をかける。


 当然ながら鍵がかかっていたが―――バギンッ


 力で簡単に破壊。ドアを開けて中に入る。



「なんだここは? 倉庫か? なんかごちゃごちゃしているな」



 さまざまなものがごったになっており、あまり整理されているとは言いがたい状況である。


 領主城には各地からやってきた商人が訪れることが多々あり、名産品や珍しいものを売りつけてくる。


 普段娯楽の少ない城塞都市において、外部からやってくるものは目新しく、貴重なものに映る。そういった品を持っているだけでも領主としてのステータスとなるのだ。


 この倉庫は、そうして買ったはいいものの結局使わず、とりあえずメイドに管理を任せているものが置かれているようだ。


 裸体の彫像や風景画はまだよいとしても、謎の球体やトーテムポールに似た置物などは、何の目的で買ったのか問いただしたい気分になる。


 当然、そこにサナはいなかった。いたら怖い。


 しばらく物色した結果、アンシュラオンは適当に目についたものをもらうことにした。



「これは『ハンマー』か。しかも鉄製じゃないか。銃が木製であったことを考えれば、やっぱりまだ鉄鋼技術が完全に普及しているわけじゃないみたいだ。となれば、そこそこ貴重っぽいな。とりあえず確保しておこう」



 サナを横取りされた段階で、アンシュラオンにとって領主は完全なる悪であり盗人認定されている。


 盗人からはいくら盗んでも罪にはならない理論だ。遠慮なくハンマーをいただく。



「うん、殴り込みっぽくなったな。ちょっと迫力があっていいかも」



 ハンマーを持つ謎の白仮面。実に怖い。


 それから元の道に戻り、再び外周の移動を再開。



(しかし、このまま歩いていても効率が悪いな。領主の娘は白スレイブを『友達』扱いしているらしいから、すぐさま危害を加えるとは考えられないが…それでもオレのものを他人が占有しているなんて最悪の状況だ。できれば早めに確保したい。やはり衛士たちから情報を集めたほうがよさそうだ)



 どうやら衛士たちは、イタ嬢や領主に対してあまり忠誠心がないようである。


 そういった者たちからの情報は、噂話が多いとはいえ貴重な情報源だ。



(えーと、手頃な衛士はいないかな…。おっと、暇そうなやつがいたぞ。接触してみるか)



 一人で暇そうにしている衛士を発見。


 周囲には誰もいないので恰好の獲物だろう。



「やあ、何してるの?」


「…え?」



 アンシュラオンは衛士を見つけると平然と近寄り、気軽に話しかけた。


 そのあまりの自然な態度に、相手はこちらを敵と認識できないようだ。



「ねえ、何してるの?」


「いや…警備…だけど?」


「へー、何を守ってるの?」


「そりゃ、領主城を守っているんだけど…って、なんだその格好?」



 明らかにおかしい格好である。だが、おかしいからこそ人間は何か理由があると思ってしまうものだ。


 だから、この言い訳も簡単に通じる。



「イタ嬢様と劇の練習だよ」


「ああ、やっぱりな。あの人もちょっと頭がおかし…じゃなくて、奇抜なところがあるからな」



 衛士がイタ嬢呼ばわりを普通に受け入れている件については、特に気にしないことにする。



「そうそう。この格好をしろって言われてびっくりしたよ。途中までは付き合ったけど、さすがにうんざりで逃げてきたんだ」


「大変だよな。好きで付き合っているわけじゃないだろうしな…」



(うん、完全にイタ嬢のスレイブだと勘違いしているな。って、もしかしてオレ、女だと思われているのかな?)



 モヒカンの情報では、領主の娘は同姓しか選ばないらしい。


 最初は同性愛者を疑ったが、単純にまだ異性に対してそういった感情が芽生えていないとのことだ。


 領主が過保護に育てたうえに家からあまり出さないので、世間知らずのお嬢様になってしまったようだ。


 この様子なら、このまま騙せそうである。少しだけ声のトーンを上げて、女の子のふりをする。



「でも、今日は新しい子が来たから、こっちはもう飽きたみたい。その子、見たことある?」


「ああ、あの子かな? 黒髪の可愛い子だよな。戻ってきた時に見かけたよ」


「そうそう、その子!! 今どこにいるか知ってる?」


「うん? そりゃイタ嬢様のところじゃないのか?」


「イタ嬢様の部屋ってどこだっけ? 広くてまだ覚えきれていないんだよね。ふらふらしていたら外に出ちゃったし」


「たしか『西館の四階』だろう? 俺は入ったことないから詳しい場所まではわからないけどさ、そんな話を聞いたことがあるぞ。中のメイドに訊いてみな」


「まあ、そうだよね。僕も早く戻らなくちゃ。じゃあね」


「ああ、気をつけてな」



(西館の四階か。目指す場所は決まったな)



 作戦は的中。居場所がわかれば救出することは難しくはない。


 と、思案しながら歩いていた時だ。



(…何やってんだ?)



 アンシュラオンが、草むらに人影を発見。


 どうやら衛士のようだが、なぜかコソコソしている。


 気になったので接近してみた。



「何してるの?」


「わっ!? だ、誰だ!?」


「通りすがりのイタ嬢様のスレイブだよ」


「あっ!? あ、ああ、驚かすなよ。今、俺はとても忙しいんだ」


「忙しいって何してるの?」


「それ以上は来ないほうがいいぞ。…とてもとても厳しい局面に遭遇しているからな」



 男は腰を屈めたまま手を押し広げ、これ以上来るなポーズを取る。


 それで何が起こっているかを察した。



「野グソ?」


「女の子が野グソとか言っちゃ駄目!?」


「いや、だって野グソでしょ?」


「それは否定しようもないが…。せめてもっとこう、お花畑とかそういう表現をだな…」


「お花畑で野グソ」


「間違ってないけど!?」



(なんだ、野グソか。でも、全然動かないな。もしかして…)



「紙がないの?」


「うっ……紙がないといえば、そうだ。だが、俺としては紙でなくてもいいと思う。あるいはもう、清らかな心があればなんとかなるのではないかとも思う。そう、空気的な何か、もしくは超常的な力で拭くことができれば…」


「紙がないんでしょ?」


「…はい」



 どうやら図星のようだ。



「紙、あげようか?」


「い、いいのか!? 本当か!?」


「うん。ちょうどたくさん持ってるから」


「あ、ありがたい! 頼む!」


「はい。ここに置いておくね。それじゃ、さよなら」



 アンシュラオンは歩いていった。


 男の野グソに付き合う趣味など、まったくもってないからだ。



「た、助かった…地獄に仏とはこのことだな」



 男が紙の束を取り、それで拭く。



「ちょっとごわごわしているけど…なんでもいいか。ふー、終わった、終わった。…ん? これは何の紙だ? ん? ん?? 何かすごく見覚えがあるような…」



 それは、このグラス・ギースでも日常的に使われる貨幣であり、札束だった。


 それで尻を拭いた自分が、ここにいる。



「うそ…だろ……。本物なのか!? す、捨ててしまっていいのか!? だが、金だぞ! 金を捨てるなんて俺にはできない!! ど、どうすればいいんだ!! べったりと俺から出たものがついているし…うぉおお!!」



 その後、汚れた紙を見つめて数時間葛藤する衛士であった。




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