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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「アーパム財団」編
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513話 「魔人甲冑の性能評価 その2『実戦形式』」


「これより実戦形式での性能評価を開始する」



 アンシュラオンが、土の闘人であるジュダイマンを生み出す。


 大きさは三十メートルほどにして、いつもより若干小さめの砲台を複数そなえた特殊タイプのものだ。


 それを標的の大ボスとして、周囲には取り巻きである六メートル大の中ボスの闘人を十体、さきほどの鎧人形をさらに肥大強化した四メートル大の雑兵を三十体配置。


 雑兵には魔獣用の剣やハンマーを持たせれば準備完了だ。



「あいつらは破邪猿将の中核部隊くらいの能力はあるから注意しろ。その代わりに危ないときは魔石の使用を許可する。が、基本は距離を取ってからの射撃だ。武器は重いから使い終わったものから投げ捨てていいぞ」


「了解!」



 数に差があるため魔人甲冑には『全兵装』を搭載。


 一つ一つの武器が大きいので、それによって見た目はゴツゴツになってしまったが、総額を聞いたら驚くほどの贅沢なフルアーマー状態である。(通常は全兵装を装備しない。せいぜい三つか四つ程度)


 これだけの武器をいちいち取り出すのは難しいため、専用のフルアーマーパック(ランドセル)があり、武器を選択するとマニピュレーター(ロボットアーム)が自動的に武器を換装してくれる。


 このランドセルにも使い捨てのブースターが内蔵されているので、重くなっても機動力は維持される仕組みになっている。(運動性は低下)


