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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「アーパム財団」編
519/617

519話 「蜘蛛のギアスと魔獣ファーム計画」


 数日後。


 さらに調査を続けることで蜘蛛の生態について、より理解を深めることができた。


 まずは一番懸念されていた『電波』に関してだ。


 なぜ彼らが電波に反応していたのかまでは、いまだにわかっていないが、いくつか考察することはできる。


 一番ありえそうな原因は、彼らが常時使っている思念糸にはいくつかの周波数が存在し、それに引っかかると反応するというもの。


 蜘蛛の様子から、連絡用、警戒用、戦闘用、それぞれ何種類か存在するはずだ。


 その証拠に戦艦が襲われたのは、長距離通信のために強い電波を発した時だった。


 それ以前にも細かい無線は使っていたのに反応していないのだから、それが警戒用の周波数に引っかかった可能性は高い。


 もし彼らが依然として電波に反応するようならば『共存』は難しい。


 ここを軍事拠点として利用する際も頻繁に通信を行うだろうから、いちいち反応されていたらたまったものではない。


 しかしながら実験として小さな電波を発信したところ、わずかに興味を示して近寄ってきたものの、それ以上の反応はなかった。


 特に対応する必要性がないと判断するとすぐに戻っていき、その一匹が他の蜘蛛に伝達することで群れ全体として情報を共有するため、無駄にぞろぞろと集まってくることもなかった。


 襲撃の時のように相手を殺してでも持ち帰る、といった激しい衝動も完全に消えているようだ。(当時は騎士に攻撃されたので防衛本能が刺激されていたことも大きな要因)


 この反応の差に関しては、魔獣に詳しいアンシュラオンの言葉が正しいだろう。



「前は女王蜘蛛が命令を出していたからだと思うよ。もう死んだから忘れたんじゃない?」



 そんなにすぐ忘れるのかと言いたいところだが、これは蜘蛛だ。虫だ。忘れていたとしても不思議ではない。


 戦艦を襲ったのも女王が繁殖期だったからであり、苗床に相応しいものを探せという命令が出されていたからだろう。


 そう考えると今回の騒動は、さまざまな不運が重なった結果であるといえる。


 その女王が死んで統率者が消えた今、彼らは『待機状態』にあった。


 そこでアンシュラオンは、巨大ジュエルを使った新たな精神制御の実験を試みるのだが、まずは最初に考えていた案を試してみる。



「二人とも、こっちにおいで」


「…あぅ…うう…」


「大丈夫。怖くないから」


「で、でも…はぁはぁ…!」



 アンシュラオンがセノアに向かって手招きをするが、彼女は怖がって前に進もうとしない。


 それも当然。


 目の前には巨大な奈落である『蜘蛛の巣穴』が広がっているからだ。


 輝く命気で作った光の玉で周囲を照らしているので比較的明るいのだが、逆にそれが潜んでいる蜘蛛の輪郭を映し出してしまい、恐怖が倍増しているようだ。



「ど、どうしても行かないと…だ、駄目なのですか?」


「こっち側に蜘蛛を連れてきてもいいんだけど、入った時にどう反応するのかを見たいんだよね」


「むり…むりですぅ……こんな暗い中に入るなんて…」



 セノアは半泣きになって、散歩中の犬が伏せるように動けなくなってしまう。


 ガンプドルフでさえトラウマになるのだ。一般人だった彼女が巣穴に入れないのも無理はない。



「しょうがないな。ラノアはどうする?」


「んー、いく」


「そうかそうか。ラノアは将来、きっと大物になるぞ。なでなでなで」


「んきゅ、んきゅ♪」


「オレたちは行ってくるから、セノアはここで待っているんだよ」


「あぅっ! 待って、待ってください!! ラノアだけを連れていくなんて…で、できません! わ、私も…い、いきますぅ…」



 ここは姉としてのプライドがかろうじて勝ったようだ。


 が、やはり足は動かなかったので、鎧人形を生み出して抱っこさせることにした。(ラノアはアンシュラオンが抱っこ)


