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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「アーパム財団」編
505/617

505話 「軍事演習 その2『サナ VS ガンプドルフ』」


 改めて集まった者を見てみよう。


 アンシュラオン側からは、サナ、ホロロ、ユキネ、サリータ、ベ・ヴェル、ミャンメイ、セノア、ラノアが演習に帯同している。


 マキとアイラは白詩宮の警護、小百合も業務をこなしながら警戒にあたっているので今回は来ていない。


 最近はマキがいつも留守番になっている節があるが、今は彼女を慕っている女性育成部隊もいるので、戦闘力と指揮能力を考えるとなかなかに外せない状況だ。


 ただし、彼女も日々アンシュラオンと鍛錬しているので修行不足になることはない。魔石の発動こそまだだが、しっかりと実力を伸ばしている。


 アイラに関しては連れてきてもあまり意味がなさそうだったのと、それよりは防衛に使ったほうがよいとの判断からだ。


 彼女は魔石以外にも能力面でやや特殊な事情を抱えている。それは全体練習ではなく個別の鍛錬によって伸ばすほうが効率がよいのだ。


 小百合はアーパム財団の実務に欠かせない人員ゆえに、現在は戦いよりも経済のほうで力を発揮してもらっているし、それが本来の役割でもある。


 此度の遠征の目的の一つは、サナたち黒の戦隊の底上げであり、軍事演習そのものにはサナ、ユキネ、サリータ、ベ・ヴェルの四人が参加する予定になっている。


 そして、さっそくサナの出番がやってくるが、相手はまさかの超強敵であった。



「模擬戦を開始します。閣下とサナ殿は前へ」



 模擬戦の対戦形式は一対一で、二回勝負。


 勝ち抜けではないので先に二勝すればよいといった話ではなく、単に二連続で戦うだけの形式である。


 相手が降参したり戦闘継続が困難と判定されれば、審判が負けを宣告して終わりとなるので、基本的に大怪我をすることが少ない練習試合だ。


 最初から殺す気でやる『陽禅流鍛錬法』と比べると生易しいが、ここはあくまで軍隊なのだ。


 無駄に戦力を削る愚を犯す理由はないだろう。



「さぁ、どこからでもかかってきなさい」



 ガンプドルフはロングソードと傭兵偽装用の革鎧を身に付けている以外は、特に武具を装備していない。


 革鎧の中も作業着のワイシャツとズボンであり、他の術具や道具もなさそうだ。



「サナ、全力でやっていいぞ。今まで得たすべての力を使って戦ってみるんだ」


「…こくり」



 対するサナは、完全武装。


 いつもの陣羽織に加え、新たに手に入れた真黒千代と『破邪膂将はじゃりょしょうの両篭手』も装備している。


 さらには術具も完備しているので、翠清山で戦った時以上に充実した武装といえる。


 そのあまりの両極端な姿に、思わずサリータが何かを言いたそうにしたが、DBD側の騎士たちはごくごく当たり前に眺めていた。


 それがさも当然、といわんばかりである。



「模擬戦、始め!」



 開始の合図が響いた次の瞬間には、青雷をまとったサナが飛び出していた。


 彼女もガンプドルフを前にして興奮していたのだろう。


 真っ向から全力で刀を叩きつける!!


 初手から雷加速によるトップスピードに加えて、『破邪膂将はじゃりょしょうの両篭手』を両腕に装備した彼女の物理攻撃力は「AA」にも至る。


 これは最初期のアンシュラオン(低出力~通常モード)と同じ数字であり、いくら相手がガンプドルフとて無傷ではいられないはずだ。


 がしかし、迎撃のために振るわれた剣撃が、サナの刀に触れた瞬間―――



「―――っ!?」



 凄まじい衝撃に刀ごと大きく弾かれてしまい、小さな身体がきりもみしながら宙を舞う。


 圧力が強すぎて受け身が取れない。


 致し方なく肩から落下するも、サナは即座に回転して慌てて立ち上がる。


 完全に無防備な姿を晒してしまったが、追撃はなかった。



「どうした? 遠慮することはないぞ。もっと強くきなさい」


「…こくり!」



 体勢を立て直したサナは自身が得意な攻撃、再度トップスピードに乗った最大火力の斬撃を仕掛ける。


 だが、そのすべてが軽々と弾き返されていた。


 どんなに強く当たっても体勢一つ崩せない。逆にこちらの体勢が崩されてしまうため、相手は常に余裕を持って対処できる。


 それどころか片手だけで対応されているので、その気になれば両手で握って威力を高めることもできるのだ。


 誰がどう見ても、ガンプドルフは【手加減】している。



(これがあの時の少女とは、思っていた以上だ。刀の振り方さえまともならば、もう少し圧されていたかもしれんな。だが、まだまだ粗い。私の若い頃よりは数段ましだが、やはり子供の域は出ていないか)