 互いに一キロ離れた位置から戦闘開始。


 一斉に雑兵が走り始めるものの、武器は近接装備だけなのですぐには攻撃できない。


 その間に二人は武装を選択。ロングライフルで遠距離から敵を狙撃する。


 数が多いので正確に狙う余裕はなく、肩や足を吹っ飛ばしただけで終わるが、これはこれで問題ない。


 大事なことは敵の射程外から一方的に攻撃することだ。それによって勢いをわずかでも削ぐことができる。


 相対距離が五百メートルになると、ロングライフルは投げ捨て、アサルトライフルに武装を変更。


 照準は自動ロックオンに任せるままに撃ちまくる。


 こちらも適当に撃つだけで雑兵が削れていき、さきほどの狙撃を含めて計六体が行動不能になった。他の個体も所々が欠損する等、それなりのダメージを受けている。


 闘人は損壊しても戦気の量を調整して何度でも復活できるが、今回は生物だと仮定して、ある程度のダメージを受けたら戦闘不能判定にしている。


 相対距離が二百メートルになるとライフルを投げ捨て、ショットマシンガンで牽制しながらブースターを点火。


 アンシュラオンからの指示通り、背後に跳ねて距離を維持しつつ、射撃を続ける。



「我々には馴染みのない戦い方だな」


「だねぇ。味気ないけど、これはこれで楽なもんだよ」



 いつも前衛で身体を張っている二人は、初めて体験する中距離での戦いに若干の興奮と高揚を覚えていた。


 楽に敵を倒せれば越したことはない。誰だってそう思うだろう。


 がしかし、軍事兵器を扱う戦場においては、ここは必ずしも安全な距離ではない。


 前衛は猿たちを想定しているが、大ボスのジュダイマンは駆逐艦を意識した砲撃型だ。


 ジュダイマンが狙いを定め、砲撃開始。


 敵の挙動を感知した管制システムが「ピーピーピー!」と警告音を鳴らし、モニターに『被ロックオン』の赤文字が表示される。


 発射するのは地面から吸い取った土砂を固めたものだが、アンシュラオンの戦気が混じっているので威力が尋常ではない。


 戦艦の副砲レベルの砲撃が近くに着弾。大地を大きく抉り取る。


 命中精度も徐々に上がっていき、少しずつ機体を掠めるようになる。その衝撃だけで機体が揺れるほどだ。


 これに二人は大慌て。



「やばいよ! こんなのをくらったら一撃で沈むさね!」


「止まるな! 師匠に言われた通りに動き続けろ!」


「もう敵が来る! ちっ、マシンガンじゃ止まらない!」


「追いつかれるぞ! 近接戦闘に切り替える!」



 ジュダイマンが二人の退路を塞ぐように砲撃を続けるため、敵との距離が縮まっていき、ついに接触。


 雑兵が武器を振り回して襲ってくる。


 それをブースターの加速で避けつつ、サリータはマシンガンを投げ捨てて大盾に換装。


 敵の一角に向かって突進し、迫ってきた雑兵たちを薙ぎ払う。



「やはりこちらのほうが性に合う!!」



 この『高重圧シールド』はDBD製らしく厚く頑強であるため、戦気で補強されれば魔獣用の武器でも歯が立たない。


 その質量でぶつかってやれば、相手が仮想精鋭グラヌマでも押し負けることはない。


 サリータはそのまま勢いを止めずに加速。


 旋回するように距離を取りつつ標的を定め、再度突進して敵陣を掻き回す。


 その隙に武装をブレードに変更したベ・ヴェルが、サリータの突撃によって散った雑兵を各個撃破。


 この『加速ブレード』は、サリータの爆破杭槌と同じく風を噴き出す機構を内蔵している。


 急加速した剣が敵の大剣ごと押し込んで、鎧を強引に叩き斬る!


 囲もうと近づいてきた相手には、機体をぶつけて動きを封じたところに、もう片方の手で持っていたショットガンをお見舞い。


 至近距離からの一撃で上半身を吹き飛ばす。



(悪くないパワーだ。戦気も加わっているし、機器がサポートしてくれるおかげで初めての戦闘でも上手く対応できている。たしかに武装甲冑とはまったく違うものだな)



 アンシュラオンも戦いを眺めながら魔人甲冑の性能を評価。


 搭乗者から供給された戦気が武装や装甲にまで伝わっているおかげで、パワーも切れ味も増強されており、元の兵器の威力も相まって仮想精鋭グラヌマを見事に蹴散らしている。


 もしこれが翠清山の戦いに導入されていれば、もっと人間側は有利になっていただろう。


 だが、ガンプドルフはこれが『不完全』であると言っていた。


 それが何を意味するかを考えるまでもなく、事態はすでに表面化しつつあった。


 ここまでは甲冑の性能で敵を蹴散らしていたが、戦いを続けていくごとに少しずつ『ズレ』が生じてくる。


 生身でさえ身体が意識の反射速度についてこないことは、ままあるものだ。それが機械ならば、なおさらのこと。


 避けようと動いても機体が上手く反応せず、敵の剣撃が―――ガキーン!


 攻撃自体は装甲の厚さによって防いだが、そこに中ボスの仮想グラヌマーハ個体がやってくると、巨躯から振るわれた拳がベ・ヴェルの機体を弾き飛ばす。


 そうして動きが鈍ったところに雑兵が群がり、ついに囲まれてしまう。



「まとわりつくんじゃないよ!」



 今の一撃でブレードを手放してしまったベ・ヴェルが、咄嗟に腕に内蔵された『高振動ノコギリブレード』を使用。


 こちらは『加速ブレード』ほどの威力はないが、斬る動作は必要なく、刃がノコギリのように回転。押し付けるだけで敵を攻撃することができる。


 激しい火花が散り、敵の雑兵の腕を斬り落として、ほっとしたのも束の間。


 またもや中ボスが迫って拳を放ってくる。


 しかも敵は仲間ごと攻撃するので、雑兵が視界に入る形になってしまい、拳が見えず―――直撃!


 これには魔人甲冑といえども損害を免れない。


 装甲が軋み、いくつかの箇所が凹んで破損。


 内部のモニターに被害状況が映し出されるが、今はそれどころではない。



「くっ!! 急に動きが鈍くなった! どうなっているのだ!」



 サリータの機体も細かい動きが上手くできずに四苦八苦していた。


 そこにジュダイマンからの砲撃が飛んできて被弾。


 距離があったので助かったが、それでも強い衝撃とともに大盾が大破。彼女も囲まれてしまう。


 二人の操縦技術が拙いこともあるが、それ以上に『構造的欠陥』が強い影響を及ぼしているのだ。



(おっさんがジュエル・モーターには【ラグが発生】することがあると言っていたが、ここまで致命的か。これじゃタイミングがズレるし、必要以上に戦気を消耗するな)