 中に入ると、蜘蛛たちに今までにない反応が見られた。



「ひっ! ち、近寄ってきましたよ!」



 わさわさと一斉に近寄ってくる蜘蛛に、セノアが文字通りに死にそうな表情になる。


 よくよく見ると蜘蛛は愛嬌のある顔立ちをしているのだが、虫自体が苦手なので生理的に無理なのだろう。


 しかしながら、蜘蛛はそれ以上は近寄らず、じっと彼女の傍にいるだけだった。



「敵という認識ではなさそうだな。むしろ仲間と認識しているのか?」


「仲間じゃないですぅ…!」


「だが、君の魔石はここにいた女王の伴侶である紅蜘蛛のものだ。アイラたちの前例から考えるに、群れのリーダーの力を受け継いだ者に同属の魔獣は従う傾向にある」



 二人をここに連れてきた理由は、女王を失った蜘蛛たちの再統制を図るためである。


 不確定要素のある巨大ジュエルとは違い、女王と伴侶の魔石を受け継いだロゼ姉妹は間違いなく切り札となる存在なのだ。


 設置型のギアスを試すにせよ、まずは蜘蛛を落ち着かせる必要がある。試して損はないはずだ。



「もっと奥に入ってみよう」



 アンシュラオンはセノアをなだめながら、さらに奥に進む。


 そのたびにカーモスイットの上位種たちが近寄ってきては、じっとセノアとラノアを見つめながら一定の距離を取ってついてくる。


 そして、最深部の女王の間に到着。


 その頃には凄まじい数の蜘蛛に囲まれており、セノアの精神はもう虫の息だ。


 これ以上彼女に負担はかけられないため、次の実験はラノアに頼むことにする。



「ラノア、糸は出せるかな。オレと念話をする時に使うやつだよ」


「うん」



 ギアスをかけたあとに出した糸は物理的な糸だったが、あれからさらに進化し、蜘蛛と同じ『思念糸』も出せるようになった。


 もともと術士の能力も開発中で『念糸』も使えるようになっているが、ここは蜘蛛のほうに合わせてみる。


 その糸に対し、一匹の蜘蛛が同様に思念糸を出して絡み合う。


 それはまるで某風の谷のアニメで、虫が触手を出して相手のことを確かめる光景に似ていた。



「ラノア、相手の意思は伝わってくるか?」


「うん。なんかね、やさしいかんじ」


「オレも共有してみるかな。横から失礼するよ」



 ラノアの思念糸にアンシュラオンも念糸を接続すると、虫からの漠然とした意識が伝わってきた。


 それらは「守る」「従う」といった眷属が上位者に対して抱く感情そのものである。



(やはり魔石の波動から女王だと認識しているようだ。集まってくるのも護衛が目的らしいな)



 魔石は発動していなくとも、ギアスをかけた瞬間から身体の一部となり、精神と絡み合って半融合を果たしている。


 蜘蛛はそういった波動も感知できるため、近づいた瞬間からラノアを女王、セノアを片割れの紅蜘蛛だと認知していた。


 誤認といえば誤認なのだが、蜘蛛の価値観では自身を管理してくれる強い同属こそが女王なのだろう。



「ラノア、蜘蛛に命令してみてくれ。内容はそうだな…『何か座れる物を持ってこい』でいいかな」


「…? わかたー」



 不思議な内容ではあったが、ラノアは言われるがままに意思を伝える。


 命令を受けた蜘蛛は一瞬で他の蜘蛛に伝達し、何十匹という蜘蛛が蠢いて空間の端に向かう。


 そこには蜘蛛が襲った輸送船から奪ったさまざまなものが置いてあり、その中から『玉座』を掘り出すとラノアの前に持ってきた。


 見たところ高級インテリアのレプリカ品のようなので、これも輸送船の中にあったものと思われる。



(なんで玉座があるんだ? いや、これは主である『超越者』のために用意したものかもしれないな)



