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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「アーパム財団」編
518/618

518話 「西方の土壌、水場開拓」


 翌日。


 アンシュラオンは、メーネザーと一緒に亀裂の谷底にいた。



「始めるよ」


「はい、よろしくお願いいたします」



 アンシュラオンは地面に手をついて命気を放出。


 どんどん下の地層に浸透させていく。


 命気は百メートル、二百メートル、三百メートルと進んでいき、最終的には地下二千メートルにまで到達。


 そこで大きな反応があった。



「見つけた。『地下水脈』だ」



 もともとこの亀裂に降り立った時から湿気を感じていたし、DBD側の調査でも水脈の可能性が示唆されていた。


 魔獣には水の無い特殊な環境下でも生きていける強靭さがあるが、人間だけは絶対に水が必要となるため、水場の確保は拠点建造において最優先課題となる。


 水があるだけでも、この場所には価値があるのだ。


 が、予想よりも深い。



「見つかったのはいいけど、かなり深いね。千メートルを軽く超えているよ。吸い出すのはちょっと大変かな」


「荒野ではほとんど雨が降りません。あっただけでも御の字でしょう」


「雨が降らないのは『大災厄』の影響なのかな?」


「おそらくはそうでしょうね。見ての通り、野は荒れ果てており、生命の息吹など滅多に見られません。地盤も枯れ果て、水はどこよりも貴重になっています」


「でも、地下深くには水があった。これはどう思う?」


「南西に大きな森林地帯がありますし、北西の森にも湖が確認されておりますので部分的には残っているのでしょう。それが地下に染み出したか、火怨山経由の水脈もあると思われます」


「普通に考えればそうだよね。ただ、ここはその三点からも距離があるし、いくら地下とはいえ、荒野の状況からすると途中で干上がっていてもおかしくはないんだ」


「何かお気づきになりましたか?」


「地下水の流れが思ったよりしっかりしているんだ。貯まっているだけじゃなくて強い流れがあって、もっとはっきり言えば『舗装』された道を通っているような感覚だ。たしかに洞窟みたいに地下水でも綺麗な道ができることがあるだろうけど、さすがに整備されすぎている」


「なるほど、アンシュラオン殿がおっしゃりたいことはわかりました。ここに『水道』があったと考えておられるのですね?」


「さすがメーネザーさん、話が早くていいね。オレたちがこの大地を開拓する大きな理由の一つが、ここがかつての文明の中心地だったからだ。それなら水道設備があってもおかしくはないよね」



 すでに巨大ジュエルや女王蜘蛛、クルルザンバードという証人を得て、少なくとも古代国家と超越者の存在は間違いないものとなった。


 あくまでビジョンでの話となるが、前文明は相当な領土を誇っていたようなので、ここも勢力圏内であったことは明白。その痕跡があってしかるべきであろう。


 水道設備については、西大陸でも一部の先進国しか持ちえない高度な技術ではあるが、前文明ならばあって当然にも思える。



「そうなりますと、自動で水を生成するジュエルまたは装置があるのでしょうか? それが今でも稼働していると?」


「その可能性はあるね。ざっと探った感じだと、この水道はだいぶ先にまで続いているみたいだ。南西が上流かな? そっちには森林地帯があるって話だから、一度探索してみたいところだね」


「仮に水道設備があるのならば、それなりの場所に作るはずです。もしかしたら森自体が『古代都市』の一部なのかもしれません」


「夢のある話だ。ワクワクするよ」



 もし火怨山からの水脈だとすれば北側から来るはずなので、これも水道説を推す理由の一つである。


 メーネザーも西方の地がいかに不自然かを知っているため、アンシュラオンの意見を否定せずに素直に受け入れてくれる。



「とりあえず今は目先の水の確保だけに専念しよう。ここの水が確保できれば一気に開拓も進む。問題は水源が深すぎるのと、上層の土壌が完全に死んでいることだ。土が死んでいれば作物は育たないからね。都市間ルートの土木作業はまだ進んでいないよね?」