 魔人甲冑は開発途上であるため、いろいろな不備がある。


 その中で最大のものが『不安定な出力』だ。


 そもそもジュエル・モーター自体の小型化が技術的に完成していない。大型で大出力の戦艦や魔人機ならばまだしも、小型にするとどうしても安定しないのだ。


 さらにはショートを防ぐためにオーバーフローが発生し、戦気を必要以上に浪費してしまう。


 その出力の違いによって、意思通りに機体が動いていないように感じられるわけだ。



(これは大なり小なり魔人機でも起こる現象らしい。所詮は機械だから仕方ないとはいえ、一瞬の判断が生死を分ける戦いにおいてはあまりに致命的な欠陥だな。だからこそ、おっさんのような強い武人でないと乗りこなせないんだ)



 ガンプドルフの場合は『行動予測能力』も高いため、事前に相手と自分の動きを予測することで不測の事態にも即座に対応できる。


 仮にラグがあっても、今度は機体の高い性能を利用して上手くカバーできてしまう。


 一方の甲冑は、当然ながら魔人機ほどの性能を持たないので、機体性能でカバーすることができない。


 装甲自体が強固なので差し引きすればプラスなのかもしれないが、現在の二人の実力では対処が難しい状況といえる。


 ただし、甲冑がゆえにこれを挽回できる手段もある。



「ベ・ヴェル、魔石を解放するぞ!」


「ああ、全力でいくよ!」



 劣勢に陥った二人が魔石を発動。


 発せられた莫大なエネルギーは、ジュエル・モーターを超えて外にまで溢れ出る。


 これが魔人機ならば機体に吸われてしまうが、魔人甲冑は小さいがゆえに魔石との併用ができるのだ。



「敵の攻撃は私が抑える! ベ・ヴェルは敵を潰せ!」


「任せておきな!」



 サリータが銀盾を大きく展開させ、敵の圧力を引き受ける。


 ジュダイマンの砲撃によって亀裂が入っても、これならばすぐに修復が可能だ。


 サリータが防御を担当するのならば、攻撃担当はベ・ヴェルである。


 腕に大型の『鬼重爪』を生み出して、ブースターの加速で突進しながら敵を圧砕!


 依然としてラグは存在しているが、魔石のパワーで強引にねじ伏せている。



「これならば大物とて!」



 魔人甲冑に乗っていれば、サリータも防御するだけでは終わらない。


 ここまで温存していた『百二十ミリ破砕砲』を起動。


 ランドセルから飛び出てきた砲身が肩口から伸び、中ボスに狙いを定めて、発射!