 映像で見た少女は、超越者といっても普通の人間の背丈であった。


 その彼女の守護者であった蜘蛛ならば、こうしたものを用意していてもおかしくはない。


 アンシュラオンがラノアを抱えて玉座に座らせると、再び蜘蛛は待機状態に入った。


 それを確認して次の実験に入る。



「このままでいるんだよ。何があっても大丈夫だからね」



 少し離れると、セノア運搬用に生み出していた鎧人形を遠隔操作。


 いきなりラノアに向かって飛びかからせ、攻撃を仕掛けてみる。



「あっ!」



 驚いた姉のセノアが小さな悲鳴を上げた瞬間。


 素早い動きで六匹の蜘蛛が襲いかかり、鎧人形に『鎌』を突き立てる。


 人形の強さは魔人甲冑の演習で使った中ボス級にしてあるが、それをあっさりと切り裂いて一瞬でバラバラにしてしまった。


 これは『カーエッジ・スパイダー〈石喰暗殺蜘蛛〉』と呼ばれる暗殺者型の上位種であり、その速度とパワーは一匹一匹がグラヌマーハに匹敵するほどだ。


 他の個体も集まってセノアの前に壁を作っており、身を挺して二人を守っていることがわかる。


 しかも蜘蛛は探知型なので、闘人の操作に使っている波動や思念が丸見えだ。


 アンシュラオンが襲ったことを見抜き、瞬時に千に近い蜘蛛が戦闘態勢に入った。



「おっと。ラノア、オレは敵じゃないと蜘蛛に命令してくれ」


「うん。みんな、だいじょうぶだよ」



 糸を通じて命令を出すと蜘蛛たちが一斉に離れていく。


 一番危険な敵認定すら解けたことで、蜘蛛がラノアたちに完璧に従うことが実証された。



「よし、いいぞ。次は、これからオレがやることを全面的に受け入れろと命令してくれ。お昼寝するみたいにリラックスした状態にしてくれればいい」


「うん、やてみる」



 ラノアを使い、蜘蛛たちを『受動状態』にする。


 それから巨大ジュエルに近寄り、再び中にダイブして中央プログラムに接触を開始。



(暴走化させる術式は隔離して、こちらで用意した魔獣用のスレイブ・ギアスに回線を繋ぐんだ。頼む、成功してくれよ)



 詳細は割愛するが、規模が大きいので最初は四苦八苦したものの、困難にぶち当たることで術士の才能がさらに開花。


 暴走化の術式から蜘蛛用のコードを見つけ出し、それを再利用することでギアスをかけることに成功する。


 これによって蜘蛛は、アンシュラオンの命令も受けつけるようになった。


 相手からの条件は特にないので、ほぼ白スレイブのようなものだ。



「ふー、成功だ。設置型は初めてだったから怖かったけど、ギアスの解析を続けていてよかったよ。応用も結局は基礎が大事なんだよな」



 公式ギアスやエメラーダのギアスを日々解析していたおかげで、アンシュラオンの精神術式も進化している。


 巨大ジュエルという媒体があってこそだが、恐るべき才能がなければできないことでもある。


 そして、何よりもロゼ姉妹がいなければ、こうも上手くはいかなかったはずだ。


 相手からの拒絶反応がないのも、すでに女王の指示によって受け入れ態勢が整っていたおかげだ。



「ありがとう、二人とも。本当に助かったよ」


「は、はぃ…もうなんでもいいです…」



 真っ青を通り越して達観の領域に入ったセノアを背負い、巣穴を出ていく。


 ちなみにラノアは護衛の蜘蛛に乗って入口まで戻ってきたので、待っていたメーネザーが驚きのあまり硬直してしまったほどの豪傑ぶりであった。





  ∞†∞†∞





 翌日。


 蜘蛛が無力化されたことで、アンシュラオンがとんでもないことを言い出した。



「おっさん、昨日オレが提出した【ファーム計画】のことなんだけど、もう書類は見た?」



 戦艦の一室で山積みになった報告書を確認していたガンプドルフが、ものすごく嫌そうな顔をした。


 満面の笑みのアンシュラオンとは対照的だ。



「なにさ、今にも死にそうな顔をして。で、読んだの?」


「読んだからこんな顔になっているのだ」


「よかった。読んでくれたんだね。感想は?」


「さすがに無茶があると思うのだが…考え直しては…」


「駄目駄目。これは譲れないよ。試してもいないのに諦めるなんて、おっさんらしくないじゃないか」


「しかしな、さすがにこれは問題があるのではないか? そもそもそんなことが可能なのか?」


「だから試すんじゃないか。オレの理想は『ギアス媒体の量産』だ。おっさんたちが戦ったおかげで媒体が大量に手に入ったとはいえ、こんなもんじゃ全然足りない。大事なことは生産し続けることなんだよ!」


