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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「アーパム財団」編
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494話 「『裏番隊』設立秘話 その1『手配』」


 アンシュラオンが立て籠もり事件を解決してから三日。


 この間にいろいろなことがあった。


 まずは翌日にライザックから連絡が入り、軽い会談を行った。


 内容としては砲台の試作品の提供依頼と、その値段交渉に関してだ。


 まだ性能実験中ということもあって具体的な値段は決めていないが、以前ハローワークでスザクが述べたように、ハピ・クジュネは翠清山制圧作戦前から『防塞増築計画』を立てているので拠点防衛用の兵器には興味津々であった。


 今までは南部から砲台を仕入れており、値段も足元を見られて高額になっていたせいで財政にも負担がかかっていた。


 それが同じ北部勢力のアンシュラオン側から提供されるとなれば、興味が湧かない為政者はいないだろう。



(さすがに裏にDBDがいることまでは言えないけど、あいつのことだ。ある程度の予想はついているはずだ)



 どう考えてもアンシュラオン単独で造れるわけがないので、その中から可能性を探っていけば、おのずとDBDに行き着くものだ。


 だが、それをあえて口にする馬鹿はいない。


 ライザックは会談の時も知らないふりをして砲台の話だけをしていた。DBDを敵に回したくはないからだ。


 ひとまず試供品として数台納品することを約束して、その話は終わりになった。


 余談だが砲台の数え方は、設置している場合は『基』を使ったり、砲門で数える場合は『門』を使うが、誇張したい時以外は無理にこだわる必要はないだろう。


 ここでもわかりやすいので『台』をそのまま使用しているし、ハピ・クジュネが保有する砲台車両においても、砲台に主観を置けば『台』であってクルマに重きを置けば『両』になる。あとは好みの問題である。


 その話が終わると、今度は立て籠もり事件の話題になった。


 それに関してライザックの意見はこうだ。



「人質が死ぬことは問題ない。所詮は海賊が作った都市だ。市民からしても力による統治が一番納得できる。親父が若い頃など、このような事件は山のようにあったと聞く。何事も弱いほうが悪いのだ」



 治安を乱す者がいれば、さっさと殺してしまったほうが早い。良い見せしめにもなる。


 ライザックと初めて出会った時のことを思い出せば、このような言葉が出ることは至極当然であろう。


 長らく平和であったことから人々の意識が緩慢になっただけで、そもそもハピ・クジュネ自体が無法者の集まりで生まれた都市だ。


 多少やりすぎで拙速な面はあれど、アンシュラオンの行動は正しかったといえる。


 ただし、問題の本質は違うところにある。



「一番の問題は海軍の信用失墜だ。最近では我々のことを避ける者たちも増えてきた。此度の事件も海軍に信用がなかったことが原因なのだ」



 ライザックが懸念しているのは、もちろん海軍の信用低下である。


 今までは、ああも堂々と海軍に盾突く者はいなかった。仮にいても即座に鎮圧して終わるだけだ。


 だが、いくら海賊とはいえ、ここは都市である。武力行使は民からの信頼があってこそ成り立つ。



「正直、見通しが甘かったことは事実だ。残念なことだが、今ではお前のほうが市民からの信用があるらしい。そこで相談だ。都市の治安維持に力を貸してほしい」



 ここでライザックから治安維持に対する『応援要請』があった。


 強制ではないので断ることは簡単だが、海軍はまだ立て直しの最中だ。


 ハピ・クジュネ内部でこれなのだから、他の街での治安悪化は深刻な問題になっていると思われる。



(特に魔獣の攻撃で大打撃を受けたハビナ・ザマとハピナ・ラッソは、まともに街が機能していない。これは大問題だな)



 アンシュラオンからしても、ハビナ・ザマは今後の新都市計画にも影響を及ぼす存在だ。


 ハピナ・ラッソもハピ・クジュネへの通り道として価値がある街なので、治安の悪化は北部全体に影響を与えてしまう。


 しかもこの街に関しては、アンシュラオンがギャングのCOGを壊滅させてしまったがゆえに著しい防衛力の低下を招いたので、半分くらいは責任がある。


 よって、渋々ながらも承諾。


 その時のライザックの笑みはいまだに忘れない。厄介事を押し付けることができて、すっきりしている顔だったからだ。


 実際にこれは厄介なことである。


 ライザック側は何もしないでトラブルが解決でき、さらには被害が出てもヘイトがすべてアンシュラオンのほうに向かう。


 その間に自分は都市の経済と軍隊を再建できるのだから、笑わないほうがおかしいのだ。


 しかし、これはアンシュラオンにとってもチャンスだ。



(いくら人気があってもアーパム財団は出来たばかりだ。これからいろいろと揉め事も起こるに違いない。その時に治安維持の名目は大きな力になるだろう)