「残念ながらその通りです。この有様ですので」



 三者会合でも話に出たが、ハビナ・ザマから魔獣の狩場までのルートを開拓することで生まれた土砂を再利用する計画がある。


 その土を使えば作物の栽培も可能なのだが、それだけでこの広大な大地をカバーすることは不可能だ。



「人数が少ない初期段階ならいいけど、これから何十万、あるいは何百万という人間が毎日消費するとなれば膨大な量の食糧が必要になる。並大抵の生産力じゃ話にならない。そのためには継ぎ足しだけではなく、土壌そのものの改善が必須になるんだ」


「そのご様子だと何か秘策があるのですね」


「試したいことがあるから上に行こう。いつか役に立つかもしれないと取っておいたものがあるんだ」


「それは興味深い。ぜひともご一緒させてください」



 アンシュラオンは、メーネザーを連れて地上に出る。


 この周辺は大地の術式の影響から隔離されているとはいえ、まったくもって緑が無い。


 土はボロボロで硬く、遠くに山々が見えるものの大半が禿げ山であり、サボテンのような乾燥に強そうな植物すら存在しない。


 まさに『死の大地』と呼ぶに相応しい荒れた土地である。



(大地が完全に破壊されて死んでいる。活力がゼロで栄養分が何もないんだ。だから普通の虫もいない。虫がいれば食物連鎖が生まれて自然は循環するんだけどな)



 この大地には精霊すら滅多におらず、原始精霊の数も極めて少ない。


 彼らは自然を司る者たちなので、それだけでも大地が死んでいることを意味する。


 では、ここに活力を取り戻すにはどうすればよいのだろうか。


 その答えの一つが、これ。


 アンシュラオンが地面に手をつくと、さきほどと同じように命気を放出。


 ただし、今度は地下に浸透させるのではなく、大地自体に活力を与えるように表層に吸収させていくと、ボゴンと地面が陥没。


 すり鉢状に『ため池』が生まれる。


 アンシュラオンがさらに命気を放出し続けると、最初は数メートルであったものが十メートルになり、三十メートルにまで広がって、空気も清浄で爽やかなものになる。


 何よりも池の周囲には『緑』の香りが漂い、隆起した岩には苔のようなものまで生えているではないか。


 それには先読みのメーネザーも驚愕。



「これは! 何をなさったのですか!? 植物まで生えているとは…信じられない…」


「それは翠清山から持ってきた植物の種や菌類だよ。枯れてはいるけど、かすかにこの場に残っていたものもあるかもしれないね。それを命気で活性化させてみたんだ」


「では、これをずっと続ければ、この大地も―――」



 そう言いかけたが、すぐにメーネザーは口をつぐむ。


 なぜならば今作った水場は、たかだか直径三十メートル程度。


 それだけでもすごいが、この荒野の大きさを考えてみれば、いかに些細なことかがすぐにわかるだろう。


 さらにこれが【アンシュラオンの全力】だと聞けば、もう絶望しかない。



「オレの全生体磁気を放出したから、本当ならば『湖』が生まれているはずなんだ。でも、実際はこの程度さ」


「それで三十メートル…いや、もうすでに二十メートル程度に縮小していますね。周りがどんどん力を吸い上げて拡散させているようです」


「問題はそこなんだよね。この大地には『活力を奪う何か』があって、こうやって命気で補充してもすぐに散らばっちゃうんだ。もちろん全体的に活力は向上したことになるけど、分母が大きすぎるから雀の涙にしかならない」


「断続的に行えばどうですか?」


「生体磁気は練気で回復できるから可能ではあるけど、結果はあんまり変わらないと思うよ。どうせすぐに縮小しちゃうからオレのほうがもたない。個人の力でどうこうできる範疇を超えているのさ」



 アンシュラオンの泣き言など初めて聞いたかもしれない。それほどこの大地の活力不足は深刻なのだ。


 そして、そこには明確な『理由』が存在している。



「これはオレの推論なんだけど、魔獣に対する術式のほかに【封印結界】があるんじゃないかなと思うんだ」


「それが大地の力を奪っていると?」


「あの巨大ジュエルを解析した時、他のコードらしきものも見かけたんだ。プロテクトが解けなくて本質には触れられなかったけど、大地の活力そのものを束縛している術式があるのは間違いない」