 直径十二センチの大きなライフル弾が、仮想グラヌマーハに命中すると凄まじい威力によって身体を貫通。いとも簡単に穴を穿つ。


 もしこれが生物だったならば心臓を破壊されて一撃死、またはそれに近い致命傷になっていただろう。


 この『百二十ミリ破砕砲』は、強力な武人や戦車以上の兵器、建造物の破壊等に使われる『大型兵器』の一つである。


 今まで使っていた『通常兵器』と比べ、大型兵器の威力はその三倍以上となる。


 弾丸も特殊なものとなり、今しがた使ったのは『破砕弾』。よく使う貫通弾の強化版で、より衝撃力を増したものだ。


 さらには雷撃弾の強化版である『雷砕弾らいさいだん』と、爆炎弾の強化版である『火砕弾かさいだん』を装填することで、雷撃や爆炎を伴った一撃を見舞うこともできる。


 ただし、弾丸にも限りがあるため、ベ・ヴェルを含めてこれらはすべて中ボス相手に使ってしまう。


 あらかた取り巻きが片付いた頃には、あれだけあった武装はほぼなくなっていた。


 しかし、最後の最後に取っておいたものがある。


 サリータが銀盾を展開しながら砲撃から守っている間に、ベ・ヴェル機の背中からせり上がってきた大きな砲身が、ジュダイマンを補足。


 できる限り接近してから―――



「とっておきをくれてやるよ!」



 発射された砲弾は、ジュダイマンに命中すると大爆発。


 砲台の一つを潰し、大きな岩の身体にも欠損を生み出す。


 こちらは『三百二十ミリバズーカ砲』、いわゆる『ロケットランチャー』である。


 口径の大きさを見てもわかる通り、三十センチ定規よりも大きな弾を発射するため、それに見合うだけの砲身が必要な兵器である。


 これまで魔人甲冑の動きが鈍かったもう一つの要因が、これを背部に取り付けたことでバランスが悪くなったことが挙げられる。


 されど、そのデメリットを甘受しても余りある威力だ。


 なぜならば、アンシュラオンがハピ・クジュネで使った砲台と同じく、『強化爆裂弾』を搭載しているからだ。


 持ち運びを可能にするため小型化されているが、それでもさすが『対戦艦用兵器』である。


 戦艦を破壊するために作られたのだから、大型のジュダイマンにも効果はあってしかるべきだ。



「効いてるよ! このまま一気に仕留めるさね!」


「了解だ!」



 ベ・ヴェルとサリータは、ジュダイマンを挟むように互いにバズーカを発射。


 さきほどの一発を含めた計六発を叩き込む。


 荒野に激しい爆発音が響き渡り、ジュダイマンの身体が崩れていく。


 仮に本物の破邪猿将であったとしても、これだけの威力には耐えきれなかったはずだ。


 あれだけ苦労した魔獣軍も、本格的な軍事兵器が導入されていれば圧倒できたと思うと、なかなかに怖ろしいものである。


 ただし、相手が本物の破邪猿将だと想定すれば、もう一つ考慮しなければならない要素がある。


 破壊された『外殻』から飛び出してきたのは、まさかの破邪猿将をかたどった闘人。


 しかも両手には、以前火乃呼が作った『征火激隆せいかげきりゅうの剛剣(試作型)』を持っているではないか。


 そこまで似せる必要はないと思うが、倒したと思って油断していた二人にとっては効果覿面。


 サリータの銀盾に大剣で亀裂を入れると、そこから入り込ませた爆炎で自身ごと相手を焼きながら、強引に掴みかかって機体を地面に押し倒す。


 サリータは衝撃の強さと機体の重さで、すぐには立ち上がれない。


 そして、闘人はすかさずベ・ヴェルのほうにも駆ける。



「くそが! やってやるよ!!」



 と意気込んだものの、すでに魔人甲冑はオーバーヒート寸前。


 魔石を使うことを想定して作られたわけではないため、過剰な負荷によって機体から煙が上がっていた。


 そんな状態で放たれた鬼重爪程度では、仮想破邪猿将は怯まない。


 彼の強靭な意思を体現したかのように、相討ち覚悟で突っ込んで激突!


 ベ・ヴェル機もろとも大地に転がっていく。


 この巨体に圧し潰されれば、いくら鬼大熊の力があっても簡単には立ち上がれない。


 生身ならばまだしも、逆に機体に足を引っ張られてしまう。



「実験終了だ。これ以上やったら壊してしまうからな」



 ここで性能評価試験は終了。


 煙を上げている機体から二人を引きずり出す。



「師匠、申し訳ありません…。力不足でした」


「いや、十分に価値のある実験だったぞ。実際に使ってみた感想はどうだ?」


「パワーはあると思いますが、自分の身体と違って思い通りには動かないのでストレスはあります」


「そうだねぇ。武装は強力だけど、その分だけ重くなる。戦気や魔石の消耗もいつも以上に激しかったさね。それ以前に機体のほうがもたないよ」


「ふむ、今はまだ武装の費用も高いから使い勝手は悪いか。あとで報告書をガンプドルフに提出しておくよ。といっても簡単には改善できないから困っているんだよな」



 それなりの成果はあったが、あくまで障害物がない平地でのものだ。


 これが翠清山のような局地戦だった場合、おそらくは簡単にはいかなかったはずだ。


 そもそもグラヌマは、木々を使った立体的な機動を得意とするから厄介なのだ。単純な荒野でのぶつかり合いは非現実的である。


 また、正規の値段ならば機体のメンテナンスと弾薬代だけで一億円は軽く超えるので、出費を考えると出撃を躊躇ってしまうほどだ。


 よって、現状での評価は「Bマイナス」といったところだろう。


 しかしながら、それは強い武人であるアンシュラオンだからこその評価であり、ガンプドルフも気づいている欠点である。


 魔人甲冑を使う際は大前提として、他の兵種と併せて使うものだ。


 それこそ戦艦を守る盾になればよいのだから、現状でも使えないわけではない。


 アーパム戦隊にとっても兵器は貴重なので、大型魔獣との戦闘や防塞攻略等、戦局に応じた使い道はあるはずだ。



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