「それはわかるが…まさか【蜘蛛を養殖する】など普通は思いつかないぞ」


「おっさんだって、足りなくなったら蜘蛛からジュエルを採集するつもりだったんでしょ? だったら同じことじゃないか」


「うむ…そうなのだが…養殖ともなるとな…」



 アンシュラオンが思いついた方法とは、蜘蛛を養殖する『ファーム計画』であった。


 ファームは牧場という意味なので、まさに【家畜】にするのである。


 あくまで通常型のカーモスイットから取れる黄土色の汎用型媒体が主体となるが、養殖することで安定して手に入れることができるというわけだ。


 それに加えて死骸は鉱物化するので、採掘量を調整すれば半永久的に鉄鉱を手に入れることもできる(実際は鉱物化するまでに時間がかかるので難しいが、やらないよりはよい)



「ねっ、いいアイデアだと思わない?」


「すごいとは思うが魔獣だぞ? しかも我々が管理するのだろう?」


「オレは常時いるわけじゃないし、おっさんたちがここを拠点にするんだから必然的にそうなるよね」


「危険性はないのか?」


「蜘蛛はすでにこちらの支配下にある。オレが飼育員の命令を聞けと命じれば大丈夫だよ。一般人だって食用の家畜を飼育するし、番犬として動物も飼うでしょ? 普通の人間は弱いから最下級魔獣しか飼えないけど、騎士団は強いからもっと強い魔獣を使役してもおかしくはないよね」


「…そうか」



 ガンプドルフが思わずうつむく。ものすごく嫌そうだ。


 ただでさえ魔獣に免疫がないうえに、蜘蛛との戦いで犠牲者も出ているので生理的嫌悪感がある。


 が、アンシュラオンは猛烈にプッシュ。



「やれるって! 戦艦が中にいた時も餌付けしてたって聞いたよ! 適当に余ったクズ鉄でも食わせておけばいいんだし、面倒なら放っておけば勝手に土石を食べるから大丈夫だって! 管理にそんなに手間はかからないよ!」


