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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「アーパム財団」編
511/618

511話 「軍隊の訓練方法 その4『剣王技の習得』」


 翌日。


 サリータとベ・ヴェルは、先日と同じくDBD側の全体訓練に合流。


 サナはついていかず、アンシュラオンやユキネと一緒に【剣王技の練習】をすることになっていた。


 技を教えてくれるのは、ベ・ヴェルを指導していたモーリス・グレツキ十光長である。



「本日はよろしくお願いいたします」



 グレツキが、アンシュラオンとサナに頭を下げて挨拶する。


 彼も口数が多いほうではないが、かなり丁寧に接してくれる人物だ。


 階級が上なのだから当然ではあるが、アンシュラオンだけではなく、サナの強さを実際に見ているからこそ畏敬の念が湧いたのだろう。


 サナは魔石無しでも彼には勝てると思われるが、高い技術と『覚悟』に苦戦するはずだ。


 十光長といっても侮れないのがDBDの強さといえる。



「今日は剣王技をいろいろと教えてもらおうか。基礎から順番に相性が良さそうなのをお願い。オレはそうだな、特に【アレ】を覚えたいな。アレ!」


「は、はい。アレ…ですか?」


「そうそう、アレ! アレはいいよね!! 楽しみにしてたんだ! よろしく頼むよ!!」


「わ、わかりました。尽力します」



 まったくもって伝わっていないが、軍隊では上官からそう言われたらイエス以外の言葉を発してはいけない。


 その意味ではアンシュラオンにとって居心地が良い場所である。(そのために階級をもらった説がある。体罰も可)



「私もアレが知りたいわぁ」



 ユキネが甘ったるい声でグレツキに絡みつく。



「あの…距離が近い気がするのですが…」


「いいじゃない、ねぇ? 教官さん、仲良くやりましょうよ」



 グレツキもゼイヴァーと同じく自制心が強い男だが、いきなり色気のある女性に触れられてつらそうにしている。


 しかしまあ、女性が「アレ」と言うと、なぜかエロティックに感じるのは我々の心が貧しいせいだろうか。


 ちなみにユキネは、軍隊式訓練には参加していないので階級が存在しない。あくまでアンシュラオン側の協力者という扱いだ。


 彼女の戦い方は軍隊とはだいぶ異なるうえ、あんな汗臭いところは嫌だということで剣技の習得だけの参加になっていた。


 模擬戦だけは軽く参加していたが、ほとんど実力を見せずに負けて終わっている。


 それどころか「あーん、負けちゃったぁ~」と周囲に弱い女をアピールすることで庇護欲と欲情を掻き立て、何人かの兵士や騎士と仲良くなって情報を訊き出したりもしていた。


 彼女はアンシュラオンが連れてきた女性たちの面倒も見ているため、そこから情報を得ることができるのも強みだ。


 やはり男は、好意を寄せてくる女には弱い。


 特に男女の関係になれば口が軽くなり、機密を訊き出すことさえ可能になる。いまだにハニートラップがなくならないことが、その証左であろう。



(これはユキネさんにしかできないことだよなぁ。いくら同盟関係にあるとはいえ、内部に個人的繋がりを持つことは極めて有効だ。おっさんが秘密にしたいことまで探ることができる)



 言ってしまえば某大泥棒漫画の『女スパイ』のようなものである。


 いろいろな個性が集まってきたアーパム財団の中でも、この仕事ができるのは今のところユキネだけだ。


 気を取り直して、訓練開始。


 剣の持ち方はそれぞれ好みがあるが、ひとまず基本となる型を学ぶ。


 長短の片手剣の持ち方、両手剣の扱い方、片手盾を持つ場合の構え方、大盾の押し方、防御の姿勢、カウンターの構え等々、DBD流剣術の基礎を教えてもらう。


 一番感心したのが、グレツキがこれら多様な型を見事に使いこなす点である。



「すごいね。どの型も洗練されている。よくこんなに覚えられるもんだ」


「それが教練部隊の役割です。いつ誰がどの聖剣に選ばれるかわかりませんから、すべてに対応できるようにしておかねばなりません」


「聖剣って形が違うんだっけ?」


「はい。六種類の聖剣はそれぞれタイプが異なります」



 刀身が大きい順にいえば


 火の大剣、光の両手剣、水の長刀、雷の片手剣、闇の刀、風の双剣


 となる。


 これは聖剣ごとに得意な分野が異なるからだ。



「攻撃の火の聖剣、防御の光の聖剣、斬撃の水の聖剣、万能の雷の聖剣、流転の闇の聖剣、速度の風の聖剣となっております」


「刀は水と闇で二種類もあるんだね。こっちの武器庫に刀が少ないのって、おっさんが長剣の使い手だからなの?」


「その通りです。部下も自然と聖剣長に合わせた武装になることが多いのです。むろん兵種によって武装は異なりますし、個々人でカスタマイズも可能です」



 三者会合の時に迎えに来た百光長のジャンヴァリュとハイルンソンは刀を所持していたが、この中では少数派のようだ。


 なぜならばガンプドルフは『雷の艦隊』であり、東大陸にやってきた者たちの多くが同じ艦隊の部下だからである。


 雷の艦隊所属のグレツキも多様な型を使うが、もっとも得意な武器は長剣で、他の者たちも片手剣を扱う者が圧倒的に多い。


 そこに水の艦隊からジャンヴァリュ、闇の艦隊からハイルンソンが合流する等々、少ない残存勢力を吸収して今の戦力が形成されていた。



(逆にいえば、混成部隊でもこの程度の人数しか集まらなかったともいえる。DBDの戦力不足は簡単に解消できるものじゃないな)