 グラス・ギースでも青劉隊が衛士隊を押しのけて偉そうにしていたが、治安維持を担当するということは都市そのものを管理するに等しい。


 そうでありながら面倒な資金繰りや政策はやらずに済むので、ライザックとは逆の意味で気楽なのだ。


 同時に、まだまだ未成熟な者たちに実戦の場を与えられるので、今後の商会運営と北部の発展を考えれば、治安維持に力を貸すことはメリットのほうが多い。


 こうしてライザックとの会談は、互いの役割分担を明確にする意味で価値があった。



 翌日。


 この日は人質を殺した件で、雇っていた商会側と遺族からクレームが入った。


 彼らからすれば当たり前の感情なのだろうが、それに関してはあっさりと「強盗に入られた挙句、人質にされたほうが悪い」と切って捨てた。


 たしかにこの点において店側の過失は著しい。ちゃんとした防犯対策を講じていれば、刃物を持った一般人程度は即座に制圧できてしかるべきである。


 ただし、ハピ・クジュネにおいては海士や海兵の見回りに頼っていた部分があるので、ここでも海軍の戦力低下が大いに影響しているわけだ。



(しかし、本格的な治安維持に対応するには、うちは規模が小さい。それに加えてほとんどが堅気だから、普通の警備は問題なくとも裏側の仕事に慣れていない者が大半だ。こんなときこそ裏社会に精通しているソブカがいると楽なんだが…いないものは仕方ない。少し早いが『やつら』を動かすか)



 実はアーパム財団には、表の情報には載っていない隊が存在する。


 その部隊こそ『裏番隊』。


 これがどんな存在なのかをこれから説明するが、話はロゼ姉妹を手に入れに『八千人やちじん』に行った時に遡る。


 ロゼ姉妹が休憩室で休んでいる間、アンシュラオンがモヒカンから『とあるリスト』を受け取っていた。



「さすが本業だな。数だけは確保できそうだ」



 分厚い商品リストには、数千人規模の名前と簡素なプロフィールが書かれていた。


 これが今までと異なるのは【男のスレイブリスト】だということだ。


 スレイブ商を経由した場合は、公募審査で落ちても再度応募できるうえに、グラス・ギースにいる者たちも加わるので数が多くなるのも当然だろう。


 その代わり『強制契約用ギアス』を使うことが前提となり、なおかつ危険な仕事を請け負ってもらうため、文字通りに命をかける必要があった。


 それも事前に伝えてあったが応募者は増える一方だという。


 それだけ現在は、職を欲している者たちが溢れていることを示していた。


 ただし、アンシュラオンがわざわざ『男性』にこだわったことには、もう一つ大きな理由がある。



「数は力だ。これはこれで使い道はあるが、その中でも戦闘に特化したやつはいるか?」


「戦闘用スレイブってことでいいっすか?」


「そうだ。やはりゴリゴリの戦闘には男は必須だ。死んでも気にしないで済むしな」



 最近ではゲイル隊も人数を増やしているし、アッカランの部隊も加わったので男が加入することには嫌悪感も薄れている。


 しかしながら、彼らはあくまでアンシュラオンが雇った協力者であり、好き勝手に使える人材ではない。


 もっと雑に扱えるという点では、生粋のスレイブに勝るものはないのである。



「戦闘用のスレイブはこっちの欄っすね。どうっすか?」


「うーむ…」



 リストにある戦闘用スレイブは、元傭兵やら元ハンターやら、村で一番の力持ちといったような紹介文しか書かれていない。


 おそらくはハローワークに行っても自立できない程度の者たちが大半なのだろう。


 そうでなければ、わざわざスレイブになる必要性がない。



「巡回警備程度ならこれでもいいが、戦闘用なのだからもっと条件を絞ろう」


「どんなのがお好みっすか?」


「そうだな…ガラが悪くていかつくて、すぐに人を殺したくなるような狂人がいい。体格はバラバラでもいいが、それなりに腕の立つ連中がいいな。あと、いつでも死ぬ覚悟を決めていて生への執着心がない者がベストだ」


「どういう条件っすか!? 鉄砲玉っすか!?」


「そうだな。そういった連中が欲しいんだ。一番大事なのは死すらも厭わない点だ」


「死ぬ予定があるっすか?」


「本気で死ぬ覚悟がなければ、より強い者には対抗できない。逆にいえば、自爆覚悟で向かっていけば格上にも勝てる可能性はあるもんだ」



 よく護身術では、ナイフを持った相手がいたら格闘技経験者でも逃げろ、と教わる。


 命を惜しむのならば、それが正しいだろう。何一つ異論はない。


 がしかし、もし惜しまないのならば、一人が刺されている間にもう一人が後ろから抱きつき、その者が刺されたとしても三人目が飛びかかり、それが刺されている間に四人目が突っかかるを延々と繰り返せば、いずれは各人の体重によって潰すことが可能になる。