 ガンプドルフとサナの間にあるものは、圧倒的な【技量の差】。


 ユキネとマタゾーとの戦いでも同じことが起きたが、騎士として長年鍛錬して西側の剣技を身に付けている者と、半ば我流でここまでやってきた者との違いである。


 たとえばガンプドルフは、サナの剣撃の芯を外すことで、持ち前の加速力が攻撃力に転化される前に押し返している。


 はたから見ればほとんどわからないズレではあるが、この一ミリが決定的な差を生み出しているのだ。


 素の腕力でもガンプドルフのほうが上。ゼロ距離からの押し合いになれば、魔石の力があっても負けてしまう。


 そして、当然ながら戦気術の練度が違いすぎる。


 彼女が戦気を練り上げ、魔石の力を上乗せしている一瞬の間に、ガンプドルフは最低でも三回は斬りつけることができるだろう。


 サナが術式武具によって強化してもなお、両者の間には天地ほどの実力差がある。


 だが、彼女の武器はこれだけではない。


 突進すると見せかけて急ブレーキ。


 左手で器用に銃を取り出すと牽制射撃を繰り出す。


 ガンプドルフは避けない。


 軽く剣を振り払って迎撃するも、弾丸が爆発して火が荒れ狂う。


 撃ったのは術式弾の火炎弾である。


 爆炎はガンプドルフの顔を覆い、視界を埋め尽くす。


 その間にサナがトップスピードに乗って攻撃。


 しかも今度は、当たる直前に足を―――ダンッ!


 雷加速からの直角フェイントで一気にガンプドルフの真横に回り込み、万全の態勢から刀を振る!


 現状のサナが放てる最高の物理攻撃手段であり、破邪猿将にすら通じた一撃だ。


 この超高速カットボールに初見で対応できる者は、そうそういない。


 がしかし、目の前にいるのは、それがそうそうできてしまう強者である。


 ガンプドルフはワンステップで身体を捻ると、攻撃をかわして逆にサナの背後を取る。


 そこから剛剣一閃!


 強烈な一撃がサナの首を狙って振り下ろされた。


 サナはガードするも、かろうじて刀身を間に入れるだけが精一杯。


 ガンプドルフの剣がサナの刀を押し込み、そのまま首を撥ねる寸前で、ぴたりと止まる。


 力を緩めて剣を戻すと、またワンステップで距離を取った。



「いいアイデアだ。君の背丈も相まって対応しづらかったぞ。しかし、攻撃に移る瞬間に隙がありすぎる。まだ身体制御だけで手一杯のようだな。フェイントをするのならば目線にも気をつけなさい。それ以前に戦気の揺らぎで動きが丸見えだ。ならば、それを逆にフェイントに使うことも考えるべきだろう」



 ガンプドルフは苦戦するどころか、冷静に分析して課題すら口にする。


 サナのスピードにもあっさりと対応し、突然のフェイントにも驚いた様子はない。


 これくらいの使い手ならば、西側には山のようにいるからだ。



「もう一度くるといい。何度でも受けてあげよう」


「…こくり!」



 ここで普通ならば大きなショックを受けて動きが鈍るが、サナの強メンタルは再度高速フェイント攻撃を放つ。


 ガンプドルフは、あえて剣で迎撃せずに避け続ける。


 それに合わせてサナも稲妻の動きで追いかけて連撃を繰り出していく。


 されど、やはりこの剣豪相手には通じない。すべてが悠々とかわされる。



「いいぞ。先ほどよりはスムーズになった。速さに慣れてきたな」



 サナの攻撃が上手くいかないのは技術的な問題もあるが、戦闘速度が数段上がっているからだ。


 一流の武人との戦いでは、この速度が当たり前。


 いわばアンシュラオンがいつも動いている領域での戦いになるため、どうしても今までの動きでは対応できないのだ。


 そんな彼女に対し、ガンプドルフは導くように戦っていた。


 まるで剣術の師範のように。生徒を指導する先生のように。



「ふん、サナの才能に気づいたか」



 これに舌打ちしたのが、模擬戦を見学していたグランハムである。


 彼もサナの才能に惚れ込み、惜しみなく自身の技術を与えた男だ。ガンプドルフの気持ちが手に取るようにわかってしまう。


 実際にガンプドルフもサナの才能をひしひしと感じていた。



(なんという柔軟さと吸収力だ。シントピア級の才能だな。嫉妬よりも前に心が躍ってしまう)