 一人一人の騎士が強いからまだよいが、やはり戦力の拡充は必須である。


 DBD人の補充はまず無理なので、戦争で蓄積した戦闘技術を利用して人材育成を図るほうが現実的である。


 アンシュラオンが女性たちを同伴させたのも、その最初の一歩といえる。



「長剣の特徴ってどんなものなの?」


「我々の艦隊は、いかなる戦場でも安定した戦いができるのが強みです。武器でも長剣がもっとも安定した性能を誇ります」



 斬る、突く、叩く、どれをとっても平均値を出すことができるし、頑丈に作られるので耐久値も高い傾向にある。


 片手でも両手でも扱えて盾を併用することもできるため、あらゆるゲームの中でも、もっとも安定したお馴染みの良武器といえる。



「なかなか興味深いね。まあ、軍隊で使うなら万能型が無難かな。長剣の指導が終わったら、サナとユキネさんに刀の型も教えてあげてよ」


「了解しました」



 細かいやり取りは省略するが、ここでアンシュラオンたちはいくつかの技を習得するに至る。


 個人的にリクエストして教えてもらった【アレ】が、これ。


 アンシュラオンが剣を叩きつけるように振り抜くと同時に―――落雷一閃!


 強烈な雷の一撃が大地を焦がす。



「よし、おっさんの技を覚えたぞー! これがやりたかったんだ! 格好いいよね!!」



 以前ガンプドルフが使った『剣雷震けんらいしん』という因子レベル3の剣王技だ。


 あの時は上空で使ってきたが、べつに対空専門の技というわけではない。普通に振りかぶって上段から叩き落とせば技は成立する。


 単体攻撃力の高さに加えて、感電の追加効果があるのも雷属性の長所だ。


 雷神掌よりも間合いが長く、敵によってはこちらのほうが使いやすいかもしれない。


 次に、同じく格好よさそうという理由から『不知火しらぬい』を覚える。


 こちらは火気をまとった剣で二連撃を加える因子レベル3の剣王技だ。


 火属性なので斬った相手に火傷の追加ダメージを発生させる。弱い皮膚を持つ生物に対して非常に有用な技だ。


 それ以外にもいくつか『ノリで』覚えたが、その様子を見ていたグレツキは次第に無口になっていった。


 そして、ポツリ。



「属性…関係ないんですね」



 属性を持たなくても技の会得は可能だが、同じ属性を持っていたほうが技の威力は格段に上がる。


 たとえば剣雷震もアンシュラオンが使うより、雷属性が得意なガンプドルフが使ったほうが属性補正が加わって威力は高くなる。(アンシュラオンも術式を覚えたことで雷属性を得ているが、現状では精霊王の加護を持つガンプドルフのほうが適性値が高い)


 反対に『属性反発』の性質上、雷を持っていると風の技の威力が落ちる傾向にあり、習得も難しくなる。実際にガンプドルフも風の剣王技は一つも習得できていない。


 このように、どうせ覚えるのならば自分が得意とする属性を学んだほうが効率が良いのだ。


 されど術同様、アンシュラオンは全属性が劣化しない『つい属性修得』スキルを持っているので、好きな技を好きなだけ覚えられる。


 最終的にはパミエルキ同様、すべての属性(魔獣が持つ岩や土以外)を完璧に使いこなすことができるようになるだろう。


 こんな有様なのだから、グレツキが半ば諦めの境地に達するのも致し方ない。


 が、ここで雷と火を選んだことには明確な理由がある。



(水と風の技は覇王技と術でなんとかできるから、剣は苦手な分野を伸ばしていくべきだ。火はバリエーションが少ないし、雷もあまり得意ってわけじゃないんだよね)