 この世界でいえば、敵ごと大納魔射津で自爆する覚悟を持った者たち。


 つまりは『特攻隊』が欲しいのだ。



「オレの言うことを何でも聞いて、命を捨ててでも立ち向かっていく狂人の集団。オレが求めているのは、そういうものだ。その代わり、そいつらに戦いの場を提供してやる。だから戦闘狂みたいなやつが欲しいんだ。どうだ、そういうやつらは集められるか?」


「劣等スレイブのほうがいいっすか?」


「等級は問わんが強制ではなく、できれば自分の意思で許諾するやつらがいいな。そのほうが面白い」



 アンシュラオンが提示した条件は、能力の観点からすれば比較的難しいものではない。


 だが、最後の一つが加わるだけで、ぐっと厳しくなる。


 誰が好んで死ぬことが確定している職場に行くだろうか。普通に考えれば、そんな人間はいない。


 と、思うのが一般人の考え。


 その証拠にモヒカンも静かに話を聞いている。彼もまた裏の人間なので、そういった話は普通に通るのだ。


 そして、一つの言葉がもたらされる。



「そうなると【裏スレイブ】が適任っすね」


「裏スレイブ? なんだそれは?」


「旦那が言ったようなスレイブのことっす。血に飢えていたり抗争が好きだったり、自分が死ぬ場所を探しているようなやつらっすね。そういったスレイブを裏スレイブと呼ぶっす。鉄砲玉とかに使うっす」



 人種が多様ならば物の考え方も多様である。


 武人が闘争を好むように、生まれ持って争い事を好む者たちもいる。


 彼らにとっては自分の命は安っぽいものであり、またそうあることを望んでいた。


 正気の人間からは自殺志願者にさえ見える彼らであるが、そうした人材は需要も多い。


 危険な作業はもちろん、裏社会の鉄砲玉やボディーガードなどに使われて毎年大勢の裏スレイブが死んでいく。


 だが、それこそが彼らの望み。


 充実した一瞬の生を味わうためだけに彼らは生きている。そのために自分を楽しませてくれる主人を求めるのだ。


 それはまさにアンシュラオンが望んだ人材といえる。



「素晴らしい。そんな人材がいると思っていたぞ。で、用意できるか?」


「何人くらい必要っすか?」


「多ければ多いほどいいが、ひとまず五十人くらい頼む。それが良ければ次の分を追加発注したい」


「了解っす。準備しておくっす」


「ここにはいないのか?」


「抗争向けは裏専門のスレイブ商がいるっすね。そこと交渉して見繕ってみるっす」


「どこにいるんだ? ほかにスレイブ商なんてあったか?」


「表側の店舗はないっす。スレイブ商人でないと入れない秘密の場所で管理しているっす」


「それだけ危険な代物を扱っているということだな。お前が見て『これは相当ヤバイ』と思うような連中を選べ。殺人狂でもいいし人体収集家でもいいし、ヤク中のクズでもいい。もう駄目さ満載のやつらを所望する」


「了解っす。そんなやつらなら、いくらでもいるっす」


「それはそれで問題だがな」



 残念ながらこの未開の地には、そんな輩が溢れかえっている。


 そもそも北部の都市に流れ着くあたり、もはや人生に希望も未来もないのだ。


 アンシュラオンが求めるような人材も、あっという間に集まるに違いない。



「金は先に渡しておこう。足りなかったらまた言え」


「………」


「どうした? いらないのか?」


「もしかしたら金はいらないかもしれないっす。裏スレイブはすぐ死ぬような連中っすから、金を必要としないことが多いっす」


「それもそうだな。そいつに家族がいれば別かもしれんが、オレが求めているものとは少し違うな」


「その代わり、主人を選ぶ【面談】が必要になるかもしれないっす」


「ほぉ、逆面接か? それは面白い」



 普通は雇う側が面接するものである。どんな職業でもそうだろう。


 しかし、生徒が先生を品定めしたり、部下が上司の採点をするように、彼らは主を自ら決める。


 だからこそ死ぬことも厭わないのだ。それは金で判断するようなことではない。



「いいだろう。面談だろうが面接だろうがやってやる。集めたら一度連絡しろ。それと、どうせスレイブ商との交渉に金はかかるだろう。とりあえず持っていけ。余ったらお前の懐に入れていいぞ」


「そういうことなら、ありがたくもらうっす! 徹底的に値切ってやるっす!」



 と、このように当時の段階で、すでに手配は済んでいたわけだ。


 そして、半月前。


 注文していた裏スレイブが手に入ったとモヒカンから連絡があった。



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