「コアが機能を停止しているのならば、その術式も発動しないのでは?」


「だから別の封印結界を疑っているのさ。そこで気になるのが例の『異常環境』だ」


「『氷山』や『嵐の台地』のことですね」


「なんでそんなものがあるのか、昨日からずっと考えていたんだ。明らかにおかしいからね。で、ジュエルを解析した時にふと閃いた。異常気象が起きているということは、そこでは精霊たちが活発に活動しているということだ。この認識で間違いないよね? 精霊がいないからこそ大地が枯渇しているわけだし」


「はい。我々も同様の見解です」


「簡単な話、そこに精霊を強制的に集めているから大地に活力が無いんじゃないかな。つまりは、その【異常環境こそが封印結界】なんだよ」


「…その発想はありませんでした。しかし、可能性はありますね。合理的な説明にもなります。では、そこに結界の核があるのですか?」


「そうなるよね。むしろ、そうでないとおかしい。氷山が水の精霊、嵐の台地が風の精霊、雷の谷が雷の精霊だとすると、あとは火の精霊を集めている環境もありそうだ。地図にはないから、もっと内部かもしれない」


「聖剣王国において精霊は崇拝の対象です。その意思を捻じ曲げるなど冒涜でしかありません」


「まあ、魔獣に人殺しを強制する術式があるんだ。それくらいは平然とやりそうだけどね。それに加えて、もし他の場所にも巨大ジュエルがあるのならば、おそらくは別の『守護者』もいるはずだ。要するに毎回、蜘蛛と同レベル以上の戦いが待っていることになる」


「それは…さすがにうんざりしますね」


「しかし、本来の意味での守護者ではないはずなんだ。上手く術式を解除しさえすれば、戦わずに済む方法があるかもしれない」


「どちらにせよ、厳しい現状ですな」



 蜘蛛との戦い一つでこれだけの損害なのだ。


 ますますメーネザーの表情が沈んでいくが、希望がないわけではない。



「それでさ、オレの実験なんだけど、まだもう一つあるんだ。これを見てよ」



 アンシュラオンが白色の大きな玉を取り出す。



「ジュエルですか? 相当な値打ち物に見えますが…」


「これはグラス・ギースの領主城で見つけた【宝珠】だよ」


「宝珠!? 国宝級ジュエルではありませんか!」


「そうらしいね。特にこの『白夜光の宝珠』は桁が違うんだ」



 初期に出てきたので忘れていると思うが、領主城の宝物庫で見つけた怪しげな宝珠である。


 最初はまったく気にもせず賠償金代わりにもらったものだが、実はこれ、かなりの貴重なアイテムだったことが判明している。


 ちなみに宝珠とは、ジュエル媒体の中でテラジュエル級の最高品質のものを指し、その中でも特に『伝説級の貴重な品』を意味する。


 同時に見つけた『広域防御結界宝珠』も貴重ではあるものの、領主城で封印されていたこの宝珠と比べると何段階も質は落ちる。



「じゃあ、いくよ。こいつをこの池に放り投げると―――」



 無造作に投げ入れられた宝珠が、池の底にまで沈む。


 直後、じんわりと白い光が池全体に広がり、外部に吸収されていた力の流出が止まった。



「こ、これは…!! 何が起こったのですか!?」


「この宝珠は【災厄の力を除去】することができるんだ。オレが手に入れた時は災いが残っていたけど、今は綺麗な状態だから本当の力を発揮しているってわけさ」



―――――――――――――――――――――――

名前 :白夜光の宝珠


種類 :宝珠

希少度:SSS

評価 :SSS

概要 :かつての大災厄によって引き起こされた旱魃かんばつの力を吸収した災厄宝珠が、白き王によって浄化されたもの。災厄の力は反転し、あらゆる生命を輝かせる希望となるだろう