 アンシュラオンが現在保有している属性は、六属性の中では『火』『水』『雷』の三種である。


 その中で水だけが異様に進化しているのは日々の姉の暴力に耐えるためだ。水は最上級の命気まで使えるので、もう十分強い。


 その反面、火や雷はまだまだ成長の要素を残している。


 これだけ強いにもかかわらず発展途上。それが一番怖ろしいのだ。


 そして、サナも技をいくつか習得。



「どうだ? 上手く使えそうか?」


「…こくり」



 サナは『雷属性』と『闇属性』を持っているため属性選択で迷うことはない。


 多様性は武具や道具で補い、彼女自身は素直に長所を伸ばすべきだろう。


 覚えたのは因子レベル1の『雷衝』と『雷鳴斬』、闇の技ではヤキチも使っていた『暗衝波』と『暗剣葬あんけんそう』を習得。


 どちらも前者が中距離の放出技で、後者がその近接バージョンだ。


 ガンプドルフもアンシュラオン戦で因子レベル1の技を使ったが、実際の戦闘では低レベルの技は非常に大切になる。


 格闘ゲームがそうであるように、最初に小さな攻撃を当てて敵の体勢を崩してから大技に入ることが多いからだ。そうでないと簡単にかわされて反撃を受けてしまう。


 また、戦気術の練度を高めることで、因子レベル1でも実質的に3から4の技に匹敵する威力を出すこともできる。


 次の因子レベル2では、雷によって剣撃の速度を上げた『雷隼斬らいしゅんざん』、闇をまとった刀身で十字に切り裂く『黒十斬こくじゅうざん』と突き技の『黒矛葬こくむそう』を覚える。


 後者の二つは、攻撃時に闇を放出することで剣筋を隠しつつ、ダメージを与えた部位の回復を遅くさせる特殊効果がある。闇が侵食して細胞増殖を阻害するからだ。


 マキの鉄化とは違い、一定時間が過ぎたら消失する程度のものではあるが、『いやらしい攻撃』によって相手を苛立たせることができれば、ますますサナの長所が際立つことになるだろう。


 サナは剣士因子が3まで覚醒しているので、一応アンシュラオンと同じく『剣雷震』も覚えた。


 が、最大因子技は扱うだけですべての力を使ってしまうため、1と2の技を中心に組み立てるほうが安定する。


 闇属性に関しては、グレツキいわく―――



「闇属性の技は、単純な攻撃倍率では他の属性に劣りますが、攻撃時に相手を妨害するものが多いです。使い手も少ないことから警戒も緩く、その分だけ相手の虚をつけるのです。結果的に防御にも優れますので非常に強力といえます」



 とのことだ。


 闇は大地の力を示し、すべてを内包して抱くものである。それ自体は優しく愛情深いが、技となると相手を惑わすものが多くなる。


 相手の長所を打ち消す妨害効果にも長けており、属性の相殺や無効化、吸収といった特殊な技能も多く見受けられる。


 その結果、攻撃すればするほど防御の面でも優位に立てるのが特徴だ。


 光が自己強化によるバフだとすれば、闇は相手の力を削ぐことでミスを誘い、戦術的な意味で防御力を高めるデバフ属性であるといえる。



(これだけ聞くと弱そうに思えるが、実はサナとの相性は相当いい。サナは魔石でも雷の力を使うことができるから、闇と雷といった強烈な組み合わせが使えるんだ)



 雷の長所は一撃必殺の威力にある。


 そこに闇が加わればどうなるか?


 相手が闇の攻撃で戸惑っている無防備なところに、雷の必殺の一撃を叩き込めるのである。


 仮に初見の相手ならば、何も情報を知らないのだから対処が難しく、完封で勝つことも可能になるだろう。


 見た目で侮られるサナにとっては、さらに好都合な属性ともいえる。



「これが正統な剣術なのね。勉強になるわ」



 ユキネの様子をうかがうと、彼女もグレツキから技の『型』を教わっていた。


 盾技のところでも少し説明したが、より詳しく述べれば、特定の動きで特定の気の流れを経由することで【世界に記録された】『技』というデータベースから該当するものが選択され、それが一つの事象となって発現する。


 それゆえに【世界が技だと認めれば】、その範囲の中で技は成立することになる。


 未熟な者はかろうじて成立することもあるだろうし、熟練した者は許容範囲内でカスタマイズして使うだろう。


 大事なことは、その型をよく知っているかどうかであり、教えるのが上手い人間というのは型をより多く、より正確に知るものを指す。


 その意味でもグレツキは優秀な指導員なのである。


 そして、ユキネも因子レベル4までの技をいくつか習得。


 もともと彼女は積極的に剣王技を使うタイプではなく、光属性の自己バフを中心に身体能力を向上させる武器型戦士のような戦い方を好んでいた。


 だが、やはり剣士なのだから技が使えたほうがよい。いざというとき、剣王技が起死回生の一撃になるかもしれないのだ。


 ただし、彼女の剣士因子は翠清山と先日の魔石覚醒を経て「5」まで上昇しているが、5以上の技は奥義として伝承が制限されているので、ここでは残念ながら学べなかった。(グレツキも知らない)


 ガンプドルフも指導専門ではないので、これ以上は改めて『剣の師』を探す必要があるが、今のところは十分な戦力アップといえる。



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[良い点] 武器には色々奥が深い。色々勉強になります! [一言] 自身の小説にも武器を色々取り入れてますが、更に詳しく書こうと思います。
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