 光の聖剣の持ち主、聖剣長筆頭であるシントピア。


 彼女もまた歴代最高の才能を有しているといわれる天才で、努力だけで這い上がってきたガンプドルフとは対極に位置する者といえる。


 されど、いくらサナが天才とはいえ、現状ではまだまだガンプドルフのほうが上だ。



「では、こうされたらどうする?」



 ガンプドルフが、すれ違いざまにサナの具足を―――ドンッ!


 真上から足で踏みつける。



「っ…!!」



 突然足が縫いつけられたサナは、その加速力のすべてを自身が引き受ける羽目になり、上半身を投げ出すように不格好な体勢で地面に倒れ込む。


 もしこうしていなければ、足首を骨折していたからだ。


 そこにガンプドルフの剣が首に押し当てられ、これで一本目は終わり。



「閣下の勝利です」



 審判役の騎士が淡々と結果を伝える。


 こんなに優しい模擬戦は見たことがないほど手加減されて負けてしまったのだ。結果に異論を唱える者はいない。


 ガンプドルフからすれば、子供相手に本気を出すわけがない、といったところだろう。



「二戦目はやれるかな?」


「…ごしごし。…こくり」



 サナは足首の様子を確認。


 まだやれると判断して続行の意思を示す。



「二戦目、開始!」



 二戦目も合図と同時にサナが仕掛ける。



―――「グルルルッ!」



 だが、ここでサナもやり方を変えてきた。


 一戦目は彼女も物理攻撃だけで戦っていたので、自ら課題をもって臨んでいたことがうかがえる。


 しかしながら接近戦がまったく通用しなかったことで、『距離を変える』ことにしたのだ。


 魔石獣の青雷狼を出現させると、いきなり全力の『サンダー・マインドショックボイス』。


 青き雷狼の咆哮が鳴り響き、大気を雷の波動が突き抜ける!



「むっ!」



 これにはさすがのガンプドルフも驚きの表情を見せる。


 距離も比較的近いかつ、広範囲攻撃なので避けることはできない。


 放射状に発せられた強大なエネルギーが、大地を蒸発させながらガンプドルフに迫る!