効果 :災厄除去


【詳細】

耐久 :SSS/SSS

魔力 :D/SSS

伝導率:SSS/SSS

属性 :愛、榮

適合型:魔力

硬度 :SS

備考 :アンシュラオン専用

―――――――――――――――――――――――



 当初この宝珠は、『旱魃かんばつ災厄宝珠』という名称だった。


 これはいわゆる『ひでり』や『干ばつ』を引き起こす災厄の力を吸収した結果、自身が呪われた状態になっていたと思われる。


 おそらくはグラス・ギースを襲った災厄の力を、この宝珠が吸収して守ったのだろう。そのおかげで完全なる荒廃を避けることができたのだ。



(エメラーダさんが用意していたか、管理していた遺跡に宝珠があったんだろうな。これのおかげで、かろうじて生き延びたって感じだ)



「その宝珠で解除できたということは、災厄の力なるものが大地から活力を奪っているのですね」


「理屈ではそうなるね」


「しかしながら、前文明が滅びたのはもっと昔のはずです。そのお話ですと、三百年前の大災厄以前からも災厄の力が働いていたことになります」


「それには少し補足が必要かな。知っての通り、この大地には魔獣を暴走させたり干ばつを引き起こすような、さまざまな『呪い』がかかっているんだけど、西方の『とある一線』を越えたあたりからそれが顕著になっている。ってことは、三百年前の大災厄は、その線からさらに東に向かって『災厄が拡大した』と考えるのが妥当だろうね」


「それではまるで、徹底的にこの大地から人を排除しようとしているように思えますが…」


「事実そうだよね。そして、それは間違いなく『何者かの意思』によって成されている。それがオレたちにとって敵なのか味方なのかはわからない。唯一わかるのは【災厄の力を術式のエネルギー源として使っている】ってことさ。これもジュエル解析によってわかったことだ」


「素人考えで恐縮ですが、術式はコードを組めば自動的に発動するのでは?」


「それだけでは発動の最低条件を満たしただけさ。実際には元素術式ならば原始精霊がいないと出力は低下するし、情報術式にしても基礎エネルギーの魔素が必要になる。当たり前だけど、何をやるにしても運動する質量をどこかから得なければならないんだ。戦気だって生体磁気がなければ発動しないでしょ? 技だってそうだよね」


「ふむ、たしかに。ならば、この広大な大地全体を汚染できるだけの災厄の力とは、いったい何なのでしょう?」


「うーん、さすがに源泉まではわからないな。ただ、逆説的にいえば、これがあるから西方から呪詛が飛び火しない、とも考えられる。たまに逃げ出してくる魔獣が災いもたらす程度だ。そこは一長一短だよね。そのまま放出されていたら、とんでもないことになっていたはずだ。こんなものをダイレクトに受けたら、火怨山の魔獣だって暴走して世界が終わるよ」


「…さらに寒気がしました。我々の理解の範疇を超えております」


「情報が少ない状態で、これ以上は考えても仕方ない。少なくともこの宝珠は、災いを吸収して水場を広げられるってことだ。それだけでも朗報じゃないかな」


「それがたくさんあれば、この大地が復活するのですね」


「でも、残念ながら一個しかないんだ。仮に効力に際限がないにしても、この水場を広げていくだけでも数百年はかかるよ。オレ一人でやる場合なら、だけどね」


「…そうですね。根本的な問題は解決されておりませんか」


「諦めるのは早い。ここは前文明があった場所だ。宝の中には宝珠もたくさんあったはずなんだ。もし水路を辿って古代都市の一つを見つけることができれば、その中に使えるものがあるかもしれない」


「あなたという御方は、いつでも希望を失わないのですね」


「当然さ。せっかくの冒険を楽しまなきゃね」



 その後、アンシュラオンはモグマウスを使っていくつかの階層を地中に作り、地下水源を汲み上げるポンプを設置。(ポンプはDBD製)


 水はそのままでも飲めるほどに綺麗であったが、念のためトイレ用に開発した濾過装置も設置することにする。


 まさかトイレの技術がここで役立つとは思わなかった。


 宝珠を含め、何がどこで役立つかはわからないものである。



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― 新着の感想 ―
[良い点] トイレの技術はすごい。見事としか言えないですね。
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