「少年のギアスにかける情熱はすごいな…」


「おっさんがここに国を作りたい気持ちと同じさ。これだけは譲れないってやつだね。最初は少数でいいんだ。十匹とか二十匹とか、それくらいでさ。ね、いいでしょ?」


「わかった、わかった。蜘蛛との共生ができるのも君のおかげだ。好きにすればいい。我々もそれくらいはしなければ対価にはならぬしな」


「やった! 楽しくなってきたぞ!」



 アンシュラオンのことだ。絶対に諦めることはないし、断っても単独で勝手に始めてしまうだろう。


 それよりはDBD側で管理したほうが安全であり、それによってアンシュラオンとの協力関係を維持できることもメリットになる。


 しかし、問題がないわけではない。



「ただし、君も懸念しているように【新しい女王】次第では破綻してしまうかもしれないぞ。魔獣がどちらを優先するかわからぬからな」



 現在いる蜘蛛はストックとして管理し、必要になったら随時ジュエルにすることは決めている。


 魔獣とはいえ、無抵抗の相手を殺すことに躊躇いがあるのならば、自然に死んだ個体から取れば無駄も少なくてスマートだ。


 しかし女王が死んだ今、いずれは個体数も減っていく。女でなければ子供が産めないのは人間と同じだからだ。


 そう、この養殖においてもっとも重要な存在は『女王』である。


 そして、ガンプドルフが述べた通り、すでに【新女王】は存在していた。



「格納庫の様子を見てきたけど、孵化までは時間がかかりそうだね」


「あのままで大丈夫なのか? 中で死んでいるといったことは?」


「オレが調べた結果、ちゃんと中で育っているようだよ。二匹とも順調だ。おっさんたちには悪いけど、あの格納庫はこっちがもらうってことでいいかな?」


「それは問題ない。もともと廃棄したものであるし、鉄資源はあるから必要ならば新しく作ればいいだけだ。それはいいが、新女王をどうやって従えるつもりだ?」



 廃棄された戦艦の格納庫には、ひときわ大きな二つの卵が産みつけられていた。


 それは新女王と、そのつがいとなる新紅蜘蛛の卵である。命気を浸透させて調べたので間違いない。


 ここで問題となるのは、どうやって産まれてくる新女王を手懐けるかである。


 眷属は女王の魔石で誤魔化せたが、本物の新女王ともなれば話は変わってくるだろう。設置型ギアスもどこまで効果があるかわからない。



「魔獣用のギアスはかけるつもりだけど、貴重な存在だから失敗したら全部が壊れちゃう。だから産まれた瞬間からセノアとラノアに接触させてみるよ」


「もしや『刷り込み』か?」


「それができれば一番だね」



 刷り込みはインプリンティングと呼ばれるもので、生まれたばかりの雛が最初に見た存在を親と勘違いする現象である。


 虫に同じことができるのかは不明だが、思念糸があるので可能性がないわけではない。


 よって、女王が産まれたらラノアと、紅蜘蛛が産まれたらセノアに世話をさせて懐柔する予定である。


 ある程度育ったら巣穴に戻し、繁殖を試せばよい。苗床となる輸送船(鉄の塊)も自前で用意できることも強みだ。



「物は試しさ。失敗したら諦めるよ。少なくとも生き残っている蜘蛛は使えるから、ここの防衛にも役立つはずだ。そうやって死んだ蜘蛛から順番にジュエルを取り出してもいいしね」


「さすがの手並みだな。本当に恐れ入る。しかし、君の報告書を読んだが、あの女王蜘蛛と同等…いや、それ以上の魔獣がこの地には山ほどいる可能性があるのだな。それに加えて『封印結界』か。今から胃が痛む。戦力が絶対的に足りていない」


「おっさんの仲間、他の聖剣長が合流すれば戦力になるよね?」


「皆が万全の状態ならばな。だが、移住がどれだけの規模になるかはまだわからない。他の魔人機も持ち出せるかは不明だ。こちらから期待させるようなことは言えぬのだ。すまぬ」


「それはしょうがないよ。それならやっぱり独自に戦力を拡充する方向でいくしかないかな。だからファームは必要だね。それによって兵力が増やせるなら積極的に試すべきだよ!」


「少年、全部わかっていて言っているだろう?」


「そりゃそうさ。命をかけているからね!」



 結局はファーム計画の重要性を説きたかっただけである。


 しかし実際のところ、こちらの戦力が少ないことも事実だ。


 今後はもっと上級の魔獣も出てくるだろうし、四大悪獣だっていまだに三体も残っている。


 常にアンシュラオンやガンプドルフが現場にいるわけではない。それらに対抗するために、人間はもちろん魔獣や兵器といった、さらなる戦力の拡充も重要な要素となるだろう。



「正直、オレやおっさんがどんなにがんばっても、やっぱり二人じゃ限界があるよね。まずはここを拠点にして確実な道筋を作ったほうがいい。せいぜい水源の調査くらいにとどめておいて、今はこれ以上進まないほうが賢明ってことだね」


「それは同感だ。部下の中には盛り上がっている者もいるが、実情はかなり厳しい。今は手に入った資源を有効活用するのが先だろう。あとは補給路が確保できれば、それなりに形になる」


「新都市はもちろんだけど、魔獣の狩場キャンプからここまでを優先して開拓すべきだね。その道中にあるはずの他の巨大ジュエルを見つけ出して無力化できれば、より安全な交通ルートが生まれるはずさ。それと同時に少しずつ周囲を探って行動域を広げていくべきだ。大丈夫、一歩ずつ進めばいい。確実に勝ち続けることが重要だよ」


「そうだな。勝たねば意味がない。まずは一歩進んだ。それだけでも価値がある」



 勝った者がすべてを得る。それがこの世界のルールだ。


 ここにある鉱物資源だけでも、ガンプドルフの目的の一割は達成されたことになる。


 まだまだ先は長いが、目的が大きいゆえに一歩一歩進むことが肝要であろう。



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