 これは絶対に命中する。


 その確信は正しかったのだが―――



「ぬんっ!!」



 ガンプドルフが瞬時に爆発集気。


 剣に膨大な雷気をまとわせると、迫ってきた精神感応波の嵐に向かって斬撃を繰り出す。


 その一撃は雷撃の嵐を真っ二つに切り裂き、剣先が当たった地面を吹き飛ばすことで中央に大きな亀裂を生み出した。


 そして、生まれた亀裂に雷の上位属性である『帯気たいき』がとどまり続けて『雷の壁』が発生。


 咆哮の嵐が過ぎ去ったあとには大地は衝撃で破壊されていたが、壁に守られた彼自身に被害はなかった。



「ふぅ、周りに被害が出るかとヒヤヒヤしたぞ。それが例の魔石獣というやつか。だが、力は集中させるほどに強くなるものだ。単体相手に広域攻撃は無駄が多すぎる」



 サンダー・マインドショックボイスは、サナが持つ攻撃手段の中でも最大級のものだ。


 翠清山でも熊の軍勢を薙ぎ払い、多大な戦果を挙げている。


 それがいとも簡単に切り裂かれてしまったことで、サナは思わず棒立ち。


 本当はこれで動けなくなったところに追撃を仕掛けるつもりだったのだが、万全のガンプドルフが待ち構えていてはどうにもできない。


 咄嗟に距離を取ろうと雷加速するが―――



「悪いが、すでに君の速度は覚えた」


「…っ!!」



 サナと同じ速度。


 いや、それ以上の速度でガンプドルフがサナに追いつく。


 雷による加速はサナの専売特許ではない。同じく雷を得意とする彼にも同じ真似ができるのだ。


 なおかつ雷の扱いも彼のほうが上。


 サナが必死に『雷迎撃』で振り払おうとするも、ガンプドルフも雷気を放出して相殺。


 青雷が普通の雷気よりも強いことを考慮すれば、単純に相手の雷気の出力が高いことを示していた。同じ属性でも使い手によって威力は異なるからだ。


 なにせ彼の異名は、『雷範剄らいはんけいのガンプドルフ』。


 雷の聖剣に認められた瞬間から、彼は雷の最上位精霊『雷妖王シャクティマ』の寵愛を受けることになった。


 術のところでも説明したが、すべての雷は精霊の力によって発現している。


 その最上位精霊ともなれば、周囲の原始精霊を支配して雷の事象を制御することも容易だ。


 シャクティマ自身が顕現していない状態でも、影響下にあるガンプドルフに対して雷の精霊は危害を加えることを拒み、必然的に青雷の威力も通常より低下してしまう。


 こうなるとサナには『黒雷』と『融合化』しか残っていないが、黒雷は自分の意思で使えないうえに、魔石獣を範囲攻撃に使ってしまったことで融合の時間すら与えられない。


 すかさずガンプドルフの足が飛んできて、刀を持っていたサナの右腕を蹴り上げる。


 不意の蹴りで攻撃手段を奪ったところで、空いた脇腹に横薙ぎの刃を払って、ぴたり。


 これもギリギリのところで止め、同時に試合も終了する。



「二本目も閣下の勝利です」



 ガンプドルフの勝利が告げられる。


 この時の反応も両陣営まったくの逆。


 DBDの騎士たちは、サナの速度や魔石獣に驚いたようだが、結果は当然のことのように受け入れている。


 一方のサリータたちは、サナの攻撃が通じないことに少なからずショックを受けていた。



「サナ様が、ああもあっさりと負けてしまうとは…」


「ちっ、なんだいありゃ。三大魔獣なんて可愛いものじゃないか」



 ベ・ヴェルが苦々しく唇を噛み、ぎゅっと拳を握り締める。


 最近は成長著しく、裏スレイブにも勝ったことで自信がついていたところに、こんな現実を叩きつけられれば誰でもこうなるだろう。


 そもそもガンプドルフのことは今回初めて知ったので、いきなり出てきた超強敵に対して動揺を隠せないでいるようだ。


 達人級のユキネにしても平静を装っているが、表情が凍りついたままである。


 ガンプドルフならば自分の魔石にも平然と対応してくることが簡単に想像できるからだ。



「溜めが必要なほどの強力な攻撃を放つ時は、それが防がれた場合のことも考えて動くべきだ。事前により多くのプランを考えておけば混乱しないで済む。距離を取ることも悪くはないが、戦気が萎えたのを相手に感じさせては駄目だな。まだ奥の手があるように見せかけて牽制することも駆け引きの一つだ。いわばハッタリだが、勝つ必要がない戦いでは意外と使えるものだ。それも覚えておくといい」


「…こくり。じー」



 サナの興味津々の視線が、ガンプドルフの強さを物語っている。


 倒れた彼女を引き起こしていると、アンシュラオンがやってきた。



「お疲れさん。付き合わせて悪かったね」


「いや、面白い戦いだった。子供にしてはやるではないか。二回目はさすがに焦ったぞ」


「オレの妹だし、これくらいはね。でも、結果は予想通りかー。一発くらいは当てたかったな。これだけ実力差があるなら、おっさんは無手でもよかったんじゃない?」


「おいおい、勘弁してくれ。私は剣士だぞ? 君はそんなに私が斬られるところが見たいのか?」


「ははは、ごめんってば」



 この会話から、アンシュラオンにとっては悔しがる必要すらない想定内の結果だったことがわかる。


 しかもガンプドルフは、聖剣も使っていないどころか装備も最弱のもので、なおかつ技も使わず魔石の発動すらしていない。


 領主城での戦いの際、この両者がいかに高レベルの戦いを繰り広げていたかが、嫌でもうかがい知れるというものだ。



「サナ、いい勉強になったな。これがハイザクやガイゾックすら超える本物の強者の実力だ。今のお前じゃ絶対に勝てない相手だが、いつかは追いついてみせるんだぞ。これからいっぱい技を教えてもらおうな」


「…こくり!」



 ガンプドルフほどの剛の者と立ち会えたのだ。


 それだけでも演習に参加した価値